第171話 七剣星
バトルロイヤルはまだ続いている。
今もなお、どこかで激しいバトルが繰り広げられているはずだ。いや、血みどろの戦いかもしれない。裏ではもっと恐ろしいことになっているかもしれない。
こんな悪夢はさっさと覚まさねば。
「メサイア、リースは帰れ。戦闘不能になれば強制帰還になるから」
「いやよ。わたしはずっとサトルの傍にいるの。もう、あんな目に合うのは二度と御免よ」
そうメサイアは頑固に反論した。
それから、スキル『ホワイト』の白い空間から服を取り出すと着替えはじめた。予備があったんだな。リースもまた服をもらい、いつもの服装に戻っていた。
「あたしもメサイアさんに同感です。もう……怖い思いはしたくありません」
「そうだな……分かった。二人ともついてきてくれ。ただし、戦闘不能になった場合はすぐに逃げるんだぞ」
「うん」「分かりました」
二人とも納得してくれた。
さて……残るは『七剣星』ってところか。
つか、人数もあと何人だよ。
そこで、俺は耳を傾けてみることにした。
すると――司会の実況が聞こえ始めた。なるほどな。
『ただいまの生存人数――『194名』です!!
もう100名以上が脱落……中には殺人を犯した者もおります。いいですか、皆さん! 殺人行為は認められておりません!!』
「なっ……もうそんなに減ったのか。しかも、殺人もあったのかよ。物騒だな」
「兄様、ノヴァのようなヤツ……マグネターも混じっているのかもしれませんよ」
「そうだな、その線はある。なにより、七剣星……俺たちはちょっと会って、ちょっと戦ったくらいだ。ヤツら全員の実力とかまるで分からん」
それに――マックノート家の戦力もまったくの不明。
「サトル、とにかく敵を減らすの。今はそれしかない」
「……そうだな、メサイア。お前の言うとおりだ。……と、ところで、ケガとか本当に大丈夫か?」
俺はメサイアの体中を調べた。
「ば、ばか……そんなジロジロ見んな。大丈夫よ。フォルがヒールしてくれたし」
「ヘンなこともされなかったよな!?」
「ヘ、ヘンなことって……まぁ服は剥かれたけど、それ以上はなかったわ」
「でも心配だ。ちょっと触らせろ!」
「う……ちょっと、ベタベタ触らないでよもう……って、そこは触んな!」
チョップで頭を瓦割りの如し威力で叩かれた。
「ぶほっ……! いってえええエエエ!」
「ばかばかばか! 胸とか触んな!」
「あ、兄様……! どうして、わたくしには姉様のようにしてくださらないのですかー! わたくしのことは、いつでもどのように好きなところを触って戴いても構いませんのにー! むきー!!」
「だまれヘンタイ聖女」
「そんなぁ、ごむたいなぁ」
「サ、サトルさん。あたしも見てください!」
すっとリースが入ってきた。
「よーし、では隅々まで……」
診察しようかと思ったら、メサイアにこめかみを破壊されそうになったので、ストップした。危うく頭が弾け飛ぶところだったぜ……。
いやだが、さっきのチョップでかなり目が覚めた。
「戦闘を続行する。みんな、俺に力を貸してくれっ!」
「もちろんよ、サトル。いつだってそうだったでしょう」
「わたくしは兄様のためなら、なんだって出来ますから」
「エルフたちを解放するために、優勝をしましょう」
みんなの気持ちは一緒だ。
さあ、向かおう。
◆
時は夕刻。
広大な森を歩いていくと、何人かの参加者を発見した。……よし、一気に倒してやろうと思ったのだが。
「む、すでに戦闘中か……」
俺たちは存在がバレないよう、茂みからその様子を伺うことにした。
「しかも、一方的にやられているじゃないか」
「サトル、あの暴れまわってるの、かなり強いわ」
メサイアが横から顔を出す。
「兄様、あのお強い方、貴族ではなさそうですよ。七剣星では」
フォルは俺の上に。って、乗るな!
