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第12話 ある洞窟の中で

「ふむ……。なかなかうまくいかないものだな」


 暗闇の中で一人の男が立っていた。とある洞窟の中だ。

 男は寸鉄身に着けていない、全裸であった。だが人として異質なのは、肌の色が水銀の様な色である。

 髪の毛は紅く、左目を覆っていた。目は吊り上がっており、鼻はとがっている。唇は小さく、紫色の口紅をつけていた。

 体つきは筋肉質だが細く見える。しかしひ弱には見えない。

 

 その横には犬が一匹いた。大型犬のようだが頭は人である。信じられないが銀色の男と同じ顔であった。

 犬の顔は苦痛で歪んでいた。目は血走り、歯を剥き出しにして歯ぎしりしている。

 うめき声をあげているが、男は全く気にする様子がない。


「レッドブル、ペルソナ、ブルース、マーク……。どれも金剛ジンガンたちに勝てなかった。いや、金剛の孫に負けているな」


 男は独白した。人面犬はクルクルと同じ場所を回っている。


「俺が死んで百年……。世界はすっかり様変わりしている。一体俺は何をすればよいのやら……」


 男は悩んでいた。男の名前は毬林満村まりばやし みつむらという。百年前、ロン一族の村に襲撃した。

 彼は当時キノコ戦争によって妻子を失った。世界は崩壊し人類の命運はあとわずかと思われた。

 毬林は狂っていた。生き残った人間を猟銃を手にして片っ端から撃ち殺したのである。

 これはキノコ戦争の毒によって余命幾ばくもない者たちを楽にするためであった。

 

 毬林は他に生き残った者たちが集まり、死にかけた者たちを始末して回ったのだ。

 そして偶然、龍一族の党首である龍英雄ロン インシオン率いる村を見つけた。

 最初、生き延びた子供たちが獣に変貌していたのは驚いた。だが獣と化してまで生き延びた彼らを不憫に思った。

 なので毬林は英雄たちを皆殺しにしようとした。もちろん彼らを始末した後自分たちの手で片をつけるつもりである。


 毬林は英雄と死闘を繰り広げた。だが今一歩で敗れたが、事前に隠し持ったダイナマイトで英雄もろとも吹き飛ばしたのだ。

 自分の命はそこで終わったはずであった。だが目を覚ますとそこは水が詰まった試験管の中だった。

 毬林の身体は銀色になっていた。これはどうしたことかと周りを見回すと、一体のロボットが前に立った。

 銀色の筒の様なロボットである。

 

「初めまして。私の名はミルズ。人工AIでございます」


 ミルズはぺこりと頭を下げた。いやそう見えるだけだ。


「あなたは百年前に亡くなりました。私はあなたの首を拾い、ここの研究室に保管されました。あなたに金属細胞メタルセルを挿入し、人造人間メタニカル アニマルにするためです」


 人造人間が何かはわからない。だが毬林は自分が生きていることを実感した。これは普通の人間にできることではない。


「私を生み出したのはチャールズ・ヒュー・モンローでございます」


 毬林は驚いた。その名前は知っていた。確かアメリカに住む天才少年のはずである。

 ミルズは説明した。百年前のキノコ戦争はモンローがネットを駆使して世界中の軍事基地を掌握して起こしたものだという。

 そして五十年前にモンローは復活した。彼もまた人造人間に生まれ変わったのだ。亜人の都を面白半分に潰そうとしたが失敗した。

 モンローは研究の際に失敗した人造人間たちを連れて行った。普通の人間では勝てるはずはないと思われた。


 それをノヤギの亜人である龍金剛ロン ジンガンに敗れたのである。モンローの所業は毬林でも吐き気がした。

 ミルズは主の復讐を願っている。金剛を殺せと。ただ主を殺したものだけ殺せばいいと頼んだのだ。

 毬林は快く引き受けた。その際にミルズは世界中から集めたスキル持ちを資格に差し向ける。中には毬林自らスカウトした者もいた。

 そいつらの呼称をスプーキー・キッズと命名した。


「金剛か……。なかなか面白そうだ。妻と娘を亡くし、世界が様変わりはしたが、ここまで面白くなるとは思わなかったな……」


 毬林は笑う。世界は亜人であふれていた。それどころか小人や巨人、魚人間や鳥人間など様々だ。

 今の世界を潰す気はない。ただ金剛たちと勝負をしたいと思っている。

 ミルズもあまりモンローの復讐に執着しているように見えない。あくまで金剛の命だけが欲しいようだ。

当初は自分を復活させたモンローの影響を受けていたが、今ではすっかり落ち着いている。モンローが聞いたら激怒するかもしれないが、仕方がない。

 

