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第十九話 羅漢対アモル

ビリーたちは頭を抱えていた。正確にはビリーはこの状況を楽しんでおり、キャブ・ブリッジウォーターは予定外の事態に悩ませていたのだ。

 ナダ村のフエルテが殺された。村を支配した暴君がいなくなると村人たちは他所から来た女をなぶり殺しにして子供も地面に叩き付けたり、鍬で殴り殺したという。

 それを聞くと何とも言えなくなる。どちらが残虐で悪なのかわからない。だがビエドラグリス村出身のサビオはよくあることだと言った。


「殺したのはアモルという女らしい。ビリーの目の前に現れた女と同じだろう」


 キャブが亜人たちの報告を言った。かつてアトレビドが支配していたカウティベリオ村も似たようなものらしい。かつてはアトレビドの世話役であった赤バラの亜人ロサは逃げ出したそうだ。

 よそ者に対する敵対心の強さにキャブたちは呆れていた。自分たちがなんとかしなければ彼等は獣以下である。

 

「へへん、俺にしてみれば強い奴と戦えるのは最高だがね」


「お前は戦うだけで済むかもしれないが、俺たちはそうはいかない。フエゴ教団としてこの国に秩序を取り戻さなければならないのだ」


 暢気なビリーに対してキャブは厳しい。一旦目標ができるとキャブはそちらへ一直線であった。そのための計画を立てていたが、フエルテの死にすべておじゃんになった。

 予定外の出来事に対応できずにいた。柔軟性が欠けているのだ。


「まったく頭が痛い。予定を狂わされてイライラしてくるな」


「あっはっは、カルシウムはきちんととっておけよ。敵の一人が消えたんだ、残りの敵を始末すればいいんだよ」


 キャブは苛立っているが、ビリーはあっけらかんとしていた。フエルテを倒したところで世界が救われるわけではない。村を一つ支配した暴君が消えただけである。

 残りはサルティエラを支配するロキとエスタトゥアだが、別のところで彼等と同じ力を持つ者が生まれているかもしれないのだ。

 村の支配は敵を倒した後落ち着いてやればいい。


「だがアモルという女は何者だ? 明確に人を殺して食べようとしていたが」


 黒ヤギの亜人、龍羅漢ロン ラカンが腕を組みながら言った。

 アモルのような女性を見たことがなかった。彼女は人の皮を被った肉食獣である。


「聞く話によると、そいつはベスティアだな」


 サビオが口を挟んだ。彼はこの中では事情に詳しい。

 ベスティアというのはスペイン語で獣を意味する。彼等は遊牧民で決まった住居を持たない。狩猟だけでなく家畜を飼うこともある。


 パポ・レアルとはスペイン語で孔雀を意味する。飼っているのはインドクジャクらしい。

 インドクジャクとはキジ科の鳥である。全長は、雄が約2メートル、雌が約1メートルほどだ。雄は頭から胸まで青色、背は緑色で光沢がある。雌は背面が褐色だ。かつてはインド・スリランカに分布しており、インドの国鳥であった。


 インドクジャクは繁殖力が高く、やたらと甲高い鳴き声を上げる。家禽代わりとして飼っているそうだ。

 

「そいつらは人を襲って食べるのか?」


「昔はそうしていたらしい。だがあいつらは掟にこだわっているのだよ」


 サビオが言うにはベスティアが人を襲ったのは50年前で終わったという。50年前は空を飛ぶビッグヘッド、ミカエルヘッドから家畜や家禽をもらい、人食いをやめたそうだ。


 食べるにしても戦ってからにする。ルイ・アイリッシュのように矢を放つこともあるが、相殺されてしまった。もしかしたらルイにただならぬ気配を感じたのかもしれない。


 人を食う外道なので、逆に掟を作ることにより、厳格な性質に生まれ変わったようだ。

 

「じいさんはなんでそんなに詳しいんだ?」


「若い頃にベスティアと出会ったんだよ。あいつらは戦って勝った相手を食べる。そして髑髏にそいつの名前を刻むらしい。その髑髏は家具として壊れるまで使うそうだ。それがたべた相手の礼儀だという。あと拾った赤ん坊はそのまま部族で育てるそうだ」


 赤ん坊が捨てられる。これは口減らしのために捨てられたのだろう。この国では子供は安価な労働力だ。必要とあれば大量生産するが、邪魔になれば殺しても問題ない。自分たちにとって都合のいい生き物、奴隷として扱っているのだ。

なんとも言えない気分になった。


「けどあの女は俺に気があるようだな。もしかしたら俺に会いに来るかもしれないな」


 ビリーは楽観的であった。彼女はアモルと戦うことを望んでいた。勝っても何もないが単純にどちらが強いか試したくなったのである。

 命を大事にしないわけではない。母親からもらったこの命を無碍に扱うつもりもない。だが生きた証を残したいのだ。ただ長生きすることが生きることではない。だらだらと石のように過ごす人生など真っ平だ。人々の心に残る生き方をしたい。ビリーはそう考えていた。

 

