最終話 これからのこと
「「「おかえりビリー!!」」」
コミエンソから帰ってきたビリーは美女三人に迎えられた。
銀髪に褐色肌の美女はアラナ・キャロウェイだ。
黒髪で獣のようなしなやかな美女はアモルである。
最後に白髪で赤目の幼女はカーミラだ。
「おう、お前たち元気そうで何よりだ」
「ハイディホ―!! こちらも元気ですよ!! 何より見てくだされこの街並みを!!」
アラナが右手を伸ばした。コミエンソはすっかり変わっていた。地面はきっちりとした石畳に石造りの家が立ち並んでいた。さらに上下水道も完備されているという。ビリーたちがサルティエラの町に行って、ひと月しか経っていないのに、この変わりようは魔法としかいいようがなかった。
「こいつはいったいどういうわけだ?」
「そう!! ビッグヘッドたちが作ってくれたのです!! カーペンターヘッドといって毎日寝ずに働いてくれたおかげです!!」
アラナは絶賛してくれた。彼女はメロンの様にたわわな乳房をぶるんぶるんと揺らせていた。腰は細いが尻は大きい。絶世の美女だが研究肌でビッグヘッドたちの活躍を感心していた。
「……山や石の破壊はほどほどがいいんだけどね。そりゃああたしだって火を起こすのに木の枝を集めるし、縄を作るのに木の幹を剥がすこともあるよ」
アモルは遠い目をしていた。黒髪で肉食獣のようなしなやかな体つきだ。毛皮を身にまとっている。コミエンソの発展は微妙な態度であった。アモルは自然を愛しているわけではない。生きていくうちに家を作り、草を編んで籠を作る。
だがあからさまに大地をいじくり返すのは、思うところがあるのだろう。
それでも文句は言わない。ビリーの言うことに間違いはないと思っている。
「おっ、お祝いに、一曲、披露します!!」
カーミラがアコースティックギターを弾き始めた。幼女のような体形だが、ギターの腕は上がっているようだ。
「カーミラ、うまくなったな」
「いいや、彼女はカーミラではなく、ベラだよ」
ビリーが感心していると、アラナが否定する。
「映画でドラキュラを演じたベラ・ルゴシに関した名前にしたんだよ。名前の力は強いからね。カーミラは女吸血鬼と連想されやすいから、名前を変えたのさ」
なるほどと思った。
「お前たち、無事帰ってきたな」
そこに褐色肌でドレットヘアーの男がやってきた。彼の名前はキャブ・ブリッジウォーター。ビリーの留守中にコミエンソを守ってきたのだ。
「ようキャブ。お前のおかげで町は奇麗になったぜ!! ありがとよ!!」
「俺だけの力じゃないのだがな。ところでお前とルイ、ラタ三世さんだけだな」
無線機ではヒュー・キッドの仲間であるスプーキー・キッズと出会ったと聞いている。
だが帰ってきたのは三人だけだ。
「羅漢はエビルヘッド教団の拠点に帰ったよ。もうなれ合いはおしまいだってな」
彼はサルティエラの町で別れた。ここでエビルヘッド教団の教会を作ることになったという。もちろんフエゴ教団の教会も作る。この町はヒコ王国という国とも交易をしていたので、様々な民族が混じっても問題はない。
もっとも人間の住民は内心嫌でたまらないのだ。亜人の住む村を見つけては火をつけて、女子供を矢で撃ち殺したいと思っている。
これからのサルティエラは人間の村に赴き、強引に村長の家に嫁入りさせ、娘をサルティエラに嫁がせる。亜人の場合は亜人を町に迎え入れる。亜人に興味を持つ人間もいるのでそちらに任せていた。
エビルヘッド教団の本拠地、フィガロではシュザンヌの言葉は届かなかったという。もっとも教団の人間が基地外女の言葉など耳に貸さないだろうが。
「スプーキー・キッズの皆さんは別れました。ヒュー・キッドの他にチャールズ・ヒュー・モンローがいるそうです。そいつらを始末するために世界各国に散らばっているそうですよ」
ルイが説明してくれた。ヒュー・キッドたちは失われた科学を遺産があるという。自分たちとは大違いだ。
こちらは復興で大忙しだ。部品を作るにしても作る職人がいない。一から育てなくてはならないだろう。科学が復活するには百年はかかると思われる。
「それとシュザンヌの言葉は聞いたぞ。あれのおかげでビエドラグリスの連中はかなり怖気づいている。サビオさんが説得するのに大忙しだ。その上箱舟に残った連中は絶対外に出ないと主張しているし、俺たちは帰ってくるなと無線で怒鳴っていたな」
