第24話 バルバールの最後
「ヒャッハー! ヒャッハー!! ヒャッハッハー!!」
バルバールは暴れていた。まるでわんぱく坊主が自分より年下の子供をいじめているような印象を受ける。
一方で龍羅漢たちは苦戦していた。彼自身、神の様な筋肉を持ち、神通力の如く、風を巻き起こす。それでバルバールの兵士は吹き飛ぶ。ある者は地面に叩き付けられ、カエルのように伸びていた。またある者は大木の幹に叩きのめされ、内臓を吐き出している。
だが惨めな死にざまを目撃しても兵士たちの闘争心は静まらない。女を一発犯さねば気が済まぬほど彼らはたけり狂っていた。
主であるバルバールの悪影響だ。彼の傍にいれば生活や将来の不安などきれいさっぱり消えるからである。
バルバールは野蛮人ではあるが、人心を掌握する術を知っていた。強さに比例してカリスマを持っているのだ。
「あの野郎を殺さねば、フィガロはおろか、この国に未来はないな」
羅漢がつぶやいた。元々自分以外はどうでもいいと思っている男だが、バルバールの蛮行を見て考えを変えた。あまりにひどい人間を見ると人はそいつを反面教師として否定するのだ。まさに人の振り見て我が振り直せ、である。
とはいえバルバールの強さは単純なものだ。特別な力などないが、敵を屠る力は他の誰よりも長けている。単純故に強い。下手な装飾品がなくともその肉体美だけで人を魅了するのである。
恐らく女たちは彼を見ると妊娠させてほしくなるに違いない。
「オマエラァ!! 頑張れよぉ!! フィガロじゃクリュエルがお宝と女を得ている!! こいつらの帰る家はもうじき消えるんだ!! そうすればこいつらの気力は削げる、あとは一方的にやりたい放題できるんだ!!」
うおぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!
兵士たちの咆哮に大地が揺れる。バルバールは自分の部下を信頼していた。しかし肝心のクリュエルはすでに死亡していることをバルバールは知らない。
それは羅漢も同じだが、関係ない。バルバールさえ仕留めればあとは烏合の衆になるからだ。
「羅漢よ。わしに任せてもらえないだろうか?」
エビルヘッドが横から出た。あまり人との戦いに興味を抱かないビッグヘッドが珍しい。
「こいつらはあまりにも強い。普通の人間ならまず負けることはないだろう。ならわしはこいつらの心をへし折る兵力を作り出す。こいつらを恐怖のどん底に陥れることを約束しよう!!」
するとエビルヘッドはペッペと何かを吐き出した。地面に芽が出た。するとむくむくと風船のように膨らんでいく。
新しいビッグヘッドが生まれたが、どいつも歯を剥き出しにして笑っていた。なんとなく不気味である。
「こいつらはスマイリー。生きている人間を喰らうビッグヘッドだ。一度捕まったら最後、お前らはまともな死に方はできんぞ!!」
エビルヘッドが叫ぶ。スマイリーは数十体生まれている。兵士たちは無視して突進してきた。数の暴力ならどんな敵でも殺せるし、罠も他の誰かが犠牲になれば踏み越えられるからだ。
兵士たちは棍棒でスマイリーを殴った。ぼかぼかと殴るがなかなか固くて殺せない。そうするうちに兵士がスマイリーに捕まった。兵士の足をつま先からかぶりと齧る。それをゆったりと続けるのだ。
ひぎゃああああああああああああああ!!
当然、兵士は痛みで苦しむ。しかしスマイリーはがっちりと相手を掴んでいるので離さない。ばりばりと脚から喰われていき、あっという間に腰から下は食われていた。
兵士は恐怖のあまり死んでしまったが、スマイリーは我関せずして食べていく。
兵士の目や鼻、口から血があふれ出ていく。ばりばりと兵士の首を食べていき、ぺろりと唇に付いた血をなめとった。
それは他の兵士も同じであった。戦場では言葉にならない絶叫が響き渡る。まるで死の行進曲だ。兵士たちの間に恐怖が伝染する。人間が生きたまま食われるという恐怖は、ただ槍で刺されたり、矢で撃たれて死ぬよりも上回る。
兵士たちの顔は脂汗が垂れ流れる。息もできなくなり、腰も抜けたままだ。
バルバールよりもスマイリーに恐れを抱いていた。
「ひぃ、逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
兵士たちは逃げ出した。バルバールよりもスマイリーの方が怖い。
だがバルバールは逃げ出す兵士を殴り殺した。
「逃げるやつは俺が殺してやる!! 戻って奴らを殺せ!! そうでないとお前らの家族を俺が縊り殺してやるからな!!」
バルバールが叫ぶ。彼は苛立っていた。自分の思い通りに事が運ばないことが信じられなかった。彼にとって都合のいい現実が真実であり、それ以外は絶対に脳が認めないのである。
とにかく相手を恐怖で支配する。それ以外にすることがなかった。
「腐った奴だな。お前みたいな奴が一番むかつくんだよ!!」
羅漢の怒りが爆発する。自分も好き勝手に生きてきたが、人を殺すことはしなかった。今まで殺した相手はみんな敵意を持っていた。
