第110話 無限の試練
燃え尽きたアヴァロン。
それをただ茫然と立ち尽くして、見ているしかなかった。
「サトル。まだ、生存者がいるかもしれないわ。アヴァロンへ行ってみましょう」
この死んだ空気を断ち切るかのように、メサイアがそう希望を示した。そうだよな、最後まで諦めちゃダメだ。それに、リースの為にも残された彼らを弔ってやらねば。
よし、みんなでアヴァロンへ……
そう気持ちを切り替えた時だった。
『やはり――この場所だったか。小僧ども!』
背後から、かなりの数の武装集団が現れた。
なっ……! あれは、コンスタンティン軍!
なぜ、こんなところに軍が。しかも、五十人規模。なんて数だ。
偶然か? それにしては、タイミングが良すぎる! しかも、アヴァロンを強襲されている。同時に狙われた、ということか。
おかしい。いくらなんでも俺たちの行動まで筒抜けというのは、おかしくないだろうか。考えうる可能性として『裏切者』がいるということになる。
だが、俺はみんなを信じているし、みんながそんな行動に走るとは思えない。そもそも、行動を共にしていたんだ。不審な点はなかった。だとすれば、裏切り路線は消える。
ならば……なんだ?
コンスタンティン王……。
コンスタンティン軍……。
黒の十字……。
コイツ等が、明白な敵であることは間違いない。
けれど、俺は、見えざる敵が裏で糸を引いているような気がしてならなかった。
――とにかく、今は、このクソみたいな状況を何とかせねば。
「……クハハッ。貴様たちは、我が聖地・コンスタンティンの国家転覆を目論んだ重罪人として……内乱罪で処刑だ! 有無は言わせん。いいな!」
と、軍の中でもやたら偉そうな男が、そう剣を構えては威圧してきた。
「あんたは……?」
「お~っと、そうだな。処刑の前に冥土の土産だ。いずれ王になる我が名くらいは教えておいてやろう。オレは『クローズド』だ。コンスタンティン王に認められし、誉れ高き騎士でね。……今回の功績で出世できるところだ。だから、オレのために死んでくれないか……な~んてな、ハハッ」
クローズド……男はそうイヤミったらしく名乗った。
ど~でもいいなぁ……なんて思っていれば、ヤツは舌を出し、剣をペロリとなめた。その光景がまるで狂戦士のように思えた。だが、ヤツのそれは威勢だけ。俺は怯むことなくスキルを発動した――
「聖槍・アンティオキアぁぁぁぁぁあッ――!!!!!」
正直、敵の出方を見極めている時間さえ惜しかった。
先制攻撃あるのみだ!!
「なにィ!?」
敵は完全に油断していた。俺の突然の攻撃に、ただただ驚愕していた。
敵どもは構える暇もなく――
「ぐああああああああああああああああああああああああ!!!」
聖槍は敵陣で大炸裂し、広範囲に衝撃波を放出した。
俺は、ヤツ等を一撃で無力化し、排除した。よし、楽勝だったな。
「邪魔者は消えた。アヴァロンへ向かうぞ……ん。パロ、俺をそんな初恋相手を見るように凝視してどうした?」
「サトにゃん……。すっごく強いのにゃ……びっくりしたにゃ。カッコいいにゃ!」
「まあ、これでも手加減した方だ」
「パロちゃん。兄様は『聖者』なんですよ。だから、とっても強いのですよ!」
――と、フォルが自分の事のように自慢げに説明した。
「それに優しくて、どうしようもないくらいにヘンタイさんで、毎日大変なんですよ♡ 昨日もわたくし、寝られないほど優しく抱きしめて戴きましたから♡」
おい! 最後ので台無しだ!!
つーか、ヘンタイはお前だろ! ヘンタイ聖女め!
……とにかくだ。アヴァロンへ。
◆
――アヴァロン前。
あと少し、すぐそこがエルフの郷の門だ。
あれを越えれば……!
駆け足で向かい、アヴァロンに足をつけた、その瞬間だった……!
突発的に視界がグニャリと変形し……
グワングワンと耳鳴りがし始めると……
「がぁっ!?」
俺の視界がぷっつんと途絶えた。
「――――――」
……俺は、この世界は、どうなっちまった……。
③
②
①
……、…………、……。
――とても暑い夜だった。
リースの部屋を後にし、俺は軽く溜息をついた。
「ふぅ……最高だったな」
まさかマッサージをしてもらえるとはな。
気持ちよかったなー…。すっごく気持ちよかったなぁ……。
この世と思えないほどに、最高の気分だ。
ふと、夜空を見上げると、赤い月が笑っていた――ような気がした。
「あれ……この感覚どこかで……デジャヴ?」
そして、焦げ臭いような異臭。
これは……。
火事!?
リースの家が……。
アヴァロンが燃えている!!
アヴァロンは、また炎にやられた。
……いや、だから、またって……。
って、またこの頭とか耳がおかしくなる現象!
言うなれば、目に映らない魔の手によって、記憶が無理矢理にでも剥ぎ取られていくような、そんな気色の悪い感じ。これは――この感覚だけはなんとなく覚えていて、でも断片的で。
あー…俺は、何度も何度も……。
またかあああああああ!!!
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