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第三十一話 フェンリル

「ここがオンゴ村です」


 深い森の中、ラタ三世に案内されたのはこじんまりとした村であった。全体は木の塀に囲まれており、木造の家が目立った。ただ入り口はやたらと大きい。まるで熊が出入りするような作りだ。

 それもそのはず、このむらはキノコ人間の住む村なのだ。色とりどりのキノコ頭の人間が村を歩いている。肌はいやに白く、トーガというぶかぶかの衣装を着ていた。


 ビリーたちは初めて見る亜人に好奇心を押さえられなかった。ルイも目を輝かせている。 羅漢もキノコ人間は初めてなので、興味は抱いていた。だがビリーたちのようにはしゃがない。


 村の中は平和そのものだ。ラタ三世が先行してビリーたちの事を教えていたので、目立った騒動はない。そして巨大なベニテングダケが歩いてきた。真っ赤な傘に白い斑点が浮かんでいる。肌は白く、美しい女性の顔であった。だが胸はなく、のどぼとけもあるので男だと分かる。


「初めまして。私はオンゴ村の村長、ヘンティルでございます」


 ヘンティルは頭を下げた。この村はラタ三世の祖父であるカピバラの亜人ラタと交流があった。そして近い将来に箱舟の人間が現れることも知っている。なのでビリーたちがこの村で普通に過ごせるのであった。


「キノコの亜人ですか。珍しいですね」


「ふふふ、この傘を触ってみてもいいですよ」


 ヘンティルが言うと、ルイは喜んで赤い傘を触る。それは髪の毛で出来ていた。キノコの傘は編んだ髪の毛でできていたのだ。


「不思議でしょう? 私たちの種族は男だと毒キノコ、女だと食用キノコに分かれるのです。そして成長すると自然にそのキノコに相応しい髪型に変化するのですよ」


「ヘンティルさんは男性ですよね? でも女性の人みたいにキレイです。それはご自身の特徴ですか?」


「いいえ、男は大抵女性のような顔立ちになるのですよ。逆に女は男性のような筋肉質になります。元々キノコは植物ではなく菌類です。他の樹木系や花系の亜人と違うのは、そのためかもしれません」


 ヘンティルが説明した。さらに肌が白いのは皮膚が弱いためだという。傘で日除けしているのだ。それにトーガを着ているのは体形がわかりにくくするためである。ヘンティルは男なので気にしないが、女性は男みたいな体格を気にしていた。


「この村は三角湖トライアングルレイクと交流があります。えのきだけやなめこの栽培もしているのですよ。そしてヒコ王国からガラス製品などを購入していますね」


 ヘンティルが教えてくれた。しかしサルティエラの事は触れていない。あまり関わりたくないのかもしれない。

 よく見ると村には蟻の亜人やキツネにウサギの亜人もいる。ビリーたちは亜人の村は初めてだがみんなこうだろうか。


「彼等は私の親戚ですよ。よその村の亜人と結婚するのは村長の家だけです。男は村の女と結婚し、女は他所の村へ嫁ぎます。それでも血は薄くなりますけどね」


 それを聞いてラタ三世も頷いた。さすがに村長が率先しているなら文句は言えない。


「この辺りは巨大化したアライグマやヌートリア、近くにある黒蛇河では巨大なアメリカザリガニなどが住んでいます。人間は亜人を嫌っていますが、道中でこれらの獣たちとかち合う可能性があるので、襲っては来ません」


 恐らく人間は亜人を嫌っている。むしろ滅ぼしたいと思っているのだろう。しかし巨大化した獣たちが襲ってくる可能性がある。なので人間は村から出られず、亜人たちが幸せに暮らしていると思い込んでいるのだ。


「へぇ、情けない奴らだ。俺と羅漢ならアライグマなんか一撃で殺せるのによぉ」


「それはお前が特別すぎるからだ。俺ですら自分の力を使わなければ勝てなかったぞ」


 ビリーは道中で襲ってきたアライグマの脳天を手刀で叩き殺した。

 羅漢は筋肉の振動でかまいたちを起こし、アライグマたちを切り裂いたのだ。


「そうそうサルティエラの人間は特別な力を持つ亜人をそろえております。とても手ごわいそうですよ。まあ交易に応じれば暴力を振るうことはないのですが」


 ヘンティルがそう言うと、村の入り口で騒ぎが起きた。一体何が起きたのだろうか。ビリーたちは走って駆け付けた。


 ☆


 村の入り口で見たのは狼だった。銀色の狼が二本足で立っていたのだ。巨人族のヘルほどではないが、マウンテンゴリラみたいな迫力があった。


「にゃー。俺はフェンリルってゆうんだがよぉ、ここに箱舟の人間が来たと聞いて、びゅーんと飛んできたんだわ。でそいつらはどこにいるんだ?」


「俺だ! 俺の名前はビリー・アームストロングだ!! この胸が小さいのは幼馴染のルイだ!!」


「胸が小さいのは余計です。フェンリルさんと申しましたね。あなたはサルティエラの関係者ですか?」


 ルイの問いにフェンリルは答えた。


「そだそだ。俺はロキ様からばっちりしたすげー力をもらったんだぁ。で、箱舟の人間をずばっと殺して来いと言われたんだわ。ちなみにここの村の人間は関係ねーんで、ちょいと村の外でいっちょ殺し合いをしてぇんだけど、いいか?」


