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第二十九話 優しく殺す効果

僕はずっと疑問に思っていた。どうして僕は悪魔の子と呼ばれてきたのだろうかと。

 僕はずっとママに虐待されてきた。パパは何もしてくれなかった。

 二人が死んだとき、僕は自由になった。1からガラクタで作った人工AIのミルズだけが友達だった。


 のちに日本人の科学者である杖技平蔵つえぎ へいぞうさんと出会い、スネターソフト社に雇われた。

 僕はそこで神応石スピリットストーンの研究と金属細胞メタルセルの開発を行った。


 僕がテレビ番組に出演して以来、周囲の人間は僕を憎むようになった。十代でハリウッドに一等の土地とベンツを買えるほど稼いだから妬まれたと思っていた。

 さらにアメリカ国内はおろか、ヨーロッパ、特にオルディネ教の信者はこぞって僕をノストラゴメスの予言に記された恐怖の大王と囃し立てた。

 

 毎日僕の家には嫌がらせの電話やFAXが流れ、家の周りでは落書きや策を壊されたりした。警備会社と契約し、警備員が犯人を捕まえたら、次の朝刊には僕の行為を一斉に非難していた。


 僕を真っ当な人間として扱っていたのは平蔵さんとスネターソフト社の従業員、それと不法入国者たちだった。世界中で僕が出演した番組が流され、恐怖の大王と呼ばれた。世界が滅んだらすべてこの僕チャールズ・ヒュー・モンローのせいだと。

 どうして僕は皆に嫌われるんだろう。僕が何をしたっていうの? 


 ママもパパもいない。けどパパはモンローエクストラとして復活し、真実を明かしてくれた。次にママと出会い、そしてグランパとも……。


「アッヒャッヒャッヒャッヒャ!! イトシノ、ミュラー!! ソシテ、ワガムスコ、アドニスヨ!! モウ、オマエラヲ、ハナサナイ!! エイエンニ、ツメタイイワロウニ、トジコメテヤル!!」


 怪物が叫んだ。ヤギ頭の巨漢でサソリのしっぽを持ち、背中には鶏の羽根が生えている。七つの大罪の一つ色欲に関わる動物の合成だ。

 こいつはキュニラス。僕のグランドファーザーだ。だけどグランパまで生きていたなんて驚きだ。こいつも人造人間メタニカルアニマルなのだろうか?


『違うな。こいつは人造人間ではない』


 突然頭の中に声が響いた。相手はミルズだ。平蔵さんが死ぬ前に自分の人格をコピーしたものだ。普通のチップやプログラムでは不可能だが、神応石を使ったチップは人間と同様の知能を有することが出来る。


『君の眼を通してキュニラスを見ているが、こいつは複数の神応石が含まれているな。キュニラス本人ではなく、周囲の人間が望んだキュニラスと言えよう』


 複数の神応石が含まれているだって? そう言われてみればなんか異質な反応がするな。僕は目を細めてみる。ちょっと目を凝らせば石の壁を透視したりできるのだ。

 じっと見れば確かにキュニラスの身体には神応石が複数宿している。

 普通の神応石は額に埋まっているものだ。それが左胸、右腕、腹部、右足とでたらめに埋まっている。まるで複数の人間が絡まっているようだ。


「こいつはキュニラスであって、キュニラスではありません。アメリカ、しいてはオルディネ教の信者たちによって生み出された怪物、マウスピースなのです」


 モンロースナックが教えてくれた。自分の背丈より長い髪の毛が彼女の身体を支えている。まるでクラゲのように見えた。


「あの男は私の母親が14歳の時に亡くなったとき、頭がおかしくなりました。一人娘の私を自宅に軟禁し、毎日仕事にも行かず、酒を飲み、お菓子を食べながら私に暴行を加えました。私は祖父が残した神応石を片手にすることで生き延びれたのです。最後は私の伸ばした髪の毛で警察官を呼び、拳銃で撃ち殺されるように仕向けました。その後ジョセフパパと結婚したのです」


