第181話 希望の星
※フォルトゥナ視点です
忘れていたことがひとつありました。
それは、黒猫です。
「リースの召喚した黒猫ちゃんを忘れていました」
「え……フォルちゃん?」
「彼か彼女か分かりませんけれど、この猫ちゃんも立派な仲間ですものね」
「フォルちゃん……ありがとう」
すっかり元気を取り戻したリースは、笑顔で笑いました。
良かった。あの黒猫が少しは、リースの気分を紛らわしてくれているようでした。しかし、あの猫はいったい……。
リースの召喚スキル『ヘルサモン』から飛び出てきたのですが――兄様のSPを全て奪うや否や目からビームを出したり、とんでもない猫ちゃんでした。
うーん……。
黒猫を観察していると、猫は怯えて引っ込んでしまいました。
「……むぅ」
「あ、あの……フォルちゃん。あたしのエコがどうかしましたか」
「いえ、なんでも」
リースは黒猫に『エコ』と名付けていた。
ネコだから? よく分かりません。
◆
森をひたすら歩いていると、生き残った貴族たちが出現。
わたくしは容赦なくスキルを彼らに向けました。
『最終奥義・覇王武光拳――――――ッ!!』
「「「うあああああああああああああああああああッ!!!!!」」」
『ホーリーグレイル!!』
リースもまた、魔法で補助をしてくれました。
ミザールは役に立ちませんでした。なんですか、あのヤブ医者。
「すげぇな嬢ちゃんたち。オイラの出番はなさそうだな」
「あなた、ずっと棒立ちしているだけでしょう。か弱い少女に全てを委ねてばかり――少しは貢献してくださいまし」
「か、か弱いって……いやいや、お嬢ちゃんたち強すぎだべ。オイラの出る幕もねえ。だから、必然的に案山子になっちまうんだべよ」
とミザールは頭をボリボリ掻きながら言いました。不潔です。
それより……兄様たちは一体どこへ。
少し気持ちが沈んでいると、リースが励ましてくれました。
「フォルちゃん、元気出して。ほら、エコちゃんですよ~♪」
黒猫の顔が接近してきました。
あら、この猫――メスなのですね。
「ありがとうございます、リース。元気が出ました」
「……フォルちゃん」
なぜかリースはエコを地面に置き、真剣な眼差しでわたくしを見つめました。
「あの、リース?」
すると、リースは両手を伸ばし、掌をわたくしの胸に――――。
「はい?」
「げ、元気だしてってば! お願いだから! さっきのこと気にしてるなら謝るから! ねえ、いつものフォルちゃんでいてよ」
だからと、わたくしの胸に触れる意味が分かりませんけれど。ですがきっと、リースなりの激励ってことですね。
「あっ、ごめんなさい! 本当は肩に手を置こうとしたのに……勢いで」
「そういうことでしたか。そうですね、いつものように――リース! わたくしの後ろに! ミザール、敵です! 防御態勢を……」
「………………」
しかし、ミザールは動かなかった。
耳が遠いのですか、まったく。
動かないミザールは放っておき、わたくしは防御態勢に――――ぐっ!
『オーロラブレイド!!』
いきなり、そんな剣技がわたくし目掛けて飛んできた。なんて速度。避けきれない――! こんな時、ミザールが――いえ、彼を頼るのは止めましょう。
彼はどこか頼りないし、兄様と別れてからというものの様子が変です。
だったら!!
『グロリアスサンクチュアリ!!』
わたくしは鉄壁の絶対聖域を展開。
なんとか敵の剣を凌ぎ切りました……。ですが、これはSP消費量の多いスキル。そう何度も使えるものではない。
「リース。わたくしから絶対に離れないこと、いいですね」
「う、うん……」
『これはすごい。ボクらの魔剣の一撃を受け止める奴がいるだなんてね』
『アルカイド、あれは聖女だよ。しかも、世にも珍しい武闘派聖女。面白いじゃないか――』
『そうだな、ベネトナシュ。殺し甲斐がありそうだぞ』
この反響するような声。
気配はひとつなのに、どうしてふたつの声が。
『こんにちは。聖女とエルフ。それと、ミザール』
「あなた……おひとりですよね。でも、違う声がしましたけれど」
『おい、アルカイド。説明してやれよ』
『そうだな、ベネトナシュ。ボクらはひとりでふたり。つまり、中に兄弟を宿しているってわけさ。声もそのせいでね』
なんて紛らわしい。
でもなるほど、あの人体に二人の意思が存在するということですね。ただのそんな単純なこと。驚くほどではありません。
「七剣星ですね」
『そうさ、ボクらは七剣星。でも、ボクらは二人。そちらの戦力も二人』
「なにをおっしゃっているのです。こちらは、ミザールを入れて三人ですよ。ですから、こっちの方が有利――――」
その時、ミザールは不敵に笑いました。
まさか……!
