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第十六話 話合いは続く

「ところで残りの三人はどういった奴らなんだ?」


 フエゴ教団の教会の中でビリーがサビオに尋ねた。サビオは外の世界の人間で博識の老人だが、詳しくは知らない。


「儂もホビアルのような人間が四人もいるとは驚いたよ。そもそも村同士の交流は少ないからな。精々近辺の村くらいだ。それも交易ですぐに帰ってしまうな」


 サビオが答えた。そこにカピバラの亜人であるラタが挟む。


「私が部下を使って聞き耳を立てながら情報を集めていたな。人間は亜人を忌み嫌っている。なにせ自分たちの先祖は人肉を食べて生き延びたのだ。その浅ましい行為を他者に漏れることを異常なまでに恐れている」


「亜人の方はどうなんだ? あんまり俺たちにいい顔はしてないが」


「こちらの方はまだマシかな。亜人になるとさっぱりするんだよ。人間みたいに深くは考えない。今の若い奴らが不満を抱いているのは、無償で働かされているのが気に喰わないのさ。きちんと飯と酒を寄越してくれればすぐに機嫌がよくなるよ」


 実際にそうだった。亜人たちは箱舟側が用意した料理と酒を出されると、今までの不機嫌はどこの空で、ホクホク顔であった。おいしい食事を得られるなら箱舟の人間と手を組んでもいいと思っているようだ。


 代わりにビエドラグリスの人間は食事に手を付けなかった。得体のしれないものなど口にしたくないのだ。サビオだけ喜んで食べていた。

 

「まあ、向こうにしてみれば俺たちはいきなり人の家に土足で踏み込んだ余所者だ。いきなり仲良くしようなんて無理な話さ」


「そうかねぇ。儂としては過去に失われた技術の持ち主が来てくれて嬉しいけどな」


 サビオが悔しそうである。もっともサビオの方が変人扱いされているのだ。

 だがビリーの言葉も正論である。今まで自分たちの世界を築いていたのに、異物が混入されたのだ。その拒否反応はかなりのものである。

 子供のいじめも同じようなものだ。自分たちと少しでも異質な部分があるとつまはじきにしなければ気が済まない。それは幼いながらも危険性を感じ取っているためだろう。


「やはり代表者を決めましょう。亜人の方や他の村の人が私たちと一緒に暮らすのです。そしてお互いに自分たちの事を知りましょう」


 ルイが提案した。だがキャブは首を横に振る。


「意味がないな。外の人間は思想ががちがちだ。自分たちの考えを否定するなどありえない。向こうにしてみれば我々は異世界人にしか見えないだろう」


 キャブは嫌味っぽく言っている。彼自身外の人間を忌み嫌い始めたのだ。それでも自分の祖父のように相手を口汚く罵ることはしない。祖父を反面教師にしているのでなるべくは波風を立てたくないと思っている。

 だが亜人側はキャブの不機嫌な態度を感じ取っていた。リーダーであるラタに命じられなければすぐここから立ち去るだろう。


「ひゅー、それなら子供たちを集めて学校を作ろうよ!! 子供たちなら好奇心旺盛ですぐ仲良くなれるよ!!」


 アイディアを出したのはアラナだ。なるほど同年代の子供を集めて学校を開く。なかなかいい考えである。


「学校はもっと無意味だ。人と亜人が一緒になればすぐにいじめが始まる。人間は自分と異質な存在を見ると苛めずにはいられないんだ」


「だから、全員異なる種族で固めるのさ。そうすれば自分以外はみんな異形だからいじめも起きないよ。というかいじめをさせないために教育するのが私たちの役目でしょうが」


 キャブの言葉にアラナが反論する。いじめをさせないために躾けるのは当然のことだ。


「ですがあまり異なる種族だと、かえってストレスが溜まってしまいます。思い切って人間は人間、亜人は亜人同士の方がいいかもしれません」


 ルイが言った。


「私たちの世代では人間と亜人が結ばれるのは危険です。サビオさん、人間と亜人が結ばれることをどう思いますか?」


 話を振られてサビオは腕を組んで考えた。


「儂としては興味深い話だね。実を言うと若い頃猫の亜人と恋に落ちたことがあるよ。だが村の人間に恋人を殺されてしまってね。あの時の親父や他の連中の眼は忘れられないよ。赤く爛爛と光っていて、亜人と血が混じるなどありえないと意思表示していたからね」


 なんとも重い話に場が暗くなる。そこに白ヤギの亜人である龍金剛ロン ジンガンが口を挟む。


「儂の妻は人間だよ。でも生まれた子供はヤギと人間のどちらかだった。周りは文句を言ったが、当時は大臣を務めていた儂が父親が死んだからすぐに静まったよ」


「異なる亜人同士でも最初は軋轢があったな。子供がどちらか片方の種族しか生まれないとわかったときは安堵したようだよ。所謂混ざりものが生まれることを恐れていたようだ」


 ラタが答える。亜人も自分の一族以外との婚姻は推奨しなかった。猫と犬が交尾をしても子供は生まれないと思われていたのだ。だがラタが強引に他種族同士の結婚を迫った。結果、子供は普通に生まれたので壁は少しだけ低くなった。