 平和な箱舟の世界では彼女の考えは異常すぎた。近づくのは幼馴染のルイぐらいだ。アラナ・キャロウェイは自分の研究に夢中なので相手にしないだけだが。


 キャブはビリーを嫌っている。彼女の身体能力はもとより思考が理解できなかった。

 だが彼女には口では説明できない魅力がある。深い知識があるわけでもないのに、彼女についていけば安心できるという根拠のない期待もあった。

 しかしそれを認めるわけにはいかない。あえて口にはしないが、キャブはビリーならなんとかしてくれると期待していた。だってビリーだし。


 そこに犬の亜人が走ってきた。はぁはぁと息を切らしている。どうも緊急事態の様だ。


「あっアモルだ!! アモルの野郎が来やがった!!」


「アモルだって? あいつが何かしたのか?」


「いいや、何もしていない。広場で一人陣取っているだけだ!!」


 ビリーが訊ねると、犬の亜人は意外なことを口にした。どうやら彼女は人々に危害を加えていないようである。

 ビリーはさっそく立ち上がったが、羅漢が制した。


「面白い。どんな女か確かめようじゃないか」


 羅漢がそう言って立ち上がった。彼もまた戦うことに喜びを見出してきたようだ。ひと昔なら自身の力を押さえようとしていたが、長い旅の果てに力を使いこなしてきたようである。


 ビリーは不平を漏らしたが、キャブに引き留められたので頬を膨らませた。


 ☆


 コミエンソの町には所々広場を作ってある。住宅を密集させるのはよくないからだ。

 その内のガローテの広場がある。ガローテとは鉄環絞首刑のスペイン読みである。

 かつてはガローテによる死刑執行が行われていた場所らしい。この辺りでは処刑された人間がビッグヘッドに乗り移り恨みつらみを述べるので亜人たちにつけられたそうだ。


 そのガローテの広場では一人の女が胡坐をかいていた。黒髪は腰まで伸びており、肌は日焼けしている。灰色の毛皮を着た野性的な美女であった。

 アモルである。腰には獣の骨で作られたナイフを二本差していた。


「お前さんがアモルか。俺は龍羅漢、よろしくな」


 羅漢が挨拶した。アモルも無表情で答える。


「アモル、自分。用無し、お前。ビリー、必要」


 どうやら彼女はビリーが目当てのようである。だが羅漢は退かない。この女がどれほどのものか試したくなったのだ。

 羅漢は両腕を上げると力こぶを作る。フロント・ダブルバイセップスのポーズだ。大胸筋をぴくぴくと振動させると、目の前に陽炎が生まれる。振動によって熱が生まれ、風が生まれるのだ。


肌肉ジーロウ阵风チェンフェオン!!」


 羅漢から突風が発生し、アモル目掛けて切りかかった。アモルは座ったまま両手で飛び跳ねた。そして風を躱す。


「やる、強い。手抜き、許さない」


 アモルはナイフを取り出すと羅漢に突進した。身体を低くして羅漢に切りかかる。

 しかし羅漢は背を向けた。今度はバック・ダブルバイセップスのポーズを取る。背中に鬼神が現れた。


「肌肉・台风タイフェオン!!」


 広背筋の振動により広範囲で風が生まれる。攻撃のためではなく防御に使う技だ。

 アモルはその力で近づくことができなかった。吹き飛ばされるアモル。猫のように着地した。


「手ごわい、こいつ。食べる、ヤギ」


「俺は黒ヤギだが、食べてもうまくないぞ。お前は人間を食べてうまいと思っているのか?」


「うまくない、人間。アモル、喰らう。生きている、食べた奴」


 しゃべり方は拙いが羅漢は理解した。どうやら彼女は食料として食べているわけではないようだ。食べた相手を口にすることで自分の血肉とし、相手は自分の中で生きているという考えらしい。


「ぐぐぅ、出せ、ビリー。邪魔、お前。消える、死にたくないなら」


 アモルの顔が険しくなった。どうやら彼女はビリーを目当てにしていたのに、羅漢に邪魔されて不機嫌になっていた。泉の水面のように穏やかそうな彼女にしては珍しい。

 

「悪いがお前の願いはかなわない。俺に負けるからだ」


「邪魔!!」


「肌肉・龙卷风ロンジュアンフェオン!!」


 羅漢はモスト・マスキュラーのポーズを取った。両腕を輪のように見せるポーズだ。大胸筋を振動させた後風が生まれる。

 両腕を輪にすることで風の力を縮めて竜巻を生み出したのだ。

 アモルはそれにはまってしまい、吹き飛んでしまった。そして地面に叩き付けられる。


「うぅぅ、負けた、アモル。食え、自分を」


 アモルは叩き付けれた衝撃で身体を動かせないようだ。自分の運命を悟ったのか、食べるように指示する。だが羅漢は無視した。


「食べるかよ。誰かこいつを縛ってやれ。こいつはきちんと教育をする必要があるぜ」


 犬の亜人たちがアモルを縛り上げた。アモルは自分を食べろと主張するが聞き入れない。

 そこにビリーがやってきた。拘束されて地面に転がっているアモルを見てすべてが終わったと判断した。


「ふむ、こいつとやりたかったのにな。お前は女にもてないタイプだな」


 ビリーは皮肉を言うが、羅漢はどこ吹く風だ。


「まあな。だがこの手の女は負けを認めないだろう。自分を食べない限りな。ならビリーの女になれと命じれば素直に従うだろうな」


 これは生殺与奪を羅漢が握っているからだ。学はないが掟には厳しそうなアモル。再選を望みたければ言うことを聞くはずである。

 羅漢はそう考えていた。


「つーか、俺は特別女が好きなわけじゃねーぞ」


 なぜか女性しか興味がないと思われるビリーであった。

 ガローテの広場はブラッドメイデンにも登場してます。なんとなく出しました。

 ジョジョの奇妙な冒険第2部までだと主人公が勝って、他は負ける展開が多かったです。

 第三部だと主人公だけでなく仲間たちも勝利するようになったよね。

 いや、北斗の拳もケンシロウ以外にレイもユダに勝っていたから、ジョジョとは限らないな。

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