第29話 最強エルフ - 恋しさと切なさと心強さと怒り -
青い炎は、俺の前に飛び出してきたリースに激突し、炎上した。
「リース……ウソだろ!!」
俺は助けようと炎に飛び込もうとするが、あまりの熱気に近づけない。くそう、以前の『六連』と違い、熱気や火力が桁違いだ……。ひとつ違うだけで、ココまでとはな。
――燃え続ける業火。
リースが燃えていく……?
そんな。そんなのって……!!
絶望しかけたその時、炎は急激に終息し、まるでロウソクの灯のように、フっと簡単に消え去った。すると、リースは……
「リース!!」
無事だった。
傷ひとつない。炎に包まれる前と変わらない姿だ。ほっ……。
「び、びっくりしましたぁ……。突然、青い炎が……」
「リ、リース、無事なのか!? 怪我は!?」
「はい。無事ですよ~。なんともありませんよぉ。なんだったら、全部触って確認してもいいですよ、サトルさん」
笑いながら、リースは体を寄せてくる。スゴイ谷間ッ……!
俺は思わず顔を背ける。
「っ……。そ、それは遠慮しておくよ」
でも、不思議だ。
グレンの、あのバカ火力の炎がまるで効かないだなんて。
「ば…………馬鹿な! 我の炎が!! 『ファイアーボルト七連』が効かないなどと……ありえぬっ!」
「騎士さん。残念ですが、あたしは、火・地・水・風属性の魔法攻撃には【100%耐性】を持っているので、効きません。なので、光か闇属性の、しかも高位スキルでないと、あたしにダメージを与えられません」
「なん…………だと」
騎士は愕然としていた。
まあ、俺もちょっと驚いた。リースが、そんな『魔法耐性』を持っていたとはな。ずっと一緒にいた割には全く気付かなかったぜ……。アレだな、最近は俺が引っ張りまくっていたし、リースの出番がほとんどなかったし。
なんたって【Lv.1262】だし。
それに、エルフなんだから何か『不思議な力』をもっていてもおかしくない。
「はぁ……」
珍しくリースが溜息をついた。
眉を吊り上げ、不満そうに。
「騎士さん、あたしとサトルさんのデートの邪魔をしないで下さい。それに、サトルさんを傷つけることは、絶対に許しません。ですから……」
リースは、右手をグレンに向ける。
すると彼女の周囲に『月』と『太陽』の紋様、魔法陣が無数に展開された。……な、なんて数だ! いくつあるんだ……数えきれない。多すぎる!
「恋しさの……プロミネンス!!」
――と、『ファイアーボルト七連』を上回る炎の塊が、大きく波打つように発生した。
それだけじゃない。
「切なさのエターナルフロスト! 心強さのダークサイクロン! 怒りのダイアストロフィズム!」
それら、全てが塊となって、グレンに襲い掛かった。なんじゃ、あの四元素のオンパレード。しかも、だいぶ感情的な印象だが! リース、情緒不安定なのか!?
グレンは避ける暇もなく、ソレをまともに受け――
「ぐぉぉわぉどぶぇぉぉぉぉぉっぉおぉっあぁぁががががぁぁぁうあああえぉぉおぉおおおぉおぉぉぉおおおおおおおおおおおひょぼぼぼぼぼええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!!!」
重みのある、凄まじい衝撃を受け……これまた凄まじい勢いで、体を光速回転させながら、弾丸となり、飛んでいった。
かなり遠く……遠くへ。もう見えない。
つーか、あのままだと……また『馬小屋』に!!
ドォォォォォォォォォォォォオォォォォォォォ~~~~~~ン!!
