第155話 エルフの愛の魔法
突然現れた怪人『マグネター』は天然温泉の方へ走り去った。
あの方向にはメサイアたちが……!!
全裸で湯に浸かっているんだぞ!!
俺はそうはさせまいと、全力疾走でヤツ等を追いかけた。
「うおおおおおおおおおお!!」
……よし、もう後姿が見えたぞ。
ここは『聖槍』で――――
聖槍で…………。
あれ、発動しない。なにも出てこない。
『聖槍・アンティオキア』は?
『聖槍・アルメニア』は?
出てこねええええええええええ!!!
「だったら、パニッシャートライデントだ……出てこい!!」
『し~~~ん』
なーーーんも出なかった。
けど、【ダークニトロ】は出る。仕方ない、ヤツ等に接近してお見舞いしてやる。と、俺は更に加速し、距離を詰めた。
――が、天然温泉に到着してしまった。
「あ……」
「「「え……」」」
すっぽんぽんのメサイアは、俺をバケモノでも見るような顔で見てきた。
リースは温泉にプカプカ浮いて気持ちよさそうにしていた。あと、ベルは生まれたままの姿で体操というか……ブリッジ状態でこっちを見ていた。
なんつー格好してんだ!
「うーん、壮観! じゃ、ない! メサイア、この怪人共は新たな敵だ……倒すぞ!」
「そ、そうなんだ。けど……あんた、わたしの裸を凝視しすぎよヘンタイ!」
棒立ちしていたメサイアは恥ずかしがり、温泉へ潜った。
すると、顔半分だけは出し、俺を百万年分くらいの恨みを篭めて睨んできた。不倶戴天だね。
「理くん。わたしはちょっと動けそうにないんだよね~。ほら、ブリッジしてるし」
「ベル。そんなカッコウで恥ずかしくないのか」
「ん~? 別に。子供の頃はよく一緒にお風呂に入っていたじゃない」
「それは子供の頃だ! いつの記憶だよ。――って、リースはなんで裸のまま抱きついてくるんだよおおお」
「サトルさん、一緒にお風呂入りませんか♪」
「いや、それは大変、魅力的な提案だけど『マグネター』をなんとかしないと……」
「まぐねたー? ああ、あの変な人たち。……サトルさん、あたしを支えていてくれませんか。はい、こう手を腰に回して戴いて。それで結構です」
俺はリースの腰を手で支えることになった。しかも、ぴったりくっついてくるし、俺で裸を隠しているつもりらしい。てか、非常に生々しい。
……てか、俺……鼻血が。ぐぅ!
常人ならとっくに出血多量で死亡していることだろう。
だが俺は、これまでに培った女体耐性が尋常じゃないほどに鍛え上げられているため、なんとかぶっ倒れずに済んでいた。
……いや、ギリギリだったかもしれん。
スキル『血の煉獄』の役には立つけどな!
――で、リースは空いっぱいにレインボー魔方陣をスーパー展開。
謎の言語を超高速詠唱し、魔法スキルを次々に発動していった。
『求愛のプロミネンス! 慈愛のエターナルフロスト! 最愛のダークサイクロン! 愛情のダイアストロフィズム!』
いろいろ混じった愛の魔法は暴風雨となり、『マグネター』軍団を森の奥へと吹き飛ばした。
――あれじゃ、きっと灰燼となったな。
怪人だけに。
てか、リースの愛が重いぞ……!
「ナイスゥ! ジージー、リース」
「いえいえ、これくらい。でも、もっと褒めてください♪ もれなく、サトルさんへの好感度、限界突破しますから♡」
ちなみに『ジージー』ってのは『Good Game』の略で、『いい試合だった』とか『お疲れ様』の意味だ。そうやって褒めていると、俺の胸に顔を埋めてくるリース。
そんなにされては期待に応えるしかないだろう。
俺は、リースの頭を撫でつつも、お姫様抱っこした。
「リース。そのままは風邪を引く。温泉に入るんだ」
「分かりました。でもずっとこのままでもいいです♡」
リースは俺の首に腕を回してきた。
「おーい、メサイア。リースをなんとかしてくれ。離れられん」
「まったくもー。リース、温泉に入りましょう」
「メサイアさん……まさか嫉妬ですか?
