第169話 皇帝の剣
光が晴れると、森がごっそり抜かれたような荒野になっていた。しかし、魔法が掛かった森はすぐに生い茂ると、元の森に戻った。それも一瞬で。
森が元に戻ったことにも驚いたが、それよりもっと驚くべきことに……サイネリアは片膝を地につけていた。あのフォルの最終奥義をまともに食らい、大ダメージを受けて満身創痍。ドレスが破れてはだけ、半裸状態だった。
滲むような出血も痛々しい……
でも、それでもまだ動こうとしていた。
なんてヤツだ……! ド根性っていうか、もう気合で立っているようなものだ。あれ以上は、死ぬだろう。てか、なんで【戦闘不能】の文字が出ない!?
「……わたしはまだ戦えますわ」
「あなたの防御力には感服いたしました。まるでベルさんのようなシールド力です。ええ、認めましょう……サイネリア」
フォルは、はじめて彼女の名を口にした。
「ですが――これは決闘。最後まで果たしあうのが礼儀! なれば、わたくしは全力でこの最終奥義Ⅱを――」
「って、まてー!! まてまて、フォル。さっきのが最終奥義じゃなかったのかよー!?」
「兄様。邪魔をしないで戴きたいのです」
「いやいや。フォルよ、奥義いくつあんだよ!」
「わたくしの奥義は『101』あるのですよ。最終奥義は『30』ほど。ですから、いきますよー!!」
俺はフォルを全力で止めた。
「ひゃぁ……!? あ、兄様……ななななな何を……どうして、そんなイヤらしい手つきで、わたくしの腹筋を触れられるのですかー!?」
「いつものおかえしだ。それに、サイネリアはもうボロボロだ。お前の勝ちだよ」
「いえ、ですが……礼儀をもってきちんと決着を」
「いや、残念だけど……ここまでだな」
「どうしてですか!」
「どうしても何も、モンスターに囲まれてるからな」
「え、モンスターですか」
さっきの騒動を嗅ぎつけてきたのか――モンスターがわらわらやってきやがった。あれは見覚えのある獣人だなあ。
「あれは……マグネター!」
「ああ、なぜか知らんが集まってきたな。フォルはサイネリアを助けるんだ。俺はマグネターを倒す」
「サイネリアならここに」
「はやっ! もう救出したのかよ」
悲痛の面持ちのサイネリアは、やはり深手を負っていた。
フォルの奥義はきちんと効いていたのだ。
「…………残念ですが、わたしの負けですわ……。認めます、敗北を。あなたはお強いのですね、聖女さま。いえ、フォルトゥナ様」
「そんな改まらないでください。わたくしのことは『フォル』と呼び捨てで構いません。それと、これはおまけです。――グロリアスヒール!」
フォルは、サイネリアを回復させた。
「……こ、これは。すごい体力が回復していきますわ。それに全身の傷も癒えて……なんて不思議な。これが聖女の力」
目をパチクリさせて、驚くサイネリアはすっかり立てるようになった。
「二人とも、ここは俺に任せておけ」
フォルとサイネリアを庇うようにして、俺は前へ。
「あ~…なんだ、マグネットだっけ。まあ、なんでもいいや。お前ら、喋れるんだっけ?」
「…………」
返答なし。殺意あり。
おっかしいなぁ……この大会は、殺人禁止のはずだけどなぁ。
モンスター扱いだから関係ないか。
「抹殺する」
そうマグネターのひとりがつぶやいた。
それがまるで合図であったかのように、数えきれないほどのマグネターは俺の方へ向かってきた。
「くくく……」
「え、兄様。いきなり笑って、どうしたんです!?」
「くくくくく……ふふふふふ、ははははははふはははははは!!!」
「サ……サトル。あなた、不気味ですわよ!?」
二人ともドン引きしているが、んなこたぁ些細な問題だ。
俺は自分が恐ろしいよ。
「コピースキル・『イミテーション』発動!!」
これは、あらゆるスキルをコピーできる能力である。
しかも驚くべきことに、過去のスキルを記憶したままだった。一度リセットがあったのに。でもどうやら、膨大なSPと引き換えに、ソレが使えてしまうようだ。
そう……『死神王の邪眼』でアレを見てからは、そのままになっていたようだ。たぶんこれは邪眼の力だろう。
「まさか、このスキルを使うことになろうとはな……こい!!!」
俺の右手に『剣』が生成された。
『世界終焉剣・エクスカイザー!!』
「あ、兄様……それってあの……」
「そうだ、これはかつて聖地を滅ぼそうとしたジジイの剣! 俺はそれを見たんだ……だから使えてしまう!! くらええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
