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第26話 これからの相談

ここはフィガロにある教会の一室。周りは暗く、ろうそくの明かりだけが照らされていた。

 出されたお茶も飲み干されており、冷えている。

 黒いノヤギの亜人であるロン羅漢ラカンはヒュー・キッドの話を聞き終えた。特に感想はない。可哀そうだとか怒りとかは一切なかった。

 人にはそれぞれ人生があり、ヒュー・キッドやズルタンはその変わった道を歩むことになったのだろう。


「……許せない」


 そこにマレーグマの亜人であるロン七海チーハイが絞るように声を出した。その声色には憎しみが宿っている。


「そんな話をして同情を引こうというの? 特に毬林まりばやし満村みつむら英雄インシオン神様を殺した張本人なのよ? 私としては即拷問にかけて、死体を晒しものにすることをお勧めするわ」


 あまりに過激な発言に羅漢は驚いた。七海は豪快な性格だから恨みを抱かないと思っていた。しかし面識のない羅漢の祖父に対して熱くなるとは思わなかった。


「おいおい七海よ。お前は何を熱くなっておるのじゃ。そもそも百年前に死んだ奴の話を引き出す必要などないじゃろ」


 白いノヤギの亜人で、羅漢の祖父であるロン金剛ジンガンが窘めた。金剛は英雄の孫なのだ。もっとも本人と出会ったわけではない。子供の頃から英雄は素晴らしい人だとうんざりするほど聞かされたのでいい思い出はない。父親の超人チャオレンはさらにイラついていただろうと予測できた。


「金剛様!! あなたはなぜそんなに冷静でいられるのですか!! そもそもそこにいるひゅーなんとかはあなたの父親を破滅に導いたチャールズ・ヒュー・モンローなのですよ!! 父親の仇がいるのに、なぜあなたが冷静なのか理解できません!!」


 七海が烈火の如く怒った。彼女は長年、海賊ハイダオ王国ワングオの王女として暮らしてきた。父親のロン海男ハイナンを頭領として七つの海を駆け巡った。

 羅漢の故郷である龍京ロンキンは数年しか暮らしていない。羅漢自身は自分の四代前の先祖である英雄に対しては何の感情も持っていない。遠い人だと思っていた。

 なのに七海は英雄を神とあがめている。その熱意は羅漢も驚いていた。


「私も七海さんと同じ気持ちですね。私の一族では英雄様は神として崇められています。あの方がいなければ今の龍京はありませんでしたから」


「俺も同じ気持ちだよ。特に毬林満村は悪魔ウモの化身だ。そいつを目の前にして普通に接する金剛様たちが理解できませんな」


 金華豚の亜人であるズゥ吃豆チドウと、ナミチスイコウモリであるスゥ黒夫ヘイフも同じ気持であった。彼等にとって英雄は神であり、毬林満村は悪魔なのだ。


「あなたたちが私に嫌悪を抱くのは当然だ。だが私は自殺をするわけにはいかない。ヒュー・キッドの手で復活したということは、私自身に罪の償いをしろという神のお告げなのだろう。ならば私は命ある限り、贖罪のために生きたいと思う」


「自分勝手に人を殺した張本人が贖罪なんて許せませんわ!! 本当に申し訳ないと思うならすぐ自殺しなさい!! その遺体は首を吊るして飾りますから!!」


 ズルタンの言葉に、七海がかみついた。羅漢はなんで自分と関係ないのに、ズルタンに対して殺意を抱くのか理解できない。逆に自分が異常者として扱われる。まったく腹立たしい限りだ。


「まぁまぁ、お待ちなさいよ、お嬢さん。我らエビルヘッド教団はヒュー・キッドたちと手を組みませんよ。彼等は我らの敵です。見かけたら石を投げ、罵詈雑言を並べるようこれから教えるんですから」


 白馬の亜人であるロン賢人シェンレンこと、スレイプニルが答えた。


「ヒュー・キッドたちは水面下のみで接触します。あとはエビルヘッド様が蟲人インセクター王国キングダムの南部を制覇してもらいたいですね。バルバール王の影響が最も強いのですよ。そして羅漢様、あなたは私たちの旗印となっていただきます」


「おい、あんた正気かよ?」


 突然の事に羅漢は反発した。スレイプニルは笑顔を崩さない。


「正気ですよ。あなたは金剛の孫です、そしてフィガロでもその名前はとどろいておりますよ。私の代わりに大司教となり、我々を導いてほしいのです」


「馬鹿か。なぜ俺がそんなことをしなくてはならんのだ」


「……、正直なところ、私が頭では無理なのです。鼻毛を伸ばす能力を持っても、迫力がないので、信者に舐められる傾向が強い。ですがあなたは違う、あふれる野生と人を引き付ける魅力がある。あなたが頭になれば今まで誘っても来なかった、人たちが砂糖に群がるアリのように寄ってくるに違いありません」


 スレイプニルは真剣な眼差しで羅漢を見る。どうやら本気のようであった。


「……仮に俺が大司教になったとする。だが俺は宗教の事など知らないぞ」


「それは私にお任せを。それに他の皆様にも司教の座を用意しております。吃豆さまはベルゼブブの座を、黒夫さまはルシファーの座を与えましょう。七海さまは、そうですね……、アスモデウスの座がございます。これは七つの大罪をモチーフにした悪魔の名前です」


