第185話 死神の腕と巨大戦斧
※フォルトゥナ視点です
ずいぶんと意識を失っていました。
目を覚ますと、激しい戦闘が繰り広げられていました。
「…………ど、どうなっているんですか」
今、荒野では、ベルさんだけが戦っていた。
リースは? サイネリアは?
焦っていると、猫の鳴き声が。
「黒猫……リースの召喚した猫のエコちゃん。あなただけ?」
「にゃー」
猫はこちらのことがまるで分っているかのように、頷いた。
「そんな……戦闘不能になってしまった、というのですか……」
そんなはずはないと願いたい。
しかし、どこを見てもリースとサイネリアの姿はなかった。
『ヒーリングシールド、オーディンシールド、ヒーリングシールド、オーディンシールド、ヒーリングシールド、オーディンシールド――!!!』
ベルさんは、回復と攻撃を繰り返していました。
まさか、苦戦を――!?
相手は女の人……あれは――あの顔立ち、星の都に入ったばかりの時に現れたレイピア使い『フェクダ』とかいう。そうです、彼女は七剣星だった。
でも今は、レイピアではなく――――『巨大戦斧』を手にしています。
「な、なんて大きさですか……自身の三倍はあるではないですか」
そんなモノを片手でブンブンを振り回し、ベルさんの盾を一撃で破壊していました……。なんて恐ろしい攻撃力。
「守るだけで精一杯のようですね」
「…………くっ!」
そんな、あのベルさんが押されているなんて!
こうしてはいられない。わたくしも手助けを――!
「おや、あなたのお仲間の聖女さま、目が覚めたみたいですよ」
「フォルちゃん! 気づいたのね。良かった……ぜんぜん目を覚まさないから、心配したじゃないか」
「ご、ごめんなさい。それより、リースとサイネリアは!?」
「……あぁ、ごめん。守り切れなかった。二人とも戦闘不能さ。大丈夫。死んではいない。けど、もうこっちには来れないかもね。フェクダが恐ろしく強くってさ……。前にサトルくんが相手にしていたけど、こんなに強かったなんてね。それとも、あの時は本気じゃなかったのかな」
「ええ。私はあの時は、ただの様子見。お嬢様の目もあった――ですが、今は思う存分、この姿で戦える」
姿……あれは、貴族のノヴァの時と同じだ。
彼女も『マグネター』なのだ。だから、あんな大きな斧も軽々と持てるということでしょう。よく見れば、彼女の腕は……『鬼』とか『悪魔』のようでした。
「あるいは……魔王とか死神?」
フェクダの腕を観察していると、戦斧が地面を大きくえぐった。
それをシールドで防ぐベルさんでしたが、またも盾を砕かれ――
「――――ああぁぁぁぁっ!!」
その重い衝撃で遠くへ、見えないほど遠くへ飛ばされてしまいました。
「…………ベルさん!!」
このままでは、ベルさんがやられてしまう。
ならば、先手必勝。
『覇王轟翔波――――――!!!!!』
がら空きのフェクダの背中に向けて、それを放った。
しかし、あの巨大戦斧で真っ二つに斬られて……技が消滅した。
「そ、そんな……わたくしの秘奥義が……」
「素晴らしい攻撃でしたが、私には遠く及びませんね。でも、聖女がこれだけの力を持つとは……ふむ、認識を改める必要がありそうですね」
「フェクダ、あなたはレイピア使いではなかったのですか……」
「ああ、それのことですか。先ほど申した通り。ただの様子見です。これが私の真の力というわけです。そうそう、言い忘れていましたね――今の私は『死神』の超人です」
「し、死神……ありえないです。レイドボスは全部倒して、死神は消えてなくなったはずですよ」
「ええ、おっしゃる通り。これは力を借りているだけ。
なにも、死神という概念は消え去ったわけではないのです。言葉や記憶に残っている限り、死神の力は復活可能ということ。やろうと思えば全身を死神にも出来ましょう。
ですが、そこまでしてしまうと、心が破壊されてしまうことが分かったのです。ですから、一部の能力を拝借し、己の魂に宿すことによって、我々は超人となったのですよ」
それは結局、禁忌を犯しているのでは。
開けてはいけない箱を無理やり開け、不正に力を得ているということなのだと、わたくしは感じました。
「それが超人の……マグネターの秘密ってことですか。では、洞窟前や中にいたマグネターは何なのです」
「あれは言ってしまえば、失敗作です。研究に失敗はつきものですよ。ちなみにね、彼らは元・エルフです。いやぁ、この星の都には、特上の研究素材が多くて助かりましたよ~」
フェクダはそう、あっさりと言い放った。
失敗作…………彼らを救うでもなく、野放しにしてやりたい放題……。しかも放置し、貴族には力を与えてメチャクチャにして……。
「…………もう、あなたと会話する必要はありませんね」
「ほう、怒りましたか聖女さま。ですが、力は私のほうが上ですよ。どう勝とうというのですか……くすくす」
不敵に笑うフェクダ。
確かに、戦力差はある。あの巨大戦斧には歯が立たないかもしれない。でも、諦めない。兄様やみんなの為にも、わたくしはひとりでも戦い続ける。
いつも応援ありがとうございます。
もしも面白い・続きが読みたいと感じましたら、ぜひブックマーク・評価をお願いします。感想もお気軽に書いて戴けると嬉しいです。




