第172話 裏切りの裏切り
大量のフォークが雨のように降り注いでいた。
「――だったら、エクス……あれ、エクスカイザーが消えた……!」
しまった。コピー能力のタイムリミットか!!
さすがに無制限とはいかず、使えて三十分程度だった。再使用には、一時間のクールタイムが存在している。やっちまったぜ……。
「くそっ、こんな時に!!」
「あははは! 馬鹿だね、君は……串刺しになってしまえ!!」
「なんてな……!」
「なに!?」
「俺の神髄は【オートスキル】だ!! これだけフォークがあれば、発動率は100%だ! きやがれえええええええええ!!」
「データにあったやつか……だが、これだけのフォークを捌ききれるはずが……」
フォークが目と鼻の先の距離に接近した時だった。
特大サイズの『血の煉獄』が発動し、炎が一気に広がった。これだけの規模の炎は初めてかもしれない。びっくりだ。
「な、うあぁぁぁぁあッッ!!」
アリオトは驚き、宙へ飛び立った。
だが、すでに先を行っていたメサイアがヤツの背後を捉えた。
「き、貴様、いつの間に……!!」
「爆熱の垂直落下式! シャイニング・ブレーンバスター!!!!!!!」
メサイアはアリオトを持ち上げ、脳天からそのまま地面へ落下した。
「じぇじぇえばばべえええべべべべばばべべねじぇへゲゲばばばあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」
地面に巨大クレーターが出来るほどの威力だった。
女神スキルをまともに食らったアリオトは、ダウンしたのだが……。
「どういうことだ、あれで【戦闘不能】にならないのか!?」
「だったら、締め上げてやる!!」
そうメサイアは、アリオトをサソリ固めにした。
苦しそうに悶えるアリオト。
「だめか……あそこまでダメージを与えても【戦闘不能】にならんか」
「サトルさん」
「どうした、リース」
「さっき彼は言っていましたよね、人間じゃないって……つまり、人間よりもHPとか多いのかもしれないです」
「なるほど。その可能性はあるな。まるで【レイドボス】だな。厄介な」
だけど、そうと分かれば、敵のHPを削りまくるしか方法はない。
「ぐぅぅぅっぅぅ……。こ、この程度のスキルでぼくがやられるものかぁぁぁァ! ぼくは七剣星だぞ……! なめるなああああああ!」
メサイアを振り払い、アリオトは距離を取った。
「こうなりゃ、総攻撃だ! みんな、力を合わせてヤツを…………お?」
アリオトの隣に誰かがいた。
あの白衣は……巨大洞窟前にいた男か。
「うぃ~す、アリオト。な~にを遊んでいるんだべぇ」
「うわっ、ミザール! いつの間に……」
「帰りが遅いんでぇ見に来たべ~や。ほぉん、ありゃ、あんたらあの洞窟前におった~…なんつたっけなぁ。お嬢様のぉ、知り合いだったような気がしたべが」
「ああ、そうだよ。サイネリアの仲間だ。あんたはサイネリアとは知り合いじゃないのか」
「そうそう。オイラはサイネリア様の方の『ヘールボップ家』派だがやにゃ~。だから、争いごとはあんまり好きじゃないんだべよぉ。けどなぁ、七剣星のリーダー『ドゥーベ』様がしぇからしか……耳が痛いけん」
むちゃくちゃに訛るミザール。
なんか、いろいろな地方なのが混ざってないか……?
