第128話 真理の聖女
久しぶりの野宿は、体になかなか堪える。
しかも、物騒な森の中だから余計に。
そんな環境なせいか、寝付けずにいる。
というか、もうひとつ原因があった。
「兄様、眠れないのですか?」
「当たり前だ。こんな至近距離で添い寝されてはな」
「そうですか。でしたら、わたくしを抱き枕代わりにしてみては?」
――などと、フォルから突拍子もない提案がなされた。
……フォルを抱き枕って……
そりゃ、もっと寝れなくなりそうな気が……。いやだが、まて。フォルがオッケーというのだ、断る理由もないよな。
「いいのか……。じゃあ、その、おいで」
「はい」
もそもそとフォルはやって来る。
俺は遠慮なく、フォルを抱き枕のように体で挟む。
うわ……おー…。
ふにょふにょして……ち、小さいなコイツ。
「……ふふ。如何ですか」
「如何もなにも……フォルの顔がよく見えるな……」
吐息。匂い。体の形。
フォルの全てが俺に伝わってくる。
こ、これは……すごい。なんつーか、大興奮して逆に寝れん!!
「…………兄様。なにか当たってます……」
「へ!? ナニが!? ああ、さっきのドロップアイテムだろ……そ、それより、これは余計に寝れんので離れよう」
俺は誤魔化すようにして、話題をそらす。
すると、フォルは――
「大丈夫です。わたくしが『聖なる子守歌』で寝かしつけて差し上げます」
と、フォルは歌いだす。
「~~~♪ ~~~~~~♪ ~~♪」
……あれ。
この子守歌――すごく――――ねむく――。
◆ ◆ ◆
『――フォルトゥナ。
貴女は人並み外れた幸運の持ち主です。
崇高なるフォーチュンの導きによって、選ばれたのですから』
……これは、夢?
フォルの、子供の頃の夢?
『フォルトゥナ――あなたは真理の聖女として――』
よく聞こえない。
誰かが重要なことを告げている。
鐘の音。聖なる鐘が鳴り響く。
誰がために鐘は鳴るのか。
音が邪魔をして、肝心な部分が掻き消されてしまった。
◆ ◆ ◆
……ヘンな夢を見た気がした。
もう曖昧すぎて思い出せないけど、不思議だったな。
俺は起床し、体を伸ばす。
気持ちの良い朝だ。これだけ明るくなれば森を抜けられる。
メサイアたちとも合流できるはずだ。
「さて、行くか~」
「あ、あの……兄様。おはようございます」
「んあ? どうした」
「こちらお弁当です。昨晩の残り物ですけれど」
そう、フォルはしおらしく弁当を手渡してくる。
朝早くからモゾモゾ動いていると思ったら、そういうことだったのか。まるで良妻賢母。料理できるし、母性に溢れ優しいし……アレ、ひょっとして、ヘンタイ以外は完璧じゃなかろうか……。
いや、実はこれが最終形態の『パーフェクト聖女』なのかもしれない。
うむむ……認識を改める必要があるか。
それとも……まだ形態に余力を残しているのか。これは、今後に期待かな。
「兄様? 難しい顔をなされて、なにか考え事ですか?」
「……いや、なんでもないよ。お弁当ありがとな、フォル」
「はいっ♪ あとでご一緒に」
「ああ、そうだな。そうしよう」
今は森を抜けるのが先決。
さっさと攻略しちまおう。
◆
呆気ないほどに、森は簡単に抜けられた。
なぜだ。あんな苦労していたはずなのに、今日はすんなりと。
目の前には【聖地・トリスタン】らしき都が見えている。
「ほ~。あれが聖地・トリスタンか。でけーな」
「そうみたいですね~。建物がどれもお山のようです」
フォルが驚くように、トリスタンの都は巨大建造物が連なっていた。要塞なのか、ずいぶんとごっつい。う~ん、防衛力が高そうだな。
「んー、もしかしてメサイアたちは、もうトリスタンにいるのかもな」
「この周辺には姿は見えませんものね。あんな危険な森にいるくらいなら、トリスタンへ――と、先行されたかもしれません」
その通り、メサイアたちはトリスタンに避難していた。
なんと、ちょうどリースからテレパシーが入ったのだ。
『サトルさん! ……よかったご無事で。昨晩はなぜかテレパシーが飛ばなくて……。あ、それで……あたしたち、先に聖地・トリスタンに入っていたんです。今は宿屋でして』
「お、リース。良かった、そっちも無事か。メサイアとベルも大丈夫だよな?」
『はい。二人とも怪我もありませんし、とても元気です。ただ……』
「ただ?」
『お金が……』
お金がなくて宿代が払えないという……。
おい、金がないのに泊まるなよ!?
「分かった。俺が立て替えよう。そのまま待っていてくれ。なんて宿屋だ?」
『宿屋の名は『タントリス』です。お待ちしておりますね』
「あいよー。じゃ、また」
テレパシーが切れた。
「――そんなワケだ。フォル、みんなは元気でトリスタンの宿屋にいるってさ」
「そうだったのですね! よかった~安心致しました。こうは思いたくなかったですが、あの影のバケモノに襲われたのではないかと……ずっと皆さんの身を案じておりました」
――そうだ。
俺たちは昨晩、謎の影に襲われかけた。
実際襲われたのは、野盗共だったが……影はモンスターでもなければ、何者でもなかった。……アレは何だったんだ。
正体は……分からない。
「まあいい。今は宿屋へ向かうだけだ」
「はい。行きましょう」
俺たちはついに【聖地・トリスタン】へ入った。
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