 スナックは説明してくれたが、苦虫を嚙み潰したような表情だ。僕の前では言いたくなかったのかもしれない。


「……あなたは自分の息子を虐待していたと言ったわね。それについて言い訳はあるかしら?」


 ウンディーネがスナックを睨んでいた。彼女には娘がいる。海賊島バッドガイアイランドのディーヴァだ。家族の関係は良好で、児童虐待など許せないと言っていた。その疑いがある家を目撃したら、家の中に発煙筒を投げ込み、隙を見て虐待している親を事故死に見せかけて殺したという。

 ある意味、夫のズルタンより、ウンディーネの方が悪魔だな。ただし助けた子供は自分が悪い子だから親に嫌われていると思い込んでいるらしい。ウンディーネは福祉施設で働いており、そう言った子供たちにいばらの道の歩き方を伝授したそうだ。具体的には敵を法的に抹殺し、相手が復讐を考えなくするやり方だが、聞いたときはかなりえげつないと思った。


「言い訳はしません。すでに周囲にはこの子の秘密は漏れていました。私はこの子に神応石を与え、精神的に追い詰めました。そうすることでチャーリーに力を宿し、悪女である私を殺してくれると思ったのです」


 スナックは説明した。僕の顔は見ていない。とても悲しそうに震えていた。ママは僕が嫌いだったんじゃない。逆に僕を愛しているからこそ虐待をしたのだ。僕が悪魔の子故に自分自身が犠牲となって悪女となった。

 世間では僕の事を嫌う人が多かったが、一方でママの事も非難していた。これが普通に生活していたら全世界の人間が僕を蛇蝎の如く忌み嫌い、神応石によって僕は恐怖の大王と化していただろう。

 ママは命を懸けて僕を守ってくれたのだ。これだけで僕は救われた。底なし沼に首まで浸かって、一気に引き上げられた気分だ。


「ふん! 汚らわしい獣の子供め!! 道理で薄気味悪いと思っていたわ!!」


 吐き捨てたように言ったのはゲルダだ。彼女は僕たち側の人造人間、スプーキー・キッズの一員だった。なのに12年前のアラディンとモンロークラウトの件で僕らを敵視し、袂を分けたのだ。


 そして今はキュニラス側にいる。なんでゲルダはあいつの味方をしたのだろうか。


「ヒョヒョッ、ヒョーッヒョッヒョッヒョ!! 私はお前を殺してやる!! 偉大なる中華帝国を壊滅に追いやり、皇帝陛下を死に致しめた!! そして我が愛しの夫であり英雄である龍英雄ロン インシオンを侮辱した!! その罪万死に値する!!」


 ゲルダの表情は氷のように固い。それでも彼女に対して狂気を感じる。


「でも中国の皇帝は死んでないわよね。ビッグヘッドとして生き延びたじゃない」


 ウンディーネが突っ込んだ。するとゲルダは大きく息を吸い込み、吐き出した。


「ふざけんじゃないわよ!! 結果論で物事を話すんじゃないわ!! そいつがキノコ戦争を起こさなければ皇帝陛下は死なずに済んだのよ!! お前が存在しているから私たちは不幸になったのよ!! 今すぐ死んで詫びを入れなさい!! お前が死んだらお前が土下座をしている銅像を作るわ!! そして未来永劫謝罪を続けるのよ!!」


 ゲルダはゲラゲラ笑っている。彼女は頭がおかしくなっていた。でも実際に僕を憎んでも当然なんだ。僕がいなければみんな不幸になることはなかった……。


「あなたが謝る必要はないわ」


「そうです。悪いのはすべて私なのですから」


 ウンディーネとスナックが僕の前に立った。ウンディーネは下半身は魚だけど直立歩行はできるのだ。


「人生はみんな想定外よ。なんでも思い通りになるもんですか!!」


「今、私たちが生きているのはチャーリーのおかげです。これはオルディネ神様が生きて償えとの神託でしょう。私はそれに従います!!」


 そう言って僕を守るように構えた。とても嬉しいな。敵と思っていたママが味方だったこと以上に心が躍る。


「ヒョウヒョウヒョウ!! まったくお前たちは頭がおかしいわね!! 世界を一回破滅させた悪魔ウモをかばうなんてどうかしているわ!! よろしい、あんたたちの首を刎ねてつぶしてあげる!! 悪魔の使いの遺体なんてこの世に存在させてたまるものですか!!」


