第162話 盟友との再会
日が暮れてしまった。
星の都はあまりに広く、歩いて観光には時間が掛かり過ぎた。また明日とも考えたけど、次の日は、星の決闘大会『コメット』がある。
今日はもう宿を取って、明日に備えようと思った。
だが、トラブルってヤツはこちらの事などお構いなしにやってくる。まったく、空気を読んでほしいものだね。
「きゃあ!?」
後方を歩いていたフォルが、何者かによって人質に取られていた。
「……フォル!」
「お~っと、動くなよ。余所者。すべては『ハレー家』のノヴァ様の為なのだ」
「ノヴァ様~? 誰だそれ」
「誰だそれではない! 決闘を提案した偉大なお方だ」
「ああ!」
あの横柄な奴隷連呼少年か。俺の仲間を奪おうとしている。
そんな無駄にカッコイイ名前だったのか。
でも、そんなことはどうでもいいな。
「フォルを放せ」
「放せだぁ~~~? この状況分かってんのかよ!」
男はフォルの喉元にナイフを突きつけた。
ちなみに仲間もいたようで、全部で三人いた。
「コイツを殺すぞ」
「どうして欲しいんだよ」
「ほう、案外素直だな。オイ」
ヤツは仲間に指示する。
すると、二人もまた同じようにメサイアとリースを人質に。
「きゃ……サトル!」
「サトルさん!」
残ったはベルだった。
「あらら、わたしは明日の優勝賞品だしそうなるか」
あはは~と乾き気味に笑うベル。
いや、笑っている場合ではないだろう。
「兄様、わたくし怖いです! 助けてくださいまし~!」
その割になんだか楽しそうだな、お前。
ていうか、顔が笑ってやがる! まあ、助けるけどさ。
「よし、こうしよう。まずフォルを人質にしたお前、名前は?」
「あん!? 俺は『子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥ノ助』ってモンだ」
「は…………なんだって?」
「なんだ、聞こえなかったか。
俺の名は『子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥ノ助』だ! 長いので『干支ノ助』でいい」
干支ノ助……
ヤツは一文字も噛まずにそう名乗った。
あまりに衝撃的すぎる名前に、俺は――――
「ぷ……ぷぷっ」
思わず吹いてしまった。
「き、貴様ァ!! 俺の名を笑うか!! この女の心臓を抉り出したろか!?」
「すまんすまん。予想外だったからさ、あとの二人は?」
「オレは『セイザ』だ!」
「オレは『ブラッド』だ!」
――つまり、『干支』、『星座』、『血液型』トリオってことか。
「ま、とにかくだ。まず、星座と血液ヤロウには退場してもらうぜ」
「なんだと!?」
俺は既に【オートスキル】を発動していた。
『ヒドゥンクレバス――!!』
奴らの足元からカチコチ凍り始めていた。
「うわ、なんだこりゃァ!?」
「オ、オレの足が体がああああああああああ……」
メサイアとリースを人質に取っていた二人は凍結した。
「サトル! 助かったわ!!」
「こ、怖かったです、サトルさぁん!」
よし、これで残るは……あの干支ノ助だけか。
「ば、ばかな……セイザ、ブラッド……なぜ勝手に凍ってしまったんだ!? なんの魔法だ!? こんなスキルは見たことがない……」
ガクガクブルブルと震え始める干支ノ助。
はじめて見る現象に戦慄していた。って、おい、そんな震えられると手元が狂ってフォルが傷つくだろうが。その時は殺す。
「あ……兄様。この人、怖いです」
「ああ、待ってろ。すぐ助ける」
「さ、させるか!!」
干支ノ助はフォルを腕で強く掴まえ、少しずつ後退していた。
「まて、干支ノ助。チャンスをやる」
「……チャ、チャンスだと? 言ってみろ」
「氷漬けにされたくなければ、俺と手を組め。この星の都の貴族について全部教えるんだ……そうしたら、お前は凍らなくて済むぞ」
「そ、そんなこと出来るか! 俺にハレー家を裏切れというのか!?」
「そうだ」
「そうだじゃねえええええええッ!!!」
そうして、しばらく睨み合いが続いた。
フォル、すまない……もうしばらくはそのままで――ん?
「お~い、干支ノ助。そろそろ聖地へ行くぞ――――お? なんだこの騒ぎ……なにをやっているんだお前は」
なんか現れていた。
いや…………ちょっとまて。
あの闖入してきた第三者の顔は見覚えがあるぞ。
もしかして。
「あ! その勇者っぽい格好、お前はまさか……」
「んぁ? なんだ初対面にそんなフレンドリーに話しかけられる覚えは…………いや、フレンドだったわ。お前、こんなところで何やってんだよ、サトル」
「これはこっちのセリフだぞ! べべべべ!」
「ちがあああああああう! ワシは『ああああ』だっつーの!!」
「そうだよ! ボボボボだ!」
「もういいよ、そのボボボボでええわ」
「久しぶりだな、ああああ」
「おい、やっぱりわざとかサトル。まあいい、元気そうで何よりだ。ていうか、なんだ干支ノ助と知り合いだったか?」
俺と干支ノ助を見比べる、ああああ。
「んや、この状況を察してくれよ」
「ふむ……」
と、ああああは理解したようで、干支ノ助のところまで猛ダッシュするや――グーで思いっきり殴り飛ばしていた。
「ひでっべばばばばあぶぅ!!!!!」
あまりの威力に家の壁に激突して、頭から地面に落ちた。
うわ、ありゃヤベーぞ。脳震盪じゃすまないぞ。
「なにしとんじゃボケ!! 干支ノ助、お前をそのように教育した覚えはないじゃろうが!!」
「………………が、あ」
あんな容赦ない鉄拳制裁を与えたら、さすがにすぐには起き上がれないだろう。すげぇ振りかぶっていたし。
「サトル、お前さんの大切な仲間に大変な迷惑をお掛けした。愚弟の代わりに詫びさせてくれい」
と、ああああは額を地面に擦りつけて土下座した。
「……みんな、いいよな」
人質に取られていたメサイアたちは頷いた。
「ああああさんは悪くないわ。ほら、顔をあげて」
メサイアは彼を許し、立ち上がらせた。
「本当にすまん。ワシがいながらこのような……」
「いや、そりゃいいんだが、なぜこんなところに」
「ワシはもともとこの都の出身じゃけぇ。けどな、この都の貴族どもは腐ってやがる。腐敗臭を漂わせているゴミじゃ。
嫌気がさしたワシは、仲間と共にレイドボス討伐へ出たんよ。それからは分かるな」
「そういうことだったか。そや、愚弟って言っていたな」
「ああ、干支ノ助は弟だ」
「まじ!? あれ――でも『ずずずず』と『めめめめ』は?」
「ちゃう。『いいいい』と『うううう』な。あいつらもワシの弟じゃ。ワシらは七兄弟でな。まあ、いずれ紹介することもあろうて。とにかく、今は干支ノ助だ」
俺たちは詳しい事情を聞くことにした。
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