第183話 聖戦士はいつも冷静です
※ベル視点(ハーデンベルギア)です
驚いたことが三つある。
ひとつ、戦闘不能でもないのに、理くんとシアが消えていたこと。
ふたつ、バトルロイヤルが予想以上の混迷を極めているということ。
みっつ、あのシッポに赤いリボンを付けた黒猫はなんだろう。
「リースちゃん。その黒猫は?」
「あ、ベルさん。この子はですね、エコちゃんです。あたしが召喚したんですよ~。可愛いでしょう♪」
そう自慢気に黒猫を手渡してくるリースちゃん。
なんと大人しい。まるで空気を読んでいるようだった。
しかし、困ったことに、自分は猫アレルギーだった。――だったが、それは遥か昔の話だ。今は平気っぽい。くしゃみとか蕁麻疹も出てないし。
これも『聖戦士』になったおかげかなぁ?
なので、わたしは人生で初めて猫の頭に触れた。
「これが猫の感触かぁ。へぇ、モフモフしていて触り心地がいいんだね」
「え……ベルさん、猫触ったことないんですか」
リースちゃんが意外そうな顔でわたしを見た。
「うん。元・アレルギー持ちだったの。でも今は平気」
猫を撫でながら、わたしは戦況を確認した。
聖女のフォルちゃんは疲労困憊で倒れてしまった。サイネリアは周囲を警戒中。そして、リースちゃんと黒猫はわたしと一緒に情報整理中。
あ――そうそう。
あの白衣のヘンタイさんは、まだ戦闘不能になっていない。
「確か、ミザールだっけ……」
「はい。あの方、サトルさんとは仲が良さそうに見えたのですけど……でも」
結局、裏切られてしまったと。
なるほど、人の良い理くんらしいというか、もしかしたら、分かっていて行動を共にしていたのかもね。
――ともかく。
「リースちゃん。残りはあとは誰かな」
「はい。えーっと……ドゥーベ、フェクダって方だと思います」
「ミザール入れて、あと三人か」
そうつぶやくと、サイネリアは訂正した。
「いえ、生存人数は残り『39名』ですわ。今ここに『4名』いますから――『残り35名』ということになりますわね」
そう言われるとそうだ。
「いえ! エコちゃんもいますよ!」
リースちゃんが飛び跳ねながら、ツッコんだ。
「あの……猫は数に入らないのでは?」
「いえいえ、サイネリアさん。この子もカウントされるんです!」
「そ、そうなのです?」
反応に困るサイネリアは、わたしに意見を求めてきた。
だけど、わたしはノーコメント。
「ちょ、ベル様! む、無視はご勘弁を……」
「いや、無視じゃないよ。マジックカード・黙秘権を行使しているだけ」
「そ、そんなあ……。って、マジックカードとは!?」
「ぷ……あはは」
リースちゃんが笑った。
どこか元気がなさそうだったし、良かった。
「もう……。いいですわ、わたしは周囲を偵察してきます」
「サイネリア、単独行動は危険だよ。みんなで一緒に行動しよう」
「……ベル様。分かりました」
サイネリアはなんだか素直だった。
最初出会った頃とは大違い。ちなみに、この最初というのは、花の都時代の話だ。あの時の彼女の性格は今とはまるで違って、我儘なお嬢様だった。
それこそ、この星の都の貴族とは変わらない感じの。けれど、彼女は変わった。きっと、誰かさんのおかげだろうね。
◆
わたしはフォルちゃんを背負いながら、森を慎重に進んでいった。
「……ベル様、地面にご注意を。トラップですわ」
手で止まれと合図するサイネリア。確かに地面を見下ろすと、そこにはトラップが仕掛けられているような気配があった。
「ふ、踏むとどうなるんでしょう?」
気になるのだろうか、リースちゃんは興味津々だった。
「踏んでみようか?」
「え、ベルさん!?」
「へーきへーき」
「だ、だめですわ、ベル様! あなたの身に、万が一があったらどうなされるのですか!」
「おや、サイネリア。わたしを心配してくれるの?」
「あ……あたりまえですわ!」
顔を赤くし、ふんと鼻を鳴らして視線をそらすサイネリアはトラップのことを忘れているのか、踏んでしまった。
カチッと音がして――――
わたしは、瞬時にサイネリアを突き飛ばし、シールドスキルでそれに蓋をした。
ボンッ――!!
と鈍い音がして、おさまった。
「エクサダイトだったようだね」
「なっ…………エクサダイトですって……!? そんなものをまともに踏んでいたら……わたし、吹き飛んでいましたわ……」
サイネリアは顔面蒼白にし、戦慄していた。
「ごめんね、急に突き飛ばしてしまって」
「い、いえ……あのベル様。助けて戴きありがとうございました。それと、わたしの不注意です。申し訳ございませんでした」
「いや、謝らくていい。それより、この先は『エクサダイトの地雷原』のようだよ。おそらく、ミザールの仕業」
「ベルさん。地雷の除去ならあたしにお任せ下さい。大魔法で全てを潰してみせます」
リースちゃんは、力強くそう決起すると杖を構えた。
あれ、リースちゃんってこんなに逞しかったっけな。なんていうか、フォルちゃんのように凛々しい。
そうか、わたしが思っている以上に、リースちゃんは成長していたのだ。
仲間を信じよう。
いつだって、そうしてきたように。
「リースちゃん。お願いね」
「お任せください!」
決まったところで、背後から2~3人の怪しい気配。
まったく、乙女の戦いを邪魔するんじゃない。
「ベル様?」
「サイネリア、君はリースちゃんを守るんだよ」
「え、ええ……でも、なぜ逆の方向を睨んでいらっしゃるのですの?」
「答えはこうだよ」
フォルちゃんを安全な場所に下ろして寝かせた。
それからシールドを出して、わたしは――
『エグゼキューションシールド――――!!!!』
森の奥へ向かって投げた。
「「「ギャアアアアアアアアアアアア~~~!!!」」」
仕留めた。
戦闘不能の文字が見えた。
「え……ベル様。あのあちらの方角で悲鳴が……」
「うん、倒した」
「た、倒したって……かなりの距離でしたわ」
「戦闘不能が三つ。確かだね」
「えぇ……」
驚くサイネリアだったけど、本当なのだから仕方ない。
これで残りは『32名』かな。
とにかく、ミザールの嫌がらせ地雷を破壊せねば。
でも――もう道はすぐに開ける。
「リースちゃん、がんばって!」
「し、仕方ないですわね。ベル様が応援されているのでは、わたしも応援せざるを得ないですわ。リースさん。がんばってください」
「ベルさん……サイネリアさん。……フォルちゃん。あたし、みんなの為に!!」
木々をなぎ倒す大魔法。
わたしはシールドで彼女たちを守りつつ、状況を注意深く見守った。
大魔法はエクサダイトの地雷原を次々に破壊し、大爆発を引き起こした。核にも相当するエクスプロージョンは、森の大部分をすべて吹き飛ばした――。
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