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第十四話 羅漢登場

「ふぃ~、朝日が眩しいぜぇ!!」


 ビリー・アームストロングは伸びをした。肩まで切り揃えた茶髪に、白いシャツと青色のホットパンツだけである。

 その隙間から見える鍛え上げられた筋肉は、とても美しかった。


「死にかけたのに、ピンピンしているな。大したものだ」


 傍にいた異形の怪物が口を開いた。ごつごつとした大岩に見えるが、人の肌に生えるこぶみたいなものだ。スイカのように大きくぎょろりとした目に、人間をぺろりと一口で食べてしまいそうな巨大な口。

 エビルヘッドと呼ばれていた。彼はビッグヘッドでかつて日本共和国の大企業が作り上げた遺伝子組み換え生物である。


 頭に手足が付いた怪物だが、ビリーには関係ない。百年間箱舟に閉じこもった子孫にしては好奇心旺盛だ。無論、彼女自身変人として扱われている。

 しかし変わり果てた世界の波を泳ぎきるには、未開地へ挑む冒険者の心が必要であった。


「どうやらルイのおかげだぜ。あいつがいなけりゃ俺は死んでいた」


 ビリーは自分の力を過信していなかった。ルイが神応力増幅装置によって治療してくれたことを理解していたのだ。


神応石スピリットストーンか……。それがなければ儂はいなかったな」


 エビルヘッドは懐かしそうに答えた。そもそもエビルヘッドは偶然生まれた存在だ。

 神応石を食べ続けたおかげで、彼は今の今まで生きてきたのである。


「おっさんは何がしたいんだ? 人類滅亡か? 世界征服か?」


「どちらでもないな。だが儂としては英雄インシオンの子孫たちを護ることが指名だと思っている。この世界はキノコの胞子まみれだ。胞子が大地を蝕み、水を腐らせ、生き物の運命を変えてしまっている。それをすべて取り除くのが儂の宿命だと思っているよ」


「そうなのか。でも長い間であんた自身が人間を嫌うようになったらどうする? その英雄の子孫たちが石を投げ、口汚く罵ったらどうするんだ?」


 ビリーが訊ねた。彼女はキノコ戦争が起きる前の書物をたくさん読んでいる。主に娯楽作品だがなかなか面白い。その中には人間を愛する怪物がいるが、やがて人間に嫌われ、人間を忌み嫌う作品も少なくなかった。

 実際に怪物を見たことがなかったが、実物を見てビリーは好奇心を押さえずに質問したのだ。


「それそこ、望むところさ。神応石の影響は凄まじい。自分が理想だと思うことを自身の身体だけではなく、周囲にも影響を受けるのだ。儂がすべての人間に嫌われれば、人類史上、共通した敵になれるのだぞ。そうすればエビルヘッドを殺すだけで平和が訪れるのだ。それは素敵なことではないか?」


 エビルヘッドの言葉にビリーは何とも言えなくなった。ビリーはあまり頭は良くない。とはいえ文字の読み書きはもちろんのこと、基礎知識はあった。

 エビルヘッドの精神は自己犠牲だ。自分の不幸が他人の幸福になるなら、喜んで受け入れる。

 ビリーの読む娯楽小説でもそのような存在は多くあった。人間嫌いは、自身が人類馬鹿に酔いしれていると思った。


「今のあんたを嫌う人間はいない。少なくとも龍京ロンキンの人間はな」


 男の声がした。一体誰だろうとビリーは周りを見回す。すると黒ヤギの亜人が立っていた。

 ひ弱な感じはしない、むしろ筋肉隆々で肉の壁を思わせた。

 ビリーは突如彼の胸板に拳を食らわせる。だが黒ヤギは身動きしない。怯えていない、まるで父親が小さい娘と遊ぶような感じであった。


 ビリーの拳が胸板に叩く。しかし黒ヤギはびくともしない。まるでそよ風を受けたようである。


「俺の名前はビリー・アームストロング。お前の筋肉は素晴らしいな!!」


「俺は龍羅漢ロン ラカン。挨拶の前に拳を出すのかよ、箱舟の子孫は……」


 非常識な対応でも羅漢はさらっと流していた。


「おお、羅漢! お前ここに来たのか!!」


「来いと言ったのはあんただろう。箱舟の子孫たちと交流しろとな。しかし、思っていたより楽しめそうだ」


 羅漢はビリーをちらりと見た。羅漢は彼女の性格と拳を気に入ったようだ。


「ビリー。彼はここから遥か北部にあるフィガロの代表者だ。向こうではシオンディと名乗ることになっている。儂を崇めるエビルヘッド教団の大司教なのだよ」


 エビルヘッドの説明に羅漢が不機嫌になった。どうやら寝耳に水のようである。


「おい、俺はそんな話は聞いていないぜ。他の連中があんたを崇めるのはいいさ。だが俺が大司教になるなんてありえないだろ。じいさんがいるじゃないか」


金剛ジンガンではだめだ。あいつは年寄りだ。若い人間の心をつかむにはお前しかいない。蟲人インセクター王国キングダムの連中は強い奴が好きだ。バルバールが恐れられても敬っていたのは彼が強かったからだ。儂が生きたまま食わなければそのカリスマを砕くことはできなかっただろう」