剣を構え、俺は振りかぶった。
『エクスカイザーァァァァァ――――!!!!!!!』
邪悪な力がマグネターたちを襲い、一瞬で塵にした。
またも森は吹き飛び、木々は消え、荒野になった。
「ふぅ、いっちょあがり」
「……あ、兄様……やりすぎです」
「なんて剣ですの……星の都をメチャメチャにする気ですの!?」
「大丈夫だ。ここは魔法の森だし、なんとかなるだろ。多分!」
二人は呆れていたけど、諦めがついたようだ。
それから、フォルとサイネリアは見つめ合い――
固い握手を交わしていた。
「……とても良い試合でしたわ」
「こちらこそ、また戦って戴けますか」
「そうですわね、また機会があれば――――うっ!?」
そこでサイネリアは何かに穿たれ、地面に倒れた。
「サ、サイネリア……!」
【戦闘不能】
その文字が現れ、サイネリアは退場になった。
「……こ、これは一体どういうことでしょうか、兄様」
「くっ、フォル。俺から離れるな!!」
俺は敵の攻撃からフォルを守った。
「きゃぁ!?」
森の奥から攻撃が……くそ、卑怯な。つか、誰だよ。
「そろそろ出てきたらどうだ!!」
そう俺が威嚇すると、森の奥からは――
「やあ、探したよ、愚民。あんな派手にドカドカ戦ってくれりゃあ、なんとなくこの場所だと推測できたよ。おかげで発見できた……。
あぁ、そうそう、さっきの『マグネター』はどうだった?」
あの奴隷連呼少年――ノヴァだった。
「てめぇか!! てめぇがマグネターを……しかも、サイネリアをやりやがったな」
「ぼけっと突っ立っているからだ。これは『バトルロイヤル』だぞ? 卑怯もクソもあるか!! ま……そんなことよりだ。僕たちも決着をつけようじゃないか」
ニタリと笑うノヴァ。不気味な奴め。
いいぜ、世界終焉剣・エクスカイザーで一瞬で決めて――――
まて。
森の奥から、もうひとりやってくる。
「やっと来たか。遅かったな……」
「申し訳ありません。何分、迷いやすい森なので……」
ノヴァの隣に……そいつは現れた。
「おまえ…………どうして、そいつ側についているんだよ!!!」
「……ワシはもとから『ハレー家』じゃけぇ! 悪いな、サトル。お前を裏切らせてもらう……お前のデータは全て、ハレー家で共有させてもらっておるからな、そう簡単には勝てんぞ」
そう『ああああ』は俺の前に立ち、剣を構えた。
「…………馬鹿野郎!!!」
「叫んでも無駄じゃ。そうさ、これは宿命だったんじゃ……ワシとお前の」
「なにが宿命だ!! 俺はお前を信じていたのに!!」
「知るか!! まあ、だが……確かに恩はある……サトル、お前のおかげで、ワシはここまでこれた。お前との出会いがなければ、今頃はただの勇者だったろう。けどな、ワシにも守らなきゃならんもんがある」
「それはなんだ」
「家族じゃ……! 父に母に、弟六人……そこに爺さんと婆さんもいれてやっていい! あと飼い犬のポチもじゃ!! あと猫のタマもじゃ!!」
「いや、犬と猫はいらんだろ」
「うるせえ!! ワシの大事な家族にケチをつけるってーのか!!」
「いや、ケチをつけるとしたら、そりゃお前だ。お前には文句を山ほど言ってやりたい。だからな……俺はお前を倒す!!!」
「くくっ……やれるもんなら、やってみな。いいぞ~好きにしたらいい。これを見てもそんな威勢を張れるかのぅ」
――そう、ああああは指を鳴らした。
また森の奥から……今度は……?
「………………」
その顔を見て、俺は……口から心臓が飛び出そうになった。
……なぜ。
なぜこんなところに……
「メサイア!!! リース!!!」
「ククククク……クハハハハハハハハハハ!!! サトル、今の気持ちをお聞かせ願おうかのう……」
俺は……ああああの言葉が耳に入らなかった……。
メサイアとリースが人質にされている。
しかも……あんなズタボロで……下着姿で……。傷だらけで……。
「…………そんな、ひどい。姉様もリースもどうして!!」
フォルがそう叫んだ。
…………これが貴族共のやり方か。
「さあ……サトルよ、お前の選択肢はひとつだけ。我がノヴァ様の軍門に下れ。そして、絶対的な忠誠を誓え。そうしたら人質は解放してやろう」
「うるせぇよ……」
「なんだと? 人質の命が惜しくはないのか」
「てめぇは俺を本気で怒らせた……よりによって、俺の大切な仲間を! 傷をつけやがったなああああああああああああァァァァ!!!!!!」
俺に力を貸しやがれ、世界終焉剣!!!
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