第153話 復活のオートスキル
これは聖地滅亡を回避し……
世界が平和になってほんの少し経過した後の話だ。
◆
世界最高峰の霊山――『アヴェレスト』へ向けて、俺、メサイア、リース、フォル、ベルは登山していた。いや、これは登山というか……。
女神――メサイアはなぜか俺をおんぶしてくれていた。なんでだ、普通は逆だろう。いやいいんだけど、俺がなんかこう楽しいし。
「なあ、メサイア。重くないか~?」
「へーきへーき。これでも毎日ストレッチで鍛えているんだから、それにね、サトルをみんなに取られたくないし」
キレイな白い歯を見せ笑うメサイアは、マジで女神だった。かわいい。ていうか、本当に女神だしな。あと、ストレッチで鍛えるとは言わないんじゃ!?
「むぅ~。メサイアさん……ずるい」
そう顔を膨らませるのはエルフのリース。頬をぷっくりさせながらも、モンスターを魔法で倒していた。あの火力は八つ当たりレベルだぞ!?
「そうですよ。そろそろ、わたくしと交代してくださいです!!」
空から降って来る聖女――いや、フォルは『ギガントゴーレム』を手刀で真っ二つにし、さらに突き飛ばしては粉々に分解した。
相変わらずおっかね~。いやでも、美しくも最強の『聖女』だからな。
「フォル。少しは手加減しろ。山が崩れたらどーする」
「あ、そうですね。では、兄様、わたくしと一緒に遭難しましょう♪ それから、あ~んなことやこ~んなこと、楽しいことをたくさーんしましょうね♡」
あ~んなことや、こ~~~んなこと?
いいですねぇ。ぜひぜひ。俺もフォルとすっごいプレイで楽しみたい。
「理くん、顔がオーク並でやばいよ~。ていうか、ボス登場だし! エレメントシールド<バスターモード>!!」
目の前に現れた『ギガントゴーレムMARKII』は山のように大きく、巨大すぎた。なんだあの【レイドボス】のようなバケモノ。
「なんじゃありゃああ! あんなのアリかよ、反則だ!! チートだチート!! どこに訴えればいい!!」
「落ち着いてよ、サトル。私、あんたを運びながら移動しているんだから、そんな揺らされたら落っことしちゃう」
「分かった! こんなところで落ちたら奈落の底だからな、うーん。メサイア、また【オートスキル】を使えるようにしてくれ」
――そう、俺は世界を救った代償に(?)全てを消失していた。
あるものと言えば、この素敵な仲間たちだけ。
いや十分すぎる宝物だな。うん。うんうん。
「なにを勝手に納得しているのよ。
うーん……そうね、女神権限を行使してみようかしら」
ウィンクするメサイアは、なにか『奥の手』があるようだ。これは期待していいヤツなのか。俺はまた【オートスキル】で無双できるのか!?
「理くん、シア。援護するよ。わたしの後ろに」
ベルのシールドに隠れた。落ち着く~。って、そんな場合ではない。
「で、秘策あんのか、メサイア」
「たぶん」
「たぶんって……なんか希望薄いな。でも、お前は女神だもんな。信じているよ、俺は」
「……サトル。うん、がんばる」
メサイアは目を閉じ、祈った。
外では、フォルが前衛となり応戦しているようだ。後衛がリース。魔法がドカドカ出ているところ見ると、かなり機嫌が悪そうだ。あー…あとが怖い。
「……駄目だわぁ、サトル。ごめんね……私役立たずで」
「なに言ってるんだ。お前は今まで数々の奇跡を起こしてきただろう。それにな、俺は嬉しいんだ」
「え……」
「なんたって『神』にならなくて済んだからな!!」
「えー…そっち」
聖地を救った後だった。
神王は『神』を継がないかと、とんでもない発言をしやがった。
けれど、俺は断った。断ったけど、神王はしつこかった。宗教の勧誘じゃあるまいし、しつけえよ。けど、普通は神様になれるなんて言ったら断らないだろうな。
けど、俺は断った。
「だって、超絶面倒だし」
「ふーん」
ぬめっとした目で見てくるメサイアは、自慢の黒い髪をつまらなさそうに弄っていた。いやホント、つやつやでキレイなんだけどね。ってそっちじゃねえ。
「なあ、メサイア。神様は別れ際にこうも言っていた」
「?」
『女神と再契約をすれば新たな可能性が開けます。新の世界があなたに訪れるでしょう。ですが、その選択肢は常にあなたに委ねられている。
平和にほのぼのと暮らすもよし、新しい力を手に入れ――冒険するもよし。
いいですか、サトル。私はどのような場合においてもあなたを理解し、あなたを認めます。なぜなら、あなたは後継者。なにも選択肢はひとつやふたつではない。さあ、どうでしょう。『神』になるなら今のうちですよ~~~!! さあ、さあさあさああ~!!』
語尾はうるさいのでスルーしておく。
「再契約……やっぱり、今の状態は『契約が切れている』状態なのかしら」
「らしい。だってさ【オートスキル】が使えないんだぜ。ヘンだろ」
まあ、心当たりはあった。
コンスタンティンとの対決の時だ。
俺は一度死んだ。
あれが引き金になっているというのなら、少し要因はあったかもな。いやだけど、あれは【イクシード】の効果でもあったはずだけどなー。うーん。
とまあ、いろいろと考えを巡らせていると……。
「分かった」
「え、どうしたメサイア。なにが分かったんだよ?」
「サトル。再契約しましょう」
「え」
メサイアは俺の頬を両手で押さえるなり、割と勢いよく――キスを。
「――――――ぁ」
で、光った。赤く。……うお、俺とメサイアが光ってるー!!
