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第二十六話 龍英雄の 性質

僕は初めて龍英雄ロン インシオンこと、モンロークラウトを見た。

 すべてが紅い男だった。赤い髪に赤い肌、赤い瞳に赤い服。まるで某アメコミの故お守り男の悪役である道化師を連想する。

 見た目は青年に見えるが、腹の中では何を考えているかわからない不気味さがあった。


 あいつの姿を見ているだけで、心が焦げ付いていくのを感じる。抱きつかれたら一気に発火して消し炭になりそうな予感がした。


「ん? 君はどこかで見たことがあるな。どこだったか……」


 クラウトは僕を見て、うんうんと唸った。僕は15歳のチャールズ・ヒュー・モンローだ。頭はシャムネコだけどね。研究所で僕を見たことがないのだろうか。


「ああ、私が生まれた研究所で見たね。私は龍英雄。今は老雄ラオシオンと名乗っているよ」


「自分で老雄と名乗っているのかよ。あんまりいい意味では使われないぜ」


 アラディンがぼやいた。彼は英雄の実弟だからだ。するとクラウトはアラディンを殴った。細身の腕だが、巨体のアラディンがダンプにはねられたように飛んでいく。そして木に衝突した。木は折れてしまう。


「口のきき方がなってないな。これが皇帝陛下の御前なら首を刎ねられていたぞ。例え身内でも日頃から丁寧な口調で話すべきだ」


 クラウトは赤い目で地面に接吻しているアラディンを見下した。なんて冷たい目をしているんだろうか。人造人間メタニカル アニマルとはいえ肉親の情がないのかな。それとも改造された影響で人格が変貌してしまったとか?


 クラウトは中華帝国、今は鳳凰フォングァン大国の龍京ロンキンの英雄神だ。かつてズルタンこと毬林満村まりばやし みつむらさんがキノコ戦争で生き延びた人間を皆殺しにしようとした。人類はおしまいだから自らの手で楽にするためだそうな。

 虐殺を阻止したのが龍英雄だという。なんかこの男は英雄ヒーローにしては粗暴が悪そうだ。


「……変わって、ないな。哥哥ぐぁぐぁは……」


 アラディンがむくりと起きだした。口調からしてクラウトは生前の英雄と同じらしい。まあ、他国の神は人格者ではなく、ろくでなしが多いからな。


「……僕はヒュー・キッド。チャールズ・ヒュー・モンローの15歳の人格を持っている。こうして対話をするのは初めてだね」


「そうですね。世界を滅ぼしたのは18歳のモンローだと話は聞いている。皇帝陛下が支配する世界を滅ぼしたのは許せませんが、今の陛下は世界最強です。許して差し上げましょう」


 どこからでも上から目線だ。気味が悪い。


「ところであなたは何をしたいのですか? 人造人間になり人間を超えた力を得ている。それで好き勝手に過ごせると思いますが?」


「私の目的は皇帝陛下以外の人間を皆殺しにするためですよ」


 僕が質問をしたらクラウトが斜め上な返答をした。人類を皆殺しにする? なんでそうなるんだろう、意味が分からない。


「この世界は皇帝陛下の所有物です。それなのに他国の人間は好き勝手に陛下のものを勝手にいじる。山を砕き、川を汚し、空を飛ぶ。そんな勝手なことは許されません。ですから陛下以外の人類には死んでもらうのですよ」


『うーん、それはありえませんねぇ。人類皆殺しなんて効率が悪すぎます。あなたは頭が悪いのですか?』


 機械女帝マシン エンプレスが声をかけた。確かに人類抹殺なんてありえない。例え屈強な軍隊が最新式の装備を得ても、人間を一人残らず殺すなんて無理だ。

 それこそ核兵器でキノコ戦争を再び起こさなければ不可能だ。


「ああ、キノコ戦争など起こさせませんよ。陛下の世界をキノコの毒で汚染させるわけにはいきませんからね」


 クラウトが答えた。こいつは何を言っているのだろうか。


「殺すなら一気に皆殺しですよ。文字通り全世界の人間を焼き殺すのです。そうでないと家族とかいたら悲しむでしょう? 私はとても優しいのですよ」


 優しいの意味を完全にはき違えている。こいつは本当に英雄なのだろうか。ただの狂人に思えてならない。


「いいや、哥哥が生きていたらそういうだろうぜ」


 アラディンが答えた。


「哥哥は皇帝陛下に忠誠を誓っている。いや俺だって同じさ。世界は皇帝陛下のものだ。他国の人間が好き勝手に資源を採掘し、環境を破壊する。そんなことは我慢できないぜ。俺だって皇帝陛下が皇帝大頭ホアンディ ダトウとして復活していなかったら、お前らを皆殺しにしていただろうさ」


 なんということだろうか。クラウトだけでなく、アラディンも頭がおかしかったのか。

 だけど人類を一気に抹殺するなんてありえるだろうか。絶対に無理だろう。こいつは出来もしないことを夢見て一生を彷徨うつもりだろうか。


「妄想ではありませんよ。私の力ならそれが可能です」


 クラウトが言った。すると右手を出すと、手のひらを上に向ける。火がぼぉっと立ち上がった。


「私は体内にある燐を電磁波で燃やすことが出来るのです。もっとも今は直接触れた相手でないと燃やせませんけどね。これに音を乗せておけば複数の人間を燃やすことが可能になるのです」


