第118話 グラストンベリィに眠る聖剣
アヴァロンのエルフは、会った当初は冷たくて人間には優しくなかった。しかし、今では俺たちは人気者。連日、人が訪ねてくるほどだ。まるで英雄的扱いだが、これもアヴァロンを救った俺のおかげだな。わっはっはは!!
「なーに、ニヤついてるのよ、サトル」
「おう、メサイア。なんでもないよ。それより、パロ、君は確かめたいことがあるって言ってなかったっけ?」
「そうにゃ! ぼくは、このアヴァロンに眠る『聖剣・エクスカイザー』を確かめたいのにゃ!」
「――エクスカイザー? エクスカリバーじゃなくて?」
「違うにゃ。エクスカイザーにゃ」
――は?
なにそれ、聞いたことない。
まったくの初耳。
なにその魔改造っぽい聖剣。むしろ、チートっぽい。
「んー。よく分からんが、パロはそれを確かめたかった――と」
うんうんと頷くパロ。
……聞かなかったことにしておこう。
「よし、宝探しに行くか」
「ちょ、サトにゃ~ん。無視しないで欲しいにゃ! お願いだから聞いて欲しいのにゃ!」
「なんだ、言ってみろ。三文字で」
「ええ~!!」
「はい、文字数オーバーな」
「そ、そんにゃ~ひどいにゃ~!」
パロは、およよと泣き崩れる。
さて、もれなくメサイアがブチギレゾーンに突入しかけているので、ここは素直に聞いてやるか……。
「……パロ。そのエクスカイザーだが、どんな剣なんだ?」
「うん。にゃんでも、その剣は遥か太古から存在する伝説の聖剣のようだにゃ。大賢者・フォーマルハウト氏の文献によると、あまりの破壊力にこの世界が一度滅びかけたらしいのにゃ~」
滅び……かけた?
なんだそのトンデモ聖剣!!
ヤバすぎるっていうか……危険すぎる!
「メサイア、ちょっと」
俺はメサイアに近付き、耳打ちした。
「なによ」
「あの話は本当か? お前、女神だろ。なにか知っているのか?」
「初耳よ。聖剣なんかに興味ないし。それより、私は女神専用スキルの取得で忙しすぎるわ。まだまだ沢山あるの。大変よ……」
ゲンナリと、メサイアはどこか窶れているようにも見えた。
女神も大変なんだな……。
少し同情していると、
「理くーん。盾スキル買えたよー! ありがとねー!」
ベルの明るい声がした。
おや珍しい。あんな上機嫌なベルは初めて見たかも。
「よう、ベル。スキルは買えたんだな。どんな盾スキルなんだ?」
「それは戦闘になってからのお楽しみ。けど、本当にありがとね! わたし、このスキルずっと欲しかったんだ~。も~、ほんっと理くん好き」
なんと……ベルからハグされた。ぎゅぅっと大胆に。
ビキニーアーマーだから、肌がモロに当たって……!
……こ、これは……。たまらん……!
あまりに嬉しくて、体が震えた。なんという圧倒的幸福感。
思わず胸を締め付けられ、俺は泣いた。
「理くん!? どうして泣いているの!?」
「いやー…おっさんになると涙腺が緩くなるんだよ。分かってくれ、ベル」
「そういうモノなの? ところで、さっき聖剣がどうとか聞こえたけど、宝探しに行くんだ?」
「そのつもり。ベルも来るか?」
「あー、ごめんね。わたしは新スキルの試し打ちとかしたいんだよね」
「おう、分かった。さっきのハグで三十回分は許せる」
「そっか。じゃ、悪いことしても何回か許してもらえそうだね。じゃ、シアにパロちゃん。わたしは旅に出るよ~アデュー!」
颯爽と行ってしまうベル。
ホント、あんなハイテンションは珍しいなぁ。
◆
宝探しに行く前に、リースの親父さん――いや、お義父さんに呼び出された。
「失礼します。お義父さん」
「交際は認めたが、結婚はまだ認めておらんぞ!? ……まあいい、サトルくんになら任せられる……って、話はそれじゃない。
聖剣だ。聖剣を探しに行くのだろう。前も言ったが、このアヴァロンに眠る宝は、神王・アルクトゥルスを祀る秘宝。それを探し出し、私利私欲のままに扱おうとすれば、アヴァロンは祟りに合い、今度こそ滅びるかもしれん。だから、すまないが……」
……なんだ、神王様を祀っていたのかよ。
なら、平気じゃん。
「それなら大丈夫ですね」
「……サトルくん。今の私の話、ちゃんと聞いていたかね!? また、アヴァロンが滅びる可能性があると言ったのだが……」
「俺は『聖者』ですし、神王様とはマブダチなんです。だからご安心下さい、神王様には女神のメサイアを通して話をしておくので」
メサイアは、女神専用スキルのおかげで、神王と連絡が取り合えるようになっていた。便利なものだ。
「そうか、そう言われてみれば君は……。そうだな、君が言うのだから間違いはない。それでは、宝探しを許可する。頑張ってくれ。それと、お義父さんは止めなさい」
「ありがとう、お義父さん」
「……まったく、君には敵わんな。……ただ、サトルくん。ひとつだけ忠告しておくぞ。コンスタンティン軍は健在だ。王もどのような動きをしてくるか分からん。十分に注意することだ。いいな」
「重々承知しています。アヴァロンは俺が必ず守ります」
そう俺が言葉を返すと、親父さんは『ガッハッハ!』と豪快に笑い――
「そうだな。よく考えてみれば、最強の『聖者』がアヴァロンを守ってくれるのだ。こんなに頼もしい者は他にはいない。サトルくんがいれば百人力。ああ、まったく私は何を恐れていたのだろうか。……行ってきなさい。グラストンベリィへ」
『グラストンベリィ』――そここそが、聖剣の眠る場所らしい。俺は、詳しい場所を教えてもらい、向かうことにした。
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