第二十四話 能力名ランチボックス
『あっはっは。驚きましたか? 元々私は嫌々あなたの母親と結婚したのですよ。詐欺容疑で留置所に収容されたときに、司法取引で父親がわからないあなたの面倒を見るように命じられたのです。成長したあなたは見事わたくしに素敵な生活を提供してくれました。感謝していますよ』
機械仕掛けのハゲワシのデイビーは嗤っていた。僕とモンローエクストラであるパパは顔が似ていない。だから親子じゃないと思っていたが、真相をはっきり告げられるときついものがある。
『……』
機械女帝は何も言わない。何とも思っていないのだろうな。
「貴様、何だその言い草は!! それが父親のセリフか!!」
激怒したのはアラディンだ。普段は僕の事などどうでもよさげだけど、今は本気で怒っているな。なんか嬉しい。
『おや、龍虎鳳君ですね。君は中国人なのに、そんなことを言うのですか? 血の繋がりを愛する民族が、血の繋がらない親子の関係に口出しをするのは、滑稽ですね』
エクストラは徹底的に挑発している。パパは滅多に僕と話すことはなかった。ママが逮捕されるまでは会社を経営していたらしいが、それでも口数は少なかった。人造人間に生まれ変わったことで性格が変わったのだろうか。
「黙れ!! 俺は血の繋がりより家族が大事なんだよ!! 家族を蔑ろにするてめぇはぶっ殺してやるぜ!!」
アラディンは右拳に力を入れた。本気で怒っている。それを見たデイビーはけらけら嗤っていた。
『わたくしはあなた方に構っている暇はありません。わたくしはクラウトの奴を殺さなくてはなりません。あの男はすべての人類を全滅させるつもりです。中華帝国の皇帝だけ生きていればいいという狂人なのですよ。なのであなたたちはわたくしと戦わず仲間になることを提案します』
「……あなたと手を組み、クラウトを倒した後はどうなるのですか?」
するとデイビーは羽根を大きく広げた。
『決まっています。すべての亜人たちを動物に変えてやるのですよ。人間以外の存在など許せません。亜人たちは本物の獣になってもらいます。人間たちはわたくしを世話する奴隷ですね。あなたたちは見逃してもいいですよ』
「交渉決裂だ。亜人たちはこの世界の住人だ。彼等の自由を奪っていいわけがない。あなたは悪しきアメリカの象徴だ。自分以外の人間は餌としか考えない。そんな旧時代の遺物を放置するわけにはいかないんだ!!」
僕は怒った。僕はアメリカ人だけど、パパの傲慢な態度には本気で殺意を覚えた。
ロシア系アメリカ人だから人種差別が好きでたまらないのだろう。
『仕方がありませんね。では脂肪軍隊出撃せよ!!』
デイビーは翼を広げ、ノミみたいなものをエクストラの腹の上にばら撒いた。
するとむくむくと脂肪が盛り上がる。体毛がらせん状に絡まっていった。
それは人間の頭のように見えた。むりむりと回虫のように這い出てきて、両手のような物が出来た。さらにぷちんと離れると、両足で地面の上に立った。
さらにデイビーは空から何かを持ってきた。それはハロウィンに使う黄色いカボチャだ。目と口をくりぬいている。
デイビーはカボチャをいくつも足で掴んでおり、それを一気に離してばら撒いた。
脂肪で出来た人間たちはカボチャを被る。そしてぽぉっと火が灯った。おばけのようである。
『あっはっは! 彼等がわたくしの自慢の脂肪軍隊だ!! わたくしの脂肪と体毛で作り出された感情のない人形だ!! いくら死んでも誰も文句を言わない理想の軍隊ですよ!! これぞ私の能力ランチボックスなのです』
デイビーは可可大笑いしていた。豚どころかゾウのように肥えたエクストラが感情のない兵士を作る。なんと恐ろしいことだろう。だがデイビーがばら撒いたあれはなんだったのか。恐らくは神応石だろう。
脂肪兵士たちは目を光らせながら、火を吐いてくる。
恐らく脂肪を燃料にしているのだろう。火をともし続けられるのは、ろうそくの原理だ。ねじれた体毛は骨格の代わりであり、ろうそくの芯なのだろう。
アラディンはターバンの中に手を入れてガリガリとかきむしった後、両腕に力を込める。
両腕に寄生したシラミたちに血を吸わせるためだ。
シラミは血を吸うとぷっくりと黒く膨らむ。鉄の玉のように固くなっている。
能力ビューティフル・ピープルの力だ。
「血虫散弾!!」
それを一気に腕を振り下ろした。脂肪兵士たちは次々と吹き飛んでいく。
ショットガンの要領で広範囲に攻撃しているのだ。脂肪兵士は所詮脂肪の塊で、人間のような柔軟さを持ち合わせていない。さすがだね。
『あっはっは。脂肪兵士たちではうまくいきませんね。ではクロケット。あなたの出番ですよ』
今度は生きているベッドのクロケットに命じた。クロケットは目を見開くと、口を開いた。そこからぽんぽんと火の玉を吐き出す。
どこかうんちの臭いがするな。原料はエクストラの排泄した糞尿だ。大便にはメタンガスが含まれている。タバコの火で引火するほどだ。
