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第四話 家族の再会

 犬の身体になった毬林満村まりばやし みつむらの隣の水槽に、一人の女性がぷかぷか浮いている。年齢は十代後半でカラスの羽根のような艶やかな黒髪に褐色肌だ。

 さらに隣には二十代後半の北欧系の女性が入っている。青白い肌に下半身は青い鱗を持つ魚のしっぽを持っていた。緑色のウェーブのかかった豊かな髪に、耳はひれの様に伸びている。


「こちらの女性たちは誰なのかな」


 僕はミルズに尋ねた。なんとなく気になっただけだ。


「人型は毬林茉莉花まりばやし まりか。人魚は毬林魅羅まりばやし みら。茉莉花ちゃんは満村君の娘で、魅羅さんは奥さんなのだよ」


 これは驚いた。毬林の家族が一斉に揃っているなんて。それにミルズは親しげな口調だった。ミルズと毬林一家は懇意していたのだろうか。


「ああ。満村君は孫の先輩とい関係もあるが、茉莉花ちゃんはひ孫の真仁まさみの友人なのだよ」


 なるほど、そうだったのか。人の縁とは不思議なものだな。


「ちなみに1999年の中華帝国、帝京ディキンに三人は来ていたのだよ。満村君は仕事でね、茉莉花ちゃんの夏休みのついでに旅行に来ていたのさ。真仁はアメリカはニューヨークに行っていたね」


「ひ孫さんがニューヨークだって? 何しに行ったんだい?」


「あの子は天才でね。コンピュータのハードを自製していたんだよ。そこにアメリカの大手コンピュータ会社が目をつけてね。夏休みのついでに真仁を誘ったわけさ」


 コンピュータ会社は僕を誘った有名な会社だ。15歳の記憶しかないからその子は知らない。生きている間に会ってみたかったな。


「さて、満村君を外に出してあげよう。さらに茉莉花ちゃんと魅羅さんもね」


 ミルズは操作盤をいじると毬林の水槽から水が排出される。そして水槽は開いた。

 毬林はぐったりしているが、よろよろと起きだした。ミルズは濡れた体をタオルで拭いてあげる。

 そしてゆったりと瞼を開くと、きょろきょろと辺りを見回した。


「ここは、どこだ? 俺は、死んだんじゃ、ないのか?」


「満村君ひさしぶりだね。儂だよ、杖技平蔵つえぎ へいぞうだよ」


「つえ、ぎ、へいぞう? 網厚あみあつのおじいさんですね。随分変わり果てた姿になりましたね」


 毬林はぼんやりしているのか、見当違いの発言をした。だがきょろきょろと自分の身体を見回すと目を見開いた。


「こっ、これは!! おっ、俺の身体が犬の身体に!! ここは畜生地獄だったのか!!」


「地獄、なのかもしれないな。50年前に君は死んだよ。ヤギの亜人を爆弾で道連れにしてね。でも私が君の死体を回収して、モンローの作った金属細胞メタルセルで復活させたのだよ」


 それを聞いて毬林は俯いた。自分の身体が勝手に改造されたのだ。衝撃なのはわかる。


「そうでしたか。俺はかつて焼けただれた人間を殺して回った。まさに畜生の如き、浅ましき行為だ。俺が犬の身体を持って目を覚ましたのも、因果応報なのだ」


 彼はあっさりと自分の運命を受け入れた。オルディネ教だとあれをすればよかったと後悔してばかりだ。そして裁判を起こし、敵を殺さずにはいられない悪魔の使徒だ。


「ちなみに僕がキノコ戦争を起こしたらしいよ。でも今の僕は15歳なんだ。やったのは18歳以降の僕だよ。世界中の軍事基地からハッキングして核ミサイルを一斉に発射させたみたいだね」


 僕にとっては他人事なんだよね。でも世界を滅ぼすなんて普通はできっこないけど、さすが僕だよね。


「すごいですね。俺には真似できないです」


「……僕はあなたの妻子を殺した仇ですよ。復讐したいと思わないのですか?」


「思いませんね。二人が死んだことは悲しいですが、あの時代を生き延びるのは難しかったと思います。苦しまずに死ねて幸福だと考えています」


 これは驚いた。東洋人は死を受け入れる性質の持ち主なんだね。戦国時代も人が良く死ぬから、死を引きずらないであっさりと受け止めていたという。さらに復讐などやめなさいとも教えてあったそうだ。

 近年はアメリカの毒に犯されて、自分の不幸を運命や寿命と認めず、他人のせいにするようになったと聞く。欧米諸国は自分たちが偉いから、自分の言うとおりにしろという傲慢さがあった。世界が滅んだのはそう言った黒い部分を焼き尽くすためだったのかもしれない。


「ところがどっこい。君の妻子は生きているよ。いや、生き返らせたというべきか」


 ミルズが言った。毬林は呆気に取られている。そう言って二人の水槽が開いた。最初に目を覚ましたのは茉莉花の方だ。素っ裸で濡れている。ミルズはすぐにタオルを持ってきて髪の毛を拭いてあげた


