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第三十五話 サルティエラの町

「ここがサルティエラの町か。すごくキレイだな」


 川岸に木造船が着くと、ビリーはすぐ地面に降り立った。町は石造りで出来ており、整理整頓されていた。今までは木造の家が多く、不潔だったので感動していた。

 

「でもこの町の人たちは心が冷たいのよ。自分たちは文明人であり、他の人間は猿だと威張り散らしていたんだから。でもここ五年はおとなしくなっているわね。さらに軍隊を編成して周辺の村を襲撃しては、この町に組み込んでいるそうよ」


 ウンディーネが言った。彼女は黒ヤギの亜人、龍羅漢ロン ラカンによってお姫様だっこされている。魚の足では直立歩行ができないためだ。

 

 周囲を見てみると人間の住民が多い。しかし全員こちらをにらむように見ていた。顔はしかめており、まるで親の仇を見るような目だ。老若男女問わず、みんなが見るものを不快になるような表情を浮かべていた。


「何かしらあの人たちは。よそ者が来て警戒するのはわかりますが、あれほどいかめしい顔は見たことがありません」


 小柄で腰まで伸びた金髪の少女、ルイが言った。それをウンディーネが答える。


「どうもロキの仕業みたいですよ。昔は三角湖トライアングルレイクの人たちに対して罵詈雑言を並べていましたが、今は一切言いません。しかも足元を見て安く買い叩いていたのに、普通に取引しているそうですよ。でもここの人たちはそれが我慢ならないみたいですね」


 彼女はやれやれと首を横に振った。よく三角湖の住人は交易をやめなかったと思うが、サルティエラからは必要なものを購入する必要があったのだろう。

 それに三角湖と取引する必要もあり、我慢強い人間を回したのだ。


「ここの人間は亜人を嫌っているのか?」


「嫌っていますよ。いえ、嫌わないといけなかったのです。この辺りでは人間の数が少なくなりました。亜人の村がやたらと多いのです。人間の尊厳を取り戻すには亜人を差別しないといけないらしいですね。とてもくだらない理由ですけど」


 羅漢の言葉にウンディーネは皮肉を込めた。今のサルティエラでは差別が出来なくなった。そのためストレスがかなり溜まっており、爆発状態なのだろう。


「やあ、箱舟の皆さん。ご機嫌麗しゅう」


 一人の男が現れた。金髪碧眼で二十代後半の青年であった。横には白い露出の多い服を着た金髪碧眼の美女が寄り添っている。胸がメロンの様に大きく、どこかぼんやりした表情を浮かべていた。

背後には革の鎧を着た兵士たちが横に整列している。全員、死んだような目をしていた。


「私の名前はロキ。この町を支配している者ですよ。私はあなたたちのことをよ~く知っていますよ。黒髪の人がビリーで、金髪がルイ、黒ヤギさんが羅漢でコマネズミがラタ三世。そちらの人魚はご存じありませんね」


「私の名前はウンディーネです。チャールズ・ヒュー・モンローによって生み出されたスプーキー・キッズの一人ですよ」


 彼女がそう挨拶をすると、ロキの顔はぴくっと反応した。


「ふふふ、モンローの手先ですか。あの男は今どこにいるか教えていただけませんか?」


「それはどちらのモンローですか?」


 ウンディーネが笑みを浮かべると、ロキは目を細めた。


「全員ですよ。この世にいるモンローは一人たりとも生かしておけません」


「あの人たちを簡単に殺せると思っているのですか? すでにこちらも犠牲者が出ておりますの。彼等の報復は私たちの悲願でもありますのよ」


 今度はウンディーネの顔が険しくなった。怒りで震えている。


「おいおい、さっきからなんなんだ? モンローなんてもう死んだんだろ? なんで過去の事にやたらとこだわるんだよ。まったく過去にしがみつく奴はくずだぜ」


 ビリーが吐き捨てるように言った。彼女は心底彼等を見下げ果てていた。なぜ明日の事を考えないのか理解できなかった。


「ふぅ、箱舟の子孫は進歩がありませんね。そもそもあなたたちは知っているのでしょう? モンローは今も生きていると。そして奴は世界の破壊を望んでいるのですよ。百年前にキノコ戦争を起こしたのに、人類は生き延びたのですからね。怒りに震えているのですよ」


 ロキは右こぶしを握るとぷるぷると震えていた。怒りで爆発しそうになっている。

 だが羅漢は怪訝な顔になった。何か思いついたようであった。


「で、俺たちをどうするつもりだ? 殺すのか?」


 ビリーが訊ねた。だがロキは首を横に振る。


「それはこちらのセリフですよ。あなたたちこそ私たちをどうしたいのですか? 自分たちの意に反するものたちを一人残らず殺して回っているのですか? そう、ホビアルにアトレビド、フエルテと同じようにね」


「あなたは私たちの事をよく知っているようですね。ひょっとしてそちらにいるエスタトゥアさんの力ですか?」


 ルイが指摘した。だがエスタトゥアは顔色一つ変えない。


「……なぜ、彼女がエスタトゥアだと気付いたのですか?」


「消去法ですよ。この町で彼女みたいな表情の人は見たことがありません。なら残りのエスタトゥアさんだと鎌をかけただけです」


「鋭いですね。正解ですよ。彼女は特定の人間の神応石スピリットストーンと共鳴して、相手の見た光景を自分が見られる能力を持っているのです。ビエドラグリス村やカウティベリオ村、ナダ村の事も知っています」


 ロキが説明した。エスタトゥアの力は生きた人間カメラと言ったところか。


「さて私の力を説明せねばなりませんね。私の力は言葉で相手を操る力を持っているのですよ。ですがきちんと相手が理解しなければなりません。そこらへんで歩いている人間にお前死ねと言っても反応はしませんよ。というか死ねと言っても死ぬことはありません。私の力は催眠術と同じでね、犯罪や自分の命に係わることには拒否してしまうのですよ。今、あなたたちに奴隷になれとか自殺しろと言っても全く通用しません」


