第232話 ホワイト - 救世主 -
『……ごくごく』
俺は、ネメシアから受け取った『SPGミナギール』を飲み――
「ブッ――――――――――!!!!!!』
噴き出した。
「まっず!!! くっそまっず!! おい、ネメシア……この『SPGミナギール』くっそまずいぞ!! ゲロだ、ゲロだよこれ!!」
「……あ、あんたね。まずいとかゲロとか失礼よ!? ん~? おかしいわね、調合間違えたかしら……あ!」
「……あ? ちょ、おい! 『あ』ってなんだよ!! え……なんで、そんな青ざめてんの……」
「…………」
ネメシアは、やっちまたぁ……みたいな顔で硬直していた。
「お…………おい、そんなギャンブルで破産した直後のような顔すんなよ!! こえーだろうが!!」
「………………」
「やめろって!! おい!! 冗談だろ!?」
――その直後、俺は突然、意識を失った。
あれ…………。
★ ★ ★
――――意識を取り戻した。
幸い、死んではいないらしい。
良かった……俺は『聖女』のままだ。……酷く安堵した。
「えっと……俺。あれ、おでんのモンスターは?」
「倒した」
トーチカが短く反応する。
なんだか、いつも以上に素っ気ないというか、ぶっきら棒だな。
「た、倒した? 誰が?」
「ヘデラが」
「え、俺? 俺は気絶していて――それで……どうなった?」
「…………」
無言になるトーチカは、どこか俺を、怖いものを見るような目をしていた。なんで……なんでそんな顔をする?
「……ごめん。ヘデラはヘデラだよね。悪気はなかった」
「え?」
分からない。本当に何が起きたんだ。
「ところで、ネメシアと王子は? あと猫」
「エコはここ」
「ああ、トーチカの頭の上にいたのか」
「王子は、そこで倒れてる」
あそこ?
トーチカの指さす方向を見ると、
「あ、すぐ近くの川沿いに……頭から突っ込んでる――!?」
俺はすぐ駆けつけ、王子を引き上げた。
「ばふぁあぁぁっ!! ――げっほ。げっほォ!!! あ、危うく溺れ死ぬどころでした…………助けて戴きありがとうございました」
「な、何やってんだよ。しかも、そんな濡れて。お前、水難に遭いやすいヤツだな」
「ははは……そうなんです。僕、子供の頃からそんな感じで」
「で、ネメシアは?」
「ネ、ネメシアさんですか。いえ、僕は見ていませんね」
「そっか……」
ネメシアのヤツ、どこへ……。
…………ん?
よ~~~~~~~~く見ると、近くの宙に『手』だけが出ていた。
手招き……? つーか、不気味!
こんな時間帯にゴースト系モンスター?
「うーん……。なんだろ、あの怪しい手」
俺はその場所まで歩き、手を掴んだ。
で、逆に引っ張られた――
「うわっ!? なんだこりゃ!?」
ゴロンの中へ突っ込むと――そこには、
「ネ、ネメシア! つか、なんだこの『白い空間』……!」
「これは『ホワイト』の中よ。わたしの、わたしだけの空間。広さは無限で、ご存じの通り、アイテムストレージになっていたり――あとね、住むことも可能。ほら、あそこ見て」
あそこ?
「うわ、なんであんなところに『家』が!? すげ……こんな、なにも無い空間なのに、あそこだけ大きな邸宅があるな。しかも、自然も一緒に……花だらけだ」
ちょっと遠いところに、湖の畔があって……息を飲むほど美しかった。
「それで、これを俺に見せてどうしたんだ?」
「今日はね、ここで一泊よ」
「は……はぁ? まあ、外の方は……間もなく日も沈むしな、野宿よりはいっか。ところで、あの『おでん』のモンスターは俺がやったらしいが、なにか知ってるか?」
それを聞くと、ネメシアは肩をピクっとさせていた。
あれは――何か知っているのか。
「あとで話す。今はみんなを連れてくるわ」
ん?
なんであんな……怯えているんだ?
★ ★ ★
ネメシアの『ホワイト』の中にみんな集合。
あの湖の邸宅にお邪魔することになった。
「こりゃ……王国【レメディオス】にある【貴族邸宅】の三倍はあるぞ。よくもまぁ、こんな白い空間に建てたものだなぁ」
「ええ、これはまさに青天の霹靂です。私は、過去いろんなモノを見てきましたが、これは、初めての事象ですね。軽くショックを覚えたほどですよ。考古学的にも大変興味深い」
ところどころ分析しているエコ。
へぇ、あんな興奮するなんて、珍しいな。本当に考古学者みたいだ。
ネメシアの邸宅にお邪魔した。
「うあ、花だ……」
邸内は、プランターがズラりと並び、花があちらこちらに咲いていた。なんの種類か分からないけど、なんて儚げな……。気のせいか、なんか見たことあるような……ないような。この香りといい、う~ん?
「不思議な場所」
トーチカがぽつりとつぶやいた。
しかも、花に興味があるのか、香りを楽しんでいた。
確かに、懐かしいような……甘い良い匂いがする。
そんな状況に、俺はただただ圧倒されていた。
だって、ネメシアの中に――いや、正確には『ホワイト』だけど、こんな家とか自然があるなんて思わないだろ、普通。
そういえば……俺は彼女のことを、あんまり知らないな。
――で、
客間みたいなところに連れてこられた。
「なんぞ!?」
誰がいる…………。誰!?
いつも応援ありがとうございます。
もしも面白い・続きが読みたいと感じましたら、ぜひブックマーク・評価をお願いします。感想もお気軽に書いて戴けると嬉しいです。




