第27話 天使の笑顔 - あの時の約束を果たすまで -
花の都・フリージアを少し離れた湖の畔。
そこに、少しの間だけ家を構えることにした。
なんたって、景色が良く、見晴らしがいい。
なんたって、空気が美味くて自然も多い。
そんな、穏やかな湖だった。
モンスターも適度に現れてくれるし、狩りもしやすい。なんて理想的な場所なんだろう。あのレイドボスのドラゴンに破壊されなかったのが奇跡だ。
「……さて、風呂風呂~」
俺は、朝風呂に入ることにした。
――ああ、そうそう。ちなみに『山小屋』は、あのあと少しアップグレードされ……なんと『山小屋 Lv.5』となった!
レベルあったんだ……。
おかげで、空間が増え、また広くなった。
……ので、気分転換に、一部レイアウトを変えた。まずは、ふかふかモフモフのソファを置いてみた。これが意外と人気を博し、今では女子たちの間で取り合いになっている程だ。
これがありがたい事に、俺が座っていると、誰かが必ず隣に座ってくる。しかも、膝枕をしてくれる特典つき。……買って正解だった。
あと、棚など収納ラックも増えた。
メサイアが溜めに溜め込んでくれた、洋服やら水着やらを突っ込めたが。アイツは服を買いすぎだ!
とまあ……この調子で、いつかは立派な『家』にしたい。
――で、朝風呂。
椅子に座り、ひとり体をゴシゴシ洗っていると――
カチャ……っと、ドアが開いた。
あ……やべ、ロックし忘れた!!
「だ、誰だ?」
「あのぉ、あたしです……」
「リ……リース!? どうして!?」
まさか、裸じゃなかろうな!!
「あ……安心して下さい。ほら、御覧の通り……『水着』ですから」
おそるおそる見ると、リースは『旧スクール水着』姿だった。
あぁ、あのイカの時の。
しかし、俺は、タオル一枚だがな!?
「あ……」
リースは、ギガンテスに釘付けになっていた。
「……リース、一応弁解しておくが、リースから風呂に入ってきたんだぞ。なにもギガンテスを見せつけるつもりは全くなかったワケで」
ダメだ……。
リースのヤツ、両手で口を押さえ、ショックを受けている。
「う……うぅ。だ、大丈夫ですぅ……」
大丈夫じゃなさそうなんだが。
明らかに涙目で、手足も震えているし、顔も耳まで真っ赤だ。緊張しまくってるな。いやあのね、俺も心臓、かなりバクバクなんだけどな……!
「リース、無理すんな。つーかだな、こんな所をメサイアやフォルに見られたら――」
「今日は二人とも狩りと買い出しへ行ってます……。ですから、今日は、あたしとサトルさんの二人きりなんです。……なので、その、お背中を」
あー…そうだったのか。
リースによれば、
『私とフォルは出掛けるわ。私も少しはレベルを上げなきゃね! あと、ついでにフリージアで買い物もしてくる。猛烈にチョコレートが食べたいの! チョコレートが!」
――ということらしい。
俺は、最近の疲労で深い眠りについていたものだから、そっとされていたみたいだ。
で、残ったのがリースだったと。
「そっか。じゃ、リース。今日は『約束のデート』しよっか」
「……デ、デート! 本当ですか!? とても……とっても嬉しいです! では、まずはお風呂デートからですねっ」
お風呂デート?
そんなのあるのか??
「えっと、リース。俺の背中を……?」
「は、はい。お任せください! ……なので、その、ギガンテスさんをあちらに……」
カァァァ……と、再び顔を赤くさせ、リースは目を泳がせていた。……おっと、いい加減に隠しておくか。おもちゃのギガンテスを。
で、俺は風呂用の椅子に座った。
「頼むよ」
「……頼まれました。では……まず」
石鹸の音かな?
なにかゴシゴシするような、布の擦れる音が。
ふむふむ。
……ムゥ?
「リース。背中を洗うんだよな。自分の体に石鹸をつけてどうするんだ?」
「こ、こうするんです……」
――と、リースは俺にくっつき……
変わった色のした大きなメロンを両手に持ち、押し付けてきた。
「ひゃぉぉぉッ!! お、俺の背中にィィ!! メロンがー!」
…………マジスカ。
アレは、隣町でリースが3000プルで買ってきた『特産メロン』じゃないか!! 甘くて美味しいヤツ!
それをこう使ってくるとは……思わずビックリした。
【本物のメロン】とか想定外すぎたぜ。孔明先生もビックリだぜ!!
てっきり、普通に背中を流してくれるものとばかり。
ボールのようなメロンが布に包まれているとはいえ……
なんて破壊力だ……! メロンってすげぇ!!
