第134話 聖地を壊滅させる竜殺しの剣
トリスタンの登場で、怒涛の騒ぎは丸く収まった。
あの女騎士が登場してから、レース参加者は怒りを収め、借りてきた猫のように静かになっていた。うそだろ!?
一体、あの女――トリスタンは何者なんだ……。
「イゾルデが度重なるご無礼を。どうか、お許しいただきたい。それと、聖女様は直ぐにお返しいたしますゆえ」
トリスタンは、ネリコに合図を送ると……
扉の向こうから、フォルが――。
「……兄様。わたくし」
「やったぞ、フォル! 俺は……いや、俺たちは完全勝利した……! お前を取り戻し――」
言い終わる前に、俺に飛び込んでくるフォル。
「兄様、兄さまあああああああぁ…………」
フォルは、俺の胸の中に顔を埋め……泣きながらも、笑っていた。
うん――。
最後に笑うのは俺たちなんだ。
「リース。例の件は――?」
「はい、ただいまお父さんが到着しました」
「え? サトル、いったいなんの話? お父さんって。リースのお父さん!?」
メサイアは知らなかった。あ、話すの忘れていた、スマン。
「実はな……」
そこで、バタンと扉が開くと――
「ま・た・せ・た・な!!!
可愛い我が娘、リースのためにアヴァロンから超特急で飛んできたぞ!! ふんどし一丁でな! おお、久しぶりだなサトルくん。ほら、持ってきたぞ!!」
リースの親父さん! 間に合ったか!!
ふんどし一丁だけど!
親父さんはなんと、アヴァロンからわざわざリースの貯金――
【1億2000万プル】を運んできてくれたのだ!!!
これは以前、カジノで儲けまくったリースのお金だった。
「お父さん! 良かった……本当に」
「こらこら、リース。そこは『パパ大好き!』と言って飛び込んでくるところだろう! ダハハハハハ!!」
豪快に笑うリースパパ。
いや何にしても、最高のタイミングだ!
「リース。500万プルを立て替えてもらっていいか……?」
「はい。そもそも、あたしもホテルは利用していましたから。払うのは当然です。イゾルデさん。こちら、きっちり500万プルです」
どんっと500万プルをテーブルに置くリース。
これで……支払いは確かに完了した!
「…………くっ、ぅぅぅぅ……」
更に悔しがり、声にならない声を出すイゾルデ。
「――お待ちを」
そこで、トリスタンが止めに入って来る。
「そもそも、あの伝票も不正に水増しされたもの。実際の支払いは『120万プル』です。そうですね、ネリコ」
「……はい。オーナーに指示されたので……」
「よって、今回のお支払いは結構です。ご迷惑をお掛け致しました。お客様」
トリスタン……なんという慇懃っぷり。姿勢よくぺこっと丁寧に謝られ……確かな誠意を感じられた。これは許すしかなかった。
「分かりました。それでは、俺たちはこれで――」
「いえ、話はこれで終わりではないのです」
「はい?」
「私は何もイゾルデの不正のために、この場所にやって来たのではないのです。実は……『聖地・モードレッド』から刺客が向かってきているのです。ですから、緊急事態につき、我々と手を組んで戴きたい」
は……?
はい!?
「意味が分かりませんが。それ、俺に何のメリットがあるんです?」
「コンスタンティン軍――とえいば、分かるでしょうか」
「……な!?」
「やはりご理解しているのですね。
そう、コンスタンティン軍のある二人の騎士と……聖地・モードレッドの『聖者』がこちらへ侵攻中。おそらく、あと数分も立たないうちに、この聖地・トリスタンは滅ぶでしょうな」
「ほ、滅ぶって……なに言ってんだ。そんなわけ……」
いや、落ち着け。
今までコンスタンティン軍は、しつこいほどに立ち向かってきた。だったら、この聖地にも……。あぁもうやっと落ち着けると思ったんだがな。
「分かった。協力はする。けどな、そのイゾルデの言いなりにはならんぞ。あんたには力を貸す」
「ええ、それで十分です。それに、私についてこれば全てが分かります」
全てが分かる?
