第15話 最後の戦い
「もう逃がさないぜ! チャールズ・モンロー!! てめぇは終わりだ!!」
龍金剛はモンローに指をさした。それを見たモンローは激昂する。
今の二人は木の根でできた鳥かごに閉じ込められていた。モンローとしては三分間逃げ回り、金剛の想い人が死ぬことを望んでいたのだ。
それなのに自分が生み出した人造人間によって動きを止められている。モンローの心は嵐のように荒れ狂っていた。
「ちくしょ! せっかくギリギリまで逃げてあの女を殺したかったのに!! ほんとムカツク、お前なんか殺してやる!!」
モンローは子供じみたかんしゃくを起こし、金剛に怒り任せに襲い掛かった。
モンローは両腕を後ろに組むと、彼の乳首が鉄パイプのように大きくなった。そして拳の形を作る。まるで黒人ボクサーのように太くて硬そうだ。
乳首から新しい両腕が生まれたのだ。まさに悪魔の所業である。
「乳首の拳!!」
乳首の拳で金剛に殴り掛かった。顔を潰しメタメタにしてやりたい気持ちでいっぱいになっている。金剛は柳の如く拳を躱す。確かに見た目は異様だがあまりにも素人じみたやり方だ。町のゴロツキの方がまだ喧嘩慣れしている。子供でも小賢しい相手なら大人を手玉にとるやもしれぬ。
金剛はサイド・トライセップスのポーズを取る。モンローは好機と見てろくに考えもせず攻撃した。
しかし金剛の体はろうそくの炎のように赤く熱している。モンローは金剛を殴ると慌てて手を引っ込めた。
「あづッ!!」
モンローは乳首の拳に激痛が走り、こする。金剛の体に触れただけなのに、火傷したのだ。
突然の出来事にモンローは軽くパニックになっている。
「なんなんだお前は!! 人間の癖に体が熱くなるなんて異常だぞ!!」
「確かに異常だろうさ。だがここ50年前から人間の体は変化したんだ。お前も年寄りのはずだが気づかなかったのか?」
金剛は小ばかにした態度をとる。それを見たモンローはますますヒステリーを上げた。煽り耐性がないのだろう。もう惨めなほど喚き散らす。
「黙れ黙れ黙れェェェェェ!! 僕を馬鹿にするな! 僕は偉いんだぞ、頭がいいんだぞ! そんな僕を侮辱するなんてお前は何様だ!!」
それを見た金剛は呆れかえった。こいつは確かに天才かもしれない、人造人間を作り出すなんて凡人では不可能だからだ。過去の偉人にも成しえなかった異形である。
だがモンローの精神性は子供以下だ。体だけ成人しても心は幼児のままなのである。善悪の区別がつかないのか、現実と虚構を分けることさえこの男には至難の業かもしれない。
金剛はモンローに恐怖した。自分は両親と離れ離れに暮らしていたが、祖母の雪花に厳しくも優しく育てられた。父親の超人は周りから英雄の息子として祭り上げられ、虚栄と虚像で作り上げられたのだ。だからこそ金剛は父親を憎んでおらず、むしろ憐憫の情さえ沸いている。
こいつの周りにはまともな大人がいなかったのかもしれない。もしくは友達がいれば人生は変わっていた可能性もある。自分も賢人や主角という従兄弟という友達がいたのだから。
そう思うと金剛は急にモンローが哀れに見えてきた。
「きぃぃぃさまぁぁぁぁ!! 何、人をそんな目で見てるんですかぁぁぁぁぁッ!! 僕を見下すんじゃなぁぁぁぁぁいッ!!」
モンローは切れた。我慢することができない性格なのだろう。
「僕はねぇ、お前らを皆殺しにしたら、次は箱舟の連中をせん滅しにいくんだよぉッ!!
