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第二十七話 ディーヴァと機械女帝

「ふぅ、今日も仕事が終わったわね」


 褐色肌の美女ディーヴァが一息ついた。彼女の住んでいるのは木造建ての建物だ。ちょっとした宮殿のようになっている。

 ここは海賊島バッドガイ アイランドといい、かつてはハワイ諸島だったところだ。

 今から62年前、世界はキノコ戦争によって荒廃した。キノコの冬によって太陽は遮られ、亜人と化した人間たちはしぶとく生き延びた。もちろん一部の人間も生き延びている。


 ディーヴァの見た目はエキゾチックな外国人だが、中身は日本人だ。本名は毬林茉莉花まりばやし まりかといい、生前は小学五年生だった。

 彼女はキノコ戦争に巻き込まれ両親ともども死亡した。しかしチャールズ・ヒュー・モンローの作った人工AIミルズによって遺体を回収され、モンローの作った金属細胞メタルセルによって人造人間メタニカル アニマルとして復活したのだ。両親も同じである。


 12年前のハワイは悲惨なものであった。世界各国の海から流れてきたゴミの山にコールタールに染まっていた。木々は枯れ、動物たちも死に絶えていた。

 ディーヴァは遺伝子工学で生まれた生物ビッグヘッドたちを使って、この地を緑豊かな美しい土地に生まれ変わらせたのだ。

 今では亜人たちの操る船の中継地点となっている。彼女はそこの女王様なのだ。


「お嬢様もお疲れ様でございます」


 そこに一人の女性が声をかけた。水色の切り揃えたおかっぱ頭にメイド服を着た少女である。手には盆を持っており、ティーポットとティーカップが揃えてあった。

 人造人間でも嗜好品は欠かせないのである。


「ありがとうチャッキー」


 ディーヴァはソファーに座りながら、礼を言った。

 チャッキーと呼ばれた少女は木製のテーブルにティーカップを置き、紅茶を注いだ。彼女は人間に見えるがどこか違う。彼女の表情は陶器そのものであった。目はヒトミの部分がなく、異質である。


「ふふふ。あなたが群体型アーミータイプのビッグヘッドだなんて、誰も気づかないでしょうね」


「そうでもありませんよ。私の依り代は陶器でできていますので、見る人が見ればわかります」


 そうチャッキーは人間ではない。彼女の身体は陶器で出来ており、中には数千匹のナメクジ大のビッグヘッドが筋肉のように身体を動かしているのだ。

 司令塔は脳の辺りに巣くうチャッキーのみで、身体の動きはもちろんの事、視力もすべて彼女は把握している。

 

「お嬢様は様々なビッグヘッドを生み出しました。巨人型タイタンタイプ小人型リリパットタイプ飛行型フライングタイプなど自由な発想で生み出しました。私もその一人です」


「別に大したことじゃないよ。せっかくアシュラさんの作ったビッグヘッドに、いろんなバリエーションがあればいいなと思っただけだしね」


 ディーヴァは謙遜するが、実際はそうではない。

 彼女の生み出した巨人型は人の力ではどうにもできない大岩をかみ砕いたり、堤防を短期間で作ることが出来た。

 小人型も人が通れない細かい場所での作業が可能となり、飛行型は物を大量に運んでくることができる。


 現在では海賊島に数多くのビッグヘッドが働いていた。汚染された海水を浄水するものや、排せつ物を食べてガスに変えるものなど様々だ。

 海賊王国ハイグオ ワングオによって持ち込まれた人間の奴隷たちは、真っ当な教育を受けさせている。漁業や農業に従事させ、人間らしい生活を送っていた。もちろん差別意識の高い人間もいるが、ビッグヘッドに遺体を食わせれば一発で黙り込む。

 ちなみにビッグヘッドはディーヴァが命じても人間を食べることはなかった。友人の叔父であるアシュラによれば、ビッグヘッドは微生物や目視できないほどの大きさの虫以外の生き物を食べることが出来ないよう、遺伝子操作されているらしい。


 もっともディーヴァはビッグヘッドに人間を食べさせるつもりはなかった。


「そういえば機械女帝マシン エンプレス様から連絡が入りました」


「そう、じゃあ通して」


 ディーヴァが言うと、チャッキーは小さな箱を取り出した。白い長方形でふちに小さな四角いがついている。そこに白い目が浮かんでいた。箱の両側には機械の腕が付いており、舌には車輪が二つついている。


『マリカ、おひさしぶり~。元気してた~』


 箱がしゃべった。妙に軽い口調であった。箱は数多くある機械女帝の端末である。本体はニューエデン合衆国の頭部にある機械帝国マシンエンパイアにあるが、ニューエデン各地には端末が散らばっている。


「元気よ。この身体になってから疲れ知らずだわ。というか年も取らないしね。それでマサミから連絡を寄越すのは珍しいわね。なんかあったの?」


 マサミは機械女帝の本名だ。二人きりの時は過去の名前で呼び合っている。


『実は今日、契約していたモンローエクストラさんが亡くなってね。新たにヒュー・キッドさんたちと契約を結ぶことになったのよ』


「それは知ってる。ヒュー・キッドから聞いたから」


 ディーヴァたち人造人間は電波で遠くの相手と会話が出来るのだ。


『そうなんだ。まあそれはいいのよね。問題はモンロークラウトという厄介なおっさんよ。こいつは中華帝国の皇帝に心酔するあまりに、世界中の人間を皆殺しにしたいという頭のいかれた奴なわけね。皇帝がビッグヘッドになったから、ビッグヘッドだけが従えばいいという発想なわけよ』


