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第一話 チャールズ・ヒュー・モンローとはいったい何者か

僕の名前はチャールズ・ヒュー・モンロー。アメリカの西部カルフォルニアにあるロサンゼルスで生まれた。ろくな産業がなくメキシコからの不法入国者たちがたむろしていた。まるでゴミ溜めのようである。

両親はロシア系の白人で中流の生活を送っている。

 ママはオルディネ教の熱心な信者だ。8歳の僕をまるでサーカスの猛獣を躾けるようにしていた。少しでも反論すれば鞭で叩くし、裸の上に冷水を浴びせる始末だ。

 パパはそんなママと僕の事を無視している。厄介事は御免なのだ。僕が泣いてもしらんぷりしている。

 

 学校に通っていたけど、すぐ終われば帰宅しなくてはならなかった。数秒でも遅れればすぐに鞭が飛ぶからだ。もしくは熱湯を浴びせるのだ。本当は学校にも通わせたくないけれど、学校から言われているので渋々通わせている。

 ママは悪魔だ。僕が悪魔に憑りつかれていると言って折檻を繰り返す姿は悪魔そのものだ。


 ママは自分に酔っていた。自分は神に選ばれた人間で何をしても許される存在だと思い込んでいたのだ。

 そのせいか近所でも折り合いが悪く、奇声を上げ通行人に暴行を加えるようになった。

 ある日ママは警察に逮捕された。児童虐待の疑いがあるとして警官から冷たい手錠をかけられた。

 だがママは暴れまくった。自分は偉いんだ、息子の躾を休みたくないんだ、早く手錠を外せ、お前たちに天罰が下るだろうと叫んでいた。


 ママはそのまま精神病院に収容された。檻のような病室で正気を失っていた。僕の顔を見ると興奮して外へ出せ、お前には悪魔が憑りついているんだと大声で叫んでいた。

 するとママは白目を剥いて泡を吹いて倒れた。医者を呼ぶとママは死んでいた。脳溢血だった。


 以後僕はパパと二人暮らしになった。けどママがいなくなったからと言って平和になったわけではない。僕はパパを信用しなかった。だって痛めつけられた僕を助けてくれなかったからだ。敵の一人と思っていた。


 僕の友達は人工AIだ。町のジャンク屋でパーツを買い、組み立てたのだ。銀色の筒に長方形の穴から芽が光っている。マジックハンドを備え付け、キャタピラで移動できるのだ。高さも調整できる。

 そいつの名前はミルズと名付けた。ミルズは製粉するという意味がある。


 ミルズは優秀だ。僕がやりたいことを前もって行うのだ。その性能の良さに大企業が目を付けており、僕は大手のコンピューター会社にスカウトされたのだ。おかげで僕はアメリカで一番有名な大学へ入ることが出来たのだ。


 「僕は世界を変えて見せる」


 その頃の僕の夢がそれだった。ハードに力を込め、ソフトを充実させる。ミルズの性能は徐々に向上していった。

 だけど僕は大学では友達が出来なかった。飛び級なので周りは大人ばかりだし、幼少時から友達の作り方など全く知らなかったのだ。

 その癖子供のくせに生意気だといじめを行う大人が後を絶たなかった。そんな時に助けてくれたのは鉄の塊であるミルズだ。血の通う人間なんか汚らわしくて触れたくなかった。


 僕は数々の発明品を作り上げた。それらを特許申請することで巨大な金を生み出せたのだ。僕はパパに高級街に豪邸を買ってやった。僕はすでに一人暮らししており、パパを放置するのは危険だと思ったからだ。

 しかしそれがいけなかった。パパは仕事をやめ、毎日酒を飲み、カジノで無駄遣いを続けていた。

 そして12歳の頃、パパは酒の飲みすぎで死んだ。その直後までカジノのスロットマシンで2万ドルの損害を出していたけど、ジャックポットを当てて借金を返済したのだから、大したものだ。


 僕はひとりぼっちになった。けど両親が死んでも平気だった。あいつらはボクに対して子供らしい生活を何一つ提供しなかったのだ。

 マスコミは僕に対して無遠慮なインタヴューをしてきた。すごく腹が立ったので両親が死んで悲しいとウソ泣きをしてやった。


 僕は稼いだ金を不法入国者のために使うことにした。アメリカ人は自分の事ばかり考えており、他者なんか気にしない。ハリウッドの俳優だって稼いだ金は自分のためだけに使っている。


 僕は彼等の為に空き家を買い取り、格安で住まわせた。女は掃除や洗濯などの仕事をさせて、子供は学校に通わせた。もっとも親は学校より稼ぐことを優先させたかったが、そこは我慢してもらった。

 僕は清掃会社を作り、町の清掃に力を入れた。汚れた場所は悪魔が宿りやすい。道路に落ちたゴミはすべて片づけられ、壁の落書きも消えていった。


 少しずつ彼等に永住権を申請するようにしたのだ。彼等は僕に感謝してくれた。特にメキシコ出身のカルロスという青年が僕に対して「あなたは我々の希望リベルターだ」と褒めたたえ、僕を擁護する団体を作ってくれた。カルロスは僕の銅像を作ったりしたのだ。

