第234話 花の邸宅
ネメシアの『ホワイト』の中で、しかも、自然いっぱい花いっぱいの――【花の邸宅】とでも命名しておこう。
――で、一泊することになった。
でもって、ついでに飯。
「ネメシア、なんでラーメンなんだよ。世界観合わなすぎだろ」
「…………うっ。即席って言ったら、それしか在庫がないのよ~。――いや、あることにはあるけど、ほら、もう時間も遅いし、料理している時間もないし。トーチカも疲れているみたいだしさ」
「それもそうか。
でも、いいよ。まさか、この世界で俺の大好物のラーメンが食える日がこようとはな。しかも、塩。しかも、フォークで食える。はー、最高だぁ、涙がでるぅ!」
ま、俺にとっては棚から牡丹餅だね。
正直、なぜか懐かしい味だったし。
トーチカは物珍しそうに、王子も恐る恐る食べていた。
ちなみに、エコは――
「あちいいいいいいいいいいいいいいい~~です~~~!!!」
あ、猫舌だった。
可哀想なので、『ちゅぅ~るぅ』にしておいた。すげぇ喜んだ。
「にゃあああああああああああああああ~~~~~~!!!!!」
★ ★ ★
「風呂もあるのか!?」
驚いた。
この【花の邸宅】は、お風呂もあった。
本当になんでもあるな。
「スゴイでしょ♪ このお風呂はとっておきよ~。しかも、混浴」
「……な、なんだと」
俺は、王子の方を向いた。
「ちょ、ちょちょちょ! 無理です! 絶対に無理です! ごめんなさい、僕はあとでひとりで入りますから!!」
うわぁ、必死だー。
顔もすげぇ赤い。なんだ、絶好のチャンスなのに。
俺が男だったら、迷わず入っちゃうね。殺されるだろうけどな!
「ああ、そうしてくれ。俺たちは先にいく。ラナン、もし気が変わったら覗きに来てみ。混浴だしさ」
「の、覗きませんってば! せ、聖女さまの裸を覗き見るなど恐れ多すぎます……。恐ろしい神罰を食らってしまいます。うう、顔が熱い……」
本当に顔が熱そうだ。
あんまり弄らんとてやるか。
「じゃ、あとでな」
★ ★ ★
大浴場にはすでに先客がいた。
「ハティ」
ネメシアがその少女の名を呼ぶ。
あー、あのコか。すぐ逃げちゃうあの女の子。
たたたた……と、小動物のように逃げようとするが――
「えい」
トーチカが獣の如し俊敏な動きを見せ、ハティを捕獲した。
なんて見事な狩裁きだよ。
「あ……」
ハティが眼を見開き、俺を見る。……てか、見惚れてる?
「……お、お姉ちゃん。白くて、すっごくきれい……」
「俺、なぜか聖女だからな」
「へぇ、そうなんだ~。まるで――」
何かを言いかけたハティ。だが、ネメシアがその口を塞いだ。
「もがもがー!?」
「ちょ、おい。ネメシア。なんで止める」
「余計なことは聞かなくていいの。さ、お風呂入りましょ」
「むー」
ネメシアは、そのままハティを連れ去った。
なんだったんだろ。
「ヘ~デ~ラ~」
「うわ、トーチカ! おま、やめ……!」
まるで気が狂ったかのようなトーチカは、当然、俺の背筋に指を当て、上から下へ線を書いた。そんな、筆のような感触で……!
「ひゃう……!! ……な、ななななにをするっ!」
「頭洗って~」
「なんだ、そんなことか。紛らわしいな……。分かったよ、トーチカ」
「うん♪」
★ ★ ★
これでは【貴族邸宅】と住んでいる時と、なんら変わりはない。
景色こそ『真っ白』だけど、不便もないし、なんでも揃っている。
これが、ネメシアの世界だとするならば……
俺は、彼女がちょっと遠い存在に思えてしまった。
ほんの、ちょっとだけどな。これは、俺の意地だ。
なーんて、らしくないセンチメンタルに陥っていれば、
「ヘぇデぇラ~。飲むわよぉー! ほらぁ、付き合ってぇ~」
なんの悩みもなさそうなネメシアが、酒持って現れた。おいおい、呂律が回ってないし、フラフラだし酩酊状態じゃないか。
はぁ……。俺のさっきのセンチメンタルをおまけを付けて返品してほしいね。
「つーか、もう酒くっさ! おいおい、ほどほどにしておけよ。またレインボー吐くぞぉ……」
「おえええええええええええええええッ」
「だあああああ!!! もう吐いてるし!!!」
やっぱり、ネメシアはネメシアであったのだ……。
だめだ、この大酒家……早くなんとかしないと。
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