「それはそれは。だからあの人は黄金をはたいて依頼したわけだ」


 ディーヴァの言葉に機械女帝は首を傾げた。


『何の話?』


「うん、真っ赤な格好をした人が先週尋ねてきたわけよ。中国の皇帝に生涯使えるビッグヘッドが欲しいってね。私自身は数体調整して作れるけど、大勢必要なら自分自身が神応石スピリットストーンに念じて作った方が簡単だよって教えてあげたの。そしたら喜んで私の身体と同じ量の黄金をくれたわけ。すごいでしょ?」


 機械女帝は呆れていた。彼女は日本人離れした思考の持ち主で、両親を始めとした周囲の人間に嫌われていた。まともに付き合えたのは茉莉花とアマテラス皇国にいる花主人フラワーミストレスくらいなものだ。


 機械女帝はアメリカの個人主義と相性が良かった。常に契約を重視し、契約を破棄しても違約金であっさり済ませる社会に居心地を感じていた。

 だがディーヴァの行為はモンロークラウトに対して有利に動いている。それはどうだろうかと思った。


「別にヒュー・キッドたちを裏切っていないわよ。相手はあくまで中国の皇帝に仕えるビッグヘッドが欲しいだけ。パパたちの弱点とか絶対話さないわよ」


 ディーヴァが反論した。機械女帝も確かにそうだなと感じたので、話はそれでおしまいにする。自分たちの親しい者たちに危害が加えられなければどうでもいいのだ。


「でも今度クラウトを見つけたらパパたちに連絡をする。だってアラディンさんを殺したんだから」


 声に怒気が含んでいた。顔は数回しか合わせていないが、アラディンは仲間だ。仲間を殺されてへらへらするほどディーヴァは大人ではない。むしろクラウトを見つけて報復するつもりだ。


『ところで今まりかたちは何をしているわけ?』


「ヒュー・キッドを中心に農業生産に力を入れているよ。牛や鶏、豚などの家畜や家禽が少なくなっているからね。肥大化したヤギウシとヤギウマ、インドクジャクやイノブタなんかを増やしては各村に配布しているよ」


『奉仕するだけじゃ調子に乗るだけだよ。見返りを寄越さないとね』


 機械女帝が注意を促した。無料奉仕をすれば相手はただで物をもらえて当然と思うようになる。それに報酬がなければやる気が出ないのは当然だ。機械女帝はアメリカ社会でそれを目撃している。


「条件はつけているよ。中国、いや鳳凰フォングァン大国の龍京ロンキンの人間が来たら、黙って受け入れろとね。それとスペインに住む人間にも38年後の未来からくる箱舟の子孫たちに協力しろとも言っているみたい」


『箱舟の子孫ねぇ……。あそこに使われているスーパーコンピュータのチップは私が作ったものなのよね。感慨深いわ』


「そうなんだ。だからキノコ戦争でも箱舟は機能を停止しなかったんだね。すごいな」


 ディーヴァは感心していた。生前スペインの頭部にあるアルカ島では箱舟計画が実行された。世界各国の男女が百年間箱舟の中で生活するというものだ。

 百年も待てる人間なんかいないだろうと高を括っていたが、自分は問題なく箱舟の子孫を目撃できるだろうと思った。


「それとは関係ないけど、今のイタリアはすごいらしいよ。亜人はほとんどいないんだけど、全員髪の毛を自在に操る術を身に付けているんだって」


『イタリアで? なんで髪の毛を操れるのかしらん?』


「よくわかんないな。でもヒュー・キッドが現地の人間に聞いたら数年に一度とある女性が教えてくれるんだって。額に小さな石を埋め込んだ後、自分は髪の毛を操れるんだと思い込ませることで自在に髪の毛を操れるようになったみたい」


 現在のイタリアはオラクロと名を変えたという。男は鬢髪びんぱつで、女は三つ編みが多いという。男たちは鬢髪で狩猟を行っているそうだ。女たちは三つ編みを上手に使って家事をしているらしい。


「昔はキノコ戦争のせいで建物はボロボロだったけど、今は私が作ったカーペンターヘッドのおかげで過去の遺跡や名所が復活したみたいね。イタリアの国民は自分をイタリア人ではないと思っているから、神に祈っていたら髪の毛が助けてくれたという逸話があるのよ」


 さすがの海賊王国もオラクロでは人間狩りを行わないようだ。元々イタリア人は各民族の集合体であり、国家のためではなく家族のために戦うことが多い。


「問題はその女の人なのよ。特徴を聞いたらなんとモンロースナックと一致しているみたいなの」


『モンロースナックねぇ。今度は誰が死闘を繰り広げるのやら』


 機械女帝はそうつぶやいた。あとヒュー・キッドたちとの契約を軽く済ませる。


「お嬢様は動かないから問題ありませんね」


 チャッキーが言ったが、ディーヴァは否定した。


「まさか。モンロークラウトは私たち人造人間を殺す気満々よ。そいつがいつ私のところに来るかわかったものじゃないわ。用心に越したことはないのよ」


 ディーヴァはそう誓うのだった。

 チャッキーはマッスルスチューデントにも出演しております。

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