キスを続け、なにかエネルギーのようなものを俺は得ていた。なんだこの不思議なパワー。まるで、女神の神聖な力が血となって駆け巡っているみたいだ。
ンギモヂイイイイイイイイイイイ!!
そう、なんか気持ちよかった。
キスしている状況なのもあるかもしれないけど、それ以上にヤバかった。なんだこの人間を超越していく圧倒的優越感。高まる高揚感。ついでに変な臨場感。
『神~』『うっせえ!!』
なんか一瞬、余計な声が脳裏を過ったけど、華麗にスルーする!!
――で、俺はつい、その気持ち良すぎるエネルギーをもっと追い求めたくて……メサイアに対し、激しくしてしまった。
唐突だった行為にメサイアは驚き、口を放した。
そして、
「ば……ばかっ。今は戦闘中よ。そ、そういうのは夜にしなさいよ」
「す、すまん。なんか体が勝手に。――って、お!?」
なんか知らんが体が軽い。
感覚を確かめていると、ベルが声を荒げた。
「――ちょっと! 二人ともそろそろシールドから離れてくれないかな。ゴーレムが拳を向けて来ていてね! このままだとペシャンコだよ〜」
「ハハ…………ハハハハハ」
「え、どうしたの理くん。頭おかしくなっちゃった?」
「フハハハハ!!! フッゥ~~~~~~~~~~~ハッハハハハハハハ!!!」
「え、兄様が笑っていらっしゃいますね? どうしてですか?」
フォルは不思議そうに俺を見た。
で、リースは、
「さ、さあ……なにか良い事でもあったのかな。あ、フォルちゃん。ゴーレムの取り巻きが現れたよ。あたしが処理するね」
「ちょっとまったあああああッ!!」
「「え」」
二人とも動きを止めた。
今だ!!!
俺は彼女たちの前へ飛び出し、ギガントゴーレムの拳と対峙した。
猛烈な勢いで接近してくる巨大な拳。もし常人であれば即死どころか、木っ端みじんになって骨も残らす死ぬだろう。だけど、今の俺はもう常人なんかではない。
手をかざし、俺はその瞬間を待った。
そうして、それは突然――自動発動したのだ。さあ、来やがれ!!
『オートスキル【ダークニトロ】――――――!!!!!!』
敵の拳に向けて暗黒の爆発が駆けだしていく。その勢いは光の速さを突破し、ゴーレムへ瞬く間に命中。連鎖爆発を数百、数千繰り返し崩壊した。ざまぁみろ!!
「っしゃああああああッ!!!」
【Amazing!!】
【Congratulations!!】
「やったわね! 【オートスキル】が復活したんだ、サトル」
「おう、お前のおかげだメサイア」
「あ、サトルさん……あの、今の爆発で山が……」
「え!?」
『ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…………!!!』
リースが指差す方向、超至近距離で山が崩れていた。
どうやら俺のスキル【ダークニトロ】の威力が強すぎた影響らしい。岩がゴロゴロ転がってくるや否や、俺たちは死にかけた。
「「「「「うああああああああああああああああああああ!!!!!」」」」」
やりすぎたー!!!
「サトルのあほー!! でも、それがあんたね!」
「兄様は手加減知らずですからね♪ わたくしにもいつもそんな感じですし♡」
「そんな大胆なところが大好きです♡」
「理くんだもの。うん、でもそんな豪胆さが好きなのさ」
メサイア、フォル、リース、ベルはそれぞれ感想を述べていたが、そんな場合ではない。さっさとずらかるぞー!!
「す、すまねえ、みんな! 逃げるぞー!!」
俺たちは全速力で山を下った。
だけど、この時の俺たちは知る由もなかった。
この『霊山崩壊事件』がとんでもないことへの引き金になるだなんて――。
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