第二十一話 リベルターシティ
モンローセンプを倒して8年の歳月が過ぎた。僕と言えば世界中を飛び回って、お腹を空かせた村に食料を届け、畑を耕したりしている。
真面目に仕事をする村がほとんどだが、中には怠け者しかおらず、僕が無償で食料を運んでくると思い込んでいる奴らもいた。僕が農業や伐採の効率化を進めることに異常なまでに反発し、終いには槍や弓を持って殺しにかかることも何度かあった。
そういう連中にはもう二度と手は差し伸べない。得にならないからだ。無視して別の貧しい村へ飛んでいく。後日そいつらは別の村を襲撃するも、その村は僕が教育した村だ。バリスタやなん十本も一気に射出する弓を相手にどうすることもできない。
主に鳳凰大国から、ヨーロッパに向かう道を中心に開拓を続けてきた。どうも龍京の人間たちはかつてのシルクロードを再現するつもりである。
王大頭こと、エビルヘッドが主導し、鉄鉱石をかみ砕いて線路を作って敷いていた。そして大頭列車を作り、将来は龍京からヨーロッパまで何万キロの鉄道を作る予定でいるようだ。
僕は鉄道を敷かれる予定地に村を作る。大抵はよそ者を嫌うがヒュー・パンチを食らわせれば一発で言うことを聞く。僕もアメリカのように世界を自国のように染めたがる人種なのだなと思った。
『シンドバードからヒュー・キッドへ。至急ニューエデン西部のリベルターシティまで来られたし』
突如念話が聴こえた。巨大カラスの人造人間シンドバードからだ。彼も世界中と飛び回っている。他の面々も色々陰で活躍しているそうだ。
僕はある程度、エビルヘッドたちの進む道に村を作りひと段落している。ニューエデンは昔アメリカと呼ばれていた。ひさしぶりにアメリカに行ってみようと思った。
☆
一週間ほどして僕はニューエデン西部、リベルターシティに降り立った。ここはかつてカルフォルニアと呼ばれた地だ。かつてはサンフランシスコのあった場所はすでにきれいさっぱり消えている。キノコ戦争でキノコの毒に汚染され、ビッグヘッドに喰われた後、木に変化したからだ。
現在は木造や石造りの家が目立っている。港には木造船がいくつも並んでいた。12年前は村だったが今では立派な街になっている。
そして町の中心には広場があった。開けた場所でベンチがいくつもあり、ホットドッグなどの屋台が並び、子供たちが遊んでいる。
そして広場の中心には石像があった。それは18歳の少年の裸像だ。
像の名前はチャールズ・ヒュー・モンロー。僕の事だ。
リベルターではキノコ戦争を起こした僕の事を英雄視している。住んでいるのは亜人ばかりで人間はいない。人間たちはカルフォルニア半島の近くにあるグァダルペ島に押し込められている。今は奴隷島と呼ばれているそうだ。龍京の出身で龍英雄の弟、パンダの亜人である龍虎鳳が作ったそうである。
32年前、人間たちは亜人の村を襲っては、亜人たちを奴隷にしていたらしい。それに腹を立てた虎鳳が人間たちを襲い、奴隷にしたそうだ。
奴隷だった者が奴隷にした人間を奴隷にする。笑い話にもなりはしなかった。
その虎鳳は5年前に死んだ。敵の矢が胸を貫き、そのまま海に落ちて藻屑となったという。
さらに相棒金華豚の亜人である龍大雄も2年前に病死した。現在は白いいえねこの亜人龍月花が船長代理を務めているという。
息子はとうに死んでおり、孫の海男はまだ2歳だそうだ。他にも息子はいても虎鳳の名を継がせるにふさわしい人間はいないとのことである。
僕は石像の前に降り立った。シンドバードの指示である。そして広場には大勢の亜人たちが集まっていた。亜人たちは僕を見て歓声を上げている。
一番前にはジャガーの亜人の老人が車いすに座っている。老人を見て僕は懐かしさを感じた。
「……おひさしぶりです、チャールズ・モンロー。私はこの町の長老であるカルロスと申します」
「カルロス? 確かメキシコからの不法入国で警察に暴行を受けていましたよね」
「そうです、あの時助けてもらったのが私なのです」
僕は当時を思い出すと、とても腹が立った。彼はカルフォルニアにたむろしていたメキシコ人だった。警察に捕まり警棒で殴られ痛めつけられていた。警官は職務というより苛めて楽しんでいるようにしか見えなかった。
僕は保釈金を払い、彼を助けた。でも彼一人を助けても意味はない。不法入国者に金と仕事をばら撒き、市民権を得られるよう働きかけたのだ。
僕はいじめが大嫌いだった。ママに虐待されたためか、いじめられている人を見ると助けずにはいられないのだ。それが中身がサイコパスの殺人鬼でも同じだ。
相手が殺しにかかるなら僕はそれを返り討ちにすればいいだけである。
「まさか、あなた様が生きていたとは……。この町に住む者たちは皆あなたに恩義がある者ばかりです。人間は住んでおりません、そいつらはみんなあなたに対して罵詈雑言を並べ立てるばかりでございます」