「……よし、みんな。さっきの通りだ。いいな?」
「えー…」
嫌がるメサイア。うわー、だるそう。
「あたしは賛成しておきます!」
リースは素直。良い子。
「ベルは?」
「え、わたし? うーん。まあ、なんかこの聖地滅びそうだし、やるしかないよねぇ」
一応、オッケーらしい。
さて、最後は――
「フォル。力を貸してくれるか?」
「はい。もちろんです。わたくしは兄様のために」
決まった。
俺たちは、リースの親父さんにお礼を言って別れた。
トリスタンの後について行くことになった。
いったい、どこへ行くんだかな。
◆ ◆ ◆
『聖地・トリスタン』と『聖地・モードレッド』の中間――そこにコンスタンティンの上級騎士『プロキシマ』と『ケンタウリ』はいた。
彼らは、王・コンスタンティンの命令で、『聖地・モードレッド』に赴き、そこで聖者を迎えた。
その聖者こそ、荘厳たる姫君――
『モードレッド』であった。
彼女は赤い髪を靡かせ、『聖地・トリスタン』の方角を睨んでいた。
「どうなされたのです? モードレッド姫」
突然、足を止めたモードレッドに対し、プロキシマは問う。
すると彼女は、
「その名で呼ぶな。我が名はモードレッドではないと言った」
「はぁ……しかし」
「くどい……! 我が名は『レッドスカーフ』だ! いいな!」
その名の通り、モードレッドは『赤いスカーフ』を首につけていた。ドクロのマークがまるで海賊っぽいが、それが恐怖心を煽っていた。
「それで、どうして止まられたのです?」
ケンタウリが改めて、レッドスカーフに聞いた。
「ここは――『聖地・トリスタン』と『聖地・モードレッド』のちょうど中間地点。つまり――頃合いと言うことだ」
「はい?」
「頃合いと言った」
プロキシマもケンタウリも意味が分からなかった。
が……レッドスカーフは、いきなり構え――
赤い霹靂を右腕に纏わせると――――――
「うわぁ!? レッドスカーフ姫! なにを!?」
「見ておれ、二人とも。これが、我が聖地・モードレッド流の挨拶でな……」
レッドスカーフは、一本の剣をスキルで召喚した。
「おお……なんと見事な剣。……そ、それは、あの有名な竜殺しの剣『ドラゴンキラー』ですか……。すげえ、はじめてみましたよ!!」
興奮するケンタウリ。あの獰猛なドラゴンを何十、何百と一撃で屠ったという、最強の剣なのだ。騎士である者ならば、誰だって興奮を抑えきれない。
「驚くのはまだ早い。いいか、下がっていろ」
――と、言われて、二人は下がった。
それから、レッドスカーフは『ドラゴンキラー』を空に投げると、剣を巨大化させた。
「なっ――――剣が城ほどの大きさに! なんという眺望か! こんな大きさでは巨人でも握れぬな」
巨大剣・ドラゴンキラーは、宙に浮いていた。
「いいか。この剣はな、全体が『エクサダイト』で出来ている。だから、ドラゴンを一撃で葬ることができた――――」
『エクサダイト』――それは、かなりの希少性を誇るレアメタルアイテム。そんなもので剣が出来ているとは……と、二人とも驚きを隠せなかった。
「よって、この剣は少しモノに触れるだけで爆発する。扱いは慎重に――ということだ!!」
ブォォォォォォォンっと大剣が投擲された。
目にも止まらぬ勢いで『ドラゴンキラー』は飛翔し、一瞬で見えなくなった。
「――――――ウソだろ」
プロキシマもケンタウリも茫然となった。
「ここから、約300km……あのスピードなら着弾は――10分後くらいか。フ……我らはそれまで一服でもしていよう」
レッドスカーフは、ニヤリと笑った。
あの大剣がまともに『聖地・トリスタン』に激突するならば、半壊――いや、下手をすれば壊滅だろう。うまく行けばの話だが――。
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