第14話 チャールズ・モンローの過去
チャールズ・ヒュー・モンローはアメリカ西部の生まれであった。ろくな産業もなくメキシコからの不法入国者がたむろする薄汚れた町しかなかった。
両親はイギリス系の白人で中流の生活を送っていた。
母親はオルディネ教の熱心な信者で、息子をサーカスに使う猛獣のように厳しくしつけていた。父親は母親と関わりあうのを嫌い、息子が折檻されて泣いても無視していた。友達はおらず、学校に通ってもすぐに帰宅しなくてはならなかった。時刻を少しでも遅れれば悪魔が取り付いていると言って、息子に熱湯を浴びせたのである。
八歳の頃、母親は児童虐待で逮捕された。彼女は警官に冷たい手錠をかけられても自分が正しいと信じていた。彼女は精神病院に収容され、興奮しすぎたために脳溢血で死亡した。
以後父親と二人暮らしであった。だが冷たい関係で親子とは言えなかった。
チャールズは天才であった。平凡な両親の間に生まれたが、そんなことは関係ない。天才とはある日突然生まれるものである。
十歳の頃チャールズは町のジャンク屋で一体のコンピューターを作り上げた。
名前はミルズ。ミルズは製粉するという意味があり、人類の凝り固まった思考を製粉する意味でつけられたのだ。
ミルズは優秀な人工AIであった。チャールズのやりたいことを前もって行うのだ。
彼の優秀さは大手のコンピューター会社にスカウトされるほどである。おかげで彼はアメリカで一番有名な大学へ入学することができた。
「僕は世界を変えて見せる」
それがチャールズの夢だった。大学に入っても彼は友達ができなかった。
いくら飛び級でも周りは大人ばかりである。子供のくせに生意気だといじめを行うものが後を絶たなかった。
助けてくれるのは鉄の塊であるミルズだけである。彼は孤独な学生生活を送っていた。
チャールズは持ち前の頭脳で数々の発明を作り上げた。それらを特許申請することで巨大な金を生み出したのである。
すでに彼は高級街で豪邸を購入できるほどの金を得ていた。だがそのために父親は働くのをやめた。毎日酒を飲み、カジノで無駄遣いを続けていた。
だが十二歳の頃、酒の飲みすぎで父親は泡を吹いて死亡した。その直前まで彼はカジノのスロットマシンで二万ドルも損害を出していた。
彼の死後、ジャックポットを当て、借金は返済されたのだ。
チャールズは孤独になった。しかし寂しいとは思わなかった。両親は自分に対して当然の権利を無視し続けていたからだ。
むしろ彼らは忌々しい存在であり、死んでくれて清々したくらいである。
マスコミの前では愛する両親を失った天才児として、ウソ泣きをしたが。
稼いだ金は不法入国者のために使った。彼らのためにプレハブ小屋を作り、住まわせた。そして女は掃除洗濯などの仕事をさせ、子供は学校に通わせた。
会社を作り、働かせた。そして少しずつ彼らに永住権を申請するようにしていた。
メキシコ人には感謝されたが、元から住んでいた西部の人間はチャールズを非難したが。
十五歳の頃、日本共和国から一人の老人がやってきた。彼の名前は杖技平蔵といい、生物学の権威であった。八十代のだが肉付きの良いがっしりとした体格をしていた。
彼とチャールズには何の関連性もなかった。なのに二人が出会ったのは単純な理由だ。たまたまチャールズが絵本を読んでいた時に、平蔵に話しかけられたのである。
「初めまして。私は杖技平蔵と申します」
「どうも初めまして杖技さん。チャールズ・モンローと申します」
「あなたが読んでいる本は、そらとぶ! オムスビマンですね。私の国の絵本なのですよ。アメリカにもあったのですね」
「そうなのですか。僕はこの絵本が好きなのですよ。我が国のように悪人を叩きのめして終わりではないのが良いですね」
「そうですね。オムスビマンは頭がおむずびでできている。彼はおなかをすかせた人間に自分の頭を食べさせるのですよ。それで力が弱まっても決して希望を捨てない。日本ではアニメ化して子供に大変な人気がありますね」
「僕はこのオムスビマンに共感を覚えます。ヒーローとはおなかをすかせている人に食べ物を届けるものだと思っています。悪人がビルを破壊し、大地をえぐってもヒーローはほったらかしにして帰っていきます。もっともそれをつっこんだ作品もありますが、具体的に解決しようとしませんね。ただ日本人に対して悪意を抱く人も多く、この絵本も僕が持ち込んだ私物に過ぎません」
チャールズはしょんぼりとした表情になった。アメリカ人は過去のことを割り切ることができない。何十年経っても自分たちが嫌なことをされたことは、決して忘れないように学校で教えるのだ。
チャールズが小学校に通っていた時も、一九四五年の日本で疲労島と詠埼で核実験の事故で何十万の人間が死亡したことを、天罰だと誇張しながら教えていた。