「そもそも俺は新参者だ。賢人シェンレン……、いやスレイプニルが長年基礎を固めるのに努力したのを、俺が横取りする形になるんだぞ」


「そのスレイプニルは、あくまで自身は代理だと言っている。昔から自分ではなく龍一族の者が大司教になると教えているぞ。それに町のみんなはお前の事を受け入れていたじゃないか」


 エビルヘッドの言葉に羅漢は苦い顔になった。


「ところであんたは俺たちと何をしたいんだ? 殺し合いなら歓迎するぞ」


「箱舟の子孫にしては血の気が多いな。あんた嫁の貰い手がないだろう」


「へぇ、あんたは予知能力があるのか。大正解だ」


 羅漢の嫌味にもビリーは笑顔で答えている。代わりにエビルヘッドが答えた。


「詳しい話し合いは後日だ。今は顔見世にとどめよう。羅漢、他には誰が来ているんだ?」


「ああ、忘れていた。じいさんも来ているぜ。そっちは別の奴と話をしているようだ」


「そうか。では儂もそちらに向かうとしよう」

 

 そう言ってエビルヘッドは羅漢と共にそちらへ向かった。ビリーはもうひと眠りしようとしたが止められた。


「お前は箱舟の代表だろうが。きちんと支度をして着替えろ」


 異形の怪物に身だしなみを注意されるビリーであった。


 ☆


 コミエンソでは大きな教会が立てられていた。フエゴ教団の教会である。炎の形をあしらったステンドグラスが印象的だ。

 そこにはビリーを中心に、ルイ・アイリッシュ、キャブ・ブリッジウォーター、アラナがいた。

 アラナは銀髪で腰まで伸びている。褐色肌で胸がスイカ並みに大きく、腰はひょうたんのようにくびれていた。


「ひゃー、素晴らしい!! 百年の間に世界はここまで変貌していたのか!!」


 アラナ・キャロウェイはビリーとは別に好奇心旺盛な女性である。体力はないが知的好奇心が強く、箱舟の外に出ることを強く望んでいた。

 だが第三世代はあまり外の世界を好まない、むしろ嫌っている。

 そんな中でビリーと同じようにアラナも変人として扱われていた。


 エビルヘッド側はカピバラの亜人であるラタと、孫でコマネズミの亜人ラタ三世。そして先ほどやってきた黒ヤギの亜人羅漢、白ヤギの亜人の巨漢もいる。彼は龍金剛といい、羅漢の祖父だ。


 他にも人間や亜人たちが集まっている。人間はビエドラグリスからの者もいる。サビオは嬉しそうだ。しかし幹部関係以外はあまりいい顔ではない。むしろ不機嫌である。


「それではこれをどうぞ。亜人全書というもので、今までの亜人の生態が書かれております」


 そう言ってラタは一冊の本を差し出した。それは亜人がどんな種族と結婚したか。そして解剖図などに今まで起きた病気なども記されている。


「ひょー!! そいつは素晴らしい!! そんな知的好奇心を満たすものをもらえるなんて、嬉しくてたまりません!! ああ、私たちもあなたたちに見返りを与えたい!! ビリー、いいでしょう?」


「なんで俺に許可をもらうんだよ。アラナがやりたいならやればいいだろう?」


「いやいや、ビリーはうちらの代表でしょうが。私としては電気を使わない技術の提供を提案します!!」


「そいつはいいな。発電には興味があるが、電気に頼らない技術も重要だ」


 サビオも喜んでいる。だが他の人間はますます不機嫌になった。

 箱舟の人間は獣人たちと一緒に暮らすなんてありえない。

 亜人たちはなんで箱舟の人間というだけで敬わねばならないのかわからない。

 さらに人間たちは自分の村以外関わり合うのを嫌っている。


「まてよ。押し付けは良くないぜ。そもそも俺たちは互いに何も知らないんだ。いきなり仲良しになれと言われても無理ってもんだ。やるなら興味を抱く人間を代表にして、徐々に増やしていくんだよ。何も知らないうちに一緒になれば必ず衝突するに決まっている」


 ビリーが言った。その言葉にその場にいた全員が凍った。ビリーがお飾りの人間だと思っていたからだ。

 だがルイやアラナは平然としている。キャブは茫然としていた。


「やっぱりビリーでないとだめね。知識は少ないけど本能で察するからね」


 ルイは自慢げである。アラナも賛同していた。


「ひゅー! ビリーの言う通りでございますね!! よぅし、私が科学の素晴らしさを教えましょう!! まずは簡単なことから教えていきましょう!!」


 アラナは胸を叩く。だがキャブは難色を示した。


「おい、それを教えるのは誰なんだ? 俺たちにそんな暇はないぞ」


「私が教えればいい。知識を広めるのはみんなのためじゃない、私のためよ。この中から未来の科学者が生まれるかもしれないしね。そして画期的なアイディアに対抗するの。科学は競い合って発展するなのよ」


 アラナにとって自分の知識は秘匿するものではなかった。多くの人に広めるためのものであった。

 彼女にとって他の科学者は敵ではなかった。自分の研究成果を盗まれても問題はない。なぜなら彼女のアイディアは底なしだからだ。


 ビリーの直感と、アラナのアイディア。それが組み合わせれば自分たちは発展する。

 ルイはそう思った。

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