第253話 準決勝戦 - 追放されし元聖女の復讐 -
ほんの少しだけ休憩が入り『準決勝戦』が始まった。
俺は一回目は不戦勝で、二回目は見事に勝利を収めた。二回目の鬼女には驚かされたものだけど、あれから様子を見に行ってみれば、たいしたケガは無かったみたいだ。
どうやら、殺傷能力は抑えられていたらしい。
「やるな、エコ」
「ええ、私はこれでもエルフですから」
とまあ小声で言ってきた。なんで小声?
……あ、そか、正体バレたくないんだっけ。でも幻術かけてるし大丈夫だろう。
「さて、準決勝か。俺の相手はあの『メカ天使の羽を持つ少女』か。名前は『マスティマ』か……。ふぅん、なんか強そうだな。実は主天使だとか熾天使だったりな」
「あの少女、今までの選手と気配が異なりますよ。私はずっと試合を見ていましたが、あのコは非常に危険と断言しておきます。危険、でんにゃーです!」
猫目で俺を脅してくるエコ。
ちなみに今の俺だけには『ロリエルフ』の姿が見えている。
「まじか。てか、でんにゃー……」
「ヘデラさま、武運長久をお祈りします。では」
「え、一緒に戦ってくれないのか?」
「残念ながら、私はスキルの『召喚』に従いヘデラさまのお力になったのですよ。ですから――世界の『理』には従わねばなりません」
「まあまて、落ち着け、エコ。お前くらいの最強のエルフなら何とかなるだろ、そのヘン。なあ、俺とお前の仲じゃないか。『ちゅぅ~るぅ』欲しいんだろう~?」
俺はエコにずいずい寄っていく。
お~…プニプニの頬が近い。すりすりしたろか。
「……うぐっ。いくらヘデラさまとはいえ……なあなあで例外を認めるなど。ええ、まあ実は可能です。私は『理』を逸脱した者ですから」
「やっぱり出来るんじゃん。ほら、約束の『ちゅぅ~るぅ』だ」
「にゃああああああッ!!!(感涙)」
エコはめちゃくちゃチョロかった。
「ヘデラさまああ、大好きですにゃ~♡」
おお、凄い勢いだ。本当にこの『ちゅぅ~るぅ』が好きなんだな。よしよしっと俺はエコを撫でた。真の姿はエルフだけど、これではマジの猫だ。
うん。
……勝ったな。
俺はニヤリと口を歪ませた。……あ、いかん聖女のしちゃいけない顔をしていた。まずいまずい。誰かに見られたらドン引きされる。
さあ、行こう。戦いへ。
★ ★ ★
俺は頭にエコを乗せたまま舞台へ向かった。
「いよいよ準・決・勝! ここまで勝ち残ったのは『ヘデラ』選手、『マスティマ』選手、『エグザイル』選手、『匿名希望さん』選手の四名です!」
それではまず……『ヘデラ』選手とぉぉおおお……! 『エグザイル』選手です!!」
「なに!? 対戦相手が変わった……どうして!?」
俺の相手はメカ天使の『マスティマ』だったはず。
なんだそりゃ……予想外すぎる展開!
「ここでお知らせです。どうやら、こちらに不備があったようで、これが正式です!」
なんだと……不備だって。
そりゃねぇだろ!! ちゃんと管理してくれよ。
とにかく、俺の相手はあの『真っ赤なウェディングドレスの令嬢(目つき激ヤバ)』の……『エグザイル』か。おいおい、アレはなんかもう、ラスボス臭漂っているレベルなんだが……勝てるのかあれ。
「両者、前へ!!」
くそ、異議を唱える時間もないか。やるしかない。
「フフフ……。ヘデラとか言ったな。お前のような可愛い顔をしている女はね……大嫌いなんだよ。塩漬けにして喰ってやる」
うわ、こわっ! ただでさえ目つき悪いってーのに。
つーか殺したら失格だぞ。
「いいかい、私はね『聖女』なんてどうでもいいんだ。全員潰せればそれでいい。だって、私は『追放されし元聖女』……この恨み、この大会で晴らしてくれようぞ!!」
「なるほど。そんなことで参加しているのか」
「フフフ……今に私の恐ろしさが分かる」
そうエグザイルは猛ダッシュ――いやこれはダッシュとかいう次元じゃない。人間離れした高速移動。早すぎて見えねえ!!
「死になァア!!」
「げ……『口裂け女』だったのか!!」
エグザイルは大きな口を開けた。鋭い歯が俺を喰おうとしていた。てーか……怖すぎるだろ、バケモノだ。子供が見たら大泣きするぞ!
だけど!!
「ほーりー☆くろす!!」
俺はまさにこの接近を狙っていた。
このほぼ零距離なら、ダメージは大きいぞ。
至近距離で放った『ほーりー☆くろす』は口裂け女の腹部に集中的に命中。危うく俺の胸が食い千切られるところだったが、あと数センチのところで吹き飛ばした。
ヤロー…! 俺の自慢の胸を狙ってきやがって……!!
そう内心で吼えていると、エグザイルは場外スレスレで飛び跳ね、数十回転して舞台へ戻ってくると――華麗に着地した。
「バケモノか……」
「ヘデラさま。ヤツは一筋縄ではいきません。ここは私が」
「ああ、そうしたいのは山々なんだけどな。く…………エグザイル」
あの女……俺とネメシアの関係を知ったうえで、人質にしてやがる。もちろん、実際に人質にしているわけではなく、ネメシアのいる客席に合わせてポジションを維持していやがる。
そんなところへレーザーやらを撃ったらネメシアだけじゃない。トーチカも巻き込んでしまう。それだけは絶対に出来ない。
二人を傷つけるなんて……そんなの死んだ方が数億倍マシだ!
「……そういうことでしたか、ヘデラさま」
「察してくれて助かるよ、エコ。エグザイルは、俺とネメシアが待機所で話しているところを目撃しているからな。ここで逆手に取られるとは…………卑怯な」
こうなるとエコは戦力外。今や俺の頭の上で乗っかってる置物。いやでもチャンスはあるかもしれない。ヤツの位置さえ変えられれば。
「フフフフフ……。気づいたようね。そう、私はあなたの仲間を背にし、人質にしている。さあ、攻撃できるかしら……!」
両手を広げ、煽ってくるエグザイル。くそ、むかつく。ヤツの背後にネメシアたちがいなかったら、今頃は土の中に埋めてやってるところだが――。
けどな、まだ勝算はある。
ネメシアのくれた『プレゼント』を――ここで使う!!!
いつも応援ありがとうございます。
もしも面白い・続きが読みたいと感じましたら、ぜひブックマーク・評価をお願いします。感想もお気軽に書いて戴けると嬉しいです。