アメリカでは核兵器を完成させたが、披露させることなく戦争を終えられたことに腹を立てていたのだ。
当時の大統領は極東の島国に住む猿どもが我が国が使うはずだった神のいかずちを暴走させたと、宣伝した。連合国では核の事故で日本はもう弱り切っており、追い打ちをかける必要はないとして、日本の降伏を受け入れたのである。
さらにアメリカは同じく核を開発していたロシアとの冷戦に突入する。そのため日本を占領するよりも緩和国として継続させることとなったらしい。
「それよりも私は面白いものを持っているのです。あなたにもぜひごらんになっていただきたい」
平蔵は自分の研究室にチャールズを誘った。そこで見たのは神応石というものだった。
人間のだれもが持つもので、大きさは砂粒程度。これは自身や周囲の人間の精神に影響を及ぼす力があるという。
過去に日本で戦争捕虜たちを使った実験の話をされた。そこで捕虜たちは自分たちの将来に恐怖し、獣に変化したというそうだ。
チャールズの好奇心は大いに刺激された。彼は神応石を集めるべく、ミルズに銘じてアメリカ各地にある墓地から神応石の回収を命じたのである。
ミルズは神応石を覚えて広いアメリカの墓地から神応石を抜き取る作業を続けた。
そのおかげで何百万人の神応石を集めることができたのだ。
平蔵は大変喜び、日本にはビッグヘッドという放射能汚染を浄化する植物の遺伝子を組み込んだ生物の話もしてくれた。
これは自身の孫も研究に携わっているとのことである。
さらに世界各国で無神論者の十八歳を集め、地中海にあるアルカ島で特製ドームを作り、百年間そこで住まわせる計画もあるという。なかなか興味深い話だ。
チャールズは神応石の研究に没頭した。さらにその片手間で金属細胞の研究も行っていた。
金属細胞は有機物でありながら金属のように頑丈で柔軟性のある代物だ。すでにマウス実験で細胞を埋め込む。そのマウスは一か月も絶食させたが元気なままであった。
「チャールズ・モンローは悪魔の使者だ!!」
アメリカ各地でチャールズの抗議デモが広がった。これはオルディネ教の影響が強い。神が作り出したものに細工をした罪を訴えたのだ。
その動きはアメリカだけでなく、ヨーロッパ全体でも広がった。オルディネ教の教皇もチャールズの行動を問題視していた。
彼は人間が嫌いになった。中華帝国で自分専用の別荘を作り出したのも、アメリカから逃げ出す予定だった。
その際世界各国の美女たちを百八人用意した。彼女たちと一緒にハーレムを作り、自分だけの世界を生み出すのだ。
一九九九年、中国の別荘に避難した後、チャールズはミルズに命じて世界各国の核施設をハッキングした。
そして世界の首都を核攻撃し、核施設を自爆させたのである。
こうしてチャールズは世界を滅ぼしたのであった。
☆
「しかし、思い通りにはいかないな」
現在、龍京でモンローは愚痴をこぼしていた。
最初ハーレムの女たちは従順であった。しかし自分の子供を産ませたとたん彼女たちは傲慢になった。彼はそれに飽き飽きし、毒ガスを使って彼女たちを抹殺した。中には妊娠中の者もいたが関係ない。
そして彼自身は金属細胞を埋め込み、新しく生まれ変わる予定であった。全身をくまなくめぐり合わせるには五十年近くかかる。あとのことはミルズに任せて自分は寝ていたのだ。
起きたら世界は滅んでいた。しかし亜人というけったいな怪物が生まれていた。
これにはモンローも腹を立てた。偉大な人間である自分以外に生き物が生き残っていた事実が許せないのである。
だがただ殺すのも面白くない。そこに住む者たちを扇動して自滅させ、死に至らせた方が楽しいと考えたからだ。
その計画はうまくいった。しかし龍金剛というノヤギの怪物のせいで面白さが半減した。
これにはさすがのモンローも閉口した。
「くっくっく……。早く隠れなくては……。あの女が死ぬのにあと数分はかかる。そして奴が女を救えなかった絶望を見てみたいな」
モンローはにやりと嗤っていた。彼は腐っていた。人間の皮を被った悪魔である。
「そうはさせないよ」
女の声がした。振り向くと周囲に木が生えてきた。モンローを閉じ込める檻だ。
「なっ、なんなんだお前は!!」
相手は褐色肌の少女であった。モンローによって金属細胞を埋められた犠牲者だ。
「私の事なんかどうでもいいわ。金剛さん! モンローはここにいるわ、早く来て!!」
少女は声を上げた。するとノヤギの亜人である金剛が走ってきたのだ。
「貴様ぁ!! せっかく隠れようとしたのに邪魔したなぁ!!」
モンローは激怒していた。少女は涼しい顔をしている。
「あんたに嫌がらせすることが私の望みなの。さっさと金剛さんに殺されちゃいなさい」
少女は悪戯っぽく蠱惑的に笑うのであった。