「けけ、うけけけけ……」


 洞窟の中から何か笑い声が聴こえてくる。ひたひたと音が近寄ってくると、それは猫の亜人であった。

 猫の亜人は三毛猫だ。そいつは右手に剣を持っている。ゆらゆらと体を揺らしながら近づいてきた。

 

「復讐……、偉大なる復讐、素晴らしい復讐……」


 猫の目は焦点があっていない。ぶつぶつとつぶやいていた。口からは涎が垂れている。もうこいつは正気ではない。

 

「ふぅ……。マウスピースか。まったく面倒にもほどがあるな」


 毬林はうんざりしていた。猫の亜人はマウスピースと言うが、猫自身がそれではない。

 マウスピースとは亡霊である。人や亜人に憑りつき、モンローに対して復讐を望むのだ。

 大抵はモンローのためと言いながら盗賊行為を行う人間がほとんどである。

 中には目の前の亜人のように直接モンローを殺しに来るものがいるのだ。


 今の毬林はモンローの代理人である。モンロー二世として活動していた。

 なので毬林は命を狙われているのである。


「君は誰かな。名を名乗ってもらおう」

「むぅ、むさしぃ、我が名はぁ、みぃやもとぉ、むぅさぁしぃぃぃぃ!!」


 猫の亜人は剣を振るいまわしている。こいつは日本古来の剣豪、宮本武蔵を自称しているのだ。

 毬林は歴史に詳しくはないが、宮本武蔵くらいは知っている。武蔵は二刀流を得意としていた。

 亜人は自分が宮本武蔵と思い込んでいる狂人だ。毬林はため息をついた。


「われはむさしぃぃぃ、みぃやぁもとぉ、むさしぃぃぃぃ!!」


 猫の亜人は剣をめちゃくちゃに振り回した。ぶんぶんと狭い洞窟の中を平気で振り回している。

 すると亜人は剣を手放した。剣は毬林の顔ぎりぎりの壁に突き刺さる。そこに亜人が両腕に力を込めると何やら剣が飛び出た。それは骨の剣であった。


 毬林は避ける。目つきは鋭くなり、先ほどの胡乱な状態とはけた違いだ。

 

「先ほどは演技か」

「半分はな。先ほどから復讐だの宮本武蔵だの聴こえてくる。頭病みがするのであんたには死んでもらう」

「なぜ私を狙うのだ?」

「さぁな。なぜか頭の中ではあんたに復讐しろとうるさいんだ。不運だと思って死んでくれ」

「悪いが黙って殺される気はないがね」


 猫の亜人は真顔で毬林に切りかかる。まるでカマキリの鎌だ。宮本武蔵は策士でもある。巌流島の佐々木小次郎との決闘ではわざと遅れてきた。吉岡道場の時はわざと早く来て不意を突いたという。もっとも創作の部分が目立つが、世間では宮本武蔵は最強の剣士であることに変わりはない。

 毬林の身体は切り刻まれていく。しかし傷はすぐにくっついてしまった。毬林の身体は普通ではないのだ。猫の亜人はそれを見ても気にも留めずに攻撃を続ける。


 毬林は隙を突いて筋肉を振動させた。その瞬間、猫の亜人は身体が真っ二つになる。亜人はにやりと笑いながら死んだ。最初は狂人だったが最後は武人として果てたのである。


「ギリギリだった。下手すれば私が死んでいたな」

  

 毬林つぶやくと自称武蔵の死体を見ずに洞窟を出た。外は砂漠が広がっている。人面犬も出てきた。

 

「さて、金剛たちに会うとしますか。さあズルタン行くよ」


 毬林はズルタンと呼んだ人面犬を連れていくとその場を去った。

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