第158話 死神王の邪眼
足の裏にマメが出来そうなほど歩き続けた。
迷路はグルグル永遠に続き、まるで無限ループしているようにも思えてきた。あと最悪なことに、同じ岩ばかりという何の変化もない光景が続いているので、ストレスマッハだった。
「出口はどこだよ、サイネリア」
「おかしいですわね。いつもはこの道で合っていたはずなのに……辿り着けませんわ。どうなっているの……」
「俺は全裸だし、早く服が欲しいんだけどね。このままだと風邪を引く。てか、本当に『星の都』に繋がってるのかこの洞窟」
などとウンザリしていると、
「サイなんとかさんは、実は方向音痴なのではありませんかぁ?」
とまぁフォルは噛みついた。おい、コラ。
「なんですって……」
プチーンとキレるサイネリアさん。
あぁ……せっかく平和になっていたんだがな。
こりゃまたバチバチバトルかと頭を痛めていたが――。
「……ふんっ。もういいですわ」
なんと、サイネリアは自信喪失っぽい表情でその場に座り込んだ。
「おいおい、諦めるなよ」
「いいえ、諦めてはいませんわ。ですが、こうなることは分かっていたのです」
「なに? どういうことだ……」
「ほら、メサイアさんたちが忽然と消えてしまったでしょう。その時からこの洞窟はおかしかったのですわ。おそらく『マグネター』の仕業。あの者たちは、わたしたちが洞窟に入るのを狙っていたのかもしれませんわね」
なるほど。
あの霊山の時からしつこかったもんな。俺たちは見事にヤツ等の罠に掛かってしまったのかも。つまり、ここは鳥籠の中ってワケか。
「だからって、無抵抗のまま終わるお前じゃないだろう」
「当然です。マグネターがこの空間を歪ませているのだとしたら、それをどうにかすればいいだけのこと。ほら、こう仮説を立ててみれば、なんとも単純明快な話ですわね」
「んな適当な。ま、それが本当かどうかさておき、案外、理には適っているかもな。なあ、フォルはどう思う?」
「え……?」
驚くフォルは、髪をツーサイドアップに整えようとしていた。
「なにやってんだ……フォル」
「こ、これは……な……ななななんでもないのですよ、兄様……」
俺に気づかれて、恥ずかしそうに髪を戻す。
……って、まさかサイネリアの真似? ウソだろ……そこまで対抗意識燃やしてんのかよ。可愛いなオイ。……この聖女、お持ち帰りしたい。
「な、なんでもないですから……! そんな、わたくしの顔をジロジロ見ないでください……恥ずかしいです……」
「いや、ジロジロっていうか……む、フォル。ちょっと動くな」
「はい!?」
フォルの肩に『クモ』らしき小型モンスターが忍び寄っていた。……げ、ありゃ【超猛毒】の状態異常を吐き出すヤツだぞ!
俺はそれを摘まみ取り、宙に投げて【ニトロ】で爆散した。
「わっ……あ、兄様、いきなり何を!」
「クモだ」
「クモ!?」
気持ち悪いと怯えるフォルは、俺に激しくしがみつく。せっかくの聖なる感触だが、感覚を研ぎ澄ませて味わっている余裕はなさそうだ。
「くそ……。ワラワラと大量に出てきやがったな」
「そ、そのサトル……わたしはク、クモは大の苦手ですの……ですので」
「へ」
サイネリアも俺にしがみついてきた。
「――って、これじゃ身動きが取れないじゃないか!! 天国で嬉しいけれど……! くそ、もっとクモ出てこい!!」
史上最高にラッキーだが、参ったな。こうフォルとサイネリアに抱きつかれてしまっては……まあいいか、こんなチャンスをくれたクモ共に祝福を!
――なわけあるかあああああああああああ!!
「仕方ねえ……。おい、フォルとサイネリア、目を閉じとけ。絶対に開けるなよ。いいか、絶対だぞ。大事なことなのでもう一度言う。絶対だぞ」
「え……はい、兄様。でも、一体なにをされる気なのですか?」
「顔が怖いですわよ、サトル」
「いいから。ああもう、じれったい。俺の手で目隠しする」
俺はフォルとサイネリアの目を手で覆った。
「~~~~すぅ…………。さて、これを使う時がくるとはな」
『死神王の邪眼』
開眼発動すると、赤黒い波動が広がるや、数千以上はいるクモを一括で蒸発させた。シュボボボッと煙をあげていくクモの存在は、一切合切消え去った。見事に全滅した。自分で言うのもなんだが、ここまでの激ヤバ破壊力だったとはな、目ん玉飛び出るほど驚きである。
「もういいぞ」
「え、はい……えぇ!? あの大量のクモはどこへ?」
「倒した」
「た、倒したって……兄様なにをなされたのですか!?」
「そりゃ……クモを目で殺したっていうか」
「目で!? あ……もしかして『邪眼』ですか!? あの時の……」
そう、俺はコンスタンティンとの最終決戦で両目を失った。
だけど、ガチャで奇跡的に手に入れた【封印されし者の邪眼】を自分の目に押し込み、視界を復活させていた。それがまさか『死神王の邪眼』だったとは思いもしなかったワケだが――そんなこんなで今も尚、俺の目はそのままだった。
「サ、サトル……あなたにそんな魔眼の力があっただなんて」
「んや、これは邪眼だ。……どうした、俺が怖いか、サイネリア」
「いえ、もっと魅力的に感じましたわ。なんて素敵な殿方。あなたなら、きっと星に願いを……」
「ん? 星に願い?」
「……なんでもありませんわ。それより、メサイアさんたちを探すのと、出口も探さなければなりませんわね。なにか手立ては……」
「それなんだけどね、うん」
「うんって、サトル、何を勝手に納得しているのです?」
「うん。うんうん。分かった。そっちへ行けばいいんだな」
「あの……サトル。ひとりで何をブツブツと?」
「悪いなサイネリア。ちょっとリースから連絡が入っていたから」
「え、リースさんから?」
ハテナとなるサイネリア。
そや、説明していなかったな。
「実はな俺とリースは――」
テレパシーのことを話そうと思ったら、フォルが肘で突いてきた。
……そっか。
「兄様。それはいいですから、リースはなんと?」
「出口前にいるってさ。さあ、行こう」
「そうなんですね。じゃあ参りましょうか」
「え……サトル、あなた……なぜ」
サイネリアは困惑する。そうだろうな。
ま……俺たち、ただ霊山に遊びに来たわけじゃないからな。
物見遊山なんてしとる場合じゃないっつーの。
また世界が危機に陥っているとかさ。
神王も本当、面倒なミッションを押し付けてくれたものだ。
面倒臭いけど、更に面倒なことになるくらいなら……いいさ、また世界を救ってやる。なあ、そうだろう――メサイア。
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