バルバールのように気ままに人を殺す相手は許せなかった。
「ひっひっひぃ! 俺は強いんだ、俺は最強だ、俺は世界一なんだぁぁぁぁ!!」
バルバールは棍棒を振り回す。最早正気を失っていた。口から涎を垂れ流し、げらげら笑っている。
祖父の金剛とヒュー・キッドは別の兵士たちと戦っていた。こちらは別の隊長が担当しており、うまく兵士たちを操っている。
もう相手は狂人であった。まるで麦畑を襲った害虫のようである。いや最初からそうだったのだろう。
羅漢はこういった相手が一番怖いと思っている。頭がおかしい相手は剣を持つ相手より恐ろしい。
「羅漢よ。まともに戦う必要はないぞ」
エビルヘッドが走ってきた。彼は大きな口を開けると、バルバールをひょいと掴んで食べてしまった。
ばりばりと骨の砕ける音と肉を千切れる音がした。太陽王のあっけない死であった。
☆
それからのバルバール軍は惨めなものだ。王が死んだので彼らは蜘蛛の子を散らすように消えていく。所詮は蛮族の部下だ。自分の得にならねば去るのは当然であった。
しかしスマイリーたちは兵士たちを追い回す。バリバリと人間を食べて回っていた。
羅漢はほっとする。さすがにバルバールを相手にするのは嫌だった。臆病と思われても仕方がない。しかし悪いことではない、自分の考えが木っ端みじんに砕かれたため、かえって気持ちが軽くなった。
ヒュー・キッドが飛んできた。彼はあまり人を殺していない。殴っただけで解決している。
「羅漢さん。大手柄ですね」
「俺の手柄じゃない。エビルヘッドのおかげだ」
「それはそうですが、バルバールが亡き後、もう大丈夫でしょう」
「いや、まだおわりじゃないぞ」
エビルヘッドが言った。確かにその通りである。バルバールは蛮族の王だが人をまとめるのはうまかった。そのまとめ役がいなくなれば烏合の衆はさらにひどくなる。むしろ抑えが効かなくなり、蟲人王国は荒れる一方だろう。
「いい手があります。バルバールの支配下にある村を潰して回りましょう」
ヒュー・キッドが提案を出した。あまりにも乱暴な話で意外である。
「ボクは正義の味方じゃないですよ。あくまで腹を空かせた人の味方です。それに敵はまだいます!!」
ヒュー・キッドが叫ぶと、何やら刃物が飛んできた。それは爪であった。
「へえ、うまくかわしたね。さすがは僕といったところか」
それはチャールズ・モンローであった。正確には十九歳のモンローである。
「所詮は蛮族の頭だ。とはいえ単純な力なら向こうが上。からめ手を使わず、エビルヘッドを頼るのは最良と言えるがね」
今度は右側の顔が答える。毬林満村だ。
「……バルバールは死にました。もうあなたは終わりです」
「終わりじゃないさ。バルバールはあくまで実験に過ぎない。奴のカリスマを利用して神応岩がどれほど影響あるかを調べるためさ。結果的にうまくいったよ。恐ろしいほど神応岩の反応が高くなったね。もうここにはようはない。さらばだ」
モンロー19は立ち去ろうとした。だが羅漢は逃がすつもりはない。しかしそこに人面犬が飛び掛かった。毬林の顔を持つズルタンだ。
「もう、お前には用はない。これ以上情報を与えるわけにはいかないからな。もう一人の自分よ」
毬林がつぶやくと、右手でパチンと指をはじく。するとズルタンの表情が柔らかくなった。
「うぅぅ、なぜ……」
ズルタンがしゃべった。苦悶から解放されたようだが、その顔は暗い。
「お前にはお前の償いがあるだろう。俺にも俺のやり方がある。安心しろ、モンローは世界の破壊など求めちゃいない。そりゃあ、最初はそう思ったかもしれないがね」
「僕はのんびり世界を見て回るよ。おっとヒュー・キッドくんが作った畑を積極的に潰すつもりはない。馬鹿は空腹よりプライドを優先するのがいるからね」
モンロー十九はつむじ風を舞うと消えてしまった。ヒュー・キッドは苦い顔になる。
「消化不良だが問題は解決したとみて間違いないだろう。あとはあんたらの話を聞かせてもらおうか」
羅漢はヒュー・キッドに言った。ヒュー・キッドもこくんと首を縦に振る。
ズルタンは主人に置いて行かれたが、悲壮感はない。
バルバールの残党は粗方片づけた。後日、バルバール王の支配した村はすべて潰して回した。
バルバールの妻と子供たちはまとめてエビルヘッドが食べた。復讐の芽をつぶすためだが、側室の子供が逃げ出してしまった。そいつは北部に潜り込み、打倒エビルヘッドを目指していた。
遠い未来ではバルバール王は家族の見ている前で喰われたことになっている。これは側室の子が自分を正当化させるために嘘をついたのだ。バルバールの血族はすべてエビルヘッドに喰われており、バルバールが作った王国も跡形もなく消えた。そのため嘘を否定する材料がなくなり、蟲人王国ではエビルヘッドの非道が語り継がれることとなった。
バルバールはマッスルアベンジャーに出ています。
こちらは百年前の話なので、伝承が歪んでいますね。