カルロスは悲しそうに俯いた。背後にいる老人たちはもちろんだが、若者たちも苦虫を潰した顔になった。余程人間にひどい目に遭わされたのだろう。
「あれから62年は過ぎてますよ。もう僕の事を覚えている人はいないのではありませんか?」
「いいえ、今でもあなたを否定する人はいます。マウスピースと呼ばれる連中です」
マウスピース? 代弁者という意味かな。
「そいつらはまるでゾンビです。今の世界はモンロー様のせいだ、モンロー様が生まれたから世界は不幸になったのだ、モンロー様を否定しろ、褒めるやつがいたら甚振って殺せ、とにかくモンロー様を否定する俺たちはかっこいいぞと主張するのです」
なんて頭の悪い奴らなのだろうか。しかし世界が荒廃して生活が苦しいのはわかる。しかし、僕の悪口を伝えるのはどういうことだろうか。それほど僕が憎いのだろうか。
「実はかつてフェニックスと呼ばれた地に巨大な牧場が出来ました。そこは亜人たちを捕えては本能を動物に変えてしまう悪魔がいるのです。そいつの名前はモンローエクストラと名乗っておりました」
「モンローエクストラだって!!」
そいつは僕と同じモンローの細胞から生まれた存在だ。他の人造人間とは一味違うらしい。確か能力名はランチボックスだとか。どういう能力かはわからない。モンロー達がミルズに細工したためだそうだ。
「そいつはアフリカゾウ並みに肥大化した男です。体毛と垢にまみれた不潔な存在ですが、脂肪に命を与え、脂肪軍隊と呼ばれるゴーレムを生み出すのです。
人間の方も同じように家畜に変えてしまう、とても恐ろしい存在なのですよ」
「そいつらは君たちにちょっかいをかけるんだね」
カルロスはこくりと首を縦に振った。
「エクストラは脂肪軍隊を使って、我々を誘拐します。奴らは脂肪だけの存在ですが、体毛を骨格代わりにして垢が防護膜になります。とても手ごわいのです。さらにアトランタに拠点を持つ機械帝国の機械女帝と同盟を結んでいるのですよ」
機械女帝か。確かディーヴァと同じ日本人だったっけ。ミルズのひ孫で、三つ首のチンパンジーであるアシュラの姪でもあるんだよね。
なんで他のモンローと手を組んだのだろうか。
『真仁はわしと網厚が生きていることを知っているはずだ。数年前、茉莉花ちゃんことディーヴァと再会したというからな』
真仁は機械女帝の本名で、網厚はアシュラの本名だ。
『あの子は自分に対して悪意を持つ者には容赦しないわ。それに自分を利用しようとする者も嫌っている。でも唯一協力するとすれば契約ね』
ミルズの言葉にディーヴァが念話で割り込んだ。契約ねぇ、一体エクストラと何の契約をしたんだ?
『実は真仁は1999年以前にアメリカのコンピュータの会社と契約していたのだよ。わしの神応石の研究のスポンサーでもあるね』
へぇ、そうだったんだ。いつからスポンサーになったんだろ?
『ヒュー・キッド。君が生まれる前の事だ。当時のわしは研究費がなくて困っていたが、ニューヨークにあるスネターソフト社がスポンサーになったのだよ。社長は1992年に亡くなったが、わしとその身内に資金提供するよう遺言状を残したそうなのだ』
スネターソフト社だって? そこは僕がスカウトされた会社じゃないか。後で調べたけど、サージ95というパソコンソフトで一世風靡したとの話だ。今までパソコンソフトは専門家しか理解できなかったのが、素人でも手軽に操作できる優れものだ。パソコンの敷居が一気に低くなり、パソコン自体が売れまくったという。
でも社長が死んだなんて話は聞いたことがない。
『真仁は神応石を使ったICチップの開発に成功したのだよ。機械帝国に使われるものは皆それを組み込んでいるという。通常の情報処理の約三千倍はあるそうだ』
何ともすごい話だな。
『そちらにはシンドバードの他に、アラディンも寄越してある。なんとしてでもエクストラの悪行を止めねばならない。よろしく頼んだぞ』
ミルズは僕にそういった。アラディンも来るのか。確か18歳の龍虎鳳の記憶を持っているんだよね。
「あの、ヒュー・キッド様は誰と話をしているのですか?」
カルロスが訊ねてきた。そうか彼は僕が念話を使えることを知らない。独り言をつぶやいているようにしか見えないよね。
「大丈夫だよ。僕は遠くの仲間とテレパシーで会話が出来るんだ。モンローエクストラは僕が倒すから安心してね」
それを聞いてカルロスを始めとした他の人たちも喜ぶのであった。
当初モンローセンプはカルロスにしようと思いました。モンローに救われたけど、恩を仇で返す形にしようかと設定していました。
ですが絡ませるのが難しいため、今の形になりました。
機械女帝がモンローエクストラと絡むのも、最初は考えていませんでした。
ニューエデンことアメリカを舞台にするにはちょうどいいと考えたのです。




