第184話 星の記憶
※メサイア視点です
サトルの心は破壊されてしまった。
けれど、全てを破壊されたわけではない。心のカケラは残っている。
でも、バラバラに砕け散ってしまった心の修復なんて……どうすれば。
今の私には、こうして彼の残滓を掬い取ることしかできない。包み込むことくらいしか――。
「――――」
……いえ、私はまだ本領を発揮していない。
彼の女神としての力を出し切っていない。
そうよ、私は彼の、彼だけの女神。
こんなところで挫けるわけにはいかない。
「サトル……今、助けにいくわ」
女神の力を全力で使い、白の力で『理』の中へ――入った。
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・
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――――ここは何処だろう。
見たこともない風景。
見たこともない建物。
なにかが発展し、とても多くの人々が行き交っていた。
人間。
人間だ。
「――――君、大丈夫?」
不思議な世界に圧倒されていると、誰かに話しかけられた。
……え。まさか。
「サ、サトル……。サトルよね!?」
「え? 君、なんで俺のこと知ってんの!? 君とは初対面だよね。ていうか、その格好すごいね。コスプレ?」
「こ、こすぷれ? 違うって! 私よ、私」
「え? オレオレ詐欺?」
「だーかーらー違うってば! 私よ、メサイアよ」
「めさいあ? 知らん。あー…なんかの勧誘とかなら止してくれ」
そう、彼はまるで初対面であるかのような反応をして、去ろうとした。
……ダメ!
ここで逃がしたら、もう二度と会えないような気がしていた。だから、私は彼の腕を思いっきり引っ張った。
「うわ――――――!?」
サトルに抱きつかれる形となったけど、今はすごく嬉しかった。
いつものように、もっと優しく抱きしめて欲しい。
「え……君。泣いて、いるのか……」
「うれしくて……」
「うれしい?」
「うん、サトル……あなたに出会えて本当に良かった」
「…………君、なんで俺の名前を。ああ、分かったぞ! この先にある『サクリファイスオンライン』のイベントね! だから、そんなコスプレを。
聞いてくれよ。これからさ~従妹の葵と――――」
そこで彼は何かを思い出した。
「………………いや、違うよな。なにか違う気がする。俺はもっと大切な何かを……」
思い出そうとしている。
サトルは、己の心を修復しようとしている。
「う~~~~~ん……舌先現象っていうヤツかね。あーほら、喉まで出かかっているのに思い出せないアレだよ」
腕を組み、記憶を掘り起こそうと必死だ。
もしかして、もしかすると……!
「お願い。思い出して、私と過ごした日々を。仲間もいたでしょ。レイドボスを倒したり、聖地を巡礼したり、いろいろあったじゃない」
「レイドボス……聖地巡礼? うーーん。でもそれって、サクリファイスオンラインの要素そのまんまじゃないか? でも、でもなんかなぁ……すごく違和感がある。心に引っかかるものがある」
――心に引っかかる?
まって、それって……少しずつ元に戻りつつあるということ?
そう希望が持てそうな時だった。
「……だめだ」
「だ、だめって……そんな」
「ごめんな」
そう彼は悲しそうに頭を下げて――去ろうとした。
「………………」
…………まだよ。
私は、諦めが悪い女神で有名なんだから!
もう怒った。
叩いてでも思い出させてやる。
「このバカサトル~~~~~~!!!」
思いっきりグーで彼の後頭部を殴ろうとした――けど。
「ちょっと、そこのあなた。わたしの理くんに何をするつもりかな」
なんかすっごく見覚えのある少女が現れた。
髪色こそ違うけど、あの淡白な表情の彼女は――ベルだ。
「ベ、ベル……」
「あ、うん。『ハーデンベルギア』はわたし。でもさ、それ言わない約束でしょ。リアルバレするのは嫌なんだよね~」
「え……約束?」
「ん? どうしたの、桜さん」
「え、さくら?」
「ちょっと大丈夫? あなたの名前でしょう。それ、コスプレだよね。理くんの気を引こうとしたのかい。でもそれじゃ、わたしには勝てないよ~なんてね。理くんは、桜が好きみたいだし……」
「え、でも、サトルはわたしのこと覚えてもなかったけど」
「え~? そうなのかい。それじゃ、わたしが貰っちゃおうっかな」
「…………」
「冗談だよ。
わたしはね、これから『サクリファイスオンライン』のテスターをしにいくの。理くんと共にね。よかったら来る?」
そんなお誘いがあったけど――
なんだか、その先は、地獄を見るような気がして……わたしは首を横に振った。
「……そう。それが正しい選択」
ベルがグネグネと、いや世界もグネグネと歪む。
『――――メサイア様』
「……神王様、どうして」
「あなたが今見たのは、かつての私の『星の記憶』です」
「どういうことですか」
「理は――彼は、私であり、彼もまた私なのです。つまり、もとから神様なんです。この世界が出来た理由もなにもかも、すべて」
「そんな……」
「彼は、私の魂の半分で出来ています。不完全ということです。――ですが、人間は誰しもが不完全です。完璧な人間などおりません。
神王などと崇められているこんな私でも、失敗は多くあった。特にあの『サクリファイスオンライン』は悲劇的であり、世界を一度は死滅させた程ですから」
まるで懺悔するかのように、神王は話をつづけた。
「ただ、言えることは、あれは――星の運命だった。
どちらにせよ、世界は滅びる運命だったのです。宇宙は時間と共に絶えず変化し、いずれは寿命を迎える。それらは、私たちや住んでいた世界も例外ではなかった。
万物の寿命、太陽の死期、銀河同士の衝突、超新星爆発、ブラックホールの蒸発、暗黒の時代、宇宙の熱的死、ビッグクランチ、ビッグリップ、真空崩壊――そう、始まりがあれば終わりがあるのです。
しかし、私は新しい世界を選んだ。なぜそんな能力が得られたのか今でも分かりませんけど、それが運命だった。受け入れるしかなかった。でも、おかげでこの素晴らしい世界を創り上げられたのです。一度も後悔をした事はありません」
「あの、神王様。理解が追い付かないんだけど……」
「ああ、要約するとですね――昔の世界は滅びたけど、異世界として創り直して、楽しすぎた!! ……ってことです」
「なるほど!! ……そ、それでサトルは元に戻るんですか!?」
「ええ、心の修復はだいぶ進んでいますよ」
「本当に? よ、よかった…………」
そう神王様から聞いて、私はホッとした。
神様が言うのだから、間違いはないだろう。
「私は、もしかしたら……あなたに見て貰いたかったのかもしれません。かつての世界では、私はあなたが好きだったのですから」
「え……」
「……さて、時間ですね。私は更に魂の半分を生贄にし、彼に捧げようと思います。それで『心』は完全に修復される。……いえ、それどころか神王へかなり近づきます。また、【オートスキル】の覚醒も可能でしょう」
「で、でも、そんなことをしたら神王様が――」
「いいのです。これは楽しみすぎた罰です。神でも代償を支払わなければならない時があるのですよ。
……メサイア様。彼を迎えにいってやってください」
「本当に大丈夫なんですか……」
どうしてか、私は神王様が酷く心配になった。
「大丈夫。私はまだ消えませんから」
そう神王は微笑み、姿を消した。
『あなたは、理の救世主』
そう言い残して。
――――闇は晴れた。
するとそこは、虹の空中庭園だった。
そこに彼はいた。
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