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第8話 キャブ・ブリッジウォーター

「よぉ、遅かったな。待っていたぞ」


 三日後、ビリーたちは自分たちの本拠地に戻ってきた。ビエドラグリスの村で指導をしていたからかなり時間がかかった。主にルイがセバスチャンと話し合い、村人を指導したのだ。

 ビリーとルイの他に、エビルヘッドとカーミラも一緒に来ている。


 そして指導が終わり、本拠地に帰ってきたらサビオが出迎えた。彼は村で見たボロボロの姿から一新していた。髪は奇麗にまとまっており、眼鏡をかけている。歯は差し歯で見栄えが良い。水色のシャツと紺色のズボン、その上に白衣を着ていた。


 そして残された箱舟の若者や亜人たちの間に入り、様々な話をしているのだ。まるで長年親しんだ友人のように。


「随分、仲良しになったな」


 ビリーが言った。亜人はともかく、箱舟の人間とはそりが合わないと思ったからだ。


「ああ、その通りだ。彼等の知識は素晴らしいぞ。儂の質問にはよどみなく答えてくれる。これがビエドラグリスだとさっぱりだ。連中は元村長の儂だから命令を聞いているだけだ。セバスチャンにも躾はしたが、どこまでうまくやれるかわからない。だが彼女らがセバスチャンの嫁になれば話は別だ。できれば若い女はすべて村へ嫁に行ってもらいたい。そうすれば濃くなり始めた血が薄くなるからな」


 サビオはものすごい勢いでしゃべりだした。ビリーたちは呆気に取られていた。


「おい、ビリー。後ろにいる怪物は何なんだ?」


 サビオの背後から一人の男が現れた。ビリーより一回り大きく、褐色肌で短い黒髪は縮れている。灰色のシャツと黒いズボンを身に着けていた。

 彼の名前はキャブ・ブリッジウォーター。箱舟の長老の孫である。


「ああ、こいつはエビルヘッドというんだ。なんとセイレンヘッドと同じようにしゃべるんだぜ、すごいだろう?」


「セイレンヘッドと? 本当か?」


「うむ、本当だとも。もっともわしがセイレンヘッドを生み出したのだがね」


 ビリーが説明すると、キャブは驚いた。それをエビルヘッドが肯定する。箱舟の人間は最初セイレンヘッドを見たので衝撃は薄い。亜人たちの方は落ち着いていた。案外見慣れているのだろう。


「詳しい話は後にしてくれ。俺は疲れた」


 ビリーは空気を読まずに言った。ルイは苦笑いしているが、やれやれと首を振る。キャブは苦虫を嚙み潰したような顔になった。


 まずキャブやカピバラの亜人であるラタが本拠地の建設に従事している。町の名前はコミエンソといい、スペイン語では始まりを意味する。

 亜人たちはあらかじめラタから教育を受けており、箱舟の子孫のために家を作り、上下水道の建築をしていた。食料を集め、ビッグヘッドから得られる涙鉱石ティアミネラルも大量に提供された。箱舟のメンバーであるアラナ・キャロウェイは歓喜に震えている。


 ビリーたちはビエドラグリスの村での話をした。そこでホビアルという大男が襲ってきたこと、死んでも生き返ってきたこと、そしてマウスピースだのチャールズ・モンローの話などをした。


 カーミラの件は保留になった。彼女は吸血鬼というが、人の血を欲しがるわけではない。ネズミなどから生命力を吸い取るだけで生活できるというのだ。とはいえ家畜のような扱いはせず、普通に病院の施設に収容する。彼女の身体を調べる必要があるからだ。


「うーん。やることが多すぎて、何をしたらいいのかわからないな」


「そうですね。亜人さんたちの村はなんとかなりますが、他の人間の村は厳しいそうです。特に余所者が来るのを非常に恐れています。交易では村長の家に泊まるのが一般的のようですが、それでも家畜小屋に追いやられるのが当たり前のようですね」


「そこにいるサビオさんのような老人は異色というわけか。親父たちは箱舟に引きこもって、無線以外会話なんかしたことがない。まあ、助言をくれるだけましということか。うちのじいさんは俺たち全員引き返せと毎日叫んでいると、親父が嘆いていたよ」


 キャブとルイは頭を抱えている。だがビリーは腕を組んだまま、何か考え事をしていた。


「先の話は後にしようぜ。大事なのは敵を倒すことだ。俺たちの敵はまだまだいるんだからな」


「敵とは誰の事だ?」


「俺たちを憎んでいる連中の事だよ。ホビアルの奴は箱舟の人間を皆殺しにしてやると言ったんだ。奴には仲間がいるらしい。そいつらが俺たちに襲撃を仕掛けてくるんだ。まずは敵を倒してから、ゆっくり考えようぜ」


「だからどんな敵が来るんだよ。お前の妄想じゃないのか!!」


 ビリーの楽観論にキャブが怒鳴った。箱舟の外に出たこと自体、前代未聞なのだ。ビリーは名ばかりのリーダーで、具体的なことは何も指示しない。自分のような博識な人間がリーダーになるべきだと、キャブはそう思っていた。


「いや、敵はいる。私が説明したあいつらのことだ。彼等は一気に動き出したと、報告があったぞ」


 ラタが言った。右手にはカラスほどの大きさのビッグヘッドが止まっていた。両腕の部分は翼になっている。口を開けて舌を出すと、舌の先に何やら文字が書いてあった。


「こいつはカウティベリオの村にいるメールヘッドだ。各地には間者がいてな、不穏な動きがあればすぐにこいつで連絡を寄越す。伝書バトの代わりみたいなものさ。もっともこいつの優れている部分は舌に情報を書き込むことができるのだ」