けど元から住んでいた町の人は僕を非難した。不法入国者たちの仕事を斡旋するより自分たちの利益を優先しろと口汚く叫ばれた。

 だけど僕は気にしない。むしろ町の連中が悔しがるのが大好きだ。


 15歳の頃、日本共和国から一人の老人がやってきた。彼の名前は杖技平蔵つえぎ へいぞうといって生物学の権威だという。80代だが肉付きがよくがっしりとした体格をしていた。ライオンのようなたてがみでカイゼルひげを生やしていた。猛禽類のような目つきをしている。とても日本人とは思えなかった。

 僕と平蔵の出会いは大学の図書館だった。僕は日本の絵本を読んでいた。

 そらとぶ! オムウビマンといい、頭がおむすびのヒーローが、お腹を空かせた子供に食べさせる内容だ。


 僕はすでに博士号を取っていた。コンピューターだけでなく、画期的な新薬や医療などを生み出していた。特に金属細胞メタルセルの発明は僕の会心の出来だと思う。老化を防ぎ、身体を丈夫にするのだ。もっともオルディネ教の信者は毎日デモを起こしていた。


「初めまして。私は杖技平蔵と申します」


「どうも初めまして杖技さん。チャールズ・ヒュー・モンローと申します」


 僕は思わずぺこりと挨拶した。日本人は礼儀正しいと言うが本当だった。まるで王者のような風格があった。


「そうなのですか。僕はこの絵本が好きなのですよ。我が国のように悪人を叩きのめして終わりではないのが良いですね」


 僕はアメコミが大嫌いだった。特に政治色がやたらと強く、何十年も同じことを繰り返す。まんねりにもほどがあった。


「そうですね。オムスビマンは頭がおむずびでできている。彼はおなかをすかせた人間に自分の頭を食べさせるのですよ。それで力が弱まっても決して希望を捨てない。日本ではアニメ化して子供に大変な人気がありますね」


「僕はこのオムスビマンに共感を覚えます。ヒーローとはおなかをすかせている人に食べ物を届けるものだと思っています。悪人がビルを破壊し、大地をえぐってもヒーローはほったらかしにして帰っていきます。もっともそれをつっこんだ作品もありますが、具体的に解決しようとしませんね。ただ日本人に対して悪意を抱く人も多く、この絵本も僕が持ち込んだ私物に過ぎません」


 そう絵本は僕が持ち込んだものだ。ここの人間は日本製の作品を忌み嫌っていた。もっと言えば黒人を主役とした作品も排除されている。

 その癖自分たちにされたことは一生忘れない。ハワイの真珠湾奇襲は何十年前の話なのに、今も蒸し返している。


 僕は年の離れた老人と友人になった。この人はなぜここに来たのだろうか。

 彼は神応石スピリットストーンという石の研究に来たという。神応石とは人間の脳に砂粒ほどの大きさの石だという。それは火葬されても燃えない性質だが、あまりにも小さくて捨てられるのがほとんどだそうだ。


 神応石は日本古来の金属であるヒヒイロカネの正体ではないかと推測していた。

 その比重は金よりも軽量であるが、合金としてのヒヒイロカネは金剛石ダイヤモンドよりも硬く、永久不変で絶対に錆びない性質をもつそうだ。また常温での驚異的な熱伝導性を持ち、ヒヒイロカネで造られた茶釜で湯を沸かすには、木の葉数枚の燃料で十分であったとも伝えられているらしい。確かに神応石とよく似ている。


 なんでも大戦時に日本が戦争捕虜を使って実験したという。そこで捕虜たちは自分たちの未来に恐怖し、獣へ変化したそうだ。日本兵を数人食い殺した挙句、射殺されたという。

 自分はそれを主導していた。戦後は戦犯として死刑宣告を受けたが、死亡したと見せかけて名前を変えて今に至るという。


 僕は好奇心を大きく刺激された。神応石はソフトに似ている。僕はミルズに命じてアメリカの墓地から神応石を抜き取るように命じた。はっきり言って死者の眠りを妨げる行為だ。ヒヒイロカネが廃れたのも死者への冒涜になるからだろう。

 オルディネ教が知ったら僕は悪魔の使いになってしまうだろうな。

 ママが僕を悪魔が宿っていると言ったのは間違いではなかったと思う。


 平蔵さんは大いに喜んだ。なぜ神応石の研究をするのか。なんでも日本ではビッグヘッドという遺伝子組み換えの生物を作っているというのだ。

 こいつは植物の遺伝子を多く組み込み、放射能汚染を浄化する作用があるという。

 世界の使用済み核燃料を浄化するだけでなく、核実験で汚染された土地を浄化することも可能だ。

 

 とはいえアメリカでは採用されないだろう。なぜならオルディネ教は新たな命を生み出すことを認めない。神が作り出したもの以外を認めないのだ。

 例え放射能汚染を除去できても、宗教がそれを認めないのである。


 平蔵さんはビッグヘッドが採用されるのは中華帝国くらいだろう、向こうは無神論者が多いし、皇帝陛下も自国が豊かになることを第一と考えていますからねと答えた。


 僕は平蔵さんとの出会いで目の前が明るくなった。だが破滅の足音はすぐそばまで聴こえてきたのだった。

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