こんな柔らかい特産メロンもあるんだなぁ。仮にもファンタジー世界なのだ、そんな柔らかいメロンがあっても何ら不思議ではない。
「ど……、どうでしょうか? サトルさん…………あんまり自信ないのですが」
甘い匂いがしている、フルーティなメロンを使い、そのまま続けて俺を洗ってくれていた。リースの手に持つメロンがこんなに素晴らしいものだとは! いや~、あのメロン独特の甘いイイ匂いもするし、最高だね。
念のため言っておく、これは事実、隣町で購入した特産のメロンなのである。
くそっ、イカン!
こ、これは! 俺の腹心の友であるウルトラギガンテスが……何かの手違いで暴発しちまう、かもしれない。これはあくまで可能性の話であり、確率的には数百万分の一の割合である。
――にしても。
な、なんてスゴイ……。どこでそんな奥義を身につけてしまったんだ、リース!
「あぁ…………最高のメロンだ。美味すぎて、このまま死んでもいい。メロン最高。けど、そろそろ風呂が血に塗れそうだ。いいところで止めてくれると助かる……美味すぎて鼻血が」
「ふふ。あたしの特産メロン、お口に合っているようで良かったです♪ あの噂のお店で買って正解でした。それに……そうですね、あたしもずっと、どうかなりそうなくらいドキドキしています……。ねぇ、サトルさん……」
そう、リースは腕を、手を伸ばし……何故か俺の『腹筋』に手を。その細い白指で触れてきた。
「ひっ!? リ……リース、俺の腹筋にいきなり触らないでくれ……くすぐったいだろ」
「ご、ごめんなさい。だって、サトルさんの腹筋すっごく割れていて……触ってみたくなっちゃったのです」
そういや、俺、昔と比べると随分と腹筋が割れてしまったな。シックスパッドを使ったワケでもないし、あれは面倒ですぐ止めちまったけど。
……ああ、そうか。普段の狩りやらレベルアップで。
あれだけ動きまくってたら、まあ腹筋くらい割れるわな。
今更ながら納得。
「リースって、腹筋フェチなのか?」
「サトルさんの大胸筋の方も逞しくて、どうなっているのか気になります。……触っていいですか?」
……あ、質問を質問で返された。
なんだか、いつもと違う野獣の目をしているような。
てか、まさかフォルの影響か!?
あいつは、俺のボディをよく見つめていることがある。特に上半身裸になっていると、その視線は虜になったように凄い。最近は、さすがに気になり始めていたが……。
多分、フォルが『マッスル』のなんたるかを、リースに落とし込んだのだろうな。あのマッスル大好き聖女め。今度、お尻ペンペン三千回だな。
「うぉん!?」
しまった。
油断していたら、リースの指が腹筋にッ!!
しかも、ちょっと顔が怖いぞ!
「サトルさんの……大胸筋と腹筋、こんなにカチカチで固くて……大きいんですね……」
両手で、
絶妙な指加減で触られ、
俺は……頭がどうかなりそうだった。
俺の……大胸筋と腹筋がっ……
くぅ、これはもう限界だ。
「スト~~ップ! リース、ストップ! これ以上は、俺の理性が失われて、取り返しのつかないヤベェ~事になっちまう。そうなる前にストップだ。いいな」
「……そ、そうですね。これ以上は、風邪を引いてしまいますし、そろそろお湯で流しますね」
体が離れた。
ほっ……。
危なかった。危うく、野獣になっちまうところだった。
◆
朝風呂を済ませ、俺は山小屋の外で待った。
リースは今、準備しているらしく、少し時間が掛かっている。まあ、女の子なんだし、いろいろあるんだろう。いろいろと。
しばらくすると、
「……お待たせしました」
リースが現れた。
「リース……その服」
「えへへ……。似合ってますか? あんまり自信ないんですけど」
いつものスケスケのボディライン強調型の布切れのような服じゃない。今日は、お嬢様のような清楚なワンピース姿だ。やや、ロリータ風でもあるが、それがリースにはとても似合っている。
「――――――」
リースのその姿が、見惚れてしまうほど綺麗で、まぶしくて。なんていうか……俺は言葉を失ってしまった。
「……サトルさん? あの、やっぱり、似合ってなかったですか?」
「似合ってるよ。すっごくね」
パァァ~とリースは顔を輝かせ、にっこり笑っていた。
て、天使やでぇ……。
「サトルさん。デートの続きをしましょう♪」
「そうだな。約束だからな」
ぎゅっとリースの方から手を握られ、引っ張られた。
あぁ……俺、今感動で泣きそう。
この歳になると不思議とね、涙腺がね……緩いんだよね。
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