第112話 無限の復讐
エルフの郷・アヴァロンはそれほど広くない。
世間は狭いと言うように、小国程度の規模のこの郷では、情報が簡単に漏れてしまうだろう。だから、俺はメサイア以外には、事実を話さないことにした。
情報の漏洩は、致命的な敗北へと繋がるからな。
さて、改めて現在の状況を整理すると……
必ず『赤い月』の夜からアヴァロンはじまっている。
二~三時間後には決まってイベント発生。
どこかのポイントにコンスタンティン軍が複数出現する。その後、アヴァロンは炎に包まれ、炎上。以下ループというのが大体の流れのようだ。
これは、俺とメサイアの断片的な記憶を元に整理した情報だ。……そうなると、これからは二人で行動する方がいいわけだ。たぶん。
だが……
「ちょっとまって。サトル、あんた……前の過去でリース、フォル、ベル、パロ……誰かしらとイチャイチャしていたわけよね?」
「んあ? ……それがなんだ」
「なんだじゃないわよ! どうして、私が一切含まれていないわけ!? こんなの屈辱よ! 侮辱よ! 蔑視よ! 神王様に訴えてやるー!」
メサイアは、激しくブチギレた。
つーか、そこかよオイ!
「メサイア。それは、過去にループした記憶の欠片にすぎないんだ。今は、お前と一緒の時間を過ごしているだろう。それでいいじゃないか。過去のことは水に流してだな……」
「むぅー…。もっともらしい……一理あるわね」
そう渋々納得した様子で、メサイアは次に俺のズボンを脱がせ――ってうぉぉぉい! ななな、なんで脱がすー!?
「なにしやがりゅ!?」
「……他の女の子とは、散々楽しんだんでしょ!?」
「はぁ? だから、それはループで……しかも、そんな楽しんだとかないわ。マッサージとか密着ストレッチとか、添い寝とか膝枕とかその程度だ!」
「十分楽しんでいるじゃない! もう絶対に許せない! いっそのこと、私を襲いなさいよ!!」
「襲うかアホ!!」
支離滅裂すぎるメサイア。
なんとか落ち着かせないと! それに、こんなところを誰かに見られたら……。見られたら……
「――――――」
「あ」
現在、リースの家のベランダ。
騒いでいればそりゃ誰か来るというか、ベルが固まっていた。
「あー…。お邪魔だったかな。あはは……」
ベルは、誤魔化す様にして立ち去ろうとしていたが……俺が止めた。
「まて、ベル」
「……サトルくん?」
「お前に、折り入って頼みがあるんだ」
「うん。そりゃ構わないけど条件があるよ」
「ほ~う、条件か。いいだろう、言ってみろ」
「このアヴァロンで期間限定で販売されている特殊な『盾スキル』があるんだ。それを買ってくれたらいいよ。
けどね、サマーセールもしているクセに『1億プル』もしてさ~。もちろん、全部とは言わないよ。半分は出せるから」
なるほどね。ベルらしいというか何というか。
そんな特殊スキルとか逆に気になるし、見てみたい。
1億プルは高額すぎるが、お財布に余裕はあるので平気だ。
「交渉成立だな。それじゃあ作戦を話す」
……よし、これできっと上手くいくはずだ。
◆
ふと、嫌な予感がした。
俺は本当にこのままでいいのか。
メサイアには事実を話し、ベルたちには何も話さず……引き入れてもいない。このままで本当にいいのか。確かに、情報が洩れるのはマズイ。だが、このままで成功するとも思えなくなってきた。
繰り返すように俺は自問自答した。
……『失敗』を恐れているのか俺は。
失敗。
そうだ。思い出せ。きっとあるはずなんだ、こんな状況になったことも。
一回や二回はあったはずだ。
「…………!!」
うん、ないね。
これが初めてのようだ。
「兄様♡ 兄様ではありませんか。リースの部屋の前でどうしたのですか? ひょっとして夜這いでしょうか。それでしたら、わたくしの方へ来て下さらないと♡」
ん……気づけば、フォルが背後から密着していた。
「なんだヘンタイ聖女」
「ちょっ、兄様いきなりどこを……! あの。そこは……その…………」
「お前が俺のハイパーデンジャラスゾーンを触ってきているんだうが!? ヤメレ!」
「あぁ……そんな。乱暴にしないでくださいまし~♡」
「おい、誰かに勘違いされるだろ!?」
「ふぅ~…♡」
いや、それ俺のセリフだろうが……!?
だめだこのヘンタイ聖女……早くなんとかしないと。
「ところで、兄様」
「なんだ、ヘンタイ」
「♡ ……実はですね、ごにょごにょ……」
「へえ? 近所のエルフが……」
先ほどフォルは、息抜きにちょっと外に出たようで、近所の『カタバミ』という中年エルフが軍と接触していたところを目撃したらしい。……おかしいな、俺の記憶が確かならば、エルフは余所者に対しては、かなり冷たい態度を取っていたっけな。
そや、どっかの記憶じゃ、俺たちはそいつに摘まみだされたような気がした。嫌な記憶って、なぜか強く印象に残りやすいんだよな。こりゃ、確かだな。
なるほど、軍との接触ときたか。
裏切者は『カタバミ』で間違いなさそうだ。
フォルのおかげで有力な情報を入手できたな。
さすが、フォーチュンの力。今回ばかりは褒め称えよう。
……ふむ。
だが、これでも足りない気が。
そんな不安を払拭するように、彼女が現れた。
「……あの、サトルさん」
「リース。すまない、キミの部屋の前で騒いじゃったな」
「いえ、いいんです。でも……フォルちゃん。サトルさんを困らせちゃ駄目ですよ。離れて」
「あ……はい。リースちょっと怖いのです」
自業自得だな。有力な情報には助かったけど。
「それで、リース。俺になにか用があったんじゃ……いや、用があったのは俺か。そうだ、キミにも頼みがあるんだ。引き受けてくれるよな」
「もちろんですよ。大方の情報は理解していますから、ご安心を」
リースのヤツ、いつもの盗聴か。
ホント、俺のどこに盗聴器が隠されているのか、いまだに謎なんだよね。
「それなら話は早い。リース、フォル、お前たち二人は軍の出現ポイントに先回りして、ヤツ等を潰してほしい。十万規模は無理でも、五十人程度の相手なら何とかなるだろ? もちろん不安があるなら、早めに言ってくれ。これは、ベルにも伝えてある。あいつには、特別任務で別の場所に向かってもらっている。ちなみに、メサイアにも秘密裏に行動してもらっているので、あしからず! 事情は聞くな、以上だ」
ふたりとも素直にコクっと頷き――
「了解です!」「わかりました!」
あっさり了承してくれた。
そうとなれば、俺は、リースの親父さんを説得し……『カタバミ』をシメる。そして、軍を今度こそ徹底的にぶっ潰す。
……やられたら、やり返す……無限返しだ!!!
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