『アヒャヒャヒャヒャ!! ソウダ、コレハ、セイギノ、タタカイナノダ!! ワレワレハ、セイギノダイベンシャナノダァァァァァァ!! アーーーッヒャッヒャッヒャ!!』


 ゲルダとキュニラスは雄たけびを上げている。だけどゲルダはあんな性格だったのか? 雪の女王と同じように鉄面皮と思っていたけど、心の中は僕の恨みを抱いていたのかもしれない。


「恐らく彼女はキュニラスに操られています!! ですがキュニラスを倒しても彼女が元に戻ることはありません!! あれは彼女の本音なのです!!」


 スナックが叫ぶ。そもそもゲルダは人造人間だ。滅多なことでは神応石の影響を受けることはない。そもそもウンディーネとスナックは平然としているじゃないか。

 

「マウスピースは亡霊ファントムなのです!! この世界に散らばっている神応岩スピリットガイアの影響で、チャーリーを憎むようになったのです!! 世界が滅んだのはノストラゴメスの予言に記された恐怖の大王をいじめることで憂さを晴らしているのです!!」


 なんということだろう。グランパも悪いけどマウスピースたちが一番悪いじゃないか。グランパも本当に蘇りたくて蘇ったわけじゃないだろう。ゲルダも心の奥底に仕舞っていたものを無理やり引き出されたのだ。

 

 ああ、怒りが湧いてきた。この世界に染み込む人間の怨念が、生き延びた人類に牙を剥いているのだ。いいや、自分たちは安全な場所にいて、他人を戦わせて高笑いしているのだ。

 それは個人の考えじゃない。数百万、いや、地球が誕生して以来、生まれては死んでいった人間たちの神応石が、長年の歳月をかけ、神応岩を生み出し人々の思想を支配しているのだ。


 僕の目標が分かった。今まではお腹を空かせている人々を救うことを考えていた。だがマウスピースたちを抹殺することが僕の新しい目的だ。


「ヒョォォォォォォォォ!! 何を考えているの!!」


 ゲルダが直立歩行で真っすぐ天高く飛んだ。

 太陽の光を背に、彼女は高所から飛び降りた猫のように華麗に着地した。両足を交差させ、両手も十字に作る。

 ゲルダの両手からひんやりとした冷気があふれ出す。さらに彼女の胸が大きく風船のように膨らんでいく。

 あれは母性に目覚めて胸が大きくなったわけではない、彼女の力は呼吸機能を特化したものだ。肺に大量の空気が入り込んだのだ。カエルの母親が牛のように腹を膨らませて破裂したけど、こちらは地球上の空気を吸い込んでも平気だ。

 そして両手の平はシャワーのように小さな穴が開いている。そこから急激に空気を排出し、冷却するのだ。

 空気冷媒熱交換器と同じだ。クーラーや冷蔵庫などは、温度が高い方の流体から低い方の流体へ熱が移動するという特質を上手に利用し、意図的に熱の移動を引き起こしているのだ。


 これが彼女の持つ能力、パーソナル・ジーザスの力だ。

 そして相手を優しく触れることで、冷気により瞬時に凍らせて殺す。


 別名、優しく殺す効果キルミーテンダーエフェクトだ。

 キルミ―テンダーとはエルヴィス・プレスリーのラブミーテンダーのパロです。

 

 荒木飛呂彦先生のバオー来訪者のようなノリですね。


「こいつに触れることは死を意味する!! これがバオーだ!!」


「バオー武装現象アームド フェノメノン!!」


 と言った感じですね。

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