箱舟に残った人間はシュザンヌの呪詛に恐れおののいている。外の世界より、箱舟の方が安全なのだ。そして自分たち以外の血筋が入ることを異様なまでに拒絶するようになったという。
とはいえ若者の大半はコミエンソに興味を抱いている。反対しているのは老害だけだ。必死に止めようとする老人たちを蹴り飛ばし、コミエンソに移り住む人間もそれなりに多いのである。
「まあ、最初から無血で済ませるなんて思ってないさ。外の世界の人間にしてみれば、俺たちは侵略者だ。植民地を作る気はないが向こうはそう思っているだろうな」
これからのフエゴ教団は血で血を洗う日々になるだろう。科学の力でいうことを聞かせても、寝首を掻く為に爪を研ぐかもしれない。
「ハイディホ―!! 我々はできることをやるだけさ!!」
「あたしは邪魔な敵を殺してあげるよ。住処をもらったからね」
「わっ、わたしはギターを弾くしか能がないけど、がんばります!!」
アラナ、アモル、ベラが力強く励ました。ビリーはそれを聞いて勇気が湧く。
「敵を殺しても平和にはならないな。世界が荒廃しようが関係ない。まったく人の世は難しいもんだ」
ビリーはため息をついた。これから彼女たちは遠く険しい道が待ち受けているだろう。だがビリーに不安はない。頼れる仲間がいるからだ。
☆
「ロキたちは全滅したか……。なかなか面白かったな」
見渡す限りの岩山が海のように広がっている。その内とんがった大岩の上に一人の男が座っていた。
そいつは異形であった。右側は白人の少年だが、左側は日本人男性であった。
「すべてはお前の思惑通りか?」「僕はシュザンヌの形を取っただけさ。あとはあの女がしたことだ」
野太い男の声と、口調が軽い少年の声が入り混じっている。一つの身体にふたつの心を持っていた。
こいつの名前はモンロー19という。右側は19歳のチャールズ・ヒュー・モンローで、左側は毬林満村だ。彼はモンローの発明品である金属細胞を使って人造人間に生まれ変わったのである。
「スプーキー・キッズたちも全滅したな。可哀そうなことをした」「可哀そうなものか。あいつらは自ら力を望んだ結果さ」
スプーキー・キッズとは彼等が世界各国から見つけた人材だ。無力な自分を呪い、世界を憎んでいた。モンロー19は彼等に力を与えた。スプーキー・キッズという名称は不気味な子供たちという意味がある。子供じみた連中に相応しい名称だと思っていた。
「まさかヒュー・キッドもスプーキー・キッズと名付けたのは驚いたな」「君とヒュー・キッドは同じ人間だ。センスも似るのだろうさ」
人が見れば独り言をつぶやいているように映るだろう。だが二人は五十年近くの付き合いがある。
「彼は放置してもいいだろう。いや、手を組んでもいい。問題は彼だ」「ああ、あいつだけは生かしておけない。この世界を破壊しようとする異常者は消さなければならない」
モンロー19は遊び人であった。シュザンヌを利用したのは神応石の群体が珍しいからだ。シュザンヌは両手両足を知的障碍者であるロキたちに憑依させた。
そして力を得た彼等は人間たちを力で支配したのである。あくまで遊びであり人間を滅ぼしたいわけではない。
シュザンヌの最後っ屁は予想外だったが、それはそれでいいと思っていた。
「俺がこんな目に遭うのは、俺の責任だ。世界が終わったと思って人を殺しまくった罪が帰ってきたんだ」「それを言うなら僕もだよ。僕は世界を滅ぼした。でも心の中ではどうなってもいいと思っていたんだ」
二人の顔は険しくなった。自分たちは正義の味方ではない。ただの人殺しだ。その罪の重さが自分たちを娑婆へ戻したのである。生き返った喜びより、死ねない苦痛の方が大きくなった。
だからこそ人間の生きざまを見ることが面白くなったのだ。人が死ななくても楽しめる。
しかし、別のモンローは世界を再び滅ぼそうとしている。それだけは阻止しなくてはならない。
「やつはどこにいるだろうか」「探すのに苦労するだろうな」
モンロー19はそうつぶやくのであった。
今回で3・5部は終了です。次回は1・2・3部が始まります。ご期待ください。




