第106話 憎悪と怒り - 暴虐のダークニトロ -
謎の少女・パロミデス――『パロ』の家に招待された。
彼女の目的は分からないが、悪い子ではなさそうだ……というか、あの純粋無垢な瞳には不思議と逆らえなかった。
しかし、あの桃色の髪は地毛だろうか。
桜のように綺麗で、何故だか見ていて飽きない。
だだっぴろい庭を歩いていく。
噴水やら、やたら入り組んだ水路が豪邸をより引き立たせていた。
それがあまりに幻想的だったから、俺はついぼうっとそれを眺めてしまっていた。そして、ふと気づけばパロに手招きされていた。
「ちゃんとついてくるにゃー。下手に歩くと地雷が発動して死ぬにゃ」
「死……って。危険すぎるだろ! なんだ、この庭は実は地雷原なのか!?」
「そうにゃ。変なヤツに侵入されないようにしているにゃ」
…………。
やたら物騒な庭を抜け、玄関。
そこから豪邸の中に進み、さらに驚く。
これまた溜息が出るほど広かった。
なんですか、この大広間。
豪華なシャンデリアがいくつも並び、長い机が遠くまで続いていた。
「まずはお茶にゃ~」
――と、パロは、自らお茶を淹れ始めた。
そういうのって、普通、メイドとか執事がやりそうなものだが……そういえば、まったく人の気配を感じない。
「パロ、この家には誰もいないのか?」
「おらんにゃ。メイドたちは全員バックれたにゃ」
「バッ……バックれた!?」
メイドってバックれるものなのか!?
一体なにがあったし……。
「よければ、事情を聞いても?」
「構わんにゃ。でも、話すと長くなるけどにゃ」
「それじゃ、手短で」
「分かったにゃ。……言ってしまえば、買収されてしまったにゃ」
「買収?」
「コンスタンティンのある配下が、ぼくのメイドを全員、金で引き抜いたってことだにゃ。ぼくは配下になれと迫られたんだがにゃ……丁重にお断りしたにゃ。そうして拒否した結果、メイドたちは買われてしまったのにゃ……まさしく、わたしは買われたにゃ!」
興奮するパロ。
どこか憤慨しているようにも見える――つか、これはかなり怒ってるな。
事情を聞いたところで、俺は更にパロに質問した。
「この聖地は、怪しい宗教とかあったりするのか?」
「……! それは『黒の十字』のことかにゃ?」
「そうそれ。知ってんのか」
「……アレには関わってはダメにゃ」
関わってはいけない――と、パロは深刻な顔をしていた。あんなこの世の終わりのような表情をするくらいだ、相当ヤバイ奴らということか。
まあ、そもそも軍も動くくらいだ……何か裏がありそうとは思っていたが。
ふむ。
質問攻めも悪いな、俺のことも話してみよう。
「……俺は仲間とはぐれちまってな。エルフの郷に行きたいんだけどね」
「エルフの郷にゃ? なるほど、それなら――」
パロが何かを言いかけた、その時だった。
『入るぞ!!』
やたら態度のデカイ男が無断でズカズカと、なんの断りもなく入って来た。
なんだコイツ……!?
「パロミデス! 最後の通告にきてやった。あとは貴様だけだからな。貴様もさっさと私の軍門に下るがよい」
「キ、キサマっ!」
パロが警戒心を剥き出しにしていた。
つーか、俺もこの男には最初から要警戒だ! 絶対に相性が合わなそうだ! 第一印象で分かっちゃったもんね!
「パロ、コイツは?」
「このオールバックの似合わない男は、コンスタンティンの配下にして、『黒の十字』の最高指導者だにゃ! 最近は悪い噂ばかりにゃ。そこらにいる王族やら権力者を買収しまくって強大な力をつけているのだとか……にゃ」
なっ……コイツがコンスタンティン王の配下で、しかも『黒の十字』の最高指導者だって!?
「パロミデス。あとは、貴様とこの豪邸だけだ。いいか、これが最後の交渉だ。貴様も豪邸も言い値で買おうじゃないか。そして、貴様は真の『自由』を得るのだ……決して悪い話ではなかろう」
……このゲス野郎。
きっと、すべて金で買えると思っているに違いない。
やっぱりというか、パロの顔は曇っていた。自分もこの家も手放したくないと――顔にハッキリ出ていた。
ただでさえメイドたちを奪われ、孤立してしまったのだ……辛かろう。
「おい、お前。なんでもかんでも全て金で買えると思うなよ」
「……貴様はなんだ。さっきから我が視界に入っていたが……貴様も私に買われたいクチか? いいぞ、我が『黒の十字』は歓迎する。ただし……お前の場合、お前の『自由』を買うのではなく、奪うことになるがな。フハハハ……!」
このヤロウ……。
ヤツは更に言葉を続ける。
「いいか、世の中はな……金なんだよ。金がある者こそ、巨万の富と覇権を築き上げられるのだ。この世に金で買えぬものは、何一つないのだからな! そうさ、女、領土、家、軍事力……そして、スキルさえも。私はなんでも買える人間なんだよ。フハハッ、ハッハッハハハ!!」
ヤツは、そうハッキリ断言しやがった。
ぷっち~~~~~~~~~~~ん!!!!!
堪忍袋の緒がはち切れた。
コイツは一発ぶん殴る!!!
俺は、拳に『この世全ての憎悪』と『怒り』をマックスパワーで込め、それを発動した――
「怒りのダークニトロフィストォォォォォ!!!!!!!!!!」
「なっ……貴様なにをッ!? うぶふぶぶぶえっふぇえええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!?」
憎しみと怒りに満ち溢れた塊がヤツの顔面で炸裂。
最高指導者をぶっ飛ばし、建物の壁を貫いて例の庭へ。
庭は、パロ曰く『地雷原』だ。
ヤツは、その地雷原に激突し――
その瞬間、とんでもない閃光が。
「この光はいったい……!」
すごい光だ。
なにも見えない。
なにが起きたんだ!?
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