 本人たちに相談なく勝手に進めていく。金剛は腕を組んだまま何も言わない。彼自身最初からこれを狙っていたかもしれなかった。

 吃豆たちが反発しないのは、スレイプニルのにこやかな笑顔の奥底に、底知れない迫力を感じ取ったからだろう。


「さて、話は終わりましたか?」


 今まで黙っていたのは、シャムネコの頭を持つ少年、ヒュー・キッドだ。


「表向き僕たちスプーキーキッズはエビルヘッド教団と敵対します。ただし司教クラスには秘密を受け継ぎましょう。それに僕は世界で飢えている人々を救う仕事がありますので」


「ふん、あなたの正体を知ったらみんな手の平を返すでしょうよ。あなたが世界を滅ぼしたチャールズ・モンローとわかれば、この世界のすべての人々があなたを殺しに行くでしょうね」


 七海が嫌味を言った。


「その理屈だと海賊島バッドガイ アイランドのディーヴァはどうなるんだ? もうあそこは重要な貿易の要になったんだぞ? そもそもお前さんはともかく他の人間はどうなんだ? 百年前に死んだ奴のことなぞどうでもいいと思っているはずだ」


 金剛が注意した。しかし七海は反論する。


「そんなことはありません。なぜなら英雄さまは神になったのです。神を否定するなどありえません。そもそも金剛さまは英雄さまの孫なのに、復讐しないなんてありえませんよ」


「……私はそこまで復讐したいとは思いませんけどね」


「私もだ。長年龍京にいなかったからだろうか」


 吃豆と黒夫がひそひそ話をしている。七海は長年海を巡っていた。それは楽しい時間ではなく、地獄のような日々であった。高祖父である龍虎鳳ロン フーフォンも海に落ちて死んだ。真っ当に死ねた家族は少ない。だからこそ七海は神を強く信仰しているのかもしれない。


 金剛も先ほどか軽く考えてはいたが、ディーヴァが毬林満村の娘であることは秘密にした方がいいかもしれないと思った。そもそもエビルヘッドだけでなく、ウィッチヘッドにルシファーヘッド、セイレンヘッドを生み出したのは彼女だ。今更彼女を殺すなどありえないだろう。

 そもそも龍京では彼女は女神として扱われている。もっとも悪魔の子が反転して女神に生まれ変わったと広めればいいかもしれない。


「ところでスプーキー・キッズといったが、道中で我々を襲ってきたのはお前たちの仲間か?」


「違います。モンロー19がスカウトした連中ですよ。でもまあ、同じと言えるかもしれませんね。そもそもスプーキー・キッズとは不気味な子供たちという意味です。僕がチームを作るならその名称を使っていました。実際モンロー19も使ってますしね」


「じゃあお前さんのスプーキー・キッズはそこにいるズルタンか?」


「はい。それと黒夫さんに接触したガリバー、龍京の女巫ニュウさんと会ったシンドバード、そしてディーヴァも同じです。他にも世界各国で活動しておりますけどね」



 今までの謎が解けた。しかし話はこれで終わらない。いや、ここから始まったといっても過言ではないだろう。

 やることが多すぎて何から手をつければいいのかわからない。とりあえずスレイプニルが提案を出した。


「まず羅漢はシオンディを名乗るといいでしょう。これは鳳凰大国では兄弟を意味します。あなたは兄弟をまとめる役として活動してもらいます。最初は私の指示に従ってください、いいですね!!」


 スレイプニルが睨むように言った。羅漢も「アッハイ」としか答えられなかった。金剛とは違う迫力を感じ、羅漢は委縮した。だが悪い感覚ではない。今まであふれ出る力を押さえられなかったのだ。自分を押し付けられる存在に羅漢は感動すら覚えていた。


「次に重要なのが箱舟の人々との接触です。こちらはラタが担当しているので問題はありません。大事なのはこちらは秘密裏に接触し、あくまで敵対する関係を作りたいですね」


「なんで敵対するんだ?」


「敵がいないと緊張感がなくなりますからね。表向きは敵でも知る人は秘密裏で協力し合う仲になりたいのです。敵対した相手と同化する。それが理想ですね」


 なんとも複雑な関係だろうか。だがいきなり仲良くなりましょうといっても、簡単に手を握ることはできまい。古代ローマ文明でも敗者と同化していったが、そこまでに多くの血が流れていたのだ。


「ところでラタとは誰だ?」


 羅漢が訊ねた。


「ラタはロン主角ズゥジャオのことですよ。彼はスペインにおいて亜人たちを束ねる存在となりました。ラタはスペイン語でネズミを意味します。今彼は箱舟の人々を受け入れる準備を進めております。近いうちに連絡が来るかも……」


 スレイプニルが言った。龍主角は宰相を務めた龍小夫ロン シャオフの孫だ。五十年前に旅立ったというが、生き延びていたようである。

 だが羅漢は思う。百年近く引きこもった連中が、自分たちと仲良くできるのかと。むしろ亜人たちを毛嫌いし、見下すかもしれない。はっきり言えば無理としか思えない。

 だが無茶なことだからやりがいがある。羅漢はなんでもできる、だからこそ誰もしたことがないことをやってみたい。

 羅漢はそう思った。

 今回で第3部は最終回です。

 次回は第3・5部が始まります。

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