……そうなら、あたしたちの邪魔をしないでください」
ぷいっとリースは、メサイアを拒絶した。
「え……」
驚くメサイアは呆気らかんとしていた。
だけど、負けじと反論を始めた。
「リ、リース。サトルが困っているでしょう。我儘はよくないわ。ね、だから離れて」
「イヤです。それに、メサイアさんの小さな胸では、サトルさんは満足されないでしょうから、あたしが癒してあげるんです」
「なっ――――!」
えー…珍しいな。リースがこんな反抗的なの。
って、小さな胸って。メサイアはそこそこあるぞ。
まあ、そりゃリースのバインバインには劣るけどさ。
「リース! む、胸は関係ないでしょう! もう、サトルも黙ってないで何とか言いなさいよ。これじゃ、私がバカみたいじゃない!」
「――あ、そうだな。すまん。ついお前の裸に見惚れていたわ」
「……み、見ないでよバカ!」
手で隠すメサイアは背を向けた。
いや~背中はそれはそれで……。
「やっと追いつきましたわ。
……あら、これはいったい。エルフに……黒髪と……ブリッジをしている銀髪の女。どういうシチュエーションですの?」
追いついてきたサイネリアとフォルが合流した。
「あ、兄様……。って、リース! なんで兄様にお姫様抱っこされているのですか!? ず、ずるいのです……」
こりゃどう整理したもんかね。
とにかく……いったん、落ち着こう。
みんなで温泉に入ることにした。
◆
「ふぅ~…………」
結局、みんなで温泉に入ることになったな。
俺以外はみんな女の子だけど、一部を除いてはまったく気にしていない。気にしているのはヘールボップ家の令嬢ことサイネリアだけ。
まだほとんど初対面だし、そりゃ至極当然の反応だけれど。彼女は温泉の隅で背を向けていた。一緒に入る度胸があるだけ、なかなかだと思う。
「兄様の筋肉……おいしそうです……」
じゅるりとヨダレを垂らすヘンタイ聖女・フォルは俺の胸筋にベタベタ触れていた。相手がもし男だったのなら鬱陶しすぎるつーか、ぶっ殺すところだが、幸い聖女。しかも、フォル。別に不快感もなければ、大歓迎だった。
「サイネリアがいるんだ。あらぬ誤解を招くから、舐めるのはよせよ」
「分かってますって。それより、あの自称・令嬢はなぜあんな隅に? 無理なさらず後で、ひとりでゆっくり入ればよろしいでしょうに」
フォルはサイネリアに聞こえるように、わざとらしく言った。
「な、なんですって。自称ですって!? わたしはヘールボップ家よ。覚えておきなさい! いえ、脳内に刻んでおきなさい……この無名聖女」
「無名言うなですー!! シャー!!」
あ~あ。また火花を。
そんな光景を微笑ましく観察していると、ベルが隣にやってきた。泳いで。こら、泳ぐんじゃありません。
「理くん。これどういうこと? あの『ヘールボップ家』のご令嬢がなぜこんなところに」
「なんだ、ベルは知っているのか」
「知ってるもなにも……彼女は『ミクトラン王』に認められた貴族だよ。花の都のポインセチア城によく顔を出していたし、馴染み深い顔だよ」
ミクトラン王というと、花の都・フリージアの王様だ。
その正体は、この世界の神王・アルクトゥルス。
今は俺を『神』の後継者と認め、はよなれと勧めてくるのだが――それはまた別の話。その話は今は忘却の彼方へ。
「ほう。本当に貴族なんだな」
「うん。彼女の御父上はこっちの界隈じゃ有名人だったよ。貴族にしては民主的っていうか、民から搾取するってタイプではなかったね。一部では『賢人』とまで評されて支持されていたほどだよ。
――けどね、【レイドボス】事件とか聖地滅亡危機とかいろいろあったじゃない。それからは、あんまり良い噂は聞かないね」
「そうなのか」
なんだろう、この違和感。
俺はどこかで何かを間違えた気がする。
どこだ。
あの霊山に入ったとき? ゴーレムを粉砕したとき? サイネリアと出会ったとき? それとも、あのマグネターと遭遇したときか。
どこか分からないけど……なにか起こるような気がしていた。
「兄様ぁ! た、助けてくださいまし!!」
「え」
よく見ると、サイネリアがフォルを背後から奇襲し、胸を乱暴に掴んでいた。……うわ、なんて光景だ。てか、なにがどうしてそうなった!
てか、サイネリアのヤツ、あのフォルを力で圧倒するだなんて。
強いな……!
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