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第10話 脂肪の畑

辺りは静まり返っていた。夜の帳が下りており、夜型の野生動物以外動いていない。

 コミエンソの周りは犬の亜人たちが槍を持って回っていた。彼等は村長であるラタの命令で嫌々働いている。なぜ人間たちを守らねばならないのか。それも箱舟というわけのわからないところから来た連中など得体が知れないのに。

 もちろんラタの孫、ラタ三世のように好意的な気持ちを抱いている。しかしそういった連中は同年代でも嫌われていた。文句を言わないのは、村長の命令だからだ。

 彼らの中にはやる気のないものが多い。彼等は適当に回った後、すぐに焚火にあたり、さぼっている。

 

 茂みからがさりと音がした。それは人間であった。彼等は手に剣を握っている。コミエンソを襲撃しに来たのだろう。

 全部で五〇人近くいる。しかし全員目が死んでいた。顔は青白く口から涎を垂らしている。

 耳には奇妙な植物が生えていた。花の様だが、花弁の部分に人の顔がある。まるで花によって操られているようであった。


「ふぅ、寒いなぁ、面倒くさいなぁ」


「まったくだぜ。なんで俺たちが人間どもの見張りをしなくちゃいけないんだよ」


「ラタさんの命令だからな。仕方ないよ」


 亜人たちは不満を漏らしている。彼等は同じ村の亜人同士で産まれた子供だ。ラタ三世のように複数の亜人の血を引いている者は忌み嫌われるはずだった。ところが村長を中心に他所からの亜人と結婚しており、今では村に混血の亜人が大勢住んでいる。

 

 人間は亜人を嫌っているが、亜人も人間を嫌っていた。自分たちは神から選ばれたエリートと思い込んでおり、できれば人間を皆殺しにしたいと思っているくらいだ。

 ここ数年は西に繋がる大河を経由して三角湖トライアングルレイクで取引をしているのだ。カエルと蛇、ナメクジの亜人が集まって作った村だという。

 さらに北に向かうとサルティエラという町がある。そこでは涙鉱石ティアミネラルから塩を精製しているそうだ。そこから塩を購入したりしている。


 昔だと人間はおろか、異なる亜人との交流すら嫌がっていたそうだ。それが五十年前にラタが現れて以来、亜人の交流が劇的に変えられた。村の老人たちは今でもラタを憎んでいるが、若者はそうでもない。亜人と交流することは普通になったからだ。それでも人間との交流は避けていた。


 若者たちにとって箱舟など理解できていない。要は人間の集団としか認識していないのだ。なぜ自分たちが人間のために家や道を作らねばならないのか。反論すればラタの前歯で殴られるから、口を閉ざしている。


