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第六話 フエゴ教団の誕生

ビエドラグリスの村の中でひと際大きな石造りの家がある。恐らく村長が住む家だろう。

 多くの人が集まっていた。ほとんどボロボロである。多分ホビアルに甚振られたのであろう。

 村長のサビオが率先して案内した。その背後にビリーとルイ、ラタ三世とカーミラ、そしてエビルヘッドが控えていた。

 村人のほとんどはエビルヘッドを見て、「デカ頭だ」「あんなデカ頭は見たことがない」「俺は知っているぞあいつはホビアルを丸ごと喰らったんだ」と騒ぎ出した。

 そこに一人の若い男が前に出る。騒ぐ村人を黙らせた。


「おお、セバスチャン。元気そうで何よりだ」


 どうやら若い男はサビオの血縁らしい。


「……じいさん、何しに来た?」


 発言からしてセバスチャンは孫のようだ。だが肉親とは思えない冷え切った声である。


「おいおい、祖父が帰ってきたのに、その態度は何だ?」


「我先に逃げ出したのはどこのどいつだよ!!」


 セバスチャンはサビオをにらんでいる。さらに声を荒げる。


「もうあんたの顔は見たくない!! この村から出ていってくれ!! この村は俺が村長になるんだ!!」


 芝居がかった言い回しで、そう吐き捨てると、サビオは頭を掻きながら、背を向けて去った。村人は歓喜に沸いていた。

 ビリーたちはその様子を眺めるしかなかった。


 ☆


「本当は俺が逃がしたんだけどな」


 深夜、村長の家の中でセバスチャンはビリーたちとテーブルに囲んでいた。エビルヘッドは身体が大きすぎるので外で待機している。もっともすぐそばにいた。


「じじいはとても賢い人だ。ガキの俺よりじじいを逃がすのは当然だろう?」


「では、なぜあんなことを?」


 ルイが訊ねた。


「決まっているだろう? 俺は納得しても村人はそう思わない。情けない限りだが他の連中はそれを理解してない。じじいの言葉は科学的よりもまじない師と思っているくらいだ」


 セバスチャンは首を横に振るう。正しい科学の知識を持つのはサビオを含めたセバスチャンの一族だろう。この手の村は知識を蓄えた老人を捨てるより、子供を捨てる。子供は死んでも新しく生まれるからだ。


 しかし村長が逃げ出すのはよくない。なので村長のサビオは追放という形になる。

 

 ルイはラタ三世に振り向き、納得した。


「あなたはエビルヘッドさんを知っているのですね。でなければもっと驚いていたはずですから」


「知り合いだったわけじゃない。そこにいるコマネズミの坊やが秘密裏に情報を交換していたからだ。じいさんは喜んでいたよ。それに箱舟の人間がもうじき解放されるんだ。自分の知識と経験を生かせば、この国は豊かになるとね」


 セバスチャンはキノコ戦争以前の世界は知らない。サビオも同じだ。しかし科学の知識は継承している。しかし村人はあまり科学知識を理解していない。貝殻を粉々にして作った石灰は、海の神様がもたらしたものだと教えていた。身体を清潔にするのは、神様は体を洗う人間が好きなんだよと教えていたようだ。


「おいおい、なんか子供っぽいな。不潔だと病気になることくらい、俺だって知っているぞ」


 ビリーが文句を言った。そこをルイが反論する。


「恐らく百年もの間、荒廃した世界では勉強もままならないのでしょう。むしろサビオさんのような存在は稀有ですね。石器時代のように本能で理解しても、頭で考えることは放棄しているかもしれません。それを神様のおかげだと言いくるめたのはうまいと思いますね」


 ルイは一人納得している。そこにエビルヘッドが外から声をかけた。


「ところでホビアルという男はなんなんだ? あいつの中には何十万人の神応石が詰まっていたぞ。あんなざらざらした人間を食べたのは初めてだ」


「ざらざらは意味不明だが、ホビアルの事は説明できる。あいつはもともと図体だけがとりえの空っぽな男だったんだ」


 セバスチャンが説明すると、ホビアルは生まれた時から知性が低かった。六歳の子供なら一足す一は二とすぐ答えを出すのに、ホビアルは一八歳になってもまったく答えることができなかった。逆に命令されたことは素直に従う。もっとも臨機応変に対応はできない。

 言葉も片言で、同年代には馬鹿にされていた。もっともセバスチャンはそういった連中を窘めている。


 ところがホビアルの様子が一変した。余所者が村を訪れ、ホビアルに何かを飲ませていた。その日からホビアルは流暢にしゃべるようになった。乱暴者の蛮族となり、自分を馬鹿にしたものは容赦なく殴り飛ばした。女たちは自分の家に縄で繋げ、毎晩暴力で屈服させていたそうだ。


 さらにこの世界が崩壊したのはチャールズ・ヒュー・モンローというアメリカ人のせいだと宣伝した。自分ではなくモンローを憎めと強要したのだ。さらに箱舟の人間が解放されたら皆殺しに行くとも言っていた。