 そう言ってラタは舌に書かれた文字を読む。すると顔色が曇った。


「どうもカウティベリオに住むアトレビドが村人を支持して、戦争の準備を始めているらしい。狙いはここだ。箱舟の人間を皆殺しにしろと鼓舞している。村人もそれに同調しているようだ」


「はぁ? なんでひきこもりの猿が俺たちの事を知っているんだよ!!」


 キャブは激怒した。知らないうちに人を猿呼ばわりしている。確かに奇妙だ。連絡など取りようがないのに、なぜ箱舟の事を理解しているのだろうか?


「マウスピースの仕業だろう。奴らは人の不幸が大好きだ。病気や飢えで人が死んでいくのがたまらなく面白いのだ。箱舟の子孫たちは科学の力でそれらを駆逐しようとしている。すべての責任はチャールズ・ヒュー・モンローのせいにすればいいからだ」


 エビルヘッドが説明した。そもそもマウスピースとは何なのだろうか?


「幽霊みたいなものだ。正確には神応石の群体だな。一粒の神応石が司令塔になり、他の数万粒の神応石を操るんだ」


 群体とは分裂や出芽によって生じた新しい個体が、母体を離れずに、組織内の連絡を保ちながら生活する個体群のことである。海綿動物にサンゴ、クダクラゲに植物性鞭毛しょくぶつせいべんもう虫類の原生動物であるボルボックス。珪藻けいそうなどにみられる。


 マウスピーズはチャールズ・モンローを憎みながら死んでいったものたちの神応石が集まって生まれた存在だという。人間に憑りついてはモンローが悪いと繰り返し叫ぶのが特徴的だそうだ。


「チャールズ・モンローってのは相当嫌われているな。なんでだ?」


 ビリーが首を傾げると、ルイが補足した。


「その人は十代のアメリカ人で億万長者になったの。金属細胞メタルセルという発明でね。それを人体に移植すると身体が金属のようになって老化しなくなるのよ。ところが当時ヨーロッパを中心としたオルディネ教や、中東を中心としたタルティーブ教にとっては禁忌の発明なのよ。それで彼は悪魔の使いとして罵声を浴びせるように指示したみたいね。これは箱舟に残された当時の新聞記事で知ったの」


「なんだそりゃ。なんで宗教が文句を言うんだよ?」


「オルディネ教にしろ、タルティーブ教にしろ、人は神が作り出した存在なの。それを勝手に寿命を延ばしたりするのは、神への冒涜なのよ。アメリカでは堕胎をした医者を殺そうとした事件が起きているわ。自分の考えを押し通すためなら、他人を殺すことが正義だと思い込む人間がいるのよ」


 ルイは首を振った。百年前の話だが人間の身勝手さは今も昔も変わらないことに呆れているのだ。

 とりあえずマウスピースに対処するのが優先だ。キャブは面倒事が増えてイライラしている。


「まったく外の人間はクズだな。じいさんたちが箱舟の外に出たがらない気持ちが理解できたぜ」


「けっ、文句を言うなら誰でもできるだろう。人の悪口を言う前に、目の前の問題を解決すればいいだろう」



 キャブが愚痴をこぼすと、ビリーが反論した。キャブはビリーをにらみつける。そこをルイが割って入った。普段は気が弱いがもめ事を止めるのは慣れている。


「二人とも喧嘩はしないで。今はビリーの言う通り、迫ってくる敵をなんとかするのが大事よ」


 キャブはぺっと唾を吐き捨てる。とても不機嫌だ。どこか子供じみており、ビリーはそれを無視する。


「ところでアトレビドってどんな奴だ? まずはそいつをなんとかするのが一番だろう」


 ビリーの言葉に、ラタ三世が答えた。


「それなら僕が知っています。アトレビドは巨大な脂肪の塊ですよ。動きは鈍いですが、脂肪で植物を操る力を持っています。腕に種を仕込んで、それを急激に成長させて蔓を作るのです。そして逆らう村人の首や胴を絞めて殺すそうです。僕はおじい様の命令で見張っていたから知っています」


 説明を終えるとラタ三世の表情が曇る。恐らくはアトレビドの悪行を止めずに見ていた罪悪感が湧いたのだろう。


「ホビアルと同じような力を持っているのか。面白い。俺の拳を味合わせてやるぜ」


 ビリーは右の拳を握ると、にやりと笑う。まるで子供のようにわくわくしていた。


「ところであんたもなかなかのもんだ。何か特殊な力を持っているのかね?」


 サビオが訊ねた。


「特にないな。けど俺の拳は天下一だ。こいつがひとつでどんな敵も粉砕できると信じているぜ」


 ビリーは自信満々に答えた。サビオはそれを聞いて納得した顔になる


 キャブ・ブリッジウォーターの元ネタは、アメリカのジャズシンガー、キャブ・キャロウェイと、カナダの女優アラナ・ブリッジウォーターがモデルです。

 

 元はカップヘッドというゲームで、キングダイスというボスキャラがキャブ・キャロウェイのモデルだからです。

 キングダイスのテーマを唄っているのがアラナ氏で、かなり重厚な歌声です。

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