 フェンリルの提案は受け入れた。オンゴ村に迷惑はかけられない。向こうが村の中で戦わないならそれに越したことはないのだ。

 ビリーたちはすぐに村を出た。ヘンティルはお帰りをお待ちしていますと声をかけた。

 しばらくして森が開けると、フェンリルはビリーたちに向き合った。


「お前は律義だな。村を荒らさなくていいのか?」


「ロキ様はあんまり人様に迷惑をかけるなちゅうから、守っとるだけなんだわ。つーか、命令を破ったら、あとできっつーいおしおきをくらうから、守らんといかんわけだぎゃ」


「それは監視がいるということですか?」


 ルイが訊ねるとフェンリルは否定する。


「うんにゃ、エスタトゥア様の力だぎゃ。あの人は俺たちの眼に特別な膜を嵌めさせとるんよ。そんでもってそこから俺たちが見た光景を見ることができるっちゅうわけやね。すごいやろ」


「……あなた、それをべらべらしゃべっていいのですか?」


「べっつに。力をしゃべるなっ中とは言われとらんがね。それよりもはよう殺したわ。覚悟せぇよ」


 フェンリルは大きく鼻で息を吸った。そして一気に噴き出すと鼻から何かが飛び出した。

 それは鼻毛であった。鼻毛だが鋭い針だ。ビリーたちは慌てて避けたが、木の幹に突き刺さる。

 ぼこっと幹に大穴が開いた。


「ふふん。俺の力はノーズなんだわ。今のは小手調べだ。もちっといくぜぇ」


 さらにフェンリルは鼻を鳴らす。鼻毛はぐねぐねと蛇のような動きをした。二匹の毒蛇はビリーと羅漢を襲う。

 鼻毛はビリー右頬に傷をつけた。羅漢の大胸筋に一線が走ると血が噴き出る。


「あの鼻毛はまずい! まるで毒蛇だぜ!!」


 ビリーが叫んだ。


「ふへへ、俺の鼻毛はグレイプニルっていうんだ。俺の名前に由来するフェンリルを拘束した世の中にありえない素材で作った紐の事だぎゃ。そんじょそこらのなまくらじゃあ、俺の鼻毛は切れねぇぞ!!」


 フェンリルは鼻毛を操りながら言った。


「よし、また僕を投げるといいれす!!」


 ラタ三世がビリーに進言した。だがビリーは首を横に振る。


「なんとなくだが、嫌な予感がする。あの時は頭を狙えばよかったが、今回は鼻だ。何が飛び出るかわからないぞ」


「ふっへっへ!! ご明察! おめぇ頭いいなぁ!!」


 フェンリルは力を込めると、今度は鼻から何かが飛び出した。それは鼻糞であった。鼻くそはショットガンのようにばら撒き、木を吹き飛ばしたのだ。


「俺のブーガーくそ散弾ショットだぁ!! それに俺だけでねーぞ!!」


 森の中から猿たちが飛び出した。それはタイワンザルであった。進化した猿たち、モノオンブレの一団である。モノオンブレは無力なルイとラタ三世を狙ってきたのだ。


「ルイ!!」


「ビリー!! ここは任せたわ!! 私はあいつを何とかする!!」


 ルイは走り出した。鼻毛のグレイプニルはビリーたちを翻弄していた。さらにモノオンブレの持つ打製石器も侮れない。

 こんな中でルイは力が弱い。ラタ三世は小柄だが山や森の中で獣を相手に死闘を繰り広げてきたので、戦闘経験は豊富だ。

 それでもルイは諦めない。彼女はビリーほどではないが筋力トレーニングは続けてきたし、走り込みもしている。


「私は約束したんだ! ビリーのお母さんと!!」


 ルイにとって死んだビリーの母親は自分の母親と同じであった。ルイの母親は彼女に関心を持たず、育児放棄をしていた。もちろんそんなことは箱舟のマザーコンピュータが許さないので、牢屋に入れて内職などをやらせていた。

 身体の弱かったビリーの面倒を一緒に見ていたが、ビリーの母親はついに病に倒れた。

 そしてルイに「ビリーをよろしくね」と遺言を残し、あの世へ旅立ったのだ。


「この世に正しい道なんかないんだ!! 未知は自分で切り開くものなんだ!!」


 ルイはカバンから小瓶を取り出した。胡椒である。箱舟に保存してあった貴重品だ。

 蓋を開いてフェンリルの鼻にかけてやった。

 するとフェンリルは苦しんだ。胡椒が苦手ではなく、胡椒を思いっきり吸い込んでしまったのだ。彼の力は鼻に頼る。鼻息を吸い込む必要があるので、胡椒をあっさり吸い込んでしまったのだ。


 動きが止まると、羅漢はそれを見逃さない。


「伏せろ!!」と叫ぶと、羅漢はフロントダブルバイセップスのポーズを取った。大胸筋がピクピク動き出す。そして目の前に陽炎が生まれた。


肌肉阵风ジーロウ チェンフェオン!!」


 筋肉の突風が巻き起こる。フェンリルの上あごと下顎は引き裂かれた。


「だギャー! ひでーがや!!」


 フェンリルは死んだ。モノオンブレはそれを見て逃げ出した。


「手ごわい相手だったな」


 羅漢はそうつぶやくと、膝から崩れた。


 ☆


 ビリーたちはフェンリルの遺体を埋葬すると、オンゴ村に帰った。

 そこで一晩休んだ後、再び三角湖に向けて旅を続けるのであった。

 今回オンゴ村のヘンティルが出ましたが、マッスルアドベンチャーに登場するヘンティルとイノセンテのご先祖様です。

 フェンリルの口調は宇宙ニンジャゴームズの悪役、悪魔博士を意識しました。

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