◆外伝② - 魔法使いは狙われている
花の都・フリージアは祭りが大好きだ。
冒険者から『聖者』を抜擢する、一年に一度の『聖者祭』。殉教者を祝う『万聖節』。聖者を尊ぶ『聖燭祭』。原初の聖者を崇敬し奉る『聖ロバート祭』。古のレイドボスを鎮める『鎮花祭』など、やたら頻繁に祭りを催すことで有名だが……
今日は『花見祭』である。
つまり、そのままの意味で『皆で花見を楽しもうぜ!』ということだ。
この都の花は決して散ることはない常花で、万年美しい花を愛でられる。その規模は恐ろしく広い。そんな色とりどりで、多種多様な花を一目見ようと、各聖地から観光客が多く殺到する。
俺はもう見慣れてしまった風景であるけど、メサイアと共にデートが出来るならばと、都を練り歩いていた。
「へっくしょいッ……!!」
「そんな大きなクシャミをしてどうしたの、サトル。誰かによくない噂でもされているのかしら?」
「俺は花粉症なんだよ。今日はいつもに増してキツイぜ……。マスクでも売ってないものか……つーか、メサイア、お前は平気なのか」
「私は女神ですから! そんな地味な状態異常には掛からないわよ」
えっへんと自信満々に胸を張った。
花粉症って……『状態異常』だったのか!? 知らなかったぞ。
つか、地味とか言うな! 辛いんだぞ。マジで。
てことは、ポーションとかスキルで簡単に治せるんだろうか? など思考しつつ、腕を組み、青空を仰ぎ見ていれば――
ぴゅ~~~~~~ん……
と、なにか人影らしき物体が落下してきた。
人間!?
俺は、その人間らしき影を腕でキャッチ。幸い、筋力パラメータがカンストしてしるお陰もあり、余裕で抱えられた。腕がへし折れなくて良かったぜ。
「ふぅ……って、なにが落ちて? お、女の子?」
俺の腕に落ちてきたのは、黄緑色のショートヘアの女の子だった。
しかも激カワだ。
ん……まてよ。
アレ……?
どこかで見覚えがあるような――って、この娘は間違いない!
ある伝説を残したらしい賢者の娘。しかも、聖者。厳密に言えば『聖導』の……
「スイカ……」
「サ……サトルさん」
スイカ――不羈の魔法使い。
とても華奢な体つきをしているが、ふわふわして……守ってあげたくなるような神秘的な女の子だ。
きっと、髪や瞳、身に着けているモノほとんどが『ライムグリーン』だから不思議に見えるんだろうな。ローブですらマイナスイオンの効能がありそうな黄緑だし。
「スイカがどうして、空から落ちて来たんだ……」
「あの、その……危ない!!」
「危ないって、うわっ!!」
スイカが魔法スキル『ネイチャーフォース』で、飛来してきた矢を止めた。
「お、おいおい……なんだこの矢の量! 三十はあるだろ!」
大量の矢が宙でピタッ止まっている。まるで、そこだけ時を止めているかのような。すごいスキルだ。
その矢の数に驚いていると、次第に矢は燃えていき、灰になった。
どうやら、スイカが焼却処分したらしい。
「こ、これは一体どういう事なんだ、スイカ」
「あの人が追ってくるんです! 逃げてください!」
「え、あの人? 逃げるって、追われているのか!? ……ええい、メサイア! 逃げるぞ!」
「……ふぇ?」
メサイアのヤツ、いつの間にか買ってきた『たこ焼き』頬張ってやがる。リスのようにもぐもぐと。
どこで買ってきやがった!? 美味そうだなオイ!
◆
【 花の都・フリージア - シンビジウム 】
スイカを抱え、人混みに紛れることにした。
今日は『花見祭』。
どこの道も混雑しており、人の往来は激しい。引っ切り無しだ。これだけ大混雑している雑鬧であれば、そう簡単には向こうも手出しはできまい。
この都の中心である『シンビジウム』は屋台も多く並んでいる。花のような独特な形をした大きな噴水やベンチもあって、そこに腰掛けている観光客も花見を楽しんでいる。
この場所なら、王様の構える『ポインセチア城』も付近にある。襲われる心配は多少なりとも減るだろうと、俺は考えた。
噴水に近いベンチに座ると、メサイアが――
「はい、あ~ん」
と、爪楊枝に刺した『たこ焼き』を俺の口元へ持ってきた。
スイカが不思議そうにこちらを見ているが、遠慮なくいこう。小腹が空いているのだ。差し出された『たこ焼き』をパクッと戴き、俺は舌鼓を打った。
おお~…! ソースとマヨネーズが絡み合って絶妙だ!
なんて美味い!
ちょっとピリッと辛みもあって、中身がふわとろ。
ファンタスティックな塩梅だ!
「へえ~、これは美味いな。思わず舌を巻いた」
「ちなみに、さっきあげたの私の食べかけよ」
「……まじか。うん、すげぇ美味かったぜ。グラシアス!」
「でしょ♪」
「もう一個くれよ。次は出来れば口移しとかで……」
追加分を貰おうとしたが、メサイアはスイカにもあ~んをしていた。
「はふっ……。……お、美味しいです。とても」
あ~んが恥ずかしかったのか、たこ焼きが美味かったのかどちらか分からないが、スイカは、赤い薔薇のように顔を真っ赤にしていた。果たしてどっちなんだろうね~。両方かな。
――って、うわッ!!
油断していれば、また『矢』が飛んできやがった!!
俺はそれを素手で全て掴み取り、紙を丸めるかのように、へし折った。
「っぶねえな。どっから狙撃してきやがった!」
まるでスナイパーだな。かなりの遠距離からだったぞ。
そうだ、こういう時は手っ取りやばく、『千里眼』を。このスキルなら、敵がどこにいるか捕捉できる。
矢の飛んできた方角へ集中する。
そこには……
……誰もいない。
民家の屋根の光景だけがあった。
もう移動したか!?
ビジョンを覗いていれば、いきなり近くで爆発音が。
「きゃああぁッ!?」
「メサイア! どうした!」
「あの変な矢がまた飛んできたのよ! スイカが守ってくれたけど、さっきからあの矢は何なの!? スイカ……あんた、誰に狙われてるの?」
「はい、実は……」
スイカが言いかけた時だった。また矢が飛んできた! まずい! あの軌道は、スイカの頭だぞ! ヘッドショットってことか! くそっ!
俺は、軽くジャンプして、飛んできた矢を何とか掴んだ。
「……よし、またへし折って――」
やろうかと思ったが、
その矢がいきなり爆発しやがった!!
そうか、さっきの爆発音は矢の爆発した音だったのか――!!
「ぐわぁっ!!」
ちょっとビックリしたが、俺にダメージはない。
これくらいなら屁でもない。
異常事態を察した人々は、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。そりゃ、こんなところで爆発が起きれば大混乱だよな。
「これは花火じゃないぞ、うあぁ~~!」「なんだ!? テロか!?」「モンスターよ! きゃあああ!」「爆弾だ! うあぁぁぁ!」「助けてくれ~!」
などなど悲鳴も上がった。
「まずいな……」
おかげで中心部『シンビジウム』は、俺とメサイア、スイカを除いて誰もいなくなった。
そして、そいつは姿を現した。
あの矢をしつこく射ってきやヤツだ――!
「……お前は!」
…………モザイク!?
人型を成してはいるが、全身モザイクの……なんだ、ありゃ……!
【 外伝③へ続く 】
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