ちなみに『しぇからしか』はうるさいとかの意味だ。てか、なんで俺が解説せにゃーならん! あいつは、いきなり現れて何なんだ。
「いいから目的を言え! お前も俺たちの邪魔をするというのなら、倒す!」
「う~ん? すまんぎゃ、オイラは平和主義での。戦うのはなぁ~…。それに、サイネリア様への恩もあるしなぁ」
「なに……ミザールお前は、七剣星のクセに戦う意思がないのか!?」
「ない。オイラはむしろ、七剣星とかマグネターを何とかしたいっていうかのぉ。だから、外界に出て研究をしとったんじゃがねぇ~。星の主にして、大賢者・フォーマルハウト氏とコンタクトも取れたし、その娘も借りられたべ。これで、この星の都は変えられるはずけん。その邪魔をするというのなら、オイラは戦うよぉ~ん」
「大賢者・フォーマルハウト……どこかで聞いたことがあるような……」
「ええい、ミザール! 敵と仲良く話しているんじゃない! それに、そんな裏切り行為、ドゥーベが黙っちゃいないぞ……!」
「アリオト。オイラは、種族間闘争に興味はないんよ~。だずから、別の共存方法を模索しとったし、今もそうしているざんす。おかげでぇ、オイラは人間の素晴らしさを知ったぜよ。マグネターは所詮、怪物であり、モンスターにもなれなかった悲しき怪人よぉ」
「ミザール……き、貴様ァ!!」
噴火するように激昂するアリオト。それも当然だろう。あそこまでボロクソに言われ、しかも価値観の相違まで。こりゃ決裂だろう。
「俺から話がある、ミザール」
「言うてみ」
「俺と手を組め! その大賢者にも覚えがあるし、不思議とその娘とも縁があるような気がしている。あんたはまともそうだからな、話が分かりそうだ。どうだ!」
「いいだろう。お主……サトルとか言うたか。サイネリアお嬢様を最後まで信じておったからな。うむ、オイラは今をもって、七剣星を脱退する。アリオト、世話になったな」
「な…………なななな! ミザアアアアアアアアアル!!!」
わなわなと震えるアリオトは、怒りを爆発させ――
「どいつもこいつも、死ねええええええええ!!」
巨大フォークとスプーンとナイフをブン投げた。
それが猛烈な勢いで接近してくる。
「ミザール!」
「大丈夫じゃ。サトル、お主はそこにおれ」
そうして、ミザールは両手を広げた。
「――――――ふんっ!!!!!!!!!」
すると、ミザールは食卓用・カトラリーをすべてボディで受け止めていた。――なっ……なんだそれ!! ミザールの体は鋼……いや、それ以上か!? なんて強靭な肉体なんだ。
「我がボディは、全身が『エクサダイト』で出来ているのだ!!」
ミザールは構え、地響きを鳴らしながら突進していく。
「食らうが良い……我が必殺のスキル――!」
あんなジャンプして……なんて跳躍力だ。
そして、腕を膨張――いや、巨大化させると。
『エクサハンドクラッシャー――――――――――!!!!!』
「ぶうぅぅぅぅぅあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?!?!?」
アリオトを叩きのめしていた。
「……ちょ…………うそだろ」
「サトル、あの白衣、やばすぎよ」
ドン引きのメサイア。
「あ……兄様、アレが敵でなくてよかったですね……」
本当だよ。
「でも、全身がエクサダイトって……危険なのでは。ほら、爆発とか」
リースの懸念通り、アリオトは更に爆発に巻き込まれてしまった。
そりゃー爆発するよね、エクサダイトだし。
「か……は……」
ついにアリオトは【戦闘不能】になり、消え去った。
「お……おぉ、あのアリオトを倒しちまった。ミザール、あんたすげぇよ。でも、今は近寄らないでくれ、爆発するから」
「分かっておる。すぐ解除するで、大丈夫やね。ほら」
しゅるっと元に戻るミザール。
頼もしいっていうか、なんていうか……味方にできて良かった。
けど、ミザール並みの七剣星がいるってことだよな。
アリオトの体力馬鹿には驚かされたけど。
「まぁ、アリオトは七剣星の中では最弱じゃった。けどな、ヤツ以外はそうはいかんのう。なかなか手ごわいべぇ」
「なあ、ミザール。教えてくれ、なぜ、貴族たちはエルフを奴隷にしている。なぜ、七剣星なんて守護者がいる。マグネターってなんだよ」
「いいじゃろう。どうせ夜になるけん。話したるべぇ。しっかし、安全なところがあるかどうか……」
安心して野宿できる場所……そんなところがあるのか。
「分かった。休める場所が欲しいのよね」
察したメサイアは、まさかの提案をした。
おいおい……まじかよ。
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