第104話 天使が舞い降りた日
【数分前】
窮地に立たされた。
聖地・コンスタンティンの軍が今にも押し寄せてこようとしていたからだ。その規模、十万。なんで、そんな戦争でもおっぱじめる展開になっているのかというと……。
分かりません。
そう、分からなかった。
俺たちは、ただ聖地巡礼しているだけ。していただけなんだ。
むしろ、俺たちは謎の集団に襲われた被害者のはず。
それがどうして、こうなった。
全くの潔白じゃないか。まるで身に覚えがないし。
そうさ、俺たちは何もやっていない! 断固として!
が、そんなアホみたいな規模で軍がやって来るんだ。こちらの言い分を聞いてもらえるとは到底、思えない。捕まれば即刻、情け容赦なく処刑されるだろう。ギロチンだ。晒し首だ。
そんなのイヤダアアアアアアアア!!
……さあ、そうなると手段はひとつ。
▶逃げる
逃走するしかない。
地獄の果てまで追ってこようとも、ただひたすら逃げるしかない。
が、
ベルにただ一言「無理」とつぶやかれ、呆気なく退路は断たれてしまったのである。おい、そこ、もう少し希望を持てよ……。
ああ、クソ!
八方塞がりってことか……。
終わりか!?
終わりなのか!?
なにか無いのか!
◆
- 現在 -
『サトルさ~~~~~~~~~~ん!』
あー…今度は幻聴まで聞こえ始めてきた。
『サトルさんってば~~~~~~~~』
あー…この妖精のように優しくて、楽しくて、涙が出そうなくらい可愛い声は……どこかで。
どこか……でぇ!?
俺は今、この瞬間、奇跡を目の当たりにしていた。
天使が舞い降りた。
舞い降りたのだ!!!
極端に薄すぎる、かなり際どいスケスケの……しかし、清楚で染み一つない純白のワンピース。ゆるふわミディアム金髪……特徴的な耳。
あの小さくて、モコモコクルクルのイイ匂い……バリバリ純粋エルフの女の子は間違いない。見間違えるはずがない。
「リース……!! リースじゃないか!」
「サトルさん、ただいま戻りました♪ みなさんも♪
あ、それでですね、話は大体ですけれど把握済みです。コンスタンティン軍がこちらへ進攻中なのですね」
「な、なぜそれを……」
合流したばかりのリースがなんで知っている?
「なぜってそれは、乙女の秘密です♪」
「えぇ……」
まー…なんとなく予想はつくんだが、聞くのが怖いなぁ。
うん、聞かないでおこう。
迂闊な発言はできんな、俺。
「まあいい……それで、リース。事情を知っているなら、何か打開策があるということか?」
「ええ。では、時間もなさそうなので手短にお話ししますね」
「頼む」
「一時的に聖地巡礼を中断し、あたしの故郷であるエルフの郷【アヴァロン】へ避難するんです。故郷は、人間には絶対に見つからない場所にあるので、かなり安全です。争い事だって一度も起きたことないくらいなんですよ。
それに、いつか皆さんに故郷を見てもらいたいと思っていたので、ぜひ招待したいのです。国賓級の歓迎をさせて戴きますよ♪」
リースの故郷……【アヴァロン】か。
「へえ、それは名案じゃない。ねえ、サトル。しばらくはリースの、エルフの郷でのんびりするのもいいんじゃないかしら!?」
と、メサイアはテンション高く、期待の眼差しを俺に向けた。
めちゃくちゃ行きたそうだな、コイツは。
「わたしも賛成だなー。どうせ逃げ道ないし」
ベルも少し楽しみそうにつぶやく。
てか、少しどころじゃないな。せわしなく髪を弄っているところを見ると、随分と行きたそうな顔をしている。
なんだ、ベルはエルフの郷に行きたかったんだな。意外だ。
「皆さんが賛成なら、わたくしも賛成です!
兄様、ただ無抵抗に晒し首になるくらいでしたら、リースの故郷へ行く方が絶対にいいですよ。ここで軍と衝突しても、なにひとつ良いことなんてないと思います。今のわたくしたちは、ただの巡礼者。なにも、率先して悪者になる必要なんてないのですから。信じるものは救われるのですよ」
奇跡も魔法もあるように、救いもきっとあるはずだ――。
みんなの意見は完全に一致した。
どのみち手詰まりな状況だ。選択の余地はないだろう。
俺たちは、エルフの郷【アヴァロン】を目指すことにした。
◆
一方、その頃――
【 エルフの郷 - アヴァロン 】
『このアヴァロンはたった今、我クローズドが完全に掌握した!! 貴様たちには、王・コンスタンティン様に絶対忠誠を誓ってもらう!! 従えぬものは即死刑となる!! いいな!!』
アヴァロンにも暗雲が漂っていた。
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