第11話 人面獣心たちの宴
「一体どうなっているのかしら……」
女巫は唖然としていた。真夜中の龍京はお祭り騒ぎであった。
いや楽しさとは裏腹に、人間が亜人を殺しまくるという殺伐とした宴だ。
人間たちは棍棒を持ち、店を破壊しまくっている。さらに松明で火付けをしていた。
彼らは酒を飲み、げらげら笑っている。
それを止める兵士はいない。普通なら暴徒を取り押さえる兵士が来てもおかしくないのに、まったく来ない。
明らかに異常であった。女巫は目の前の現実が理解できずにいた。
「くっくっく……。この村は終わったんだよ。ここの偉い奴が人間に売り払ったのさ」
女巫を拘束しているのはチャールズ・モンローだ。全身銀色で素っ裸の男はへらへら笑っている。この世のものではない、鬼神に思えた。
彼女は鬼神の言葉が理解できなかった。ここの偉い奴に売られた? ここで偉いといえばビッグヘッドの王大頭に大臣の龍超人くらいだ。
「大臣のおなぁりぃぃぃぃぃぃ!!」
通りで大声が響いた。一体何事かと表をみると、そこには龍京の大臣で、ノヤギの亜人である超人が御輿に乗っていた。周りには着飾った亜人たちが舞い、兵士たちは槍を掲げている。
「フハハハハ!! 今日から私がお前たちの王だ!! これからは私に傅くのだ!!」
超人は下品な笑い声をあげる。だが女巫にはぴんと来なかった。
そもそも超人は大臣だ。亜人では一番偉い人だ。彼が王と名乗っても問題はないが、あくまで王を名乗れるのは王大頭だけだと超人の母親である雪花が断っていた。
その後ろの山車には十字架があった。そこにははりつけにされた人間がいた。
ユキヒョウの亜人である雪花と、キンシコウの亜人で軍事責任者の胖虎将軍。そしてアカギツネで宰相の小夫がぐったりとしていたのだ。
女巫はちらっとしか見たことがないが、どれも龍京では大変えらい地位にある人たちだと理解している。
「あいつはね。王になりたかったのさ。自分が傀儡の権力者であることを理解していたのさ。だから僕はそそのかしてやったのさ。自分に小言を繰り返す人間を排除し、好き勝手にできる世界を作り上げようとな……」
モンローは邪悪な笑みを浮かべていた。超人を騙してうまくいったことを喜んでいる。
人をいいように口車で動かすなど、なんて酷い人なのだろうと女巫は歯ぎしりした。
「さぁて、お前に会いたい人間がいるんだってさ。さっそく会いに行こう」
そう言ってモンローは女巫を抱きかかえた。そして通りへ降り立つ。
人間の一団に近づくと、モンローは彼女を下した。
彼らはまるで獣であった。髭を生やし、毛皮を着て骨付きの肉にかぶりつき、酒をがぶ飲みしていた。まったく品のない連中で、彼女が働く玉葉館の客の方が上品だと思った。
そして女巫は驚いた。それは自分がいた村にいた男たちだったのだ。
「ぐふぅ、おめぇは俺たちの村にいた女だなぁ?」
眼帯をした大男が女巫を見てつぶやいた。彼女はこの男を知っている。村の有権者の息子だったと記憶していた。
ちなみに名前を言わないのは理由がある。彼らは女を差別していた。女は名無しで物扱いされていたのだ。
「ぐぐぅ、生意気に服を着やがってむかつくなぁ。それに飯も家も恵まれているって話じゃねぇか。村八分のゴミが生意気なんだよ!!」
いきなり女巫は殴られた。握りこぶしで。彼女の鼻は潰れ、地面に倒れる。
あふれだす鼻血を押さえると、女巫は相手をにらみつけた。彼女はここに来るまで家畜以下の生活を送っていたのだ。
今更殴られたくらいで泣きじゃくるほど、彼女は弱くない。だがそんな態度を取ればどうなるか予測がつかなかった。そこが彼女の甘いところだろう。
「ぐおぉぉぉ!! ゴミのくせに何俺様を睨みつけてんだよ!! この町はもう終わりなんだ、俺たちはここで獣たちを殺して面白おかしく暮らすんだよ!! 俺たちの後ろにはヤギの王様がついている。俺たちが何をしても許されるんだ、誰も俺たちを裁く人間なんかいないんだよ!!」
男は無邪気に笑い転げていた。他の男たちも同じである。
女巫はそれを聞いて真っ青になった。男の言葉に矛盾があったのである。
男は亜人が嫌いだ。なのに亜人の後ろ盾を持つなどありえない。超人も同じ亜人なのに何を言っているのだろうか。
「くっくっく……。面白いだろう? こいつらはもう現実と妄想の区別がつかなくなっているのさ」
モンローが後ろでささやいた。
そして超人は椅子から立ち上がり、声を高々に上げた。
「お前たちに告ぐ! お前たちは偉大なる私を差し置いて後方にいる老害どもの言うことを聞いていたな!? だが今日でおしまいだ、これからは私の言うことだけを聞けばいいんだ!! あいつらが作った法律は白紙にして私の好きなように書き換えてやるんだ!! お前たちは私に支配されることを喜ぶがいい!! 私が支配している国は世界で一番優れた国だ!! 私に支配されている民族は世界で一番優れた民族なのだ!!」