 がさり。繁みから音がした。待機していた人間たちが一斉に襲ってきたのだ。

 動きは鈍いが、うめき声をあげて襲ってくる。


「なんだこいつらは!!」


「おい、急いで合図を送れ!!」


「こいつらは俺たちで撃退するぞ!!」


 亜人の若者たちは戦闘態勢に入った。人間を嫌っているが、自分たちの仕事で手を抜くつもりはない。彼等の中ではくっきりと区別はついているのだ。

 敵は屍人のようであった。どれも濁った眼をしており、生気がない。口から涎を垂らし、両手をだらりと下げていた。足取りもおぼつかない。

 きょろきょろ動くのは耳から生えている花だ。人面花は亜人たちを見て、ケタケタと笑う。レロレロと舌を上下に動かし、ぴちゃぴちゃと音を立てていた。

 亜人たちは薄気味悪いと思いつつも、手にした槍で対応している。


 屍人たちは弱かった。亜人の前蹴りで簡単に吹き飛んでしまう。しかし何事もなかったようにむくりと起き上がるのだ。まるで痛覚がないように。

 腹に槍を突き刺しても痛がるそぶりを見せない。まさに屍人である。

 それに死臭もひどく、吐き気が催してきた。亜人たちは迫りくる屍人に苦戦している。


「油だ、油を持ってこい!! こいつらは焼き殺さなきゃ動きを止めないぞ!!」


 亜人の一人が叫ぶ。そこにコマネズミの亜人が走ってきた。ラタ三世だ。彼の手には脂がたっぷり入った壺を手にしている。


 ラタ三世はそれを一気に飲み干した!! そして首を上に向けて噴水のように噴き出したのである。

 油の雨は屍人たちに降り注いだ。つるりと足を滑らせて、屍人は転ぶ。亜人の一人が火のついた松明を持ってきた。それをぽいっと地面に落とす。

 火は一気に広がった。屍人たちはのろのろ動いているだけだが、人面花たちは苦悶の表情を浮かべ、奇声を上げながらしぼんでいった。

 屍人は炎の中でも平然と動いていたが、やがて動かなくなる。筋肉が燃えたので歩けなくなったのだ。

 屍人たちは数分後、ばたばたと倒れていく。


 ビリーたちが駆けつけたのは、すべてが終わってからであった。彼女は外が騒がしいので急いで起きたのだ。


「遅れて申し訳ない。手数をかけた」


 ビリーは亜人たちに頭を下げた。彼等はビリーの謝罪に驚いた。てっきり尊大な態度を取ると思っていたからだ。


「ビリーさんが頭を下げる必要はないですよ。僕らは自分の仕事をこなしただけですから」


 ラタ三世が慰める。


「しかし箱舟の外は色々あるんだな。中にこもっていたらわからなかったぜ」


「そうですね。屍人は割とよく見ますよ。キノコ戦争の影響なのか、死人に乗り移って呪詛をばらまくことがありますね」


 ビリーが感心していると、ラタ三世が肯定する。周りの亜人も頷いた。


「でも大抵は人間が多いな。亜人の屍人返りは見たことがないですね」


 これはラタ三世が人間の村をこっそりと調査した結果である。亜人の村では死者が甦ったことは一度もない。一方で人間の村だと割と死者が甦るそうだ。

 墓に埋めると死者が這い出てくる。そしてキノコ戦争のせいで人生が狂った、すべてはチャールズ・モンローが悪いんだと呪詛をこぼすのである。

 さらには自然を殺された、レアな動植物が消え去ったとかもつぶやくという。昔は各地に特定在来種がいたが、キノコ戦争の影響で死に絶えた。

 牛や馬、豚に鶏の家畜も大半が死んでしまったそうだ。

 五十年前にミカエルヘッドがやってきた。天使のような翼を生やした巨大な女性の顔が飛んできたそうだ。口から巨大な山羊を吐き出したという。各地に棲んでいたヤギウマやヤギウシを連れてきたのだ。さらに豚の代わりにイノブタを、鶏の代わりにインドクジャクなどを代用として連れてきたという。

 さらにアライグマやヌートリア、フクロギツネにアカギツネ、アカシカやアナウサギなど繁殖しやすい動物を連れてきた。他にもイタドリやオオハンゴウソウなど様々な外来植物を持ち込んだという。死んだ自然を拝復させるためだ。おかげでスペインでは在来生物が全滅、ほとんどが外来生物であふれていったのである。


「屍人はこのことに文句を言っていますね。レアな動物が死んだ、レアな植物が消えたと口走っています。命にレアも何もないと思いますけどね」


 ラタ三世は呆れていた。ビリーも同意見だ。


「ぐふふふふ……。屍人花たちを倒すとは、なかなかやるブゥ……」


 ごろんごろんと肉の塊が転がってきた。ビリーたちは警戒する。

 やがてそれはむくりと起き上がった。醜い脂肪の塊だが、顔だけは美形であった。彫りの深いスーパースターの印象がある。この顔と体の部分がかなりちぐはぐであり、より不気味さがあった。


「初めまして。ボクはアトレビドでブゥ。こいつらはボクが操る屍人花だブゥ。人間の死体に乗り移っては、チャールズ・モンローの悪口を広めるのでブゥ」


 アトレビドは子供っぽいしゃべり方をしていた。ビリーはそれを聞いてイライラしてくる。


「俺の名前はビリーだ。アトレビドと言ったな。お前はそんなことをして、何が面白いんだ。人の悪口を広めるなんて、人間として最低だぞ」


「おいおい、世界を一旦破滅に追い込んだ男をかばうつもりでブか? あんさんの方が頭がいかれているブゥ。チャールズ・モンローはこの世界で最大の悪でブゥ。あいつのせいで世界が滅んだのでブゥ。レアな動植物は死に絶え、素敵な文化遺産が台無しにされたのでブゥ。でも百年過ぎると、モンローって誰なの? 状態なのでブゥ。そんなことは許されないのでブゥ。だからボクはこいつらを利用してモンローの悪行をみんなに教えるのでブゥ。今はスペインだけだけど、世界中にモンローの悪口を広めるのでブゥ。箱舟の子孫どもは失われた科学の知識を持つ人間でブゥ。お前らがいたら科学が復活してモンローの悪行が忘れられるのでブゥ。ボクはそれを阻止するために、箱舟の人間を皆殺しに来たのでブゥ」


 アトレビドは息を切らしながらもしゃべり切った。ビリーはもちろんだが、ラタ三世を始めとした亜人たちも呆気に取られていた。彼等はラタからモンローの話は聞いている。特に五十年前にはモンロースニークという卑劣なモンローによって、鳳凰フォングァン大国にある龍京ロンキンは壊滅しかけたそうだ。

 だがアトレビドはまるで当事者のようにしゃべっている。なんというか狂人としか思えない。ビリーはますますイライラし始めた。


「お前うざいぞ。モンローが何をしようが知ったことじゃないし、別に悪口を広めても関係ない。だが俺たちを殺そうとするなら容赦はしないぜ。この拳でお前をぶっ殺してやる!!」


 ビリーはアトレビドに駆け寄り、顎を打ち抜いた。ごろんと肉塊は転がる。死んだかと思いきや、アトレビドは暢気な声を出した。


「でぶふふふ。このボクに打撃など通用しないのでブゥ。それにボクの能力はまだ見せていないのでブゥ」


 ビリーは拳に痛みを感じた。すると拳に芽が三つほど生えてきている。彼女は慌てて引き抜いた。一体こいつらは何なのだろうか。


「ボクの能力 脂肪ラードファームでブゥ。ボクの脂肪は様々な植物の種が入っているのでブゥ」

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