第111話 運命の女神
――ある日。
俺は、メサイアを呼び出した。
なぜか呼び出したくてたまらなかった。
なんでだろう? 分からん。
「メサイア、俺はどうかしちまったかもしれん」
「そうね、否定はしないわ。あんた、どこかおかしい」
「おい。そこは普通、心配するところだろうが!」
「正気とは思えないわね。もちろん、私もね……」
「なんだ、お前もどこか変なのか? また死神に戻りつつあるとかは勘弁してくれよ」
「それはないわ。ただ……」
「ただ……?」
メサイアはどこか遠くを見つめ、腕を組むと話を続けた。
「同じ時間をずっと過ごしているような……。最近、そんな違和感とかデジャヴとか感じるのね」
「マジか……お前もか。俺もだ。俺は、アレが夢ではないかと思っているが。けど、とてもリアルな夢でな。アヴァロンが必ず滅びるんだ。それも毎度、炎に包まれて――それで――」
「……滅び」
そう短くメサイアは反応を示した。
それから、俺を真っ直ぐ見た。かなり真剣に。
「私は違う」
「へ? 違うとは?」
「このアヴァロンを救う夢を見るの。でも、救うのは私じゃない。あんたよ、サトル。あんたが皆を導いていたの」
「……俺? つってもな、現状のアヴァロンで何が起こっているのかさえ分からんぞ。しかも、それは夢。朧げな、漠然としたものだぞ。そんな曖昧なものを信じていいものか……」
「確かなことは分からない。けどね、これだけは分かるの。私自身にも何か起きているような気がする……。サトル、私、こわい……」
――と、メサイアは、いつもの強気とは一転し、弱気だった。
それこそ、か弱い少女のように。あんなに小さくなられては、俺は。
「メサイア……」
俺は、メサイアを優しく抱きしめた。
――な~んてなァ!
そんな風に見せかけて……『女神専用』のスキルツリーを勝手に覗きこんだ!!
……やはり!!
コイツのスキル……何かがずっと発動しっぱなしだ。それを見ると――
【 インフィニティ・オーディール 】とあった。
効果は『一度発動すると、一定の範囲の時間で世界を永遠にループさせる。ループ時間はスキルレベルによる』とあった。――なんだよ、これ! ループだって? どうして、そんなもんが勝手に発動しているんだ……! 俺の【オートスキル】じゃあるまいし。
運命の悪戯か?
それとも、神の気まぐれか。
何にしても、このスキルを止めねば。俺たち――いや、この世界は永遠にループし続けることになる。つまり、未来は永遠に閉ざされており、似たような日常を過ごすだけで、バッドエンドを迎えるのだ。
ヤバすぎる……!
だがまてよ。思い出せ。
アヴァロンの運命はいつもどうなっていた!?
炎に焼かれ、滅びていた。
ああ……そうだ。それがアヴァロンの終焉だった。
俺は少しずつだが、夢が確信に変わっていたんだ。そのトリガーは、先ほどのメサイアのスキルだ。偶然か分からんが、発端はスキル。滅びゆく運命だった、あの何千回、何万回も見た夢はホンモノだった。
だが、スキルのおかげで何度も繰り返した。
そんな中でデジャヴとして蓄積された記憶が色濃くなってきて、どこかで『違和感』として覚えていたんだろうな。
つまりアレだ、これは今の俺に与えられた『最後のチャンス』という事に他ならない。……そう。俺は、あの悪夢……赤い月の運命を今なら変えられるのだ。――だったら、やるしかないだろう!
今日こそアヴァロンに希望を、活路を見出してやる。
「メサイア! 運命を変えられるぞ!!」
「運命? いきなり何のことよ。あんた、おかしくなっちゃったの?」
「違うよ。さっきお前が言っていたじゃないか、このエルフの郷・アヴァロンを救うんだよ! それと、軍も壊滅できるかもしれないぞ」
「え、コンスタンティン軍を?」
「ああ……それにはメサイア、お前が必要だ。いいな」
「……そ、そんな期待されたら仕方ないわね。いいわ。あんたと私の仲だものね。今回ばかりは運命の女神になってあげるわ」
ニヤリと笑うメサイア。
……なんかそれいいな。
運命の女神ね。……へえ、いいじゃないか!
最後に笑うのは、俺と女神というわけだ。
さあ……はじめよう。
アヴァロンの救済を!
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