ゾウ並みの大きさのうんちは炎を纏っている。当たればひとたまりもない。
「ちぃ、さすがに血虫散弾では分が悪いか!!」
アラディンも焦っている。僕もクロケットの吐く火の玉に近づけずにいた。でもタンク内の排せつ物が無くなれば火の玉を吐くことは出来ないだろう。だがそれまで相手が待ってくれるかどうかが心配だね。
クロケットは不意に別の方角に火の玉を吐いた。それはシンドバードさんだ。戦闘には不向きなので遠巻きで見守っていたが、エクストラはシンドバードさんを狙ったのだ。
火の玉はシンドバードさんに当たった。あっという間に火に巻かれてしまう。バタバタと羽ばたいた後、地面に衝突した。ぱっくりとくちばしを開けると、小さい赤ちゃんが這い出てくる。シンドバードの娘だ。
『むっ、娘を連れて、逃げてくれ……』
そこでシンドバードさんの念話が届いた。人造人間は全身やけどをしても死なないし、皮膚も再生する。しかし時間がかかるので、逃げることが出来ない。
『そんなことできるわけないじゃないか!! 逃げるならあなたも一緒です!!』
『だめだ。エクストラは手ごわい。すでに周囲には獣と化した亜人たちが囲っているのだ。私は空から見てそれを知っている……』
なんということだろう。エクストラは自分の能力だけでなく、獣の心を宿した亜人たちを軍用犬みたいに使役していたのか。
僕は怒りで我を忘れそうになった。亜人たちから人間の思考を奪い去っただけでなく、彼等をまるで動物のように思い通りに扱おうとするエクストラに本気で殺意を覚えた。
『……私はだめな男だ。妻は娘が知的障碍者と知ると離婚して逃げた。私は弁護士と言う立場で金に明かせて慶子の世話を他人に丸投げした。その結果、慶子は周りのおもちゃにされたのだ。世話した女が慶子をサーカスの動物のように躾けたと知ったとき、私の頭の中は真っ白になった。そいつは後で社会的地位を抹殺させた後、自殺に追い込んだがね……』
シンドバードさんは過去を語っている。前にも聞いたことがあるが、1999年に娘と共に中華帝国の首都、帝京に連れて行ったとき、18歳の僕によって世界はキノコ戦争に巻き込まれ、命を落としたのだ。
『この身体になったとき、私は歓喜したよ……。娘を、慶子を自分の体内で保護できることにね。でももうおしまいだ。急いでミルズに援軍を要請するんだ。そして慶子を連れて逃げてくれ。せめて私が犠牲になってエクストラを足止めするよ……』
馬鹿な!! そんなことに何の意味があるんだ!!
『馬鹿なお父さん……』
そこに頭の中に女の子の声がした。シンドバードが吐き出した女の子の念話だ。娘の慶子だ。彼女は神応石を頭に移植したため、知的障害を克服したのだ。
『お父さんは私が世話役の人にされたことがトラウマなのよ。猛獣のように背中を鞭で打たれ、皿に餌を盛られたことがあったわ。でももうそれは過ぎ去った過去よ。世話役の人は私の事を知った家族や知人に見捨てられ孤独のあまりに死んだわ。それにお父さんはエクストラの行為を見逃すことが出来ない。私と被っているのよ』
なんということだ。シンドバードさんはかつて娘がされた屈辱を彷彿させるエクストラが許せないのだ。ここでエクストラを放置すれば亜人たちが動物にされてしまう。それだけは見過ごせないのだ。直接関係ないのに日本人は厄介な性質を持っているな。
『私もお父さんを見捨てるつもりはありません。私はこれからトゥーニキットの裏の力を使います』
トゥーニキット。シンドバードさんの能力だ。確か体内にいる彼女と同調する能力だったか。あまり意味のない能力だと思っていた。
『本来は周りを私から守る力です。私は周囲の神応石と同調して操ることが出来ます』
慶子は起き上がると、両腕を広げた。すると脂肪兵士はむくりと起き上がると、エクストラに突進してきたのだ。
さすがのエクストラも脂肪兵士たちの火炎攻撃に辟易している。すごいな。
でも慶子は苦しそうだ。複数の神応石を操るのは至難の業なのだろう。それも僕やアラディンに影響を及ぼさないようにしている。早くなんとかしないと。
「ヒュー・パーンチ!!」
僕は必殺ヒューパンチをエクストラに食らわせてやった。ベッドのクロケットはへし折られておとなしくなった。
げふげふとせき込むと、エクストラの身体は一気に燃え上がった。脂肪が燃料となったのだろう。
エクストラの代弁者であるデイビーはぱったりと動かなくなった。本体が死亡したからだな。
僕はシンドバードさんを介抱した。ぐったりしているが無事である。よかった。慶子も安心して、父親の口の中に戻っていく。
『ジョセフさん……』
機械女帝がつぶやいた。なんか悲しそうだな。契約重視の彼女にしては珍しい。
『ジョセフさんが死亡したので、契約を執行します。実は私やひいおじいちゃんに出資してくれたのはジョセフさんだったのです』
僕はすごい衝撃を受けたのだった。