 さすがに村人全員に異種族婚姻は勧めなかった。村長の息子が他の亜人と結婚し、男は村に残って、女は他所の村へ嫁ぐという形にしたという。


 ☆


「そういえば他の三人の話はどうなったのかしら?」


 話し合いがひと段落すると、全員にお茶を出された。そしてクッキーも出される。ヤギウシの乳で作られたバターと、インドクジャクの卵で作られたそうだ。

 インドクジャクとはキジ科の鳥である。全長は、雄が約二メートル、雌が約一メートルほどだ。雄は頭から胸まで青色、背は緑色で光沢がある。雌は背面が褐色だ。かつてはインド・スリランカに分布しており、インドの国鳥だったという。

 なんでも他国では外来種扱いされていたそうだ。鳴き声がうるさく野良が増えても殺したがらないという。動物愛護と言って外来生物すら殺せなかったそうだ。

 今は鶏の代わりに連れてこられたという。


 クッキーを食べている最中に、ルイは思い出したように言ったのだ。


「あまりよくわかっていないな。探りを入れたがうまくいかん。逆に相手に見つかって殺されるのが落ちだった。わかったのは名前だけでその村はそいつらに支配されているというだけだ」


 ラタが答えた。ホビアル、アトレビド、フエルテ、ロキ、エスタトゥア。

 この五人は異形の力を持ち、各村を恐怖で支配しているという。すでにホビアルとアトレビドは倒してある。しかし残りの三人はどういった力を持っているのかわからない。


「共通しているのは金剛や羅漢ラカンと似たような力を持つこと。そして体内には何万人分の神応石スピリットストーンが含まれていることだな。アトレビドの時は右足っぽいのが抜けていくのを見たよ」


 外にいたエビルヘッドが答えた。彼自身、ホビアルの身体を食べている。常人の含有する神応石の量を軽く超えているそうだ。


「ふん、心配はあるまい。あと三人倒せばいいだけだ」


 キャブが言った。彼は戦っていないから暢気だと言える。ルイはあまり彼が好きではない。


「そうかぁ? たまたま目立つのが五人いただけで、実際はもっといるんじゃねぇの?」


 ビリーがクッキーをかじりながらつぶやいた。実際にその可能性は高い。特殊能力を持つ人間はこの世界で広く存在している。羅漢たちが遠い鳳凰フォングァン大国から何万キロも離れたフィガロへ旅する途中、様々な能力者と死闘を繰り広げてきた。

 

「それに五人を殺しても世界は平和にはならないぜ。俺たちの目的は俺たちが普通にこの世界で暮らせることさ。気に喰わない敵を潰して回れば、いつか年を取ったときに俺たちが殺されちまう。まずは各地の村にフエゴ教団の教えを布教させるんだ。孫の世代には考えも変わっているだろうさ」


 ビリーがクッキーをばりばりと食べた。そしてお茶で流し込む。

 ビリーの言う通りであった。確かにホビアルとアトレビドは襲ってきたが、あくまで村を支配していたにすぎない。そんな彼等を殺したところで今の世界は変わらないのだ。

 大事なのは自分たちがこの世界で暮らせることである。


「さしあたって俺たちが作るのはライフラインだな。電気、ガス、水道に村を繋ぐ道も舗装しないといけない。まあ、最初からそれは無理っぽいから、アラナの指示で出来ることをしよう」


 ビリーは秀才ではない。彼女がライフラインを求めたのは、箱舟と同じ環境を作りたかっただけだ。自分はまだいいがルイやアラナたちにはきついと思ったためである。

 樽を黒く塗って太陽熱でお湯を作る太陽熱温水などがある。土やわらで保温が可能だ。

 それだけでも人々は薪を燃やさずに風呂に入ることができる。

 さらにプラスチックを融かして容器にすれば水筒になるのだ。確かにプラスチックごみは劣化しないし、環境にやさしくない。だが本来は木を伐採せず、動物を殺して骨や牙を取る必要がなくするためであった。

 使い方次第で文明は自然と共存は可能なのである。


「ひゅー、さすがはビリー!! おつむは弱いけど必要なことは本能で察するのがすごいわ!!」


「そのとおりね。やはりビリーがリーダーになってよかったわ」


 アラナとルイはビリーを褒めたたえる。


「まったくだな。知識はともかく知恵が回る性質の様だ」


「俺の妻である女巫ニュウに近いな」


 サビオと金剛もビリーを評価していた。そんな中キャブだけがボッチである。

 祖父を嫌っていても、祖父と同じように外の世界も嫌っていた。本当なら箱舟の中で一生を過ごしたかったのに無理やり外に出される。

 キャブにとって不満が爆発してもおかしくなかった。


「キャブ、お前は計算が得意だろう。面倒なことは全部お前に任せた。みんなもわからないことがあれば彼に頼め。恐らく俺以上に素晴らしい回答をくれるぜ」


 ビリーがキャブを褒めたたえた。周りの人間も感心したようにキャブを見る。

 昨日泣いたカラスがもう笑ったのだ。

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