「……パパ?」


「まっ、茉莉花?」


 死んだと思っていた娘と再会できたのだ。毬林はさぞかし喜ぶと思った。しかし次の瞬間、彼の顔は怒りに染まった。


「なぜ茉莉花を生き返らせたんだ!! この子は死んだままの方がよかったんだ!!」


 あまりの言い分に僕はイラっと来た。なんで娘が生き返ったのに、怒り出すんだよ。


「今の世界がどうなっているかは知らない!! だがろくでもないことはわかっている!! なのにつらい世界に茉莉花を放り込むなど許されることではないんだ!!」


「ぱっ、パパは私が死ねばいいと思っていたの?」


「そんなわけないだろう!! だがお前は世界が滅んだ時、同時に死んだんだ!! つまりお前の寿命はあそこで切れていたんだよ!! それなのに無理やり蘇生させられるなどあってはならないことだ!!」


 すると毬林は涙を流した。


「おっ、俺のせいだ……。俺が苦しみから救うと言って人を撃ち殺しまくったからだ。その罪が無関係な茉莉花と魅羅を道連れにしてしまったんだ……」


 毬林は泣いた。男泣きだ。


「それは違うんじゃないかしら?」


 横から声がかかる。それは毬林の妻、魅羅だ。彼女は魚の身体なので這うことしかできない。


「魅羅……? お前まで……」


「話は平蔵さん、ミルズから聞いたわ。あなたは馬鹿よ。今の状況はあなたのせいじゃないわ」


 魅羅は毬林の眼を見てきっぱりと言った。


「あなたが殺したのは死にかけの人間で、楽にするためでしょう。あなたみたいに慈悲深いを見たことはないわ。私なんか茉莉花が生まれる前にゴロツキを事故に見せかけて三人は殺したわ。しかもムカツク相手が苦しむさまを見て楽しんでいたわね。あなたのせいではなく私のせいよ」


 人を殺して慈悲深いとは自然に狂っているな。毬林よりも奥さんの方が危険人物な気がする。ミルズは慌てていない。これが通常運転なのだろうな。


「ママ!! よく見るとママ、人魚になったんだね!! それにパパは犬の身体になっているし、ここは不思議の国なのかしら!!」


 茉莉花が叫ぶ。改めてミルズが説明してあげた。


「へぇ、すごいわね。世界を滅ぼすなんてなかなかできることじゃないわ。あんた天才なのね」


「本当ね。世界は今狂っているから、狂人を一掃するにはもってこいだわ」


 茉莉花と魅羅は僕の正体を知っても態度を変えない。まるで大リーグでホームランボールを取った人間によかったねと言う感じだ。


「僕のせいで君たちは一度死んだんだよ。つまり僕は君たちの敵なんだ。復讐したいと思わないのかい?」


「え? 確かに一度死んだけど、あなたのおかげで復活できたのよね? これでおあいこじゃない」


「そうね。核の炎で数千万人を焼き殺したんだから、いちいち数えてなんていられないわよね。気にしない方がいいわよ」


 二人ともあっけらかんとしている。毬林もそうだが、日本人は心の切り替えが早いな。


「そもそもなんで私たちを人造人間に改造したのさ。何か理由があるんじゃないの?」


 茉莉花が言った。確かに僕も含めて人造人間に改造された。僕の場合はモンローグリードがやったことだが、毬林たちは誰が改造したのだろう。答えは一つだ。ミルズしかいない。


「ミルズはどうして三人を人造人間にしたのさ。面白半分じゃないよね」


「もちろんだ。世界を救う使徒になってもらうためだ」


 ミルズは機械の身体だが胸を張って言う。使徒とは大きく出たものだ。


「正直グリードの方は大した問題じゃない。現地の亜人がなんとかできるレベルだ。逆に他の4人が危険すぎるのだよ」


「他の4人……。そこの水槽にいる俺と合体した奴より危険なのか?」


 毬林が訊ねた。自分がなぜ娑婆から戻ったのか知りたいようだ。


「ああ、危険だ。グリードは面白半分で色んなモンローを作り出したのだよ。様々な性格と能力を持つ自分を見たかったのだよ」


 なんとも短絡的な理由だ。モラルの欠けた科学者はろくなことをしないね。いや僕自身だから何とも言えない。


「そいつらは目標などない。ただ自分の欲望のままにふるまうのだ。グリードの方は龍超人ロン チャオレンに憑りつかれている。今はモンロースニークと呼ぶことにするよ」


 するとミルズの身体からぴーぴーと発信音がした。


「むぅ、スニークの奴め。ここの場所を超人の息子に教えたようだな。人質を救うために旅立たせたようだ。しかしスニークは龍京にとどまっている。卑劣だな」


 なんでも龍京ではスニークが超人の息子、金剛ジンガンを苦しめるために、恋人の人間に細工を施した。彼女を助けたければ白虎パイフー県にある研究所を目指せと言ったらしい。

 しかしスニーク本人はここには帰ってこない。金剛に無駄足を取らせて絶望する様を楽しむためだという。これはスニークの考えではなく超人の考えが強いそうだ。


「でも個人の神応石で人造人間があっさりと操られるものですか? 私はよくわかりませんが」


 魅羅が突っ込んだ。そもそも神応石は周囲の精神に作用する効果がある。だが僕の件もそうだが、人間がそんなに簡単に操れるのだろうか。


「正確には神応石ではない。地中に埋まった神応岩スピリットガイアのせいなのだ」


 ミルズがはっきりと言った。

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