「クククククク…………。アハハハハハハッ!! アハハハハハハハハハハハハハハハ!! キャキャキャキャキャキャアアアアア!!」
まるで壊れた人形のように笑うミザール。
この男……最初からそのつもりで……!
「サトルも女神もいなくなった今……我ら七剣星が有利!! 残るは聖女とエルフだけ。お前たちを潰せば……星の都はドゥーベ様のモノになる!!!」
「ミザール!! あなた!!」
『よくぞ言いました、ミザール。さあ、こっちへ来なさい』
ミザールは悪魔のように笑い、アルカイド&ベネトナシュの方へ歩いて行ってしまった……。くっ……あのヤブ医者……こうなると分かっていて、わたくしたちに……絶対に許せない。
「兄様はあなたを信じていたのに!!」
「信じる~~~? アホか!! 俺は最初からず~~~~~~~~~~~~~~~~~~~と七剣星なんだよ。騙される方が悪いんだバアアアアアアアアアカ!!」
…………そうでした。
彼は七剣星の男。残忍で無慈悲で……貴族たちと一緒。
でしたら、こちらは本気でいくだけです。
『ほ~、こちらは三人だぞ。それでもやるというのか、聖女よ』
「わたくしは諦めが悪いのですよ。だから、いつだって必死で、兄様に振り向いてもらうために……全力で恋しているんですよ!!」
『フハハハ! これは面白い! 実に面白い! 聖女、貴様は生かしてやる! ただし、その両腕と両腕は斬ってやるがな――!!』
襲い掛かってくるアルカイド&ベネトナシュ――そして、ミザール。
「聖女を舐めない方がいいですよ。リース! いざとなればお願いします」
「はいっ……その時は大魔法で補助します!」
わたくしは全身全霊をかけて、いえ、すべての思いをこの手に。
「はぁぁぁああ――――!!」
『馬鹿が! 遅いわッ!!』
あの魔剣のスキル『オーロラブレイド』が接近してくる。
目で追い切れない速度で、凄まじいスピード。しかも、ミザールもおかまいなしに、突っ込んでくる。
――ですが、わたくしは何も接近戦ばかりではないのです。
『奥義――と見せかけて――!!』
「「なにィ!?」」
二人、いえ三人は驚く。
『グロリアスエクソシズム――――――!!!!!!』
本来、不死属性モンスターを浄化させる大技スキルですが、邪悪な心を持った者にも有効であり、その心が邪悪であればあるほど、効力を発揮する。
今の彼らには『純粋な邪心』しかない。
『バ、バカなぁぁぁぁああああうあああああああッ!!』
『アルカイド&ベネトナシュ! 話が違うぞおおおおおおぉぉッ!!!』
まばゆい聖なる光が森を包み込みました。
これできっと、彼らを浄化できたはず。
「――――――ぐっ」
「フォルちゃん!?」
「だ、大丈夫……です。少し無理をしすぎました……」
さすがに、大量にSPを消費するスキルを連続して使いすぎました。反動もでかく、このままでは……戦闘不能になってしまう。ですが、これであの三人は――。
『ウォォォォォ――――オーロラブレイド・改ッ!!!』
「なっ…………」
まず……首筋に…………そんな、わたくしここまでなの……。もう二度と、大好きな兄様に会えない………そんなのイヤです!!!
助けて…………兄様。
そう強く願ったとき――
鈍い音が。
何かがオーロラブレイドを弾いた……?
「え…………」
「おまたー」
「あ、あなた……どうしてここに!!」
そこには――ベルさんと……あのヘールボップ家の令嬢・サイネリアが堂々と立っていたのです。
「まったく、無様ですわね」
「……サイネリア」
「ほら、手を伸ばして」
彼女はそう笑顔で、わたくしを起こそうとしてくれました。
「ここから反撃に参りますわよ。フォル」
「あの……サイネリア」
「なんて顔していますの。せっかくの可愛い顔が台無しですわよ。ほら、あなたはいつもの堂々で、気高く、凛々しい姿が似合っていますから、立ち上がりなさい」
わたくしは、彼女の優しくて、あたたかい手を取りました。
「さあ、反撃のお時間ですわよ、フォル」
「ええ、一緒に戦ってください。サイネリア」
もう負ける気がしなかった。
いきましょうか――兄様を助けに!!
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