「おいおいおいおい、ネタバレしていいのかよ」


 ビリーが言ったが、ロキは平然としている。恐らくはばらしても問題のない情報なのだろう。


「より深く命令をするには私自身が神応石に直接命令をしなければなりません。これでも犯罪や自殺は無理ですけどね。ですがいじめをしてはいけないと命じればその通りになります。一生解けません」


 ロキはとんでもないことを口にした。その笑顔は禍々しく、見るものに吐き気を催すものであった。


「今のこの時代では人間の娯楽は弱い者いじめなのですよ。自分より弱い相手を押さえつけ、罵詈雑言を並べ立てては相手を屈服させる。自分の思い通りになる奴隷を作り出して、自分が世界の王になった気分に浸るのですよ。ここの前町長はそんな人でした」


 ロキが右手を上げると、一人の兵士が前に出た。身なりは他の兵士より立派で赤いマントを着ていた。


「彼の名前はオモタルさんです。この町の現町長ですよ。今は彼の指示の下で町は運営されています。身分に関係なく能力に相応しい役職につけています。しかし古くからの人はそれを忌み嫌っています。自分より弱い相手と平等に接するなど我慢ならんのですよ。もう怒りで身体が張り裂けそうになっています。実際になってますけどね」


 ぷぷぷと含み笑いをしている。その内町の住人を連れてきた。禿げ頭の五十台の男だ。

 顔は血管が浮かんでおり、ぎろりとした目をしていた。歯を食いしばりまるで人を殺さずにはいられない表情だ。


「この人はオモタルさんの父親です。今は会計管理の仕事をしていますよ。自分一人ではなく、若者たちに学ばせるようにしています。今は若者たちのおかげで仕事が滞りなく進んでいます。ですが彼は自分一人で済ませたい人なのですよ。他人を一切信用しません。息子たちですらね。そんな彼が人に教えるのです。大変な屈辱ですよ。自分以外はみんな馬鹿だと信じ切っているのですからね」


 するとハゲ男の頭が膨らみだした。ハゲ男は苦しみだし、泣き叫ぶ。

 そしてボン!! と額が爆発したのだ。眼球が飛び出て、血が噴き出す。

 やがて数歩前に歩くと、ばったりとうしろへ倒れた。


「こいつは憤怒死ふんどしですよ。脳溢血の一種ですね」


 脳溢血は脳出血である。脳内の血管が破れて出血が起こった状態である。それが血腫けっしゅとなって脳実質を圧迫・破壊し、種々の障害をきたすのだ。

高血圧・動脈硬化や動脈瘤どうみゃくりゅうの破裂などで生じ、嘔吐おうと痙攣けいれん片麻痺へんまひ・意識障害などの症状がみられ、昏睡こんすいに陥ることもある。


 こちらはそれの強化版だ。溜まりに溜まったストレスによって脳が爆発してしまったのだろう。


オモタルは真っ青になった。泣きそうな顔になる。いくら良き父親でなかったにしても、血を分けた家族が死ぬところなど見たくなかったに違いない。


「あはははは!! 前町長のみじめな死にざわは笑えますね!! 今までオモタルさんに怒鳴りつけて楽しんでいた男が、一切のいじめができなくなったのですから!! それで頭を爆発させて死ぬんですから、面白いですねぇ!! オモタルさん、嬉しいでしょう? 私に感謝してくださいね!!」


 なんとも自分勝手な言い草であった。自分がその死を導いたくせに責任転嫁している。


「……ああ、わかったよ。てめぇは敵だ!!」


 ビリーの怒りが頂点に達した。いじめは悪いことだが、相手が死ぬと分かって力を使う行為に怒りが湧いたのだ。

 

「ははは、では彼等が相手ですよ!!」


 ロキが右手を上げると、どこからか兵士たちが出てきた。全員革の鎧を身に付けて槍を手にしていた。鉄じゃないと弱いと思われるが、革の鎧は割と丈夫なのだ。

 兵士の数は何万でとてもビリーたちでは対応できそうもない。


「へへっほ! またせたにゃ!!」


 突如声がした。どこだろうと周りを見回すと、地面が盛り上がる。

 そしてどがんと音を立てて、何かが飛び出した。

 それは全身緑色の蔦で絡められた身体に、頭にピンク色の花を咲かせた怪物だった。

 両腕は丸太のように太いが、下半身は足がない。ぎょろりとした丸い目に三日月の様に歯を剥き出しにして嗤っている。


「彼はバオバブです。私と同じスプーキー・キッズの一人ですよ」


 ウンディーネが教えてくれた。


「バオバブさん! ここは私たちにまかせてください。あなたはビリーさんに協力してください!!」


「おう、まかせるがいい!!」


 バオバブは胸をとんと叩いた。


「ほう、新手だね。では私とエスタトゥアは逃げます。ではさようなら!!」


 そう言ってロキはエスタトゥアの手を引っ張ると逃げていった。そしてビリーは二人を追いかける。

 バオバブも一緒についていった。

 責任転嫁で思いつくのは、北斗の拳のシンだ。

 ケンシロウに拷問して、ユリアに好きと言わせる。そして「女の心変わりはおそろしいのう!!」というのだ。

 悪役はなるべく気持ちよく倒すべきだと私は考えている。もちろん作品にもよるが、この作品はそれが大事だと思う。

 責任転嫁こそ悪役が悪役として輝く部分だと思いました。ただし美形に限る。

 かといって美形の悪役だと顔を傷つけられないから、殺し方に苦労しますね。

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