第258話 覚醒オートスキル - あるべき姿を取り戻せ!! -
不思議なほど体は無事だった。
あれだけの激しい連戦だったというのに、傷ひとつない。まるで神聖すぎる奇跡の力で治療したみたいな……なんだろう、この不思議な感覚。覚えがあるような無いような。
「ふーむ……」
「どしたの、ヘデラ」
「おう、ネメシア。いやな、なんかおかしいんだよ」
「おかしい? う~ん?」
そうネメシアは顔を近づけてきた。うわ、ちか……。
トーチカといい、顔を近づけるのが流行りなのか!?
「どこも変化ないわよ。大丈夫、ヘデラはずっとヘデラのままよ」
「そうなのかなぁ」
そう会話しながら、二人で大広間に入れば――
「……あ」
見覚えのある顔がいた。
あの長い銀髪、青と桃色のオッドアイ。大人びた――けれど、どこか幼さを感じさせる……俺に似た聖女。
ネメシアの母親――フォルトゥナである。
さきほどネメシアにお尻ペンペン3000回をしたとか何とか。聞いただけで自分のお尻も痛く感じる不思議。いったい、何をしたせいでそんな叩かれたんだかな。
「あの……ネメシアのお母さん……」
「フォル……あなた様にはそう呼んで戴きたいのです」
「いやぁ、そんなネメシアの母さんを呼び捨てとか無理ですよ」
「母とかそういうのは抜きでいいのです。わたくしはこの奇跡に感謝したい……ありがとう」
なぜかフォルトゥナは、感慨深そうに頭を深く下げていた。なぜだ。
「ですが、ネメシア!」
「ひぃ……」
俺の後ろに隠れるネメシアは、完全に怯えていた。ありゃりゃ……。確かにあのフォルトゥナ……いや、フォルはおっかないなぁ。
「先ほどはごめんなさい。少しやりすぎてしまいましたね」
そっとネメシアを抱きしめるフォル。
いや、少しって……かなりだと思いますけどね!?
「お母さん……。ううん、いいの。お母さんは分かってくれるって信じてる」
「ええ、もう『女神契約』が果たされている以上、あとは【スターダスト】を集めるのみです。怨敵・スターゲイザーを打倒し、本来あるべき『過去』、『現在』、『未来』に修正するのです」
「……ま、待ってくれ! なんだよ『女神契約』とか、『スターゲイザー』って、意味が分からねえよ!」
俺は戸惑っていた。
ネメシアが俺に教えてくれていない事があった……?
フォルは優しい顔をして、
「すべてをお話しすることは出来ませんが……。スターゲイザーは、秘密結社の名です。いえ、あれは秘密結社というよりは『征服者』です。この世界を支配している者たちですね」
「なっ……支配している!? けど、国がいくつもあるぞ」
「ええ、ある方のおかげでこの国は支配を免れていたのですよ。ですが、最近は結界も消えてしまい、ついにモンスターの襲撃に遭うようになったのです。今は支配されつつあるというわけですね」
「なんだって……」
「ショックなのは分かります。わたくしもそうでしたから……。でも、希望は常にあるのです。ネメシア、あとは任せましたよ。わたくしは『リース』のところへ戻りますから」
「リースママの? あれ、『ホセ』、『フランシス』、『ステラ』、『パウラス』を一気に攻略するって言ったまま出て行ったけど、帰って来ていたの!?」
なんだか興奮するネメシア。
うん? リース??
あれ…………。なんか、その名前にも懐かしさがあった。
なんか最近の俺、変だなぁ。心がソワソワする。
「すでに半分を攻略済みです。本来あるべき『聖地』へ戻りつつありますよ。アーサー様、サイネリアたちも今や聖地奪還のために反撃に出ています。ですが、依然としてスターゲイザーは最強の存在……。ヘデラ様、あなたの力が必要です。今や世界一の聖女となったあなたの力が」
「俺の力……。でもな、なにかよく分からない事が多すぎるよ。ネメシア、真実を話してくれるか」
「ヘデラ…………それは。うん、分かった。あなたに嘘はつけない。ねえ、お母さん、いいでしょ? もうヘデラはあるべき姿に戻るべきだと思うの」
フォルは迷いなく頷いた。
「分かりました。では、わたくしが半分与えていた聖女の力はお返し戴くとして……しかし、その姿はそのままにしておきましょう。その方が活動しやすいでしょうから。それに、スターゲイザーが本格的に動き出した場合、こちらが不利になってしまう。反撃が厳しくなってしまう。
ですから、ネメシア、あなたが大切に隠し持っていた【覚醒オートスキル】の力を再契約するのですよ。それで、ヘデラ様は本来の力を発揮できる。スターゲイザーを壊滅に追いやることが出来ましょう」
もう何がなんだか分からない。
いったい彼女たちは何の話をしているんだ!?
くそう、分かる奴がいたら俺に分かりやすく簡潔に説明してくれ……!
「お母さんありがとう。わたし、がんばるから」
「ええ、あなたが希望の星です。彼を――いえ、彼女を頼みますよ」
もう何度目だろうか。俺に優しい顔を向けて――フォルは去った。
えっと……。
「うーん」
「ヘデラ」
「お、おう」
「とりあえず、なにか食べましょ。お腹空いちゃった」
「えぇ……」
「この前の大会を配信したら、すっごく稼げたから奢ってあげる」
「おいおい、無断配信かよ。まあいいや。じゃ、食い終わったら教えてくれよな」
「うん。じゃ、トーチカやエコも呼びましょ」
「そうだな。みんなで行こう」
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