「サトルさん。なんだか嫌な予感がします。しかも、あのスキルは見たことがありません」
確かに、リースの言う通り青年は、今までにないタイプのスキルを武器に付与させていた。そもそも、武器も特殊な形状をしていた。
「……フォーク。でかいフォークだ」
巨大なフォークに貴族たちは翻弄され、駆逐されていった。
次々に【戦闘不能】が出て、あっという間に10人は減っただろう。
そうして、森には静寂が戻った。
「…………」
青年は息も乱さず、フォークをこちらに――しまった。
バレてばれてやがったか!!
「みんな、俺の後ろにいろ――――!!」
茂みから出て、俺はエクスカイザーで、猛接近するフォークを叩き落とした。
「っらああああああああッ!!!」
「へえ、ぼくのフォークを弾いた者ははじめて見た。だが、フォークだけとは限らない」
「なに!?」
空から気配……!
俺はすぐさま駆けて、ソレを回避した。
『ドドドドドド――――――!!』
なんて地面にソレが突き刺さった。
「巨大なスプーンだと!!」
「そう、フォークといえばスプーンだ。そして、極めつけは……スターロードナイフ!」
そう青年は叫ぶと、今度は地面から『ナイフ』が飛び出てきた。
「あっぶねええ!!」
辛うじて回避。
けっこうスレスレだった。あと数ミリ近かったら切り刻まれていたことだろう。
「はじめまして、サトル。ぼくは七剣星のひとり――アリオト。君が来るのをずっと待っていた」
「なっ……七剣星だと!」
「そう、君の情報はすでに我らに全て共有されている。つまり、君の名前、特徴、能力などあらゆるステータスは把握済み。こちらは有利ってことさ」
「それがどうした! その程度で俺に勝てると思っているのか!」
「うん、そうだね。君には勝てないかもしれない。けどさ、お仲間はどうかな……スターロードフォーク、スターロードスプーン、スターロードナイフ!!」
三つの武器が宙を自由自在に動き回り、メサイアたち目掛けて飛んでいく。……まず、あんな三つ同時とか……!
しかもバラバラに飛翔して、俺を翻弄するかのようにメチャクチャに動いてやがる。あれでは、撃ち落とせても精々ひとつ。
「メサイア!!」
「サトル、大丈夫よ。私たちを信じて!!」
ニカッと笑うメサイアの顔は自信に満ちていた。
「100人の貴族に襲われたときはね、めちゃくちゃ強い七剣星に一方的にやられたけど、今は状況が違うわ。みんないるから……!」
『エーヴィヒ ヴィーダーケーレン!』
白くなるメサイア。あれは、あの光は……!
さらに、
『ダークコメット!』
リースも大魔法を放った。
宙を舞うフォルは――
『覇王轟翔波!!』
その反撃でフォーク、スプーン、ナイフを打ち返した。
「よし!! ナイス!」
「へえ、やるねえ。正直、少しだけ驚いたよ。けどね、これがぼくの全力だと思うかい? 言っておくけど、本気なんてまだ出してもいない」
「なっ、なんだって!?」
「本当の戦いはこれからさ。
そうそう、言い忘れてた……君たちは殺しを禁止されているよね。けれどね、ぼくたち七剣星はプレイヤーキルが許されているんだよ。これは、裏ルールでね。とはいえ、そんな大胆に出来る行為でもないから、さっきは貴族共を【戦闘不能】にしてやったけどね。
それでこの裏ルールの種明かしなんだけどね、そもそも、七剣星は人間じゃないし、選ばれし『星の民』なんだよ。まあ……中にはマグネターに魂を売ったヤツもいるみたいだけどね」
マグネターに魂を売ったやつ……?
まさか、マグネターはそんなところにまで。いや、逆だ。七剣星の誰かがマグネターの親玉と繋がっているんだ。それで、貴族に入りこんでいたりしたんだ。
「ああ、もうなに聞いても驚かなくなってきてぜ。でもな、一番許せんのが、人を見下すその目だ」
「いや、この目はそれではない。ぼくたち、七剣星が一番許せないのは『聖者』でね。君のような男はとくに嫌いだよ!!」
そうアリオトは通常サイズのフォークを百個……いや、千個は生成して、それを弾丸のように一斉に放ってきた。
「なんて数だ!!」
だったら俺は――!!
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