「へぇ、あいつは箱舟の事を知っていたんだな。びっくりだぜ」


「いいや、それはあり得ない。箱舟の事を知っているのは俺とじいさんくらいだ。じいさんだって話は知っていたが詳しい場所はわかっていないんだ。それをホビアルが知っているなどありえないんだよ」


 セバスチャンは首を傾げていた。ホビアルがいきなりしゃべりだしたことに、異様さを感じていたのだ。これはサビオの孫だから疑問を抱いているのだろう。


「ところでカーミラってなんだ? あいつとこの村はどういう関係なんだ?」


 ビリーが訊ねた。


「あいつはじいさんが捕獲して閉じ込めたんだよ。あいつは昔から他所の村では何度殺されても蘇る不思議な女なんだ。飯を食わさず放置してもかじりつくネズミの精気を吸い取ってしまうんだよ。首をはねても、火で焼いても死なないんだ。じいさん曰くカーミラはみんなのストレス解消のために生かされている、過去にあった女吸血鬼の名前を取り、永遠の悪として殺される運命なんだと推測していたな」


「ほう、バーバ・ヤーガと同じだな。あいつは何度殺しても再生していた。このわしが食べても要となる神応石が飛び出して、新しい肉体を作るのだ。しかし、向こうは冷気を出していたが、こちらは何もしていない……。一体この差は何なのだ?」


 セバスチャンの説明に、エビルヘッドが補足した。バーバ・ヤーガが何者か知らないが、カーミラと同じような不死の存在らしい。

 そこにルイが質問した。


「そのバーバ・ヤーガという人はどういう人なのですか?」


「確かアナスタシアなんとかと呼ばれていたな。ロシアのお姫様で昔暗殺されたけど、生き延びていたという話があるとか」


 エビルヘッドの話を聞いて、ルイはうんうんと頷いた。


「もしかしたらカーミラさんの場合、架空の人物でイメージを作られていると思います。逆にバーバ・ヤーガは実在する人物です。人々にとっては実在する人はイメージを作りやすいですが、創作の人は難しいです。個人の解釈があるから。カーミラさんがあやふやなのはそのためだと思います。恐らく彼女は名もない女性だったのでしょう。ところがキノコ戦争が始まったので人々は不満を抱いた。その不満を解消する矛先が女吸血鬼カーミラになった。最初は別の場所に住んでいたけど、その場所を追い出されていった。長い間放浪して今私たちと巡り会った。そんなところでしょうか」


 ルイの言葉にビリーは目を丸くした。


「お前は頭がいいな。俺にはちんぷんかんぷんだ」


「あなたも同じ学校で習ったから理解できるはずだけど」


 ルイは笑う。この辺りは同年代の女性と同じだ。セバスチャンは話を進める。


「それでこれからの話だが、じいさん的には俺が箱舟の女と結婚するべきだと言っていた。村の頭がまず余所者と結婚すれば、他の連中も結婚しやすくなるからな」


「確かにそうですね。サビオさんは近親相姦を恐れているのでしょう。ですが問題はこの村だけではなりません。他の村との交流もありますからね」


「亜人の村は私の祖父が手を回したから大丈夫です。一番難しいのは人間の住む村ですよ。彼等は異様なまでに余所者を嫌います。ビエドラグリスの村の人が石灰を売りに行くときも用心棒がいないとすぐ殺されそうになったそうですから」


 ラタ三世が補足した。今のスペインは中世ヨーロッパ風になっており、人徳を理解できない状況になっていた。排他的になったのは自分たちの先祖が人間を食べたからだという。

 人間を食べた浅ましい過去を知られないために、余所者を排除しているそうだ。


「つうかさ。人間を食べたのはどこも同じだろ? なんで人間の村だけ余所者を嫌うか意味が分からない」


 ビリーがつぶやいた。確かにそうである。それに死んだ人間の肉を食べたのだ。生きている人間を殺して食べたわけではない。


「連中は自分が偉大だと思っているのだ。この世で最も素晴らしい存在だと信じ切っておるのだよ。それ故に人間を食べた浅ましい過去を知られることは、死よりも恐ろしいことなのだ。今、この世界で生き延びている者は人間でも亜人でも、死肉を喰らって生き延びている。他人はけだものと馬鹿にして、自分たちはそうじゃない、選ばれたエリートと妄信しておるのだよ。質が悪いな」


 エビルヘッドが説明した。なんとも不愉快な話である。ビエドラグリスではそんなことはないが、他の国だとそう言った村が多いらしい。


「それで俺たちはどういった扱いを受けるんだ?」


「あんたらはホビアルを倒した英雄だよ。そして村長になった俺の言うことなら聞くだろうさ。交易はするだろうけど、技術者も欲しいな。じいさんの知識だけだと限界があるんだよ」


「けど、この村の連中はバカが多いんだろ? 科学の話をされても理解できないと思うがな」


「そこさ。科学というから理解できないんだ。神の教えとして広めればすんなり受け入れられると思うぜ」


 セバスチャンが提案する。箱舟の人間は神の使いである。だから神の教えを広める名目で、科学知識を広めればよいのだ。


「不潔なものを浄化する。焼き払う意味でフエゴ教団と名乗ったらどうだ?」


 フエゴはスペイン語で火を意味する言葉であった。

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