第13話 覚醒
「もう怒った! すごく怒った!! 激おこぷんぷん丸だ!!」
チャールズ・モンローは地団太を踏んでいた。とても青年とは思えない幼稚な態度である。
だが相手はまだ人間の女性である女巫を人質にしていた。ノヤギの亜人である金剛はうかつに手を出せない状態である。
「まったくあいつはガキンチョだな。大人の皮を被った聞かん坊だ。相手にするのも気持ち悪いぜ」
実の父親をこの手にかけた金剛だが、あまり後悔はなかった。彼にとって血のつながった肉親ではあるが、祖母の雪花の方がなじみが深い。父親とは名ばかりでほとんど交流がなかった。だからそれはどうでもよい。
金剛はモンローの動向をよく視ていた。五十年前に世界を滅ぼした張本人。しかしとても大物には見えぬ。ただのわがままな子供である。
だからこそ常人では理解できない凶行ができるのかもしれない。まともな神経の持ち主なら世界を崩壊させるなどありえないのだ。
そりゃあ頭の中で世界を破壊するかもしれないが、そんなのは頭で考えているだけだ。小説家や漫画家なら世界を壊した設定で物語を作れるだろう。
世界の指導者も核兵器を所有しても実際に使うのをためらっている。いや強行するかもしれないが幹部たちが止めるだろう。独裁国家では核を使うより、ちらつかせることが重要なのだ。一度でも核を使用すれば報復で自分たちが大火傷をする。そんな真似はできない。
モンローが世界の核兵器を支配し、一斉に発射させた。まるでゲーム感覚である。子供じみた精神構造が世界の破滅を現実的に捉えず、まるでテレビドラマを楽しむ感覚で楽しんでいる。
世界で一番危険なのは頭脳は天才で発想が子供という歪な存在なのかもしれない。
「金剛! 無事か!!」
突如現れたのは巨大な人間の頭だ。そこに手足が生えている不気味な怪物だ。
ボーリングの玉のような目玉に、大の大人をあんぐりと口に入れるほどの大きさである。
彼は王大頭。ビッグヘッドという人間が遺伝子操作で作り出されたものだ。
モンローはそれを見て、しめたと口にした。
「さぁ亜人たちよ集まれ!! そこにいるモンスターを口汚く罵るんだ!!」
突然モンローは叫んだ。一体何を言っているのか金剛にはわからない。
周囲の亜人たちは茫然としていた。人間たちの襲撃で多くの亜人たちが殺され、財産を失っていた。先の見えない状態にモンローがいきなり演説を始めたのである。
「諸君! 君たちの不幸はすべてそこにいる巨大な怪物のせいなんだ!!
なぜならこいつは不気味で見るに堪えない不快な存在なのだ!!
そもそも地球上の生物でない奴になんで君たちは従っているのかね?
毒に侵されたゴミを食べたから? 自然を取り戻してくれたから?
それは違う! 君たちはあの怪物に復讐するために生きてきたのだ!!
歪で背筋に寒気が走る怪物をだまし討ちにして殺すために過ごしてきたのだ!!
君たちは指導者がいなくなることを恐れていないかね? 問題はない!!
なぜなら僕が新しい指導者になるからだ! 僕が君たちを導く偉大な人間だからだ!!
さあ殺せ! こいつを殺して君たちは自由を手に入れるんだ!!」
金剛は最後まで聞き終えて吐き気を覚えた。モンローの言っていることはめちゃくちゃだ。この国において王大頭がどれほど貢献しているのかわかっていない。
しかし、周囲の人々の目は濁っていた。まるで夢遊病者のようにふらふらとしている。
「……そうだ。俺たちはあんな化け物の言うことをなぜ聞いていたんだ……」
「……あんな化け物を神とあがめているなんて、私たちはどうかしていたわ……」
「……あのお方の言うとおりだ。俺たちの手で化け物を殺すんだ!!」
亜人たちは鍬や包丁、槍などを手にした。そして一斉に王大頭に襲い掛かったのである。
「うわっ、やめろっ、やめてくれ!!」
王大頭の周りには亜人たちが集まり、王大頭を執拗に攻撃し始めた。
金剛はおろか戦っていた賢人や主角は助けに行こうとしたが、周りに邪魔されてしまい、助けに行けない。
「うぅぅぅぅ!! ありえない!! みんなが王大頭様を攻撃するなんて!!」
「うむ!! なんという恩知らずだ! あんな恥知らずな人間はむかっ腹が立つ!!」
二人とも激怒していた。しかし金剛は彼らの心変わりが理解できてしまった。
彼らの中には王大頭に支配される現状を快く思っていない者もいたのだろう。確かに亜人たちは王大頭を襲い掛かっているが、そうでない者もいる。
自分たちもそうだし、王大頭への攻撃を止めようとしている者たちもいた。
「やめろ! 王大頭様を攻撃するなんてお前らは混蚤だ!!」
「あのお方が神なのは当然でしょうが!! そんなこともわからないの!!」
「王大頭様を傷つけるお前らは敵だ!!」
そう言って王大頭に群がる亜人たちを殴ったりして止めている。しかし暴動は止まらない。
王大頭の体には槍が数十本も突き刺さり、弱り始めてきている。
さらに周囲の大衆もボロボロだ。人間獣に変化した怪物たちの対処も加え、事態は混乱している。
「あの野郎、何か催眠術みたいなものを使ったな。それでみんながおかしくなったというわけか。それも全員きっちりかかる必要はない。むしろ中途半端の方が混乱を引き起こしやすいというわけだ」
金剛はモンローのあくどさにイライラが達した。この腐れ外道は早く殺さなくてはならない。
しかし王大頭は力尽きた。彼は地面に倒れ、大木に変化してしまったのだ。五十年間龍京を支えてくれた重鎮が息絶えてしまったのである。
王大頭を手に掛けた者は声高々に勝鬨を上げ、崇拝していた者たちは嘆きの涙を流していた。
「ひゃははははは!! これでこの国はおしまいだ!! お前らが自ら自分たちのあがめる神を殺したんだ!! まったくちょっと煽っただけでこうなるんだから、人間は馬鹿だよね。そして神はテレビの中にしかいないことを証明できたというわけだ!!」
モンローは声高々に勝利宣言をしていた。女巫はその隙に逃げ出した。屋根から高く飛ぶと、金剛へ飛び降りた。金剛は彼女を受け止めて地面へ下す。
「無事でよかったな女巫」
「はい。でも王大頭様が……」
「それは俺も思うところがある。しかし今はあいつをなんとかしなくてはならない。お前さんは離れていてくれ。俺が何とかする」
その一方で賢人と主角は暴れていた。生まれた時から親しんでいた王大頭を殺されたのだ。その怒りはまるで嵐のように渦巻いている。
「オノレェェェェェ!! よくも王大頭様をォォォォォォォォォ!! 殺してやるゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
いつもは臆病な白馬の賢人が怒っていた。彼は鼻毛の槍で人間獣を突き刺している。
人間犬は賢人の喉笛に噛みつこうとしたら、そのまま口から鼻毛の槍を突き刺されて死んだ。人間猫は顔をひっかこうとしたが、肛門から頭を貫かれて絶命する。そして鼻毛をぶんぶんと振るって死骸を飛ばそうとしていた。
その背後に人間猿が鎌を手にしていた。にやりと笑っている。賢人の背中めがけて鎌を投げつけた。
しかし鎌は当たらない。逆にどこからか飛んできた毛の槍に口を貫かれた。
一体どこから来たのだろうか。二本の鼻毛の槍は、獲物が突き刺さったままなのに……。
答えは耳毛であった。賢人の耳から毛が槍となって敵を攻撃したのだ。
賢人は耳毛を意識したことはなかった。鼻毛だけでも恥ずかしいのに耳毛まで操るなんてありえないことだった。
だが今は違う。彼は覚醒したのだ。正面の敵だけでなく、背後の敵も対処できるようになったのだ。
前方の鼻毛、後方の耳毛。もう賢人に隙はない。千の敵に取り囲まれても、彼は一騎当千の勇士として活躍できるだろう。
「うむ! これは許せないな! うむ!! 絶対に、絶対に、ぜぇぇぇぇぇったいにぃぃぃぃぃ許せん!!」
暢気物の主角も切れていた。尊敬する偉大な王大頭の死が彼を覚醒させたのだ。
主角の二本の前歯は先端を丸めた。そして突進する人間牛と人間馬たちを殴り飛ばす。
好き刺したままではすぐに行動できない。なので先端を丸めることで拳のように相手を殴ることにしたのだ。
さらに人間牛の首を締めあげると、それを天高く持ち上げた。五メートルほどだろうか、人間獣が集まっている箇所に放り投げた。
その巨体を投げつけられたので、多くの人間獣は押しつぶされて死んだ。
正気を保っていた亜人たちによって、とどめを刺されていく。
その様子を見た金剛はほっと息を吐いた。
「賢人と主角は問題ないな。とりあえずモンローを倒さなくてはならない」
金剛は屋根の上に立つモンローを見た。不敵な笑みを浮かべている。
「ふん、土壇場で覚醒するとはな!! まるでアメコミのヒーローだよ!! いや日本の漫画みたいな展開だな!! だったらもっと盛り上がるようにしてやるよ!!」
モンローはパチンと指を鳴らした。すると女巫が苦しみだした。心臓を押さえている。
「ははは、その女の心臓には僕の爪が埋め込まれているんだ。本当はあと数日の余裕があるけど、あと三分の命にしてやったよ。僕を倒さないと解除できない。さあどうするかな?」
「決まっているだろう! てめぇをぶっ殺す!!」
金剛は怒っていた。関係ない人間を苦しめて楽しむモンローに憎しみを抱いていた。
「ははは、そうだろうね。でも僕は戦わないよ。このまま行方をくらませてもらうね。君はその女を見殺しにしたことを嘆くがいいさ!!」
そういってモンローは消えた。騒がせるだけ騒がせて張本人は戦うことなく逃げたのであった。
金剛は怒りで顔がくしゃくしゃになっていた。