すると超人の頭が見る見るうちに膨れ上がった。まるで七福神の福禄寿のようである。いや福より厄をばらまきそうな雰囲気だ。
「どうだい、すごいだろう? 僕の力であのヤギは僕の次に頭がよくなったのだよ。もう間違いを起こすことはないね、なぜなら知能指数は千三百になったのだから」
女巫はモンローの言葉がわからなかった。知能指数とはいったいなんなのか、知らないのだ。
「やれやれ、猿は無知だから困る。まあ、君には関係ないよ、どうせ君はこのまま死ぬんだからね」
モンローはにやにや笑っている。
「あのヤギ男は今頃僕の隠れ家に向かっている。そこに僕がいないことを知らずにね。そして結局間に合わずに君は死ぬんだ。奴が帰ってきたらお前の死ぬ姿を撮った映像を見せてやる。自分を助けてくれなかったと呪いを叫ぶお前をな。くっくっく……」
女巫は呆れていた。死ぬ恐怖よりもモンローの子供じみた性格に寒気が走った。
この男がどのような生活を送ったかは知らない。だが村長の息子が甘やかされ、暴れん坊になったのを知っているので、モンローもそれに近いものがあると感じた。
「はぁ……。あなたには呆れかえるわね。やっていることはまるで子供だわ。こんな頭の悪い人間に振り回される金剛に同情するわ……」
女巫はため息をついた。それを聞いたモンローは激怒した。
「なんだと!? この僕を頭の悪い人間だと!! 取り消せ!! 僕はすっごく頭の良い、素晴らしくて偉大な人間だとな!!」
モンローは女巫に向かって、言葉を訂正するように迫った。
まったく言葉が通じない。子供の駄々だ。その一方で人外の力を得ている。無責任な噂を騒ぎ立てる民衆より質が悪かった。
「ふん、誰が訂正するものですか。あなたみたいな大人の皮をかぶった子供に本当のことを言って何が悪いというの? それに私は死ぬことなんて怖くないわ、こんな世の中、早く死にたいですもの。死に際でも金剛を恨むことはないわね、むしろ早く死ねたからありがとうと感謝したいくらいだわ」
それを聞いたモンローは激怒した。銀色の肌だが、烈火の如く顔を真っ赤にしているのがわかる。
頭の悪い人間に罵倒されるなど思いもよらなかったのだろう。もうモンローの頭の中に商機の二文字はなかった。
「殺すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! この僕を馬鹿にすることは許せないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! お前らぁぁぁ!! この女を殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
モンローは切れた。無茶苦茶切れた。もう余裕など全くない、子供じみた命令だ。
人間の男たちはにやにや笑いながら近づいてくる。手には棍棒を握られていた。
「ぐへへへへ……。お安い御用だぜ。俺はこいつが幸せに暮らしてくることがむかついて仕方ないんだ。こいつが不幸でないと酒がまずくなるなぁ、ぐへへへへ……」
男たちの目は濁っていた。他者の不幸を願う外道と化していた。
女巫は恐怖よりも哀れんだ。同じ人間でありながら同じ目で世界を見ているのに、彼らはまったく何も見ていないのだ。
「ヒャッハー! しn」
村長の息子が棍棒を女巫の頭に振り下ろそうとした。しかし最後まで言えなかった。
彼の体は複数の針が突き刺さっていた。それは針ではなく、毛であった。
「うぅぅ、ついに初めて人を殺してしまった……」
それは白馬の亜人であった。胖虎の孫、賢人だ。
針の正体は彼の鼻毛だ。鼻毛を針のように飛ばしたのである。
「なっ、何をしやがr」
仲間の一人が賢人を殺そうと走った。しかし彼らはたどり着けなかった。
なぜなら右の耳から左の耳を細長いものが貫いたのだ。
男はばったりと倒れてしまった。
「うむ! 俺も初めてだが仕方ないな!! なぜならこいつらは悪人だ、街中で武器を振り回してか弱い女性を狙うなど普通じゃないからな!!」
カピバラの亜人が腕を組みながら現れた。小夫の孫、主角である。
彼は二本の前歯を伸ばして敵を殺したのだ。
「え? なんで? なんで、こいつらがここに?」
モンローは茫然としていた。賢人たちは知っている。金剛の仲間だ。
なんで彼らがここにいるんだとモンローは嗜好が止まっていた。
「俺もいるぞ!!」
屋根の上から声がした。それは白いノヤギの亜人であった。
毛におおわれていても鍛え上げられた筋肉がまぶしく見える。
女巫はそれを見て声を上げた。
「金剛!!」