あいつらは本来僕が送ったウィルスプログラムでゴミクズのように死に絶えていたはずなんだ!! それなのに奴らはまだ生きている、ピンピンと世界が滅んだことに気づかず能天気に過ごしているんだッ!! 許せるか、許せないよねッ!! 早くお前を殺して僕は世界の王様になるんだっだっだッ!!」
もうモンローは狂っていた。人造人間という自然の摂理から外れたから、考え方も人類と脱線しているのだ。
金剛は自分の体をさらに熱した。頭がくらくらするが我慢する。こいつを倒さないと世界は終わってしまうからだ。
その時、モンローは乳首の拳で人差し指を指した。まるで銃の構えだ。すると人差し指の先端が膨れ上がると、パァンと音を立てる。
金剛の左胸に何かが当たった。あまりの衝撃に膝をついてしまう。
それは鉛の玉であった。なぜ人差し指から弾丸が発射されたのかわからない。
「ははははははッ!! 見たか乳首裂弾をッ!! 乳首から出る母乳はねぇ、血液なのさ。濾過されているから白く見えるだけなのさ。そして血液が赤いのは鉄分のおかげなわけさ。だからその鉄分を凝縮して弾丸に変えるなどお茶の子さいさいなのさ!!」
モンローは高笑いをした。金剛はあまりの痛みに動くことができない。激痛が全身を蜘蛛の巣のように張っており、思考も縛られたように鈍くなっていた。
モンローは調子に乗って何発も金剛に乳首裂弾を撃ち込む。右肩、左わき腹、右太ももを貫いた。
その度に激痛が走る。あまりにも痛くて気を失いそうだ。天国へのモンが垣間見た気がする。
「はははのはッ!! もうじき三分すぎるぞ! そうなればあの女は惨めに死ぬ! お前に恨みを抱いて死ぬんだ! どうせなら女が死にゆく姿を見物したかったが仕方がない! お前をいたぶって殺して楽しむとしよう!!」
モンローは笑い狂っていた。自分の思い通りになる展開になり大変嬉しそうだ。
金剛はモンローの手によって命を奪われようとしている。いいや女巫を救えなかった不甲斐なさに心で涙を流した。
「そんなことはさせないわ!!」
外から少女の声がした。彼女は丸い何かを投げた。それはモンローの頭上へ落下していく。
少女はモンローの頭にボールか何かをぶつけて、隙を作ろうとしているのだろうか。
いいや、違う。彼女はすべてを終わらせるために行動を起こしたのだ。
その丸いものは人の頭であった。生まれてしわが取れた赤ちゃんのようにころころとした愛らしさがある。
しかし耳の部分には猿のように長い腕が生えていた。足も同じであった。
その顔はモンローに落下する直前、大きく口を開いた。耳から裂け、鮫の牙のような歯が並んでいる。
「あ」
そいつはがぶりとモンローの頭を齧った。まるでリンゴのように気軽にかみ砕いたのだ。
モンローはあっけにとられていた。自分の頭を齧られるなんて予想をしていなかったからである。
さらにモンローの頭はガリガリと喰われた。首を完全に喰われたモンローの体はピクリとも動かない。まるで石像のように止まってしまったのだ。
あっさりとした勝利に金剛は目を丸くした。やがて木の根の檻が引っ込むと、少女が笑いながら駆け寄った。
「よかったですね金剛さん。私とってもがんばりましたよ」
「そのようだな。あまりにもあっけなさ過ぎてびっくりしちまったがよぉ。お前さんは何をしたんだい、そしてあの小さな大頭はなんなんだい?」
見た目は大頭であることはわかる。生まれたての若いビッグヘッドであることは間違いない。しかしどこから来たのであろうか。
「この子はね、王大頭さんですよ。木に変化したからその神応石を抜き出して新たに生み出したのです。いやー自分でも初めての試みですがうまくいってよかったですね」
少女は笑っていた。彼女の話では王大頭を復活させたのは少女の恩恵のようだ。しかし出たとこ勝負の行動だったようである。結果的にはよかったが、正直彼女の行為は心臓に悪い。
「……本当に王大頭なのか?」
金剛は生まれたての王大頭を見た。
「確かに僕は王大頭と呼ばれていたね。五十年前に中華帝国は崩壊し、ここは龍京という年だ。君が金剛という名前だということも知っている。しかしあくまで知識としか知らない。実際に実物を見たことはないが本やテレビで知識を得た感じだ」
なんとも淡々とした態度であった。王大頭は今までの知識を持っている。しかし経験は失われてしまったのだ。
解放されたユキヒョウの亜人である雪花はそれを知り、表情を曇らせた。
キンシコウの亜人である胖虎や小夫も同じ気持であった。
「ああ、虎鳳がこの事を知ったらどうなるのでしょうか。私たちと共に時を過ごし、共に手を取り合った日々を知識としてしか理解できないなんて」
「おばあちゃん、それは違うと思うぜ」
金剛が言った。
「確かに王大頭は死んだかもしれない。だが俺たちは長年王大頭と共に過ごしてきた。たとえ中身が真っ白になろうとも俺たちが王大頭に敬意を表してきたのは紛れもない事実だ。俺たちが王大頭を愛してやらなければ誰が愛するというのだ。おばあちゃんは愛する人を区別する性格じゃないはずだ」
孫に言われて雪花は自分の過ちに気づいた。確かに王大頭との思い出はある。今はぎこちないかもしれないが、新たな思い出を作ればいい。
「おーい、金剛! 女巫さんは無事だぞ! 君がモンローを倒したんだね、おめでとう!!」
「うむ、さすがは金剛である。我々など雑魚を相手にするので精いっぱいだったのである!!」
白馬の亜人である賢人と、カピバラの亜人である主角が人間の娘である女巫を連れてきた。
彼女の顔色は明るい。モンローが死んだことで彼女を縛り付けた呪いは解除されたのだ。
「ありがとう金剛。あなたのおかげで私は救われました」
「ふふん、いいってことよ。ではお礼に口づけを……」
「それはだめ。周りが観ているわ」
「いいさ、見せつけてやろう。お前は俺の妻になる女だからな。誰にも文句は言わせないよ。たとえおばあちゃんでもね」
「強引な人ね」
そう言って金剛と女巫は口づけをかわすのであった。
「ふぅ、熱いねぇ。見ているこっちが火照ってきちゃうよ」
モンローによって生み出された人造人間の少女はそうつぶやいた。