グレンは、馬小屋に頭から突っ込んだ。
俺は、咄嗟に『千里眼』で視ると……彼は馬糞塗れになっていた。
おえー…見るんじゃあなかった。吐きそう……。
とりあえず、
……合掌。
「サトルさぁ~ん。ご無事でなによりですぅ」
怖かった~とかいった感じで、リースが抱きついてくる。まてまて。
「……いや、リース。それ俺のセリフ……」
ま……ケガがなくて良かった。
俺は、リースの無事に胸をなでおろした。一時はどうなるかと。
いやぁ~…リースがあんなに強くなっていただなんてね。驚いたね。
……『サキュバスの角』買って帰ろう。
◆
帰り際だった。
大量の紙袋を持ったメサイアとフォルに遭遇した。
「あ……メサイア」
「あ……サトル」
「そんなに大量購入して、いったい何を買ったんだよ」
「あんたこそ、リースとお出かけ? ……なんだ、その感じだとデートしているのね。じゃ、私も今度してよね」
してよね……ってそんな簡単に。
いや、いいけど! いいけれど!
「分かった。で、その紙袋の中身はなんだ?」
「あぁ、これね。食料よ食料」
「それだけじゃないだろ……この量」
「あ~…服も少々」
ですよねー。
まったく、金をバンバン浪費しやがって!? って、俺も『サキュバスの角』をヘソクリで買ったから、ヒトの事は言えないんだけどな!
「どれ、見せてみろ……」
俺は、紙袋の中身を適当にあけて、取り出した。
「うわっ!! なんだこのド派手なランジェリー!? うわぁ……」
あまりにエロかったんで、即しまった。
メ、メサイアのヤツ! 普段あんなのをつけていたのか……。見かけによらず、いや、見かけ通りなのか……。
「あはは。サトルってば顔赤いわよ~」
う、うるさい。
「兄様、ちなみにこれは、わたくしの『ベビードール』ですよ! 今晩はこれをつけて、添い寝しあげますからね♡」
と、フォルは純白のベビードールを広げて見せた。
いや、見せるな!
とんでもなくスケスケじゃないか!!
透明感ありすぎだろソレ!
「おい、フォル。それ、ほぼ丸見えじゃないか……つける意味ないくらいの」
「大丈夫です。ちゃんと大事な部分は隠れますから」
絶対大丈夫じゃないだろ、それ!
まずいなぁ……今晩から就寝時の刺激が強くなりそうだな。くそう、いよいよ輸血が必要になりそうだな。
いいけどな!!
「あ~、あとリースの分はこれ」
そう、メサイアは、グリーンのワンピースを取り出した。
「なんだ、ただのワンピじゃないか」
「サトル。これは『ネグリジェ』よ。まあ、男のあんたには分からないだろうけど」
知るかっ!!
尚、パジャマの分類らしい。なるほどねぇ!
「わぁ~、かわいいのです♪ ありがとうございます、メサイアさん」
「うんうん。サイズの方は、フォルのゴッドハンドで確かめて貰ってるし、大丈夫でしょう」
「……はい」
サイズと言われ、リースはフォルに対し、切ない目で訴えていた。
多分、俺の目の前だから余計に恥ずかしいのだろう。
「ま、いい時間だし……みんな、一緒に帰るか」
「そうね。そろそろ家に帰りましょう。あ、サトル。お土産あるわ。はい、これ」
なにかの包を渡される。
なんだ、チョコレートじゃないか。
ああ……そういえば、メサイアはチョコレート食べたいとか言っていたな。
「兄様、兄様。わたくしからもお土産があるのですよ」
「ほう、フォルも?」
ちょいちょいと顔を近づけるように指示され、俺はそうした。
すると、ちゅ~と頬にキスされた。
「え……」
「わたくし自身がお土産ですよ。お持ち帰りしていいですよ♡」
「そっちかよ! いや、お持ち帰りも何も、これから一緒に帰るし……」
さて、もういい加減に帰ろう――
そう家のある方角へ踵を返した時だった。
<< Emergence:Raid Boss >>
【レイドボス出現】の緊急メッセージが目の前に。
それは、けたたましい警告音を発しまくり、
直ぐに、こう切り替わった。
<< Enemy spotted:Raid Boss >>
【レイドボス発見】と、なった――。
なんで、俺のネックレスを通して!?
ネックレスはある方角を『光』で指していた。
それは……家の、『山小屋』の場所を示していた。
……そんな、まさか!?
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