第三話 歪み切ったモンローの末路
「僕の身体はどうなったのかな?」
僕は目の前のミルズに尋ねた。銀色の球体に猫耳を付けた機械が宙に浮かんでいる。僕の知っている時代ではありえない技術だ。答えは簡単、ここは未来の世界なのだと気付いた。
「……まずは説明しましょう。今は2049年で場所は中華帝国の西方にある白虎県です。ここはあなたの別荘にある研究室ですよ」
研究室。別荘を作ったのに研究室を作るのは、僕が研究馬鹿ということだ。
「君の身体は君の子供の身体とシャムネコの細胞を掛け合わせたのです。そして金属細胞を移植したのだよ」
……あれ? 僕の子供? 僕に子供なんかいたっけ?
「実は君は1999年に108人のガールフレンドを連れてきたのだよ。そして世界各国の軍事基地をハッキングして、世界を核の炎で焼いたのです。所謂、核戦争《グレート マッシュルーム ウォー》ですね」
ミルズの説明についていけなかった。人の肌が嫌いな僕がなんで108人ものガールフレンドを作ったんだ? さらに世界をキノコ戦争で焼き払ったと? 漫画みたいな話で突いていけない。だが現実は厳しい。僕はすぐ受け入れた。悩むよりはましだ。
「まずはなぜこんなことになったのか説明しよう。話はそれからだ」
18歳の僕は突如世界各国からネットで108人の女性を集めたそうだ。僕の愛人になりたければ白虎県に来るようメールを送ったという。そしてきっちり108人愛人になったそうだ。というかなんで集まってきたのかわからない。多分僕の財産目当てなのだろうな。
さらに珍しい動物や植物を集めたという。別荘というより核シェルターだ。中華帝国からは日本の企業も参加して作らせたという。
そして世界各国の軍事基地をハッキングして、一斉に主要都市に核を落としたという。世界は核の炎に包まれ、核の冬が訪れた。
10年ほど経つと女たちの間に子供が生まれた。だが僕はあまり可愛がらなかったそうだ。段々傲慢になる女たちに愛想をつかし、毒ガスを使って皆殺しにしたという。
あんまりな展開だが、ミルズは驚かなかった。実は僕の行為は世間で噂されるゴシップと同じだったという。
108人のハーレムを作り、世界を滅ぼす恐怖の大王。僕は大衆の望み通りの行動を行ったというわけだ。
なんでそうなったか。恐らくは僕の神応石のせいかもしれないという。世界規模の不況の中、僕を生贄にすることで不満を解消していったのだ。僕は恐怖の大王であり、僕が不幸になれば世界は救われると思い込んだのである。
「ところで僕を改造したのはあなたですか?」
「いいや、モンローグリードだ」
グリード。七つの大罪では強欲を意味する言葉だ。そいつが108人の女を抱き、世界を滅ぼしたのだろう。
「グリードは自分の生まれた子供たちを改造したのだ。自分の複製した神応石を移植してな。君の場合は15歳の記憶を持つモンロー15として製造したのだよ。その他にも計5人のモンローを作ったのだ」
何のために自分の複製人間を作ったのだろうか。多分人間嫌いをこじらせて自分を作り出したのだろう。僕の未来の姿だ。
「さらにグリードは死んだ女たちの首と身体を切断して、他の動物とくっつけたのだ。人造人間、機械仕掛けの動物だな」
ミルズは研究室を案内してくれた。数多くある水槽には人間の首に犬の身体がくっついた怪物がぷかぷかと浮かんでいた。
他にも猫や鳥、蛇や鹿など色々あった。流石の僕も吐き気がしてくる。そもそも金属細胞は寿命を延ばし、病気に強くなる身体を作るためだ。こんな論理に反する研究のためじゃない。
「ところでどうして僕の顔はシャムネコなのでしょうか?」
「気まぐれだ。子供の首にシャムネコを挿げ替えたら面白そうという理屈だよ。儂としては君が発狂せずに済んだことを喜んでいるね」
そりゃあ僕も驚いたよ。でも現実はきっちり見ないといけない。泣き叫んで過去に戻るなら誰でもそうするだろう。
「君は体内の磁気を自在に操れる能力を持っている。その力で身体を鋼鉄のように固くなるし、大地の磁気に反発して空も飛べるよ。気分はオムスビマンに近いかな、顔を食べさせることはできないけどな」
そうだったのか。僕は人を救うヒーローになりたかった。自分の顔を食べさせることはできないが、お腹を空かせた人々を救うことはできそうである。
「そういえば人類は滅亡したのでしょうか?」
これは一番大事な話だ。それにキノコ戦争が起きたのなら、世界は放射能で汚染されている。まともに生きることは難しいはずだ。
「人類は生き延びておるよ。だが人間から亜人へ変化したけどな」
ミルズは巨大なモニターの前にやってきた。そしてキーボードを操作すると画面が映る。
そこにはヤギの頭をした人間たちが農作業を行ったり、漁業を営む姿があった。
人間の姿は少ないが、生き延びていたようである。
「今から50年前、世界はキノコの炎で焼き尽くされた。だが一部の人間は動物などの亜人に変化したのだ。そして死んだ人間の肉を加工して食べることで生き延びたのだよ」
人肉を食べて生き延びたのか。食料がないなら仕方ないね。僕だってそうする。
「しかし生き延びた人間たちは自分たちの所業に恐れおののいた。人肉を食した事実を知られまいと、自分の村以外の婚姻を認めないようになってしまったのだ。世界各国でそれは起きている。亜人たちは割り切っているがね」
「神応石の影響かもしれませんね。人間の肉を食べたいから亜人になったのかもしれない」
ミルズも同意見だった。あと世界はビッグヘッドによって浄化されたという。本来はラジシャン砂漠にしかいなかったが、進化したビッグヘッドが自分の分身を生み出した。そして世界中の原子力発電所や核廃棄施設、核の冬で出来た雪解け水で出来た湖などを中心に活動しているそうだ。さらに海に活動の場を移し、汚染された海水やゴミなどを食べて浄化していったそうである。
日本共和国で生み出された生物が世界を救うとはなんとも言えないな。1945年には疲労島や詠﨑《ながさき》で核実験に失敗し、何十万人の犠牲者を出したという。アメリカは核兵器を開発しソ連と敵対していた。人を大量に殺す兵器と対照的に、人を救う生物を作るのは大したものだ。
「ところでグリードは何処に行ったのかな。それに僕の他に作られた5人のモンローはどこにいるのかな?」
「……。一人を除いてここにはいない。出ていったのだよ。特にグリードは一番おかしくなってしまったのだよ」
モンローグリードは全身が銀色の人造人間だという。乳首を針に変える能力を持つそうだ。そいつは頭の弱い人造人間を引き連れ、現在は亜人たちが作った龍京を争うとしているらしい。
亜人たちが町を作るのはすごいな。人類の底力を見せつけられた気分だね。
「なんで亜人たちの町を争うとしているのかな?」
「いや、本人は亜人の事などどうでもいいと思っているよ。問題は自分の意志で動いているというわけではないということだ」
「……いったい誰の意思があるのでしょう」
「龍京の大臣、龍超人というヤギの亜人だよ」
ミルズが答えた。自分の分身を飛ばして調査しているようである。しかし大臣か。町の支配者にしては珍しいな。
なんでも龍京は王大頭というビッグヘッドが作り出したという。50年前に龍一族と共に活動しているそうだ。彼等は龍英雄を神として扱っているという。なんでも50年前に活躍した龍一族の青年だそうだ。気が狂った日本人から一族を守ろうとして戦ったという。しかし相手が爆弾を抱きかかえており道連れにされて死亡したそうだ。
それ以来、遺児である超人を神の子とて敬った。しかし本人はそれがストレスでイライラしているそうである。
「しかしその日本人はどうして人を殺しまくったのだろうか」
「当時はキノコの炎で死にかけた人間が多かった。さらにキノコの冬でもう人類は終わりだと思い、楽にするために盗んだ猟銃で殺して回ったのだよ。本人は奪った食料を手に掛けず、仲間たちだけに渡したのだ。まったく昔と変わりがなかったよ」
ミルズはしみしみとした口調で言った。なんか相手はミルズの知り合いのように思える。
「英雄を殺したのは毬林満村といってな。儂の孫の先輩なのだよ」
「そうでしたか。僕も苦しむ人に止めを刺すことは良いことだと思います。一度でいいから会ってみたかったな」
するとミルズはある部屋に案内してくれた。そこにはいくつもの水槽があり、中には異形がぷかぷかと浮かんでいた。
その中に日本人男性の首に、犬の身体をくっつけたものがあった。
「こいつが毬林君だ。英雄との戦いで首だけになったが、犬の身体に移植したのだよ。グリードは喜んでいたね。そして彼の細胞を採取して死んだ子供の身体に移植してもう一人の毬林君を作ったのだよ。今も眠っているけどね」
そう言って僕に見せたのは、これまたみょうちくりんな存在だった。
肌の色は銀色だけど左側は赤髪で目を覆っていた。鼻はとがっており、唇は小さい。毬林の身体だ。
右側は髪が青く、目はくりくりしており、鼻は団子鼻で唇は太い。
あれは僕だ。なぜ僕が半分毬林と一緒なのだろうか。
「こいつはグリードが実験として作ったものだ。自身が神応石の影響を強く受けたので、関係ない人間と身体を半分に分ければどうなるか試した者なのだ」
なんとも言えない気分になった。知らないうちに僕は歪んだ人間になってしまったのだろうか。
過去の話をさかのぼると、忘れている設定がやたらと多く驚きます。
読み直すと割と新鮮な気分になりますね。スマホで読みながらチェックすると面白いです。