 クラウトは柵の中を見た。そこには裸の亜人たちが百数人ほどうめき声をあげている。モンローエクストラによって知性を奪われた亜人たちだ。彼等はもう戻れないという。


 クラウトは両手を前に向けると、ふんと唸った。すると前方の亜人たちが苦しみだす。

 そして身体が小さな亜人は頭を抱えて苦しみだすと、ぼんと頭が破裂した。まるで電子レンジで作ったゆで卵みたいだ。

 他の亜人たちは腹を抱えて苦しみだす。次に腹がカエルのように膨らみだすと、風船のように破裂した。わずか三分足らずで亜人たちを虐殺したのである。


「きっ、貴様ぁぁぁぁぁ!! なんてことをするんだ!!」


 僕は激怒した。僕は人造人間だけど、人間の命は尊重したいと思っている。殺したいのはよほどの外道くらいだ。だがクラウトはその数少ない外道に決めた。今すぐ始末しなければこいつはもっと悪事を広めるだろう。


「ヒュー・パーンチ!!」


 僕の右拳がクラウトの左頬に決まる。しかしクラウトは微妙だにしない。まるで父親が赤子に叩かれるかのように平然としている。


「おやおや、いきなり人を殴り掛かるとは。アメリカ人は気が短くていけませんな」


 クラウトは笑うと、ポケットに手を入れたまま、僕の腹を蹴り上げた。流石の僕もダンプにはねられた衝撃を感じた。

 僕は地面に叩き付けられた。いけない。身体が動かない。


「まだ生きているようですね。さすがは人造人間。人間と違って頑丈だ。先に消さなければならないのは、君たちの方ですね」


「なぜだ……。なんでこんなことを、するんだ……」


「なぜって? それはあなたたちを苦痛から解放するためですよ。私が先ほど見せたのは人間だけに通用するものです。あなたたち人造人間には通用しない。ですが人間のいない世界で生きていてもしょうがないでしょう。だからあなたたちを殺して生きる苦しみから解き放してあげるのですよ。私はなんて優しいのでしょうか」


 クラウトは自己陶酔していた。なんてことだろう。噂の神は頭がイカれていたのか。

 そのくせアラディンは平然としている。中国人、いやアジア系の人間の思考が理解できない。むしろズルタンたちのような日本人の方が思考に柔軟性がある。


『おい、ヒュー・キッド。ここは俺が何とかする。お前らはシンドバードと共に逃げろ』


 ここでアラディンの念話が聴こえた。君は何を言っているんだ?


『俺は哥哥と同じ思想を持っているが、人類抹殺は認められねぇ。陛下はあくまで世界を管理したいだけだ。他国の人間を皆殺しにするつもりはない。世界の人間の命はすべて陛下のものだ。哥哥が自由にしていいわけがない』


 クラウトもそうだけど、君も大概だね。


『10歳の頃ならともかく、今の俺ならなんとかなるだろう。お前らはさっさと逃げてくれ。あばよ』


 アラディンがそういうと僕は起き上がって、シンドバードさんを助けに行った。ぐったりしているがなんとか抱きかかえて逃げよう。


「逃がさないよ」


 クラウトが前に出た。そこに機械女帝が前に出る。びーびーとブザー音を出した。


 数秒後に奇妙な物体が飛んできた。4つのプロペラをつけて飛んでいる。ドローンだな。本拠地のある研究所で、3首チンパンジーのアシュラが開発しているのを覚えていた。


『あれは私が操作している移動手段です。あれに乗って逃げましょう。私だってディーヴァたちが殺されるなど許しませんから』


 そう言って僕らをドローンに乗せると、空へ飛んでいった。

 クラウトは追跡しようとしたが、アラディンのタックルで邪魔をされた。


虎鳳フーフォン……。あなたは村で儒教を習わなかったのですか? 年上に敬意を表しろと言われたはずですよ」


「だからといって弟を思い通りに操れるとは限らないぜ」


 アラディンは馬乗りになると、クラウトを殴る。


「あんたの思想は危険だ。この世界の人間は陛下のものだ。あんたに殺させるわけにはいかないぜ」


「この世界の人間は陛下にとって害にしかならない。私も含めてね。だからあなたには死んでもらいます」


 「まったくあんたは変わってないな。あんたの本性を知っているのは大雄ダシオン小夫シャオフ胖虎パンフくらいだ。超人チャオレンはあいつらから教育されても、周囲の人間のせいであんたを偉大な英雄として崇められた。そのせいで歪んじまったんだ」


「迷惑ですね。私如きを偉大な陛下と比べるなど……。不快感極まります」


 クラウトはアラディンの腹に突きを入れた。するとアラディンの身体が燃え出した。

 最後には花火のように爆発してしまう。


「……東洋人の思考は理解できないな」


 僕はそうつぶやくしかなかった。また僕らと同じスプーキー・キッズの